• 著者: Hisao Imai, Kyoichi Kaira, Keita Mori, Akira Ono, Hiroaki Akamatsu, Tetsuhiko Taira, Reiko Yoshino, Hirotsugu Kenmotsu, Jun-ichi Saitoh, Hideyuki Harada, Tateaki Naito, Haruyasu Murakami, Yoshio Tomizawa, Masana Matsuura, Ryusei Saito, Takashi Nakajima, Masanobu Yamada, Toshiaki Takahashi
  • Corresponding author: Hisao Imai (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center, Japan / Department of Medicine and Molecular Science, Gunma University Graduate School of Medicine, Japan)
  • 雑誌: SpringerPlus
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-03-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25897409

背景

局所進行非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) に対しては、白金製剤 (platinum) 系薬剤を含む同時化学放射線療法 (CRT: chemoradiotherapy) が標準的な初回治療として確立されている。Yamamoto et al. JClinOncol 2010 などの第III相試験において、同時CRTは生存期間の有意な延長を示し、中央値OSは23.3ヶ月程度に達することが報告されている。しかし、同時CRTによって完全奏効 (CR: complete response) や部分奏効 (PR: partial response) を達成した患者であっても、その約3分の2が最終的に再発を来すことが知られており、再発後の全身化学療法の確立が極めて重要な課題となっている。

同時CRT後の再発例に対する後続化学療法としては、Shepherd et al. JClinOncol 2000Fossella et al. JClinOncol 2000、さらに Hanna et al. JClinOncol 2004 などの臨床試験に基づき、ドセタキセル (docetaxel) 単剤療法が標準治療の一つとして位置づけられてきた。一方で、初回治療で用いた白金製剤を再発時に再び投与する「白金製剤再挑戦 (platinum re-challenge) 療法」という戦略も理論的には考えられる。しかし、初回CRTにおける白金製剤への曝露が白金製剤耐性クローンの選択を誘導する可能性が懸念されており、再挑戦療法の有効性については懐疑的な見方も強い。また、放射線照射に伴う組織の線維化や、骨髄予備能の低下、末梢神経障害や腎機能障害といった蓄積毒性の懸念から、CRT後の患者に対する白金製剤再挑戦療法の実施は臨床現場において躊躇されることが多い。

これまで、術後補助化学療法後の再発例における白金製剤再挑戦療法の有効性を示す後ろ向きデータは存在していたが、同時CRT後の再発例において、白金製剤再挑戦療法とドセタキセル単剤療法の有効性および安全性を直接比較したデータは存在せず、その最適な治療選択は未解明のままであった。このように、CRT後再発という特定の患者集団における最適な後続治療戦略に関するエビデンスは著しく不足しており、臨床的な意思決定における大きな課題となっていた。

目的

本研究の目的は、白金製剤併用同時CRT後に再発した局所進行NSCLC患者を対象に、後続化学療法として実施された白金製剤併用再挑戦療法 (platinum combination re-challenge therapy) とドセタキセル単剤療法 (docetaxel monotherapy) の有効性 (客観的奏効率 [ORR: objective response rate]、病勢制御率 [DCR: disease control rate]、無増悪生存期間 [PFS: progression-free survival]、全生存期間 [OS: overall survival]) および安全性 (毒性プロファイル) を後ろ向きに比較評価することである。これにより、同時CRT後に再発したNSCLC患者における最適な後続治療戦略を確立するための臨床的知見を提供することを目指す。

結果

患者背景および治療特性の比較: 解析対象となった85例のうち、白金製剤併用再挑戦群は24例、ドセタキセル単剤群は61例であった (Table 1)。両群間において、性別、年齢中央値 (63.5歳 vs 65.0歳、p=0.78)、全身状態 (PS: performance status、p=0.24)、再発時の臨床病期 (Stage III vs IV、p=0.35)、喫煙歴 (p=0.44)、前治療である同時CRTのサイクル数 (p=0.50)、前CRT終了から後続治療開始までの期間 (p=0.36)、および放射線照射線量中央値 (60 Gy vs 60 Gy、p=0.52) に有意差は認められなかった。しかし、組織型において白金製剤併用再挑戦群で腺癌の割合が高い傾向がみられ (62.5% vs 44.3%、p=0.06)、前CRTに対する初期奏効率 (CR/PR/SD/PD割合) には両群間で統計学的な有意差が認められた (p<0.05)。また、2次治療以降に施行された3次治療以降の化学療法レジメン数 (Table 2) は、ドセタキセル単剤群において有意に多い結果であった (p<0.05)。

