• 著者: Sandler A, Gray R, Perry MC, Brahmer J, Schiller JH, Dowlati A, Lilenbaum R, Johnson DH
  • Corresponding author: Alan Sandler, MD (Vanderbilt-Ingram Cancer Center, Nashville, TN, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2006
  • Epub日: 2006-12-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17167137

背景

米国では年間約171,000例が肺癌に罹患し、そのうち85%が非小細胞肺癌 (NSCLC) である。進行NSCLCに対する1次化学療法の成績は長年停滞しており、ECOG 1594試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) では第3世代プラチナダブレット4レジメンの全生存期間 (mOS) が7.9ヶ月、1年OS率が33%に留まり、これ以上の化学療法による改善は難しいと考えられていた。この状況下で、新たな治療戦略の開発が強く求められていた。特に、進行NSCLCの治療成績が長年不足しており、新たな治療法の開発が喫緊の課題であった。

血管内皮増殖因子 (VEGF) は腫瘍血管新生の主要な制御因子であり、Hanahan et al. Cell 2000で提唱された癌の「hallmarks」の一つとして認識されている。NSCLCを含む多くの固形腫瘍でVEGFが高発現し、再発、転移、死亡リスクと関連することが示されていた。Ferrara et al. NatMed 2003はVEGFとその受容体の生物学について詳細に報告し、VEGFが病的な血管新生において中心的な役割を果たすことを明らかにした。Bevacizumab (抗VEGF-Aヒト化モノクローナル抗体) は、転移性大腸癌の1次治療において化学療法に全生存期間 (OS) 改善を付加することが示されており (FOLFIRI+bevacizumab、Hurwitz 2004)、NSCLCへの応用が期待された。

先行する第II相無作為化試験 (Johnson et al. JClinOncol 2004) では、パクリタキセル・カルボプラチン単独療法と、それにベバシズマブ (7.5 mg/kgまたは15 mg/kg) を併用する群を比較した。その結果、高用量ベバシズマブ群で無増悪生存期間 (TTP) の有意な延長が示された。しかし、この試験では扁平上皮癌患者や喀血を有する患者で致死的な肺出血が6例 (9.1%) 発生したことが報告された。この安全性プロファイルは、ベバシズマブのNSCLC治療における大きな課題として認識され、その後の大規模臨床試験における患者選択の重要性が浮上した。本第III相試験では、この懸念に対応するため、扁平上皮癌、脳転移、喀血歴を除外基準とすることで、安全性の確保を図る必要があった。このように、進行NSCLCの治療成績が長年不足しており、新たな治療法の開発が喫緊の課題であったが、抗血管新生療法の安全性に関する懸念が残されており、その克服が未解明な点として残されていた。

目的

本研究 (ECOG E4599試験) の主要目的は、Stage IIIB (胸水/心嚢液合併) またはIV/再発の非扁平上皮性NSCLC患者 (ECOG Performance Status (PS) 0〜1、化学療法未施行) において、標準的なパクリタキセル・カルボプラチン (PC) 併用化学療法にベバシズマブ (15 mg/kg) を追加することが、主要評価項目である全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することであった。

副次目的としては、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、およびベースラインの血漿VEGFレベルと治療効果や生存期間との相関を評価することが含まれた。特に、先行する第II相試験で認められた致死的肺出血のリスクを、特定の患者集団を除外することで管理できるかどうかが重要な検討事項であった。本試験は、非扁平上皮性NSCLC患者におけるベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を大規模に検証し、新たな標準治療としての可能性を探ることを目指した。

結果

全生存期間 (OS) の有意な改善: ベバシズマブ併用療法 (PCB群) は、パクリタキセル・カルボプラチン単独療法 (PC群) と比較して、全生存期間を統計学的に有意に改善した (Figure 2A)。PCB群のmOSは12.3ヶ月 (95% CI 10.9-14.3) であったのに対し、PC群のmOSは10.3ヶ月 (95% CI 9.4-11.6) であった (ハザード比 (HR) 0.79、95% CI 0.67-0.92、p=0.003)。これは、ベバシズマブの追加により死亡リスクが21%低下したことを示している。1年OS率はPCB群で51% (95% CI 46-56%)、PC群で44% (95% CI 39-49%) であり、2年OS率はそれぞれ23% (95% CI 19-27%) と15% (95% CI 12-19%) であった。全患者 (n=878) を対象としたITT解析でも同様の有意差が確認された (p=0.005)。観察期間中央値は19ヶ月であり、主な死因は両群ともに肺癌の進行であった (PC群309例、PCB群260例)。

