- 著者: Paramanathan A, Solomon B, Collins M, Franco M, Kofoed S, Francis H, Ball D, Mileshkin L
- Corresponding author: David Ball, MD (Division of Radiation Oncology and Cancer Imaging, Peter MacCallum Cancer Centre, Victoria, Australia)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-06-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 23792009
背景
局所進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療は白金製剤ベースの根治的化学放射線療法 (CRT) であるが、多くの患者が再発後に姑息的化学療法を受けることになる。白金ダブレットはde novo転移例でも再発例でも同様に用いられてきたが、CRT施行時の低用量白金曝露が腫瘍内に白金耐性クローンを残存させ、後続の白金ダブレットへの反応性を低下させる可能性が理論的に懸念されていた (Huisman et al. 2000)。Sekine et al. (2009) の既報では、stage IV診断例と術後再発例でのカルボプラチン+ゲムシタビン奏効率が同等であることが示されていたが、CRT後再発例との比較データは存在しなかった。Auperin et al. (2006) によるメタアナリシスでは、局所進行NSCLCにおける白金製剤ベースの同時化学放射線療法の有効性が示されているが、その後の再発に対する白金製剤再投与の有効性については言及されていない。また、Le Chevalier et al. (2005) のメタアナリシスでは、進行NSCLCにおけるゲムシタビンと白金製剤の併用療法の有効性が示されたが、これも前治療歴による層別化は行われていない。これらの先行研究を踏まえても、白金ベースCRT前歴がその後の白金ダブレット化学療法の効果に与える影響については、依然として明確なエビデンスが不足している状況であり、その臨床的意義は未解明であった。
目的
白金ベースCRT前歴のある再発NSCLC患者と、前治療のないde novo転移NSCLC患者を比較し、カルボプラチン+ゲムシタビン化学療法の奏効率、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) への影響を評価すること。本研究の主要目的は、白金ベースCRT前歴がその後の白金ダブレット化学療法の有効性に及ぼす影響を明らかにすることであった。
結果
ベースライン特性の比較: 本研究には合計104名の患者が組み入れられ、Group Aが63名 (61%)、Group Bが41名 (39%) であった。患者の年齢中央値は63歳 (範囲 35-81歳) であり、男性が71名 (68%)、女性が33名 (32%) であった。両群の年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status Scale)、組織型、転移部位などのベースライン特性は概ね均一であり、統計学的に有意な差は認められなかった (Table 1、P > 0.05)。Group Bでは喫煙者割合が高い傾向 (48.8% vs 31.7%) があったが、統計学的有意差には至らなかった (P=0.08)。
奏効率および臨床的ベネフィット率の低下: 奏効率 (RR) はGroup Aで28.6% (n=18) であったのに対し、Group Bでは9.8% (n=4) と有意に低かった (P < 0.001)。これはGroup Bの患者が白金製剤ベースのCRT前歴により、その後の白金ダブレット化学療法に対する反応性が著しく低下していることを示唆する。臨床的ベネフィット率 (CBR:CR+PR+SD) もGroup Aで77.8% (n=49) であったのに対し、Group Bでは41.5% (n=17) と大幅に差が認められた (P < 0.001)。ロジスティック回帰分析では、治療群のみが奏効の有意な予測因子であった (Group B対Group Aのオッズ比 0.20、95% CI 0.09-0.48、P < 0.001)。
PFSの有意な短縮: 中央値PFS (mPFS) はGroup Aで5.7ヶ月 (95% CI 4.4-6.9ヶ月) であったのに対し、Group Bでは3.6ヶ月 (95% CI 2.6-5.0ヶ月) と有意に短かった (P = 0.002) (Figure 1)。6ヶ月PFSはGroup Aで46.0% (95% CI 35.2-60.1%)、Group Bで17.1% (95% CI 8.7-33.5%) であった。単変量解析では、PFSの有意な予測因子は治療群のみであった (P = 0.032)。多変量解析においても、治療群は独立したPFS予測因子として確認された (Group B対Group Aのハザード比 1.57、95% CI 1.05-2.34、P = 0.03)。この結果は、白金ベースCRT前歴が病勢進行までの期間を短縮させる独立したリスク因子であることを明確に示している。
OSの有意な短縮: 中央値OS (mOS) はGroup Aで12.1ヶ月 (95% CI 9.3-14.3ヶ月) であったのに対し、Group Bでは8.6ヶ月 (95% CI 4.8-10.6ヶ月) と有意に短かった (P = 0.007) (Figure 2)。6ヶ月OSはGroup Aで82.5% (95% CI 73.7-92.5%)、Group Bで53.7% (95% CI 40.4-71.3%) であった。12ヶ月OSはGroup Aで50.0% (95% CI 39.0-64.2%)、Group Bで26.8% (95% CI 16.2-44.5%) であった。単変量解析でOSの予測因子として有意であったのは、男性 (P = 0.04)、喫煙状況 (P = 0.01)、ECOG PS 2 (P = 0.002)、扁平上皮癌組織型 (P = 0.04)、治療群 (P = 0.023) であった。多変量解析ではECOG PSのみが独立した予後因子となり (P = 0.004)、治療群は独立性を維持できなかった (Group B対Group Aのハザード比 1.42、95% CI 0.91-2.21、P = 0.12)。この結果は、ECOG PSが全体的な予後に最も強く影響する因子であることを示している。