客観的奏効率および病勢制御率の評価: RECIST基準に基づく客観的腫瘍奏効の評価において、客観的奏効率 (ORR) は白金製剤併用再挑戦群で16.7% (4/24例、すべてPR)、ドセタキセル単剤群で6.6% (4/61例、CR 1例、PR 3例) であり、白金製剤併用再挑戦群で数値的に高い傾向が示されたものの、統計学的な有意差には至らなかった (p=0.09、Table 3)。病勢制御率 (DCR) については、白金製剤併用再挑戦群で58.3% (14/24例)、ドセタキセル単剤群で57.4% (35/61例) であり、両群間でほぼ同等であった (p=0.82、Table 3)。白金製剤併用再挑戦群における詳細な奏効内訳は、PR 4例 (16.7%)、SD 10例 (41.7%)、PD 9例 (37.5%)、評価不能1例であり、ドセタキセル単剤群ではCR 1例 (1.6%)、PR 3例 (4.9%)、SD 31例 (50.8%)、PD 25例 (41.0%)、評価不能2例であった。

無増悪生存期間および全生存期間の比較: 主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、白金製剤併用再挑戦群で4.2ヶ月、ドセタキセル単剤群で2.3ヶ月であり、両群間に有意な差は認められなかった (HR 0.81, 95% CI 0.51-1.29, p=0.38、Figure 1A)。同様に、全生存期間 (OS) の中央値は、白金製剤併用再挑戦群で16.5ヶ月、ドセタキセル単剤群で13.0ヶ月であり、こちらも統計学的な有意差は示されなかった (HR 0.82, 95% CI 0.47-1.41, p=0.47、Figure 1B)。生存曲線は早期に交差しており、治療開始初期における両群の治療効果に明確な差は認められなかった。

無再発生存期間に基づくサブグループ解析: 前治療である同時CRT終了から再発までの期間 (RFS: relapse-free survival) が6ヶ月以上のサブグループにおける解析を行った。白金製剤併用再挑戦群において、RFSが6ヶ月以上の患者 (n=14) のPFS中央値は5.6ヶ月であったのに対し、RFSが6ヶ月未満の患者 (n=10) では3.6ヶ月であり、RFSが長い症例でPFSが良好な傾向がみられたが、有意差は認められなかった (HR 0.52, 95% CI 0.21-1.28, p=0.07、Figure 2A)。同群におけるOS中央値は、RFS 6ヶ月以上で25.3ヶ月、6ヶ月未満で16.5ヶ月であった (HR 0.68, 95% CI 0.24-1.92, p=0.55、Figure 2B)。一方、ドセタキセル単剤群においては、RFS 6ヶ月以上 (n=42) と6ヶ月未満 (n=19) の間で、PFS中央値 (2.8 vs 2.2 months, p=0.08、Figure 3A) およびOS中央値 (16.3 vs 12.0 months, p=0.14、Figure 3B) のいずれにおいても有意な差や明確な傾向は認められなかった。

安全性および毒性プロファイルの比較: CTCAE Grade 3以上の主な有害事象をTable 4に示す。血液毒性において、Grade 3以上の白血球減少症の発生率は白金製剤併用再挑戦群で41.6% (10/24例)、ドセタキセル単剤群で63.9% (39/61例) であり、ドセタキセル群で高い傾向がみられたが有意差はなかった (p=0.06)。Grade 3以上の好中球減少症についても、それぞれ58.3% (14/24例) vs 72.1% (44/61例) であり、同様にドセタキセル群で高頻度であったが有意差には至らなかった (p=0.08)。発熱性好中球減少症の発生率は8.3% vs 9.8% (p=0.82)、貧血は12.5% vs 3.3% (p=0.12) であった。非血液毒性では、Grade 3以上の食欲不振 (4.2% vs 8.2%、p=0.49) や感染症 (4.2% vs 4.9%、p=0.88) の発生率に有意差は認められなかった。毒性による治療中止は、白金製剤併用再挑戦群で1例 (Grade 4白血球減少)、ドセタキセル単剤群で5例 (Grade 3間質性肺炎2例、Grade 3発熱性好中球減少1例、Grade 3麻痺性イレウス1例、Grade 3浮腫1例) に認められた。治療関連死亡は両群ともに認められなかった (0%)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、術後補助化学療法後の再発例において白金製剤再挑戦療法が有効かつ安全であるとした著者らの先行研究と異なり、同時CRT後の再発例においては白金製剤再挑戦療法がドセタキセル単剤療法に対して生存期間の有意な延長をもたらさないことを示した。また、既報の Paramanathan et al. ClinLungCancer 2013 による後ろ向き解析では、白金製剤併用同時CRTを過去に受けた患者は、その後に白金製剤併用化学療法を受けた際の治療成績が不良であることが報告されており、本研究の結果はこれらの知見を支持するものである。さらに、既報の Ardizzoni et al. JClinOncol 2012 によるランダム化第II相試験の統合解析では、白金製剤既治療例に対するカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法がペメトレキセド単剤療法と比較してPFSを有意に改善したもののOSの改善には至らなかったことが示されており、2次治療における白金製剤併用の追加効果が限定的であるという点で本研究の結果と整合している。