無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR) の改善: 無増悪生存期間もPCB群で有意に改善された (Figure 2B)。mPFSはPCB群で6.2ヶ月 (95% CI 5.5-6.7) であったのに対し、PC群では4.5ヶ月 (95% CI 3.9-4.9) であった (HR 0.66、95% CI 0.57-0.77、p<0.001)。測定可能病変を有する773例における客観的奏効率は、PCB群で35% (133/381例) であったのに対し、PC群では15% (59/392例) と、PCB群で有意に高かった (p<0.001)。治療サイクル数中央値はPC群で5サイクル、PCB群で7サイクル (ベバシズマブ維持療法を含む) であった。PCB群の407例中215例 (53%) がベバシズマブ単剤維持療法に移行し、そのうち107例 (50%) が5サイクルを超える維持療法を受けた。

サブグループ解析とVEGF基礎値: 事前規定された4つの層別化因子 (測定可能病変の有無、放射線治療歴の有無、体重減少の有無、病期) によるサブグループ解析では、全てのサブグループにおいてベバシズマブのOS改善効果が一貫して認められた (Figure 3)。探索的解析では、男性におけるOS改善効果 (mOS 10.7ヶ月から13.3ヶ月) が女性 (13.1ヶ月から13.3ヶ月) よりも大きい傾向が示された。これは、PC群の女性患者における二次治療受療率がPCB群の女性患者よりも高かったこと (48% vs 40%) が一因として考えられた。組織型別では、腺癌および非小細胞肺癌の組織型不明 (NOS) が各群の約88%を占めており、この集団での効果が試験結果を規定した。初期の166例で測定されたベースラインの血漿VEGFレベルは、OS (p=0.15) とも治療群割付 (p=0.13) とも有意な相関を示さず、VEGF発現量が治療選択のバイオマーカーとなる根拠は得られなかった。VEGF中央値はPC群で38.7 ng/mL、PCB群で33.7 ng/mLとほぼ同等であった。

安全性プロファイルと治療関連死: 安全性解析はas-treated集団 (PC群440例、PCB群427例) で実施された。Grade 3以上の出血事象はPCB群で4.4% (19例) 発生したのに対し、PC群では0.7% (3例) であった (p<0.001)。最も重篤な出血事象は肺出血 (喀血) であり、PCB群で5例 (1.2%) の致死的 (grade 5) 事象が発生した。このうち1例はベースライン時に喀血があったにもかかわらず登録され (除外基準追加前の登録例)、別の1例は1サイクル目に喀血が出現したにもかかわらず治療が継続され、2サイクル目に致死的出血に至った。

治療関連死 (grade 5有害事象) はPCB群で15例、PC群で2例であり、PCB群で有意に多かった (p=0.001) (Table 3)。PCB群の15例の内訳は、肺出血5例、発熱性好中球減少症の合併症5例、脳血管イベント2例、消化管出血2例、肺塞栓症疑い1例であった。Grade 4好中球減少症はPCB群で25.5%、PC群で16.8%とPCB群で有意に高かった (p=0.002)。Grade 3以上の高血圧はPCB群で6.8% (grade 4は0.2%)、PC群で0.5% (grade 4は0.2%) であり、PCB群で有意に高頻度であった (p<0.001)。Grade 3以上の蛋白尿はPCB群で3.1%に認められたが、PC群では認められなかった (p<0.001)。その他のGrade 3以上の有害事象として、頭痛 (PCB群3.0% vs PC群0.5%、p=0.003) および発疹・脱疹 (PCB群2.3% vs PC群0.5%、p=0.02) がPCB群で有意に高頻度であった (Table 2)。ベバシズマブ維持療法中の主なGrade 3〜4毒性としては、高血圧5.6%、蛋白尿4.2%、疲労5.1%、呼吸困難5.6%が報告された。

