- 著者: Borghaei H, Paz-Ares L, Horn L, Spigel DR, Steins M, Ready NE, Chow LQ, Vokes EE, Felip E, Holgado E, Barlesi F, Kohlhäufl M, Arrieta O, Burgio MA, Fayette J, Lena H, Poddubskaya N, Gerber DE, Gettinger SN, Rudin CM, Rizvi N, Crinò L, Blumenschein GR Jr, Antonia SJ, Dorange C, Harbison CT, Graf Finckenstein F, Brahmer JR
- Corresponding author: Hossein Borghaei, DO, MS (Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-09-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 26412456
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は、世界的に癌関連死の主要な原因であり、特に非扁平上皮NSCLCは組織学的に多様なサブタイプを含む。一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法が標準であるが、治療後に病勢が進行した患者に対する二次治療の選択肢は限られていた。これまで、二次治療の標準はドセタキセルであったが、その有効率は低く、全生存期間 (OS) 中央値は8〜9ヶ月程度であり、骨髄抑制や脱毛などの毒性が高いことが課題であった。ペメトレキセドやエルロチニブも二次治療として使用されてきたが、ドセタキセルと比較してOSの優位性を示すことはできず、非劣性または同等の効果に留まっていたことが Hanna et al. JClinOncol 2004 や Shepherd et al. NEnglJMed 2005 によって報告されている。これらの治療法は、進行非扁平上皮NSCLC患者の長期生存を大幅に改善するには至らず、新たな治療選択肢の確立が強く求められていた。特に、ドセタキセルの安全性プロファイルは、Grade 3または4の有害事象が頻繁に発生し、患者のQOLを著しく低下させる要因となっていた。
近年、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが、活性化T細胞に発現するPD-1受容体と腫瘍細胞に発現するPD-L1/PD-L2リガンドとの結合を阻害することで、抗腫瘍免疫を回復させるメカニズムが注目されていた Pardoll et al. NatRevCancer 2012。ニボルマブは、転移性NSCLC患者を対象とした第1相試験において、持続的な抗腫瘍活性と良好な生存期間延長を示しており、奏効率17.6%、1年OS率42%、3年OS率16%という結果が報告されていた Brahmer et al. JClinOncol 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012。これらの初期データは、ニボルマブがプラチナ製剤治療後に進行したNSCLC患者の二次治療として有望な選択肢となる可能性を示唆していた。しかし、これらの試験は主に単群の第1相試験であり、標準治療であるドセタキセルとの比較による有効性および安全性の検証は未解明な点が多かった。
同時期に、扁平上皮NSCLCを対象としたCheckMate 017試験が実施され、ニボルマブがドセタキセルと比較してOSを有意に延長することが示されていた Brahmer et al. NEnglJMed 2015。しかし、非扁平上皮NSCLCは扁平上皮NSCLCとは異なる生物学的特性を持つことが知られており、特にEGFR変異 (約14%) やALK転座 (約4%) などのドライバー遺伝子変異を有する症例が含まれるため、ニボルマブの有効性がこれらのサブグループでどのように異なるか、またPD-L1発現が治療効果に与える影響は未解明な点が多かった。ドセタキセルは依然として標準治療であったものの、その有効性と安全性プロファイルには改善の余地が大きく、新たな治療選択肢の確立が強く求められていた。特に、PD-L1発現がニボルマブの治療効果を予測するバイオマーカーとして機能するかどうかの検証は、今後の個別化医療の確立において重要な課題として残されていた。本研究は、プラチナ製剤治療後に進行した非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの有効性と安全性を、ドセタキセルと比較して評価することを目的とした。この患者群における治療法の選択肢が不足しており、ニボルマブが新たな標準治療となり得るかどうかの検証が喫緊の課題であった。
