- 著者: Olga Zamulko, Sam Nusbaum (Co-First Authors), Andrew Osterburg, McKenzie Crist, Maria Lehn, Ilaina Monroe, Audrey Romano, Casey L. Allen, Allie Forsythe, Muhammed Kashif Riaz, Christopher Lemmon, Vinita Takiar, Jianmin Pan, Shesh N. Rai, Michael Borchers, Dalia El-Gamal, Trisha Wise-Draper (El-Gamal と Wise-Draper は co-senior)
- Corresponding author: Trisha M. Wise-Draper (University of Cincinnati Cancer Center, Cincinnati, OH); Dalia El-Gamal (University of Cincinnati, Cincinnati, OH)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 clinical trial)
- PMID: 42347882
背景
頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC: Head and Neck Squamous Cell Carcinoma) は世界で6番目に多い癌腫であり、局所進行例の30-50%が局所再発または遠隔転移を来す。再発・転移性 (R/M: Recurrent/Metastatic) HNSCC の5年生存率は約15%と極めて不良で、抗PD-1 抗体ペムブロリズマブが単剤あるいは化学療法併用で1次治療の標準療法となっている。しかしペムブロリズマブ単剤の奏効率 (ORR: Overall Response Rate) は19-25%、全生存期間 (OS: Overall Survival) 中央値17.9ヶ月、4年OSも30%未満にとどまり (KEYNOTE-048/LEAP-010 等)、奏効する患者は20%未満と限定的である。すなわち、免疫療法の効果を底上げする新規併用療法が強く求められているが、これまで R/M setting で確立された併用パートナーは乏しかった。
先行研究では、糖尿病治療薬であるメトホルミン (metformin、ビグアナイド系) が抗腫瘍作用を示すことが複数報告されてきた。第一に、HNSCC マウスモデルで口腔扁平上皮癌の発生・進展を抑制し、糖尿病患者の後ろ向き研究でも HNSCC 発症リスク低下・早期発見・予後改善と関連した (Vitale-Cross et al. 2012、Yen et al. 2015、Sandulache et al. 2014)。第二に、メトホルミンは AMPK 経路の活性化を介して mTORC1 活性を阻害し、“window of opportunity trial” では腫瘍微小環境 (TME: Tumor Microenvironment) の代謝関連間質マーカーを増加させアポトーシスを促進、CD8+ リンパ球の腫瘍浸潤も増加させた (Curry et al. 2017、Curry et al. 2018)。第三に、メトホルミンは AMPK 活性化を介して PD-L1 (Programmed Death-Ligand 1) の膜局在を阻害する (Cha et al. 2018)。さらに本研究グループは、メトホルミンが HNSCC 患者の末梢血と腫瘍浸潤ナチュラルキラー (NK: Natural Killer) 細胞および活性化受容体 NKG2D を増加させることを以前に報告していた (Yaniv 2018)。NK 細胞も CD8+ T 細胞と同様に PD-1 を発現し PD-L1 陽性腫瘍により不活化される (JImmunotherCancer et al. Clinical 2026)。メラノーマモデルではメトホルミンと抗PD-1の併用が腫瘍増殖を抑制した (Scharping 2017)。
しかし、これら前臨床・後ろ向き知見にもかかわらず、R/M HNSCC を対象にメトホルミンと抗PD-1抗体を前向きに併用し、臨床効果と NK 細胞活性化機構を同時に評価した試験は存在しなかった。とくに「先行投与の順序 (メトホルミン先行 vs ペムブロリズマブ先行) が免疫細胞動態と効果に与える影響」「末梢 NK 細胞の成熟・細胞傷害能が臨床効果と相関するか」という点が未開拓のまま残されていた。すなわち、自然免疫を主軸に据えたメトホルミン+免疫療法の前向き臨床エビデンスと相関解析が不足していた点が、本試験が埋めようとした gap in knowledge である。
