• 著者: Galetta D, Cinieri S, Pisconti S, Gebbia V, Morabito A, Borsellino N, Maiello E, Febbraro A, Catino A, Rizzo P, Montrone M, Misino A, Logroscino A, Rizzi D, Di Maio M, Colucci G
  • Corresponding author: Domenico Galetta, MD (National Cancer Research Centre ‘Giovanni Paolo II’, Bari, Italy)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase III RCT)
  • PMID: 25582493

背景

NS-NSCLC (non-squamous non-small-cell lung cancer、進行非扁平上皮非小細胞肺がん) は肺がんの大多数を占め、EGFR活性化変異を持たない患者に対してはプラチナ併用化学療法が標準1次治療として確立されている。2000年代を通じて2種類の代表的レジメンが広く使用されるようになった。CbTB (carboplatin/paclitaxel/bevacizumab) はECOG 4599試験 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) で、カルボプラチン+パクリタキセル単独に比較しOS (overall survival、全生存期間) を10.3ヶ月から12.3ヶ月に改善し、非扁平上皮組織型での標準治療として確立された。CP (cisplatin/pemetrexed) はJMDB試験 (Phase III trial comparing cisplatin/gemcitabine vs. cisplatin/pemetrexed、Scagliotti et al. JClinOncol 2008) において非扁平上皮NSCLCサブグループで有意なOS改善を示し標準化された。さらにPARAMOUNT試験 (PazAres et al. JClinOncol 2013) では、CP 4サイクル後に増悪のない患者でペメトレキセド維持療法を継続することがプラセボと比較してOSをさらに改善した (mOS 13.9対11.0ヶ月)。

これら2種の標準的導入+維持療法戦略 (CP→ペメトレキセド維持 対 CbTB→ベバシズマブ維持) の有効性は類似すると予想されていたが、両者を直接比較した無作為化試験は存在せず、治療選択の根拠として QoL (quality of life、生活の質) を評価したエビデンスが不足していた。特に、維持療法期間中のQoLを主要エンドポイントとした直接比較という知識の gap in knowledge が存在しており、GOIM (Gruppo Oncologico Italia Meridionale) グループはこの問いに応えるべくERACLE (GOIM Phase III randomized trial) 試験を計画した。

目的

進行NS-NSCLCに対するCP (シスプラチン+ペメトレキセド→ペメトレキセド維持) 対CbTB (カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ→ベバシズマブ維持) を直接比較し、12週維持療法後のQoL指標としてEQ5D-I (EuroQoL 5 Dimensions Index) およびEQ5D-VAS (visual analogue scale) を共主要エンドポイントとして評価する。副次エンドポイントとして ORR (objective response rate、客観的奏効率)・PFS (progression-free survival、無増悪生存期間)・OS・毒性を評価する。

結果

患者背景と治療コンプライアンス:2011年1月から2012年3月までにイタリア14施設より118例が登録・無作為化され、CP腕n=60・CbTB腕n=58に割り付けられた (Figure 1)。患者背景はTable 1に示すとおり両腕間で均衡しており、全体の年齢中央値62歳 (範囲35〜72)、男性74%、ECOG PS 0が79%、喫煙者65%、腺癌97%、ステージIV 94%であった。全118例が少なくとも1サイクルの割り付け治療を受け、ORR・毒性・生存解析の全例として解析された。CP腕では8例 (13.3%)・CbTB腕では14例 (24.1%) が計画6サイクルを完遂せずに中止し、主因は疾患進行であった。維持療法移行率はCP腕73.3% (44例、ペメトレキセド維持中央値6サイクル、範囲1〜32) に対し、CbTB腕では51.7% (30例、ベバシズマブ維持中央値6サイクル、範囲1〜13) と顕著に低く、CbTBでの早期進行が多いことを反映した。追跡期間中央値27.0ヶ月時点で生存例はCP腕5例・CbTB腕3例であった。