目的
本第3相無作為化オープンラベル国際共同試験 (CheckMate 057、NCT01673867) は、プラチナ製剤ベースの化学療法中または後に病勢が進行した進行非扁平上皮NSCLC (Stage IIIB/IV) 患者において、ニボルマブ (3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与) が標準治療であるドセタキセル (75mg/m²を3週間ごとに静脈内投与) と比較して、主要評価項目である全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することを目的とした。本研究は、ニボルマブがドセタキセルと比較してOSにおいて優越性を示すことを主要な仮説として設定した。
副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、PD-L1発現レベルに応じた有効性、および安全性を評価した。特に、PD-L1発現がニボルマブの治療効果を予測するバイオマーカーとしての役割を検証することも重要な目的の一つであった。これは、PD-L1発現が非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの有効性を層別化する上で重要な因子となり得るかを明らかにするためのものであった。さらに、ニボルマブの安全性プロファイルを詳細に評価し、ドセタキセルと比較して治療関連有害事象の発生率や重症度の違いを明らかにすることも目的とされた。本研究は、ニボルマブが進行非扁平上皮NSCLCの二次治療における新たな標準治療となる可能性を評価することを意図していた。
結果
全生存期間 (OS) の有意な延長: ニボルマブ群はドセタキセル群と比較して、主要評価項目であるOSを有意に延長した (Figure 1A)。ニボルマブ群のOS中央値は12.2ヶ月 (95% CI, 9.7-15.0) であったのに対し、ドセタキセル群では9.4ヶ月 (95% CI, 8.1-10.7) であった (ハザード比 [HR] 0.73; 96% CI, 0.59-0.89; P=0.002)。これは、ニボルマブにより死亡リスクが27%減少したことを示している。1年OS率はニボルマブ群で51% (95% CI, 45-56)、ドセタキセル群で39% (95% CI, 33-45) であった。さらに追加フォローアップ (最低17.2ヶ月) の結果、18ヶ月OS率はニボルマブ群で39% (95% CI, 34-45)、ドセタキセル群で23% (95% CI, 19-28) となり、長期生存におけるニボルマブの優位性が拡大することが示された (HR 0.72; 95% CI, 0.60-0.88; P<0.001)。OSの利益は、ほとんどのサブグループで一貫して観察されたが、三次治療の患者、中枢神経系転移のある患者、非喫煙者、およびEGFR変異陽性患者のサブグループではHRが1を超え、ニボルマブの優位性が明確ではなかった (Figure 2)。
PD-L1発現と治療効果の関連性: PD-L1発現レベルが高いほどニボルマブの有効性が増す傾向が認められた。PD-L1発現が1%以上の患者群では、ニボルマブ群のOS中央値はドセタキセル群と比較して有意に延長し (HR 0.59; 95% CI, 0.43-0.82)、PD-L1発現が5%以上および10%以上の患者群では、さらにハザード比が低下し、それぞれHR 0.43、HR 0.40であった。これは、非扁平上皮NSCLCにおいてPD-L1発現がニボルマブの予測バイオマーカーとして機能することを示唆している。一方、PD-L1発現が1%未満の患者群では、ニボルマブ群のOS中央値はドセタキセル群と比較して有意な差は認められず (HR 1.18; 95% CI, 0.86-1.63)、ニボルマブのOS利益はほとんどなかった。この知見は、扁平上皮NSCLCを対象としたCheckMate 017試験でPD-L1発現と治療効果の関連性が認められなかった結果とは対照的であった。PD-L1発現レベル別の客観的奏効率も、発現レベルが高いほどニボルマブ群で優位な傾向を示した (Table S5)。