後治療の状況: 2次治療受療率はGroup Aで63.5% (n=40)、Group Bで53.7% (n=22) であった。ドセタキセル (Group A 20.6% [n=13]、Group B 19.5% [n=8])、ペメトレキセド (Group A 20.6%、Group B 12.1%)、エルロチニブ (Group A 9.5% [n=6]、Group B 7.3% [n=3]) 等を用いた2次治療の分布は両群で類似していた。3次治療受療率はGroup Aで28.5% (n=18)、Group Bで19.5% (n=8) であった。これらの後治療の状況は、両群間で治療選択に大きな偏りがないことを示唆している。
CRT後の再発期間とOSの関係: Group Bにおいて、カルボプラチン+ゲムシタビン化学療法開始時からのmOSは、前治療から病勢再発までの期間が長くなるにつれて延長する傾向がみられた。再発までの期間が6ヶ月未満の患者 (n=15) のmOSは4.3ヶ月 (95% CI 3.3-11.4ヶ月) であったのに対し、6-12ヶ月 (n=16) では8.9ヶ月 (95% CI 3.4-21.8ヶ月)、12-24ヶ月 (n=4) では10.1ヶ月 (95% CI 4.8ヶ月-未到達)、24ヶ月以上 (n=5) では14.1ヶ月 (95% CI 4.7ヶ月-未到達) であった。しかし、症例数が少ないため、これらの差は統計学的に有意ではなかった。Group B患者の診断時からのmOSは20.3ヶ月 (95% CI 15.3-24.7ヶ月) であった。
考察/結論
本研究は、白金ベースCRT後に再発したNSCLC患者への白金ダブレット化学療法の再投与が、前治療のないde novo転移例と比較して奏効率、PFS、OSの全指標で有意に劣ることを示した後向き研究である。
先行研究との違い: Sekine et al. (2009) の研究では、de novo転移例と術後再発例で白金ダブレットの奏効率が同等であったと報告されているが、本研究では白金ベースCRT前歴のある患者群で奏効率、PFS、OSが有意に劣る結果となり、これまでの報告と異なる知見が得られた。これは、CRT時の低用量白金曝露であっても、後続の白金ダブレット療法への交差耐性が生じうるという白金耐性機序の臨床的証拠を提供した。また、Nagano et al. (2010) の小規模研究では、白金製剤に反応した患者への再投与が29%の奏効率を示したが、本研究のGroup Bでは9.8%と著しく低く、この点でも対照的な結果であった。
新規性: 本研究で初めて、白金ベースCRT前歴のあるNSCLC患者における白金ダブレット再投与の有効性が、de novo転移患者と比較して著しく低いことを定量的に示した。この知見は、白金製剤への曝露歴がその後の治療反応性に与える影響に関するこれまで報告されていない重要な情報を提供する。特に、白金ベースCRT後の再発という特定の臨床状況において、白金製剤の再投与の限界を明確にした点で新規性が高い。
臨床応用: 本知見は、局所進行NSCLC根治的CRT後に再発した患者に対する治療選択の臨床的意義が大きい。実臨床への示唆として、この患者群では非白金レジメン (ビノレルビン単剤、パクリタキセル単剤等) や標的治療 (EGFR/ALK変異があればTKI) の選択が合理的である。特に、白金ベースCRT後6ヶ月以内に再発した患者では、非白金製剤の使用を強く考慮すべきである。アメリカ臨床腫瘍学会 (ASCO) のガイドライン (Pfister et al. 2004) でも、特定の患者群において非白金ダブレットが代替選択肢となりうることが示唆されており、本研究の結果は、CRT後の再発患者がその「特定の患者群」に含まれることを強く支持する。
残された課題: 本研究のlimitationは、単施設後向き解析 (n=104) であること、およびCRT後のEGFR変異検査が普及前の2002〜2006年のデータであることである。また、OSの多変量解析でECOG PSが唯一の独立した予後因子となり、治療群の独立性が維持されなかった点も考慮すべきである。今後の検討課題として、CRT後再発患者における白金ダブレットと非白金ダブレットの直接比較試験や、白金耐性メカニズムを解明するための前向き研究が必要である。現代のNSCLC治療では、CRT後再発にはPD-L1発現に基づくPD-1/PD-L1阻害薬や免疫療法が有力な選択肢となっており、本試験の結論は免疫療法の文脈でも拡張して解釈できる可能性がある。
方法
本研究は、後向きコホート研究 (retrospective cohort study) として実施された。対象は、2002年1月〜2006年12月にPeter MacCallum Cancer Centreでカルボプラチン (AUC 5) +ゲムシタビン (1000 mg/m²、day 1・8、21日毎) を投与された転移・局所再発NSCLC患者104例である。患者は以下の2群に分けられた。Group A (n=63) は前治療なしのde novo転移NSCLC患者、Group B (n=41) は白金ベースCRT後に再発したNSCLC患者である。CRT時のレジメンは、カルボプラチン+パクリタキセルが17例、単剤カルボプラチンが12例、シスプラチン+ビノレルビンが7例、シスプラチン+ゲムシタビンが2例、その他が3例であった。すべての患者は少なくとも1サイクル以上の化学療法を受けた。
主要評価項目はPFSであり、副次評価項目は奏効率、臨床的ベネフィット率 (CBR:CR+PR+SD)、OSであった。PFSはカルボプラチン+ゲムシタビン化学療法開始日から病勢進行または死亡までの期間と定義され、OSは化学療法開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。腫瘍反応はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準 (Therasse et al. 2000) に基づき評価された。
統計解析にはKaplan-Meier法を用いてPFSおよびOSが推定された。比例ハザード仮定が満たされなかったため、生存曲線の比較にはWilcoxon検定が使用された。単変量および多変量解析にはCox比例ハザード回帰モデルが用いられ、PFSおよびOSに対する各因子の影響が評価された。奏効率およびCBRの比較にはFisherの正確検定が使用され、CBRの比較にはロジスティック回帰も用いられた。P値 < 0.05を有意差ありと判断した。統計計算はSPSS version 18.0を用いて実施された。本研究は倫理委員会の承認を得て実施された。