• 著者: Hummelink K, Thommen DS, Monkhorst K, et al.
  • Corresponding author: Daniela S. Thommen (Netherlands Cancer Institute)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-07-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35852792

背景

PD-1/PD-L1阻害薬は非小細胞肺がん (NSCLC) の標準治療として確立されているが、その奏効は患者の一部に限定される。既存の予測バイオマーカーであるPD-L1 TPS (Tumor Proportion Score) は、感度および特異度が不十分であり、多くの患者が無益な治療を受けているという課題が残されている Reck et al. NEnglJMed 2016。腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のうち、腫瘍特異的なT細胞クローンは高輝度PD-1 (PD-1T) を発現することが報告されており、これらの細胞が機能的に活性化されたT細胞の枯渇状態を反映し、PD-1遮断への応答性と関連することがThommen DSらの先行研究で提唱された (Thommen et al. Nat Med 2018)。しかし、PD-1T TILsの臨床的バイオマーカーとしての妥当性を大規模コホートで検証した研究は不足しており、その予測性能とPD-L1発現や三次リンパ構造 (TLS) との比較は未解明であった。特に、PD-1阻害薬治療の恩恵を受けない患者を高精度に特定するバイオマーカーは依然として不足している。

目的

PD-1単剤治療を受けた進行NSCLC患者において、PD-1T TILs (腫瘍内高輝度PD-1+CD8+T細胞) がPD-1遮断への臨床的ベネフィットを予測するバイオマーカーとして機能するかを検証すること。また、PD-L1 TPSおよび三次リンパ組織 (TLS) との予測能を比較し、PD-1T TILsの臨床的有用性を評価することを目的とした。本研究のprimary endpointは6ヶ月疾患コントロール (DC) とし、secondary endpointは12ヶ月DC、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) とした。

結果

6ヶ月疾患コントロール予測能: 訓練コホートにおいて、PD-1T TILsは6ヶ月DCの予測においてAUC 0.79 (95% CI 0.61-0.98)、感度79%、特異度83%、NPV 89%、PPV 69%を示した。検証コホートでは、AUC 0.72 (95% CI 0.60-0.84)、感度77%、特異度67%、NPV 88%、PPV 49%であった。特に、NPV 88%という高い陰性予測能は、PD-1阻害薬治療からベネフィットを得られない患者を高精度に特定できることを示唆する (Table 1)。PD-1T TILs低値群 (90個/mm²未満) では、PD患者の有意な濃縮が認められた (Figure 1H)。

12ヶ月疾患コントロール予測能: 12ヶ月DCの予測能はさらに高く、訓練コホートでAUC 0.89 (95% CI 0.73-1.00)、感度92%、特異度84%、NPV 96%、PPV 69%であった。検証コホートでは、AUC 0.78 (95% CI 0.68-0.88)、感度93%、特異度65%、NPV 98%を達成した。検証コホートにおけるNPV 98%は、PD-1T TILs低値の患者の98%が12ヶ月時点で疾患コントロールを達成しないことを意味し、長期的な無益な治療を極めて高精度に回避できる可能性を示す (Table 1)。PD-1T TILs低値群では、12ヶ月DCを達成した患者は検証コホートでわずか1/77 (1%) であった (Figure 2D)。

生存アウトカムとの関連: PD-1T TILs高値群は、訓練コホートでPFS HR 0.30 (95% CI 0.16-0.58, p<0.001)、OS HR 0.27 (95% CI 0.14-0.53, p<0.0001) と有意な延長を示した。検証コホートでも同様に、PFS HR 0.39 (95% CI 0.24-0.63, p<0.0001)、OS HR 0.46 (95% CI 0.28-0.76, p<0.01) と、一貫した予後予測能が確認された。PD-1T TILs高値群のPFS中央値は5.7ヶ月に対し、低値群は2.2ヶ月であった (Figure 2E)。

PD-L1 TPSとの比較: PD-L1 TPSの予測性能はPD-1T TILsよりも劣っていた。PD-L1 ≥50%の感度は6ヶ月DCで23%、12ヶ月DCで29%であり、NPVはそれぞれ75%と86%であった。PD-L1 ≥1%の場合でも、感度は41%から57%、NPVは74%から88%にとどまり、PD-1T TILsの感度77%から93%、NPV 88%から98%と比較して低性能であった (Table 1, Figure 4D)。PD-L1 ≥50%はPFS (HR 0.36, 95% CI 0.18-0.70, p=0.03) およびOS (HR 0.40, 95% CI 0.20-0.80, p=0.06) の改善と相関したが、このサブグループに該当する患者はわずか8例であった (Figure 4E, F)。