客観的奏効率 (ORR) と奏効持続期間 (DOR): 客観的奏効率 (ORR) は、ニボルマブ群で19% (95% CI, 15-24) であったのに対し、ドセタキセル群では12% (95% CI, 9-17) であり、ニボルマブ群で有意に高かった (P=0.02) (Table 2)。完全奏効 (CR) はニボルマブ群で4例 (1%)、ドセタキセル群で1例 (<1%) に認められた。部分奏効 (PR) はニボルマブ群で52例 (18%)、ドセタキセル群で35例 (12%) に認められた。奏効までの期間中央値は、ニボルマブ群で2.1ヶ月 (範囲 1.2-8.6)、ドセタキセル群で2.6ヶ月 (範囲 1.4-6.3) であった。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、ニボルマブ群で17.2ヶ月 (範囲 1.8-22.6+) と、ドセタキセル群の5.6ヶ月 (範囲 1.2+-15.2+) と比較して著しく長期にわたることが示された。このDORの延長は、ニボルマブの持続的な抗腫瘍効果を強く示唆するものであった。
無増悪生存期間 (PFS): 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は、ニボルマブ群で2.3ヶ月 (95% CI, 2.2-3.3) であったのに対し、ドセタキセル群では4.2ヶ月 (95% CI, 3.5-4.9) であり、短期的にはドセタキセル群が優位であった (HR 0.92; 95% CI, 0.77-1.1; P=0.39) (Figure 1C)。しかし、1年PFS率はニボルマブ群で19% (95% CI, 14-23)、ドセタキセル群で8% (95% CI, 5-12) と、長期的にはニボルマブ群が優位となる特徴的な「遅延効果 (delayed benefit)」パターンが観察された。これは、免疫療法に特有のPFSとOSの解離を示唆するものであり、ニボルマブのPFS中央値がドセタキセルより短かったにもかかわらず、OSが有意に延長した主要な要因の一つと考えられた。
安全性プロファイル: 治療関連のGrade 3または4の有害事象 (AE) の発生率は、ニボルマブ群で10%と、ドセタキセル群の54%と比較して著しく低かった (Table 3)。治療中止に至った治療関連AEの発生率も、ニボルマブ群で5%と、ドセタキセル群の15%と比較して低かった。ニボルマブ群で最も頻繁に報告されたGrade 3または4の治療関連AEは、疲労 (1%)、悪心 (1%)、下痢 (1%)、無力症 (<1%) などであった。ドセタキセル群では、好中球減少症 (27%)、発熱性好中球減少症 (10%)、白血球減少症 (8%)、疲労 (5%) などが主なGrade 3または4のAEであった。免疫関連の有害事象 (select AE) はニボルマブ群で37%の患者に発生したが、そのほとんどはGrade 1または2であり、甲状腺機能異常、皮膚毒性、肺臓炎が主なものであった。Grade 3または4の免疫関連AEはニボルマブ群で7%に発生し、大腸炎や肺臓炎が主であった。両群で1例ずつ治療関連死が報告された (ニボルマブ群では脳炎、ドセタキセル群では発熱性好中球減少症)。PD-L1発現レベルによる治療関連有害事象の発生頻度に大きな差は認められなかった。
考察/結論
CheckMate 057試験は、プラチナ製剤ベースの化学療法後に進行した進行非扁平上皮NSCLC患者において、ニボルマブがドセタキセルと比較して全生存期間 (OS) を有意に延長することを示した画期的な第3相試験である。ニボルマブ群のOS中央値12.2ヶ月に対し、ドセタキセル群は9.4ヶ月であり (HR 0.73; 96% CI, 0.59-0.89; P=0.002)、死亡リスクを27%低減した。この結果は、同時期に報告された扁平上皮NSCLCを対象としたCheckMate 017試験 Brahmer et al. NEnglJMed 2015 とともに、進行NSCLCの二次治療における免疫チェックポイント阻害薬の有効性を確立し、新たな治療パラダイムの幕開けを告げた。
本研究の最も重要な知見の一つは、非扁平上皮NSCLCにおいてPD-L1発現がニボルマブの治療効果を予測するバイオマーカーとして機能することを示した点である。PD-L1発現レベルが高いほどニボルマブのOS利益が大きくなる傾向が明確に示され (PD-L1≥1%でHR 0.59; 95% CI, 0.43-0.82、PD-L1≥10%でHR 0.40)、PD-L1発現が1%未満の患者ではOS利益が認められなかった (HR 1.18; 95% CI, 0.86-1.63)。この結果は、扁平上皮NSCLCにおけるPD-L1の非予測性とは対照的であり、非扁平上皮NSCLC (主に腺癌) の免疫微小環境が扁平上皮NSCLCとは異なる可能性を示唆している。この新規性は、今後の非扁平上皮NSCLC患者に対するニボルマブ治療の個別化において重要な臨床的意義を持つ。
