- 著者: Reck M, Rodríguez-Abreu D, Robinson AG, Hui R, Csőszi T, Fülöp A, Gottfried M, Peled N, Tafreshi A, Cuffe S, O’Brien M, Rao S, Hotta K, Leiby MA, Lubiniecki GM, Shentu Y, Rangwala R, Brahmer JR
- Corresponding author: Julie R. Brahmer, MD (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center at Johns Hopkins, Baltimore, MD, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 27718847
背景
進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、EGFR遺伝子変異やALK遺伝子転座を持たない患者の一次治療は、長らくプラチナ製剤ベースの化学療法が標準であった。しかし、これらの化学療法は奏効期間が限定的であり、全生存期間(OS)中央値は12〜14ヶ月程度に留まることが課題として認識されていた。近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)である抗PD-1抗体ペムブロリズマブが、進行NSCLC患者において有望な抗腫瘍活性を示すことが複数の臨床試験で報告され、特にPD-L1の発現レベルが治療効果の予測因子として注目を集めていた。
先行研究であるKEYNOTE-001試験のサブ解析では、PD-L1腫瘍細胞比率(TPS)が50%以上の未治療NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が58.3%という高い奏効率(ORR)を示し、無増悪生存期間(PFS)中央値は12.5ヶ月、24ヶ月OS率は60.6%に達することが示された (Garon et al. NEnglJMed 2015)。この結果は、PD-L1高発現がICIの奏効予測因子として極めて強く機能することを示唆するものであった。しかし、PD-L1高発現の未治療進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤療法と標準化学療法を直接比較し、その優越性を検証する大規模な第III相臨床試験は当時未確立であった。また、既報のKEYNOTE-010試験では、前治療歴のあるPD-L1陽性NSCLC患者においてペムブロリズマブがドセタキセルと比較して優越性を示したが、一次治療での比較は行われていなかった (Herbst et al. Lancet 2016)。
PD-L1 TPSが50%以上の患者は、進行NSCLC全体の約30%を占める比較的大きな集団であり、この集団に対する治療戦略の転換は、多くの患者の予後改善に大きく貢献する可能性を秘めていた。従来の化学療法では、特に扁平上皮癌患者において治療選択肢が限られており、新たな治療法の開発が強く求められていた。また、化学療法に伴う重篤な有害事象も患者のQOLを低下させる要因であり、より安全で効果的な治療法の必要性が認識されていた。本研究は、このアンメットニーズに応えるべく、PD-L1高発現の未治療進行NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法がプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、有効性および安全性において優越性を示すかを検証することを目的とした。これにより、PD-L1高発現NSCLC患者の一次治療における新たな標準治療を確立し、臨床現場における治療ガイドラインの変更に資する重要な知見を提供することが期待されたが、そのための決定的なエビデンスが不足していた。
目的
本第III相無作為化オープンラベル試験(KEYNOTE-024、NCT02142738)の目的は、未治療の転移性非小細胞肺がん(EGFR遺伝子変異およびALK遺伝子転座陰性、PD-L1腫瘍細胞比率(TPS)が50%以上)患者において、ペムブロリズマブ200mgを3週間に1回投与する単剤療法(最長35サイクル)が、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を延長するかを評価することであった。
さらに、副次評価項目として、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、および安全性を評価し、ペムブロリズマブの優越性を多角的に検証することも目的とした。特に、化学療法群で病勢進行が確認された患者に対しては、ペムブロリズマブへのクロスオーバーを許可する設計とし、実臨床に近い状況下でのOSへの影響も評価することを目指した。本研究は、PD-L1高発現の未治療進行NSCLC患者に対する一次治療として、ペムブロリズマブが新たな標準治療となり得るかを判断するための決定的なエビデンスを提供することを意図していた。
結果