主要エンドポイント:QoLの経時変化と群間比較:EQ5D-Iのベースライン平均値はCP腕0.719 (95% CI 0.656〜0.782)・CbTB腕0.661 (95% CI 0.582〜0.740)、EQ5D-VASはCP腕69.02 (95% CI 64.66〜73.37)・CbTB腕66.47 (95% CI 61.65〜71.28) であり、ベースラインスコアの経時推移を Figure 2 に示す。12週維持療法後の主要評価では、EQ5D-I変化量はCP腕-0.041・CbTB腕-0.177で群間差の平均0.1365 (95% CI -0.021〜0.294)、CP腕に有利な傾向を示したが、Student t検定P=0.088・Wilcoxon P=0.078・ベースライン補正線形モデルP=0.058といずれも有意差に達しなかった (Figure 3)。EQ5D-VASでは変化量がCP腕-2.89・CbTB腕-3.86で群間差0.97 (95% CI -9.37〜11.31)、P=0.41と差を認めなかった (Table 2)。QoL改善割合 (差がMID以上の例、Table 3) では、12週維持後のEQ5D-Index改善例がCP腕11例 (18%)・CbTB腕3例 (5%)・P=0.03と有意差を認めたが、「いずれかの時点でのEQ5D-Index改善」はCP腕30%・CbTB腕26% (P=0.62)、EQ5D-VASの「いずれかの時点での改善」はCP腕20%・CbTB腕22% (P=0.75) と差がなかった。なお12週時の評価可能例数はCP腕38例・CbTB腕29例にとどまり、計画49例/腕を大きく下回ったため検出力はEQ5D-VASで76%、EQ5D-Indexで71%に低下した。

有効性副次エンドポイント:ORR・PFS・OS:導入化学療法6サイクル中にCP腕24例 (40.0%)・CbTB腕30例 (51.7%) に部分奏効を認め (P=0.27)、DCR (disease control rate) はCP腕88.3%・CbTB腕79.3% (P=0.28) であった。維持療法期にCP腕でさらに2例の部分奏効が観察された。全奏効率はCP腕43.3%・CbTB腕51.7% (P=0.47) と差なし。PFSイベントは各腕51例 (合計102例)、死亡は各腕43例 (合計86例) に達した。mPFS (median progression-free survival) はCP腕8.1ヶ月 (95% CI 7.5〜10.8) vs CbTB腕8.3ヶ月 (95% CI 6.1〜11.5)、HR (hazard ratio) 0.79 (95% CI 0.53〜1.17)、log-rank P=0.24と差なし。mOS (median overall survival) はCP腕14.0ヶ月 (95% CI 10.5〜20.3) vs CbTB腕14.4ヶ月 (95% CI 10.9〜19.1)、HR 0.93 (95% CI 0.60〜1.42)、log-rank P=0.73と差なし (Figure 4)。CbTB腕のmOS 14.4ヶ月はE4599試験の14.2ヶ月と一致した。

安全性・毒性プロファイル:全例が少なくとも1回の治療を受け安全性解析に含まれた (Table 4)。導入化学療法6サイクル中のGrade 3〜4好中球減少はCP腕5例 (8.3%)・CbTB腕6例 (10.3%)、P=0.76と差なし;発熱性好中球減少は0% 対 1.7%。血小板減少はCbTB腕で有意に頻度が高く (P=0.023) 重篤グレードに有意差なし (P=0.49)。悪心はCP腕で有意に強く (P有意)、脱毛および神経毒性はCbTB腕で有意に多かった。治療関連死はCbTB腕1例 (致死的喀血) のみ、CP腕には0例。維持療法期 (Table 5、n=74例) では全体的に耐容可能で重篤有害事象は少なく、ペメトレキセドは貧血・好中球減少・悪心と有意に関連し、ベバシズマブは高血圧と有意に関連したが、いずれも重篤グレードの有意差はなかった。

考察/結論

ERACLE試験は、CP→ペメトレキセド維持とCbTB→ベバシズマブ維持を直接比較した初の無作為化第III相試験であり、QoL (EQ5D) を共主要エンドポイントとした設計はこれまでの研究と異なる独自性を持つ。PointBreak試験 (Patel et al. JClinOncol 2013) はペメトレキセド+カルボプラチン+ベバシズマブ→ペメトレキセド+ベバシズマブ維持 対CbTBを比較し生存アウトカムを主要エンドポイントとしており、これまでの研究ではQoLは副次評価にとどまっていた。PRONOUNCE試験も類似する比較を行ったが、シスプラチンではなくカルボプラチンを使用した点で本試験と相違する。ERACLE試験が本研究で初めて実現したのは、cisplatin/pemetrexed導入後の継続維持という治療戦略全体 (induction + maintenance) に対するQoL主体の直接比較であった。

新規の知見として、12週維持後のEQ5D-I群間差が0.1365 (MIDの0.137に相当) とCP腕に有利な方向の傾向を示したが、p=0.078で有意差には達しなかった。しかしながら、評価可能例数が計画の49例/腕を大きく下回ったことが本試験の根本的な限界であり、CbTB腕の約50%・CP腕の約25%が維持療法前に増悪したため検出力が計画値の71〜76%に低下した。この統計的underpowerの主因は、CbTB腕で維持移行前進行が多かったことと、CP腕では6サイクルという長期のシスプラチン導入自体が予想以上にQoLを悪化させた可能性がある。既報のE4599試験のmOS 14.2ヶ月と本試験CbTB腕の14.4ヶ月が一致したことは、ERACLE試験集団の代表性と結果の外的妥当性を支持する。

