• 著者: Nishio M, Saito H, Goto K, Watanabe S, Sueoka-Aragane N, Okuma Y, Kasahara K, Chikamori K, Nakagawa Y, Kawakami T
  • Corresponding author: Makoto Nishio (Department of Thoracic Medical Oncology, Cancer Institute Hospital, JFCR, Tokyo; mnishio@jfcr.or.jp)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Subgroup Analysis)
  • PMID: 33462883

背景

進行非扁平上皮NSCLC (non-small-cell lung cancer: 非小細胞肺癌) に対する一次治療として、抗PD-L1 (programmed death-ligand 1: プログラム死リガンド1) 抗体と化学療法の併用が標準化されている。先行研究としてSocinski et al. (2018) はアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの第3相試験においてmOS 18.6 vs 13.9ヶ月 (HR 0.79) の改善を報告し、West et al. (2019) はアテゾリズマブ+bevacizumab+化学療法試験でOS/PFS改善を示した。また、Gandhi et al. (2018) はペムブロリズマブ+プラチナ+ペメトレキセドの第3相試験でmOS 22.0 vs 10.7ヶ月 (HR 0.56) を報告した。アテゾリズマブ (atezolizumab: 抗PD-L1モノクローナル抗体) のIMpower132 (immune oncology power: 免疫チェックポイント試験第132番) 試験 (NCT02657434) はステージ4未治療非扁平上皮NSCLC (EGFR変異/ALK融合陰性) を対象に、アテゾリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ対ペメトレキセド+プラチナを比較するグローバル第3相試験であり、グローバルITT (intention-to-treat: 無作為化全患者解析) でのmOS 17.5 vs 13.6ヶ月 (HR 0.86、p=0.106) はOS共主要エンドポイントを達成しなかった一方、mPFS 7.6 vs 5.2ヶ月 (HR 0.60、p<0.001) でPFS主要エンドポイントは達成された。日本人患者では免疫関連肺炎リスクが欧米より高い (アテゾリズマブ対docetaxel比較第3相試験の日本人サブグループ解析で肺炎発症率3.6%対全体0.8%) ことが先行研究で指摘されており、EGFR/ALK陰性集団における日本人特有の有効性・安全性データが不足していた。グローバル試験では日本人特有の民族別サブグループ解析が体系的になされていなかったという知識ギャップが未確立であり、日本国内での臨床使用根拠を提供するためのエビデンスが求められていた。

目的

IMpower132試験日本人サブポピュレーション (n=101) における、APP (atezolizumab plus platinum-pemetrexed) 対 PP (platinum plus pemetrexed) の有効性 (OS・PFS・ORR・DOR) および安全性 (TRAE (treatment-related adverse event: 治療関連有害事象) / AESI (adverse event of special interest: 特定の注目すべき有害事象)) を評価すること。特に日本人に特有の免疫関連有害事象リスクを明確化し、日本国内での使用根拠となる民族別エビデンスを提供すること。

結果

患者背景 (Table 1):APP群の年齢中央値65歳 (範囲37-83)、PP群66歳 (範囲44-78)。両群とも100% EGFR/ALK陰性。PS 0/1がAPP群43.8%/56.3%、PP群41.5%/58.5%。組織型は両群とも腺癌が主体 (APP群81.3%、PP群84.9%)。PD-L1高発現 (TC3 (tumor cell score 3) またはIC3 (immune cell score 3)) はAPP群14.6%対PP群1.9%と不均等であった。シスプラチンを選択した割合はAPP群60.4%・PP群62.3%であった (Table 1)。日本人n=101 patients の登録はFigure 1の試験フロー図に示す通りである (APP n=48 patients、PP n=53 patients)。

OS (共主要エンドポイント):mOS (median overall survival: OS中央値) はAPP群30.8ヶ月 (95%CI 24.3-未到達) vs PP群22.2ヶ月 (95%CI 15.7-30.8)、HR 0.63 (95%CI 0.36-1.14、Figure 2)。統計的有意差は得られなかったが、点推定で8.6ヶ月の延長傾向を示した。OS率は12ヶ月時点でAPP 82.6% vs PP 77.6%、24ヶ月時点でAPP 65.2% vs PP 46.1%と時間経過とともに差が拡大した (Figure 2)。グローバルITT集団のmOS 17.5 vs 13.6ヶ月 (HR 0.86) と比較して、日本人サブグループは両群とも良好な生存成績を示した。

PFS (共主要エンドポイント):mPFS (median progression-free survival: PFS中央値) はAPP群12.8ヶ月 (95%CI 8.6-16.6) vs PP群4.5ヶ月 (95%CI 4.1-6.7)、HR 0.33 (95%CI 0.21-0.58、Figure 2)。日本人サブグループのPFS HR 0.33はグローバルITT HR 0.60より良好であり、PFS最終解析でもmPFS APP群13.3ヶ月 (HR 0.33、95%CI 0.20-0.54) と改善幅8.8ヶ月が維持された。PFS 6ヶ月時点での無増悪生存率はAPP群79.2% vs PP群47.2%、12ヶ月時点ではAPP群56.3% vs PP群15.1%と、時間経過に伴いAPP群で持続的な優位性が示された。PD-L1高発現 (TC3またはIC3) サブグループでのPFS HR 0.26 (95%CI 0.10-0.70) は特に良好な結果を示し、PD-L1発現がアテゾリズマブ追加の予測バイオマーカーとなる可能性を示唆した。PFSの大幅な改善は一次治療における免疫チェックポイント阻害剤の追加効果を明確に示しており、日本人集団でもグローバル試験の有効性方向性が再現されることが確認された。