無増悪生存期間(PFS)の顕著な延長: 主要評価項目であるPFSにおいて、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較して統計学的に有意な延長を示した。PFS中央値は、ペムブロリズマブ群で10.3ヶ月(95% CI, 6.7ヶ月〜未到達)であったのに対し、化学療法群では6.0ヶ月(95% CI, 4.2ヶ月〜6.2ヶ月)であった。病勢進行または死亡のハザード比(HR)は0.50(95% CI, 0.37-0.68; p<0.001)であり、ペムブロリズマブが病勢進行または死亡のリスクを半減させることを示した(Figure 1A)。6ヶ月時点でのPFS率は、ペムブロリズマブ群で62.1%(95% CI, 53.8-69.4)であったのに対し、化学療法群では50.3%(95% CI, 41.9-58.2)であった。このPFSの優越性は、年齢、性別、組織型(扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、ECOGパフォーマンスステータス、登録地域、ベースライン時の脳転移の有無、および喫煙歴を含む全てのサブグループで一貫して観察された(Figure 1B)。特に、扁平上皮癌患者(n=56)においてもペムブロリズマブのPFS改善効果が認められたことは、治療選択肢が限られるこの集団にとって重要な知見である。
全生存期間(OS)の有意な改善: 重要な副次評価項目であるOSにおいても、ペムブロリズマブ群は化学療法群に対して有意な優越性を示した。データカットオフ時点(追跡期間中央値11.2ヶ月)で、両群ともにOS中央値は未到達であったが、死亡のハザード比は0.60(95% CI, 0.41-0.89; p=0.005)であり、ペムブロリズマブが死亡リスクを40%減少させることを示した(Figure 2)。6ヶ月時点でのOS率は、ペムブロリズマブ群で80.2%(95% CI, 72.9-85.7)であったのに対し、化学療法群では72.4%(95% CI, 64.5-78.9)であった。化学療法群の患者のうち43.7%(n=66)が病勢進行後にペムブロリズマブへのクロスオーバーを実施したにもかかわらず、OSにおける有意な改善が達成されたことは、ペムブロリズマブの真のOS利益がさらに大きい可能性を示唆している。
客観的奏効率(ORR)と奏効期間(DOR)の優越性: 客観的奏効率(ORR)は、ペムブロリズマブ群で44.8%(95% CI, 36.8-53.0)であったのに対し、化学療法群では27.8%(95% CI, 20.8-35.7)であり、ペムブロリズマブ群で有意に高かった(差16.6%ポイント、95% CI, 6.0-27.0)(Table 2)。奏効までの期間中央値は両群ともに2.2ヶ月であった。奏効期間(DOR)中央値は、ペムブロリズマブ群ではデータカットオフ時点で未到達(範囲1.9+〜14.5+ヶ月)であったのに対し、化学療法群では6.3ヶ月(範囲2.1+〜12.6+ヶ月)であった。この結果は、ペムブロリズマブによる奏効が化学療法と比較して著明に持続することを示している。治療期間中央値は、ペムブロリズマブ群で7.0ヶ月、化学療法群で3.5ヶ月であった。
安全性プロファイルの改善: 治療関連有害事象(TRAE)の発生率は、ペムブロリズマブ群で73.4%であったのに対し、化学療法群では90.0%と高かった(Table 3)。特に、Grade 3〜5の重篤なTRAEの発生率は、ペムブロリズマブ群で26.6%であったのに対し、化学療法群では53.3%と約2倍高かった。これは、ペムブロリズマブが化学療法と比較して毒性が著明に低いことを示している。治療関連の重篤な有害事象(SAE)の発生率は、ペムブロリズマブ群で21.4%、化学療法群で20.7%と両群で同程度であった。TRAEによる治療中止率は、ペムブロリズマブ群で7.1%、化学療法群で10.7%であった。治療関連死は、ペムブロリズマブ群で1例(0.6%)、化学療法群で3例(2.0%)報告された。
免疫関連有害事象(irAE)は、ペムブロリズマブ群で29.2%(Grade 3〜4が9.7%)発生したのに対し、化学療法群では4.7%(Grade 3〜4が0.7%)と、ペムブロリズマブ群でより多く認められた。ペムブロリズマブ群で最も頻度の高かったGrade 3〜4のirAEは、重度皮膚反応(3.9%)、肺臓炎(2.6%)、および大腸炎(1.3%)であった。一方、化学療法群では貧血(44.0%)、悪心(43.3%)、疲労(28.7%)などの血液毒性や消化器症状がより多く見られた。これらの結果は、ペムブロリズマブが化学療法と比較して、全体的な安全性プロファイルが良好であることを明確に示している。
考察/結論
KEYNOTE-024試験は、PD-L1 TPSが50%以上の未治療進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ペムブロリズマブ単剤療法がプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、および安全性プロファイルの全てにおいて優越性を示した最初の第III相臨床試験である。PFSのハザード比0.50(95% CI, 0.37-0.68; p<0.001)という結果は、ペムブロリズマブが病勢進行または死亡のリスクを半減させることを示し、OSのハザード比0.60(95% CI, 0.41-0.89; p=0.005)は、化学療法群の43.7%がペムブロリズマブへクロスオーバーしたにもかかわらず、死亡リスクを有意に低減することを示した。この高いクロスオーバー率を考慮すると、ペムブロリズマブの真のOS利益はさらに大きいと解釈される。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1発現レベルと免疫チェックポイント阻害薬の奏効との関連は示唆されていたものの、PD-L1高発現の未治療進行NSCLC患者を対象とした大規模な第III相試験で、ペムブロリズマブ単剤が化学療法に対してPFSとOSの両方で優越性を示すことは、本研究で初めて実証された。