目的
本第2相 feasibility 試験の目的は、R/M HNSCC 患者においてメトホルミンとペムブロリズマブの併用療法の (1) 主要評価項目である ORR (RECIST 1.1 準拠) を評価し事前設定 ORR 32% 以上を達成できるか検証すること、(2) 安全性・忍容性を CTCAE v5.0 で評価すること、(3) 副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS: Progression Free Survival) と OS を評価すること、である。加えて相関研究として、フローサイトメトリーにより末梢血 NK 細胞の分布・活性化・細胞傷害機能を解析し、メトホルミンとペムブロリズマブの併用効果の機序として NK 細胞活性化が寄与するか、また投与順序 (Arm 1 = メトホルミン先行 vs Arm 2 = ペムブロリズマブ先行) による免疫細胞動態の差を明らかにすることを目指した。
結果
主要評価項目 ORR の達成:2020年9月から2024年2月までに21例が登録され (Arm 1 = 10例、Arm 2 = 11例)、2例が嚥下障害、1例が追跡非遵守で除外、18例が奏効評価可能となった (Table 1)。完全奏効 (CR: Complete Response) 4例、部分奏効 (PR: Partial Response) 5例、安定 (SD: Stable Disease) 4例、進行 (PD: Progressive Disease) 5例で、全集団の ORR は50% (95%CI 29-71%) と、事前設定の32%および「19例中6例奏効で陽性」という閾値を上回り主要評価項目を達成した (Table 2)。臨床的有益率 (CR+PR+SD) は72%、奏効持続期間 (PR+CR) 中央値は21ヶ月であった。注目すべきは、計画外の探索的比較ながらメトホルミン先行の Arm 1 が ORR 67% vs 33% (ペムブロリズマブ先行 Arm 2、6/9 vs 3/9) と上回った点である。CR 4例はすべて p16 陰性腫瘍で、ORR は p16 陰性 (HPV 陰性) 群 60% vs 29% (p16 陽性群) であり、メトホルミンの効果は HPV 陰性患者で主に発現する可能性が示唆された。
安全性と忍容性 — 重篤毒性なし:登録全例で少なくとも1件の有害事象 (AE: Adverse Event) が生じ、最も頻度の高い AE は倦怠感 (16例、76%)、体重減少 (13例、62%)、下痢 (13例、62%) であった (Table 3)。治療関連有害事象 (TRAE: Treatment Related Adverse Event) は19例 (90%) に発生したが大半は低 grade で、頻度の高い TRAE は倦怠感 (62%)、下痢 (52%)、悪心 (48%)、食欲不振 (38%) と消化器症状が中心で、これらは主にメトホルミンに起因した。Grade 3 TRAE は5件のみで Grade 4・5 TRAE は両 arm で皆無であった。Grade 3 の輸注反応と倦怠感はペムブロリズマブに、Grade 3 の悪心・下痢・体重減少はメトホルミンに帰属された。TRAE による治療中止例はなく、自己免疫関連 TRAE はむしろ予想より少なく、メトホルミンが免疫関連毒性に保護的に作用した可能性が示された。
生存アウトカム (副次評価項目):追跡期間中央値18ヶ月で、全患者の1年・2年 PFS はそれぞれ41.2% (95%CI 21.6-64.1%)・29.4% (95%CI 13.0-53.4%)、1年・2年 OS はそれぞれ66.7% (95%CI 43.6-83.9%)・38.9% (95%CI 20.2-61.5%) であった。投与順序別では、1年 PFS は 55.6% vs 25.0% (Arm 1 群の 95%CI 26.6-81.2% に対し Arm 2 群の 95%CI 6.3-59.9%)、1年 OS も 77.8% vs 55.5% (Arm 1 群の 95%CI 44.3-94.7% に対し Arm 2 群の 95%CI 26.6-81.2%) と、いずれもメトホルミン先行群が上回った。これらは PD-L1 非選択集団でペムブロリズマブ単剤による1年 PFS 17%、1年・2年 OS 49%・29% という歴史的対照と比べ良好であったが、少数例であり Cox 比例ハザードモデル (age, sex, smoking 補正) による多変量解析を行ったものの解釈には注意を要する。