腫瘍応答 (Figure 3):確認ORR (overall response rate: 全奏効率) はAPP群64.6% (31/48 cases) vs PP群28.3% (15/53 cases) と36.3ポイントの差を示した (Figure 3)。グローバルITT集団のORR (APP 46.8% vs PP 32.5%) より日本人サブグループは高率であった。mDOR (median duration of response: 奏効持続期間中央値) はAPP群15.2ヶ月 (95%CI 7.9-未到達) vs PP群5.6ヶ月 (95%CI 4.3-11.8) と2.7倍の差を示した。PD (progressive disease: 進行) はAPP群12.5% vs PP群24.5%であった。

安全性 (Table 2):Grade 3/4 TRAEはAPP群68.8% vs PP群44.2%。SAE (serious adverse event: 重篤な有害事象) はAPP群52.1% vs PP群23.1%。アテゾリズマブ投与中止に至るAEはAPP群29.2% (グローバル非日本人13.6%の約2倍)。免疫関連AESIとしてAPP群で発疹29.2%・甲状腺機能低下症25.0%・肝炎10.4%が報告された (Table 2)。75歳以上のAPP群 (n=7 patients) では呼吸器・胸部・縦隔障害85.7%と特に毒性が増大した。治療関連死亡はAPP群2例 (4.2%: 肺炎・敗血症各1例)、PP群2例 (3.8%: 肺炎・腎不全各1例)。後治療として免疫療法を受けた割合はPP群73.6%対APP群8.3%と大きく差があった。

考察/結論

日本人進行非扁平上皮NSCLCにおいてAPP療法はmOS 30.8ヶ月 (PP群比+8.6ヶ月) およびmPFS 12.8ヶ月 (PP群比+8.3ヶ月) の改善傾向・ORR 64.6% (PP群比+36.3ポイント)・mDOR 15.2ヶ月を示し、グローバルIMpower132結果と有効性の方向性が整合した。先行研究としてGandhi et al. (2018) のペムブロリズマブ+プラチナ+ペメトレキセド第3相試験では非日本人集団でmOS 22.0 vs 10.7ヶ月 (HR 0.56) と有意な改善が示されており、本研究の日本人コホートでのHR 0.63という点推定はその方向性と一致する。グローバルITT集団のmOS 17.5 vs 13.6ヶ月 (HR 0.86) と比較して日本人サブグループは両群とも良好な生存成績を示したが、本研究で初めて日本人特有の一次治療APP療法における安全性プロファイルの増大 (Grade 3/4 TRAE 68.8%、投与中止率29.2%) が確認された点が新規な知見である。

この差異の一因として、PP群が後治療として免疫療法を73.6%の高率で受けたことによるOS交絡が挙げられる。また、APP群のPD-L1高発現比率が14.6%とPP群1.9%より高かったことも解釈のバイアス要因である。安全性としてGrade 3/4 TRAEがAPP群68.8% (グローバル非日本人51.9%) と約17ポイント高く、アテゾリズマブ治療中止率も29.2% (非日本人13.6%の2倍超) と高い点が、グローバルITT集団と異なり日本人特有の考慮事項である。臨床的含意として、日本人では抗PD-L1治療に関連した免疫関連有害事象、特に肺炎リスクが欧米人より高い可能性があり、高齢者への投与では個別のリスク・ベネフィット評価が不可欠である (免疫療法耐性機序治療抵抗性)。免疫チェックポイント阻害剤二次治療の標準的エビデンスとしては、NEnglJMed (New England Journal Medicine) 掲載の Borghaei et al. によるニボルマブ対docetaxel比較試験の知見 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015) が参照される。

本解析はn=101という限られたサンプルサイズによる検出力の制約があり、OS HR 0.63の広い信頼区間 (0.36-1.14) はその帰結である。残された課題として、より大規模な日本人前向きコホートでの検証、PD-L1均等化した解析、およびバイオマーカー選択による日本人ハイリスク患者の同定が今後の重要な検討課題として挙げられる (バイオマーカー探索)。アテゾリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ系は日本において2021年に承認されており、本解析はその日本人における有効性・安全性の根拠の一つとして位置づけられる。

方法

多施設無作為化非盲検第3相IMpower132試験の日本人サブグループ解析。日本20施設から2016年7月22日〜2017年4月14日に登録された101例 (APP群n=48例、PP群n=53例) を対象とした。適格基準はステージ4非扁平上皮NSCLC・EGFR変異/ALK融合陰性・ECOG PS (performance status: 全身状態) 0-1・化学療法未治療。APP群:アテゾリズマブ1,200 mg (静注) +ペメトレキセド500 mg/m^2+シスプラチン75 mg/m^2またはカルボプラチン (AUC: area under the curve 6) を1サイクル21日で4〜6サイクル (導入期)、以降アテゾリズマブ+ペメトレキセド維持療法。PP群:同用量のペメトレキセド+プラチナ系+維持ペメトレキセド。共主要エンドポイントはOS・PFS (ITT集団)。副次エンドポイントはORR (overall response rate: 全奏効率)・DOR (duration of response: 奏効持続期間)・AESI。カットオフ日はPFS解析: 2018年5月22日、OS最終解析: 2019年7月18日。統計: OS/PFSはlog-rank検定、HRはCox比例ハザード回帰。