TLS解析: TLSは症例の33%に、TLSおよび/またはリンパ凝集塊 (LA: lymphoid aggregate) は51%の腫瘍に認められた (Figure 5A)。PD-1T TILsはTLS内外で有意に高い密度を示したが (p<0.0001)、TLS単独の12ヶ月DC予測AUCは0.62 (95% CI 0.47-0.76) と低く、PD-1T TILsよりも予測能が劣っていた (Figure 5F)。PD-1T TILsとTLS数の組み合わせは、PD-1T TILs単独の予測能を改善しなかった。PD-1T TILs高値腫瘍では、TLS内のPD-1T TILs数が有意に高く (p<0.01)、TLS外の腫瘍実質にもより多くのPD-1T TILsが存在した (p<0.0001) (Figure 5H, I)。

腫瘍不均一性・サンプリング時期: PD-1T TILsの腫瘍内不均一性は最小限であり、多くの腫瘍内領域が全体スコア(高値/低値)と一致した (Figure 3C)。PD-1阻害薬治療直前に採取されたサンプルは、より高い予測能を示す傾向があり、特に12ヶ月DCの予測において有意差が認められた (AUC 0.91 vs. 0.74, p=0.04) (Figure 3D, E)。

考察/結論

本研究は、進行NSCLC患者において、PD-1T TILsがPD-L1 TPSよりも優れたPD-1阻害薬治療の奏効予測バイオマーカーであることを、訓練コホートと検証コホートの両方で確立した。

新規性: 本研究で初めて、デジタル定量化したPD-1T TILsが、特に6ヶ月および12ヶ月の疾患コントロールにおいて、極めて高い陰性予測能 (NPV 88%〜98%) を持つことを大規模コホートで示した。これは、PD-1T TILs低値の患者を正確に同定し、不必要な免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 投与を回避するための新規かつ強力な臨床ツールとしての価値を裏付けるものである。

先行研究との違い: これまでPD-L1発現が主要なバイオマーカーとされてきたが、本研究の結果は、PD-1T TILsがPD-L1 TPSよりも一貫して優れた予測性能を示すという点で、これまでの報告 Reck et al. NEnglJMed 2016 と対照的である。PD-1T細胞が腫瘍特異的な応答性T細胞を高濃縮することが先行研究で示されており (Thommen et al. Nat Med 2018)、PD-1T TILsは抗原提示の代替指標であるPD-L1 TPSよりも、実際の機能的なICB応答性T細胞の直接的評価に近いと考えられる。また、TLSがPD-1T TILsと相関しつつも独立した予測能を持たないという知見は、TLS内で富化されたPD-1T TILsが予測に主に寄与していることを示唆する。

臨床応用: PD-1T TILsの高いNPVは、PD-1阻害薬治療からベネフィットを得られない患者を早期に特定し、無益な治療に伴う毒性や医療費を削減する上で臨床的意義が大きい。これにより、患者層別化が改善され、治療意思決定にポジティブな影響を与える可能性がある。特に、PD-1T TILsが低値である患者群は、PD-1阻害薬治療の恩恵を受ける可能性が極めて低いと判断できるため、代替治療法の検討を促すことができる。

残された課題: 今後の検討課題として、デジタルIHCアルゴリズムのさらなる標準化と多施設間での検証が必要である。また、PD-1阻害薬治療直前のサンプルで最適な予測能が得られるという時間依存性も考慮すべき点である。腫瘍内不均一性については、本研究でPD-1T TILsが比較的均一であることが示されたものの、より広範なサンプリング戦略やAIソリューションの導入による自動化の改善が、臨床現場への実装に向けて重要となる。

方法

本研究は、retrospective cohort studyとして、2015年から2018年にかけてオランダがん研究所/Antoni van Leeuwenhoek病院でPD-1単剤治療(ニボルマブ128例、ペムブロリズマブ36例)を受けた進行ステージIV NSCLC患者120例を対象とした。対象患者は、NCT02492568 (PEMBRO-RT study) の対照群患者を含む。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織を用いて、デジタルIHCアルゴリズムによりPD-1T TILs (CD8+高輝度PD-1+細胞) を定量化した。ROC解析により、6ヶ月疾患コントロール (DC) を識別するための最適なカットオフ値として90個/mm²を決定した。患者コホートは訓練コホート (N=43) と検証コホート (N=77) に層別化ランダム化分割された。主要評価項目は6ヶ月DC、副次評価項目は12ヶ月DC、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) とした。PD-L1 TPS (≥50%および≥1%) およびTLS (tertiary lymphoid structures) の存在との比較解析も実施した。RECIST v1.1基準が効果判定に用いられた Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。生存曲線はKaplan-Meier法を用いてプロットし、log-rank testで比較した。