NK 細胞の成熟と細胞傷害シグネチャー (相関研究):フローサイトメトリーで NK 細胞を、表面マーカー CD56 (neural cell adhesion molecule) と CD16 (Fcγ receptor IIIa) の発現パターンに基づきサイトカイン産生型 (CD56 高発現/CD16 陰性)、移行型 (CD56 低発現/CD16 陰性)、細胞傷害型 (CD56 低発現/CD16 陽性) の3亜集団に分類した (Fig 1F)。各 arm 間で T 細胞・NK 細胞・NKT 細胞の総割合に有意差はなかったが、Arm 1 では治療経過で細胞傷害型 NK 細胞がやや増加し (p=0.2421)、終末分化マーカー CD57 (terminally differentiated) 陽性の成熟型 NK 細胞が増加する傾向 (p=0.1324) を認め、CD57 陰性の未成熟型が減少した (p=0.0758) (Fig 1, D-E)。これにより併用後の終末分化型 NK 細胞は Arm 1 で Arm 2 より有意に高くなった (Fig 1E)。サイトカインでは、Arm 1 でメトホルミン後に細胞傷害型・サイトカイン産生型 NK 細胞の IFNγ (interferon-gamma) 発現が増加傾向を示し、ペムブロリズマブ追加 (併用後) で細胞傷害型 NK 細胞において有意に増加した (Fig 2A)。Granzyme B は Arm 1 のサイトカイン産生型 NK 細胞で併用後にメトホルミン単剤後より有意に高く、Arm 2 併用後より高い傾向 (p=0.0976) を示した (Fig 2, C-E)。一方、抑制性受容体 NKG2A は Arm 2 のペムブロリズマブ後に Arm 1 のメトホルミン後より有意に高く、Arm 2 併用後でも高い傾向 (p=0.1599) を示し (Fig 3A)、その他の活性化受容体群 (NKG2D ほか) や NK 細胞疲弊マーカー群には arm 間・治療前後で有意差を認めなかった (Fig 3, B-D)。これらは、メトホルミン先行が「ペムブロリズマブ追加前に自然免疫を活性化状態へプライミングする」一方、ペムブロリズマブ先行ではこの効果が得られないという機構仮説を支持する。
末梢血パラメータと NK 細胞傷害能の探索的解析:好中球・リンパ球比 (NLR: Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio) は免疫療法奏効の予測バイオマーカーとされるが、本試験ではいずれのコホートでも治療後の NLR に有意差を認めなかった (Supplemental Figure 4)。ex vivo NK 細胞傷害アッセイ (標的に HNSCC cell line を用い、1:5 標的:エフェクター比) では、全集団では有意差を認めなかったものの、Arm 1 のメトホルミン後で臨床的有益例の NK 細胞傷害能が増加する傾向 (p=0.3489) を示し、逆に Arm 2 のペムブロリズマブ後では全集団 (p=0.2249) でも臨床的有益例 (p=0.2861) でも傷害能が低下する傾向を認めた (Supplemental Figure 5)。なお SD 以上を達成した患者では最初の2サイクル中のメトホルミン平均投与日数が47日と、PD 患者の35日より長く、メトホルミン曝露量と臨床効果との関連も示唆された。
考察/結論
本第2相 feasibility 試験は、R/M HNSCC を対象にメトホルミンとペムブロリズマブの併用が ORR 50% (95%CI 29-71%) と事前設定 ORR 32% を上回り主要評価項目を達成したこと、重篤毒性 (Grade 4・5 TRAE) なく忍容性が良好であったこと、そしてメトホルミン先行が末梢 NK 細胞の成熟・細胞傷害能を亢進させることを示した。
先行研究との違いとして、これまでメトホルミンと標準療法の併用は非小細胞肺癌・乳癌・膵癌など他癌種の糖尿病/バイオマーカー選択集団や、HNSCC でも局所進行例の化学放射線併用での後ろ向き OS 改善に限られていた。本研究は、対照的に R/M HNSCC setting で前向きに併用を検討した初の試験であり、さらに従来の CD8+ T 細胞中心の説明とは異なり、自然免疫すなわち NK 細胞の終末分化 (CD57 陽性成熟型) と Granzyme B・IFNγ 産生という細胞傷害シグネチャーを臨床効果と結びつけた点が新規である。新規性のもう一つの軸は投与順序の重要性で、メトホルミン先行 (Arm 1) が ORR 67% vs 33%、PFS・OS とも Arm 2 を上回り、これが「メトホルミンがペムブロリズマブ追加前に NK 細胞を活性化状態へプライミングする」機構と整合した点である。これはメトホルミン系ビグアナイドが骨髄由来抑制細胞 (MDSC) を抑制し PD-1 阻害効果を高めるという前臨床知見 (JInvestDermatol et al. Basic 2017) や、NK 細胞がチェックポイント療法奏効性 TME を規定するという報告 (NatMed et al. Basic 2018)、固形腫瘍を制御する細胞傷害性 NK 細胞の意義 (SciTranslMed et al. Clinical 2026) とも符合する。