また、本試験で観察された無増悪生存期間 (PFS) とOSの解離 (PFS中央値はドセタキセル群が優位であったにもかかわらず、OSはニボルマブ群が優位) は、免疫療法に特有の「遅延効果 (delayed benefit)」を示唆するものである。これは、免疫チェックポイント阻害薬の評価において、PFSをOSの代替エンドポイントとして用いる際の注意点を提示するものであり、今後の免疫療法の臨床応用における評価指標のあり方について重要な示唆を与えた。
安全性プロファイルにおいても、ニボルマブはドセタキセルと比較して著しく優れており、Grade 3または4の治療関連有害事象の発生率はニボルマブ群で10%に対し、ドセタキセル群で54%と、毒性が大幅に低減された。この劇的な安全性優位は、患者のQOL向上という観点からも極めて重要な臨床的有用性を持つ。
残された課題として、PD-L1発現が1%未満の患者におけるニボルマブの有効性が限定的であったことから、これらの患者群に対する最適な治療戦略を確立する必要がある。また、EGFR変異陽性患者や非喫煙者など、一部のサブグループでニボルマブのOS利益が明確でなかった理由について、さらなる検討が今後の研究課題となる。これらの患者群における免疫微小環境の特性や、他の治療法との併用療法の可能性についても、今後の研究で解明されることが期待される。本研究の結果は、ニボルマブがプラチナ製剤治療後に進行した非扁平上皮NSCLCの二次治療として、FDA承認 (2015年) の根拠となり、Garon et al. NEnglJMed 2015 によるペムブロリズマブのKEYNOTE-010試験とともに、二次治療における免疫チェックポイント阻害薬の標準治療を確立した。
方法
本研究は、国際共同第3相無作為化オープンラベル試験として実施された。対象患者は、組織学的に確認されたStage IIIBまたはIVの非扁平上皮NSCLC患者で、プラチナ製剤ベースの化学療法を1〜2レジメン施行後に病勢が進行した者とした。ECOGパフォーマンスステータスは0または1であり、EGFR変異陽性またはALK転座陽性でチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 治療歴がある患者も適格とされた。合計582名の患者が無作為に2つの治療群に割り付けられた。ニボルマブ群には292名、ドセタキセル群には290名が割り付けられた。
無作為化は、前治療における維持療法歴 (あり/なし) と治療ライン (二次治療/三次治療) に基づいて層別化された。ニボルマブは3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与され、ドセタキセルは75mg/m²を3週間ごとに静脈内投与された。治療は病勢進行または許容できない毒性が生じるまで継続された。ニボルマブ群では、初回病勢進行後も臨床的利益があると判断された場合、治療継続が許可された。ニボルマブの減量は許可されず、ドセタキセルの減量はプロトコルに規定された。
主要評価項目はOSであった。中間解析時におけるOSの優越性を宣言するための有意水準はP<0.0408と設定された。OSの優越性が確認された場合、客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) が階層的に検定された。腫瘍評価は、RECIST v1.1ガイドライン Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、9週目およびその後6週間ごとに実施された。安全性評価は、NCI-CTCAE v4.0に基づき、有害事象の発生頻度と重症度を評価した。免疫関連の有害事象 (select adverse events) は、事前に定義されたカテゴリーに分類され、プロトコルに準拠した免疫調節剤 (主にグルココルチコイド) で管理された。
PD-L1発現は、治療前の腫瘍生検検体を用いて、抗PD-L1抗体 (クローン28-8) を用いた免疫組織化学 (IHC) 法により評価された。PD-L1発現レベルは、腫瘍細胞膜の染色が1%以上、5%以上、10%以上の3つのカットポイントで定義された。統計解析には、OSおよびPFSの評価に層別化ログランク検定と層別化Cox比例ハザードモデルが用いられ、カプラン・マイヤー法により生存曲線および生存率が推定された。ORRの比較には、層別化Cochran-Mantel-Haenszel検定が用いられた。PD-L1発現と臨床転帰の間の予測的関連性を示すシグナルとして、交互作用P値が0.20未満が考慮された。中間解析のデータカットオフは2015年3月18日であり、OSの追加フォローアップデータは2015年7月2日時点のものが用いられた。