Garon et al. NEnglJMed 2015やHerbst et al. Lancet 2016の報告とは異なり、本試験は一次治療における直接比較であり、その臨床的意義は大きい。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1 TPS 50%以上というカットポイントの妥当性を明確に確立し、このバイオマーカーに基づく層別化治療の有効性を新規に示した。全スクリーニング患者の30.2%がTPS 50%以上であったことは、この集団が臨床的に意義のある規模であることを裏付けている。この結果は、PD-L1発現を伴うNSCLC患者に対するペムブロリズマブの固定用量200mgが、以前の体重ベースの用量(10mg/kg)と同様の有効性を示すことを確認したChatterjee et al. AnnOncol 2016の薬物動態モデリングの結果とも一致している。
臨床応用: 本試験の結果は、PD-L1 TPSが50%以上の未治療進行NSCLC患者に対する一次治療として、ペムブロリズマブ単剤療法を新たな標準治療として確立する臨床的意義を持つ。この知見は、世界中の臨床現場における治療ガイドラインの変更に直結し、多くの患者の予後改善とQOL向上に貢献することが期待される。特に、化学療法と比較して毒性が低いことは、患者の治療継続性や生活の質を大きく改善する点で非常に有用である。
残された課題: 今後の検討課題としては、PD-L1 TPSが50%未満の患者におけるペムブロリズマブの有効性、および化学療法との併用療法の可能性が挙げられる。また、長期的なOSデータや、免疫関連有害事象のより詳細な管理戦略についても継続的な研究が必要である。本試験では、化学療法群からのクロスオーバーがOSに与える影響を完全に排除することはできなかった点がlimitationとして残されている。後続のKEYNOTE-024更新解析(mOS 26.3ヶ月、HR 0.62)やKEYNOTE-042試験(TPS≥1%への拡張)により、ペムブロリズマブ単剤の一次治療エビデンスはさらに強固なものとなっているが、個別化医療のさらなる進展に向けた研究が今後も求められる。
方法
本研究は、国際的な第III相無作為化オープンラベル試験(KEYNOTE-024)として、16カ国102施設で実施された。対象患者は、18歳以上の組織学的または細胞学的に確認されたStage IVの非小細胞肺がん(NSCLC)患者で、EGFR遺伝子変異およびALK遺伝子転座が陰性であり、転移性疾患に対する全身療法歴がないこと、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であること、RECIST version 1.1に基づき測定可能な病変が少なくとも1つ存在すること、およびPD-L1腫瘍細胞比率(TPS)が50%以上(Dako PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイにより中央検査室で評価)であることが条件とされた。活動性の自己免疫疾患、未治療の脳転移、間質性肺疾患の既往、または全身性ステロイド治療を受けている患者は除外された。
合計305名の患者が無作為に1:1の比率で、ペムブロリズマブ群(n=154)または化学療法群(n=151)に割り付けられた。ペムブロリズマブ群の患者には、200mgが3週間ごとに静脈内投与され、最長35サイクル(約2年間)継続された。化学療法群の患者には、担当医の裁量により以下の5種類のプラチナ製剤ベースのレジメンから選択された:カルボプラチン+ペメトレキセド、シスプラチン+ペメトレキセド、カルボプラチン+ゲムシタビン、シスプラチン+ゲムシタビン、またはカルボプラチン+パクリタキセル。ペメトレキセドを含むレジメンは非扁平上皮癌患者にのみ許可され、維持療法として継続可能であった。無作為化は、ECOGパフォーマンスステータス(0 vs 1)、腫瘍組織型(扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、および登録地域(東アジア vs 非東アジア)で層別化された。
主要評価項目は、盲検下独立中央画像判定(BICR)によるRECIST version 1.1に基づく無増悪生存期間(PFS)であった。副次評価項目には、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、および安全性(NCI-CTCAE version 4.0に基づく有害事象の評価)が含まれた。化学療法群の患者でBICRにより病勢進行が確認され、かつ安全基準を満たした場合は、ペムブロリズマブへのクロスオーバーが許可された。
統計解析は、intention-to-treat(ITT)集団で実施された。PFSおよびOSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出には層別Cox比例ハザードモデルが用いられた。ORRの差はMiettinenとNurminenの層別法で評価された。本試験は、ペムブロリズマブのPFSにおける優越性を検出するために97%の検出力を持つよう設計された。中間解析は2回計画され、2回目の解析(189イベント発生時)で、ペムブロリズマブがOSにおいて事前に規定された多重性調整済みの片側αレベル1.18%で優越性を示したため、独立データ安全性モニタリング委員会(DSMC)は試験の早期中止を勧告し、化学療法群の患者にペムブロリズマブへのクロスオーバー機会を提供することを推奨した。本報告のデータは、2016年5月9日のデータカットオフ時点(追跡期間中央値11.2ヶ月)での2回目中間解析に基づいている。