臨床応用の観点では、メトホルミンは安価で広く使われる既承認薬であり、本併用は重篤毒性を増やさず (むしろ自己免疫関連 TRAE はやや少なく) 消化器症状中心の管理可能な毒性で済むため、R/M HNSCC のペムブロリズマブ基盤治療への上乗せ戦略として実装しやすい。とくに p16 陰性 (HPV 陰性) 患者で CR が集中し ORR 60% vs 29% と高かったことから、予後不良な HPV 陰性集団での橋渡し的価値が示唆される。
残された課題も多い。本試験は単施設・単群 (対照群なし)・18例という小規模 feasibility 試験であり、Arm 間比較は計画外の探索的解析にすぎない。Arm 1 に非喫煙者 (70% vs 27%) と PD-L1 CPS≥20 がやや多く、これらの予後良好因子が ORR 差を部分的に説明しうる。相関解析は多重比較・症例不足・タイムポイント欠測により type I error が増大しうるため、仮説生成的と解釈すべきである。また治療中生検が得られず末梢血のみの評価であったため、循環免疫細胞が TME の変化を正確に反映しない可能性がある。今後は対照群を備えた、より大規模な無作為化第2相試験で結果を検証し、投与順序 (sequencing) の最適化と NK 細胞バイオマーカーの予測能を確立することが今後の検討課題である。
方法
本試験は University of Cincinnati 単施設・非盲検・非無作為化目的を含む2 arm のオープンラベル第2相 feasibility 試験 (登録番号 NCT04414540、施設内倫理審査委員会承認 IRB# 2020-0365) で、Declaration of Helsinki と ICH-GCP (医薬品の臨床試験の実施基準) に準拠した。組織学的/細胞学的に確認された非皮膚性 R/M HNSCC、18歳以上、ECOG PS≤2、適切な臓器・骨髄機能を有する患者を対象とし、上咽頭癌・R/M での既往 PD-1/PD-L1 阻害薬使用・現在のメトホルミン使用・プレドニゾロン>10 mg/日のステロイド使用・全身免疫抑制を要する自己免疫疾患既往・錠剤嚥下不能例を除外した。患者は1:1で2 arm に無作為化された — Arm 1: メトホルミン ER を14日かけて2000 mg まで漸増後にペムブロリズマブ200 mg 3週毎を併用、Arm 2: ペムブロリズマブ200 mg 先行後にメトホルミン ER 2000 mg/日を併用。主要評価項目は RECIST 1.1 による ORR、副次評価項目は治療割付時点から起算した PFS と OS。約32% の ORR を margin of error 約20% で推定するため20例 (脱落5%を見込み評価可能19例) を計画し、19例中6例奏効で陽性と判定する設計とした (後に追加登録を許容する protocol amendment を実施)。
統計手法として、ORR・AE は記述統計で要約し、ORR の95% 信頼区間 (CI) は小規模試験向けの二項比率で算出した。OS・PFS は arm 別に Kaplan-Meier 曲線を作成し、1年・2年生存確率の CI を arm 別に算出、Cox 比例ハザードモデルで age・sex・smoking status を交絡因子として補正した多変量生存解析を行い HR と95%CI を生成した。swimmer plot・spider plot・waterfall plot および相関解析は GraphPad Prism 10.6.1 で作成し、全計算は SAS および R で実施した。相関研究では3時点 (治療前、単剤後 [Arm 1=メトホルミン後/Arm 2=ペムブロリズマブ後]、併用3週後) で採血し、SepMate チューブと Ficoll 勾配で末梢血単核球 (PBMC: Peripheral Blood Mononuclear Cells) を分離・液体窒素保存した。NK 細胞の分布・活性化・サイトカイン (IFNγ, TNFα, Granzyme B, Perforin) はマルチカラーフローサイトメトリー (BD Fortessa / Cytek Aurora 機、FlowJo で解析、次元削減アルゴリズムを併用) で評価し、ex vivo 細胞傷害能は蛍光色素標識した HNSCC cell line と陰性選択した患者 NK 細胞を1:5 標的:エフェクター比で4時間共培養し評価した。