臨床的意義として、両レジメンが同等の有効性 (ORR・PFS・OS) を持ちながら毒性プロファイルが異なることから、臨床現場での個別化治療選択が支持された。具体的には、脱毛・神経毒性を避けたい患者にはCP→ペメトレキセド維持が適切であり、腎機能障害・凝固異常・喀血リスクを持つ患者にはベバシズマブを含まないレジメンが望ましい。また、CP腕では44例 (73.3%) が維持療法に移行し中央値6サイクル (最大32サイクル) の長期維持が可能であったことは、ペメトレキセド維持の臨床応用上の利点を示す。これらの知見はNSCLC治療ガイドラインにおける「コモービディティ・患者希望に基づく治療選択」の原則を支持するものである。

残された課題として、まず本試験はQoL差の有無を確定的に結論づけるにはサンプルサイズが不足しており、equivalence(同等性)を証明する設計でもなかったことに留意が必要である (limitation)。6サイクルのシスプラチン導入を用いた点は現在の4サイクル標準との比較を困難にしており、ERACLEの結果をそのまま現代治療に外挿することには慎重な判断が求められる。免疫チェックポイント阻害薬との併用が標準化された現在、EGFR変異/ALK再構成陰性の非扁平上皮NSCLCに対するCbTB+アテゾリズマブ (IMpower150) やCP+ペムブロリズマブ (KEYNOTE-189) が新たな標準となっており、本試験の比較基盤はその重要性が相対的に変化している。今後の研究では、免疫療法時代における化学療法骨格の選択とQoLへの影響、およびパートナーとなる免疫療法剤の違いが患者のQoLに与える影響の系統的評価が求められる。また、維持療法試験における適切なQoL評価時点・評価ツールの選択という試験設計上の課題についても今後の検討が必要である。

方法

試験登録番号: NCT01303926 (ClinicalTrials.gov)、EudraCT番号 2009-015807-19。イタリア14施設参加のGOIM主催・非営利学術第III相多施設無作為化並行2腕試験。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIB/IV NS-NSCLC、ECOG-PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0〜1、年齢18〜70歳、RECIST v1.1に基づく測定可能病変、EGFR活性化変異なし、化学療法未施行を適格基準とした。除外基準は扁平上皮優位の混合組織型・喀血既往・大血管近接腫瘍・未治療脳転移・前治療化学療法 (6ヶ月以内)・心疾患・凝固異常・抗血小板薬使用・コントロール不良高血圧などを含んだ。

治療: CP腕はシスプラチン75 mg/m²+ペメトレキセド500 mg/m² (day 1、3週毎×6サイクル) → 増悪なければペメトレキセド500 mg/m² (3週毎、進行・毒性・死亡まで維持)。葉酸400 μg/日 (経口) とビタミンB12注射 (9週毎) を補充した。CbTB腕はカルボプラチンAUC (area under the curve) 6+パクリタキセル200 mg/m²+ベバシズマブ15 mg/kg (day 1、3週毎×6サイクル) → ベバシズマブ15 mg/kg (3週毎、進行まで維持)。最大2回の減量を許容し、毒性による6週超の遅延は中止基準とした。

主要評価: EQ5Dはベースライン・3・6サイクル後・維持療法12・18週後に実施した。EQ5Dは5次元 (移動・自己管理・日常活動・痛み/不快感・不安/抑うつ) + VASから構成される標準化QoL尺度であり、EQ5D-IndexはRabin/de Charroの変換表で算出した効用値スコア (最大1.0) である。MID (minimally important difference) はEQ5D-I 0.137・EQ5D-VAS 12と設定した (Pickard et al. 2007より)。

サンプルサイズ: 各腕49例が12週評価可能 (進行率20%を考慮し登録数を120例→各腕60例) で EQ5D-VAS 91%・EQ5D-I 87%の検出力を確保する設計。

統計解析: 主要エンドポイントはStudentのt検定 (対応なし) とWilcoxon-Mann-Whitney検定 (2側α=0.05)、ベースライン値を共変量とした線形モデルで補正。PFS・OSはKaplan-Meier法で推定しlog-rank検定で比較。ORRはchi²検定。毒性はexact Wilcoxon-Mann-Whitney検定 (全グレード) およびFisher exact検定 (Grade≥3)。無作為化はMoses-Oakford法の置換ブロック法で施設・ステージ (IIIB vs IV) 層別化。