新規性: 本研究は、白金製剤併用同時CRT後に再発した局所進行NSCLC患者を対象として、後続治療における白金製剤併用再挑戦療法とドセタキセル単剤療法の有効性および安全性を直接比較した本研究で初めての報告である。同時CRT後の再発という、臨床現場で頻繁に遭遇するもののエビデンスが極めて乏しかった特定の患者集団において、両治療戦略の治療成績が同等であることを明らかにした点は、学術的および臨床的に極めて高い新規性を有している。

臨床応用: 本研究の知見は、同時CRT後に再発したNSCLC患者に対する臨床現場における治療選択に直接的な影響を与えるものである。白金製剤再挑戦療法は、ドセタキセル単剤療法と比較してORR (16.7% vs 6.6%) や PFS (4.2 vs 2.3ヶ月)、OS (16.5 vs 13.0ヶ月) において数値的な上回りをみせたものの、統計学的な有意差は示されなかった。毒性プロファイルにおいては、ドセタキセル群でGrade 3以上の白血球減少や好中球減少が高い傾向を示したものの、白金製剤群における蓄積毒性 (神経障害や腎障害など) の明らかな増悪はみられず、両群ともに忍容性は良好であった。しかし、有効性における明確な優位性が示されなかったことから、同時CRT後の再発例に対して、累積毒性のリスクを冒してまで白金製剤併用再挑戦療法を積極的に選択する臨床的意義は乏しいと考えられ、ドセタキセルやペメトレキセドなどの非白金製剤単剤療法を優先する戦略が妥当であることが示唆された。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在しており、これらは今後の検討課題として残されている。第一に、本研究は3施設共同の後ろ向き解析であり、症例数が全体で85例 (白金製剤群24例、ドセタキセル群61例) と少なく、統計学的検出力が不足している点である。特に、RFSが6ヶ月以上のサブグループ解析において白金製剤群で良好な生存期間 (OS中央値25.3ヶ月) が得られる傾向がみられたものの、症例数の制限から有意差を検出できなかった。第二に、後ろ向き研究に特有 of 選択バイアスが存在することであり、治療法の選択が担当医師の裁量に委ねられていたため、患者背景 (組織型や前治療の奏効度など) に不均衡が生じていた。第三に、本研究の対象期間 (2002〜2009年) は、現代の標準治療である免疫チェックポイント阻害薬や新規分子標的薬が導入される前の時代のものであり、現在の治療アルゴリズムにおける位置づけを評価するためには、これら新規薬剤との比較や併用に関する今後の研究が必要である。同時CRT後再発NSCLCにおける最適な治療シークエンスを確立するためには、十分なサンプルサイズを確保した前向きランダム化比較試験の実施が望まれる。

方法

本研究は、2002年9月から2009年12月までの期間に、静岡がんセンター、国立病院機構西群馬病院、および群馬大学医学部附属病院の3施設において、白金製剤併用同時CRT (総線量50 Gy以上) を施行された局所進行NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究である。対象患者のうち、同時CRT後に再発が確認され、後続の全身化学療法として白金製剤併用再挑戦療法またはドセタキセル単剤療法を受けた連続する85例を抽出し、解析対象とした。本研究は後ろ向き解析であるため、新規の臨床試験登録 (NCT12345678やUMIN000000000など) は行われていないが、各参加施設の機関審査委員会 (IRB: institutional review board) の承認を得て実施された。

対象患者85例は、医師の判断に基づき、白金製剤併用再挑戦群 (n=24) またはドセタキセル単剤群 (n=61) の2群に分類された。白金製剤併用再挑戦群の内訳は、シスプラチン (cisplatin) 併用療法が6例、カルボプラチン (carboplatin) 併用療法が18例であった。ドセタキセル単剤群では、ドセタキセルが60 mg/m²の用量で3週間間隔 (またはそれ以上) で投与された。

主要評価項目はPFSおよびOSとし、副次評価項目はORR、DCR、および毒性プロファイルとした。腫瘍縮小効果の判定は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.0基準に基づいて実施された。有害事象の評価は、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0を用いて分類された。統計学的解析にはJMPバージョン9.0 (SAS Institute, Cary, NC, USA) が使用された。生存曲線 (PFSおよびOS) の推定には Kaplan-Meier 法が用いられ、群間比較にはログランク (log-rank) 検定が適用された。また、患者背景因子および有害事象発生率の2群間比較には、Fisher’s exact 検定および Wilcoxon rank-sum 検定が用いられた。統計的有意水準はp < 0.05に設定された。