考察/結論

先行研究との違い: ECOG E4599試験は、Schiller et al. NEnglJMed 2002で示された「第3世代化学療法の限界mOS約8ヶ月」を突破した初の大規模第III相試験であり、従来の化学療法単独では達成できなかったOSの延長を実証した点で、これまでの進行NSCLC治療の常識と対照的であった。本研究は、進行NSCLCの1次治療にベバシズマブを追加することでmOSを12.3ヶ月 (HR 0.79、95% CI 0.67-0.92、p=0.003) まで改善し、ORRも15%から35%へと倍以上に改善した。これは、VEGF阻害による腫瘍血管の正常化が化学療法の腫瘍内送達を増強するというJainの仮説 (2001) を大規模臨床試験で支持するものであった。

新規性: 本試験の最大の新規性は、第II相試験で問題となった致死的肺出血のリスクを、扁平上皮癌、脳転移、喀血歴の除外という厳格な適格基準設定によって1.9% (致死的1.2%) まで低減させた点にある。これは、NSCLCという疾患において初めて「組織型 (非扁平上皮) 別の治療選択」が大規模試験レベルで実践されたことを意味し、その後の組織型・分子マーカーによる患者選択という現代的パラダイムの先駆けとなった。本研究は、非扁平上皮NSCLC患者に対するベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を確立し、2006年10月の米国食品医薬品局 (FDA) によるベバシズマブの非扁平上皮NSCLC1次治療への承認の根拠となった。

臨床応用: 本研究の成果は、非扁平上皮NSCLC患者の治療戦略に大きな臨床的意義をもたらした。ベバシズマブの追加により、患者の生存期間が有意に延長され、奏効率も向上したことは、進行NSCLC患者の予後改善に大きく貢献する。ただし、治療関連死のリスク増加 (特に肺出血と発熱性好中球減少症) も示されており、臨床現場での適用においては、患者の選択と厳格な有害事象管理が極めて重要である。特に、ベースラインでの喀血歴や扁平上皮癌の除外基準の遵守は、安全な治療実施のために不可欠である。

残された課題: ベースラインのVEGF基礎値と治療効果の相関が認められなかった点は、現在も有効なベバシズマブ感受性バイオマーカーが存在しないという残された課題を示唆する。女性での生存ベネフィットが男性より小さかった理由は明確にならず、今後の検討課題である。また、本試験はEGFR変異やALK転座などのドライバー遺伝子変異が同定される前の時代に行われたため、現在の分子標的治療薬が利用可能な状況におけるベバシズマブの位置付けは、主に「ドライバー遺伝子陰性非扁平上皮NSCLC」に限定される。さらに、発熱性好中球減少症が肺出血と同数の致死例をもたらしたことは、ベバシズマブが好中球減少症を増悪させる可能性を示唆しており、今後の研究でそのメカニズム解明と対策が求められる。治療関連死15例という数字は、臨床的ベネフィットと安全性リスクのバランスを個々の患者で注意深く評価する必要性を示す重要なlimitationである。

方法

本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が主導した多施設共同の第III相無作為化比較試験 (1:1) であり、2001年7月から2004年4月にかけて実施された (NCT00021060)。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認された、新規診断のStage IIIB (悪性胸水または心嚢液合併) またはIV/再発の非小細胞肺癌患者で、化学療法未施行、ECOG PS 0〜1、および十分な臓器機能 (尿中蛋白排泄量≤500 mg/日を含む) を有する患者が対象とされた。 除外基準: 扁平上皮癌優位の組織型、脳転移、臨床的に有意な喀血 (1/2ティースプーン以上)、抗凝固療法または血小板機能阻害薬の使用、直近21日以内の放射線療法または28日以内の大手術、コントロール不能な高血圧、臨床的に有意な心血管疾患を有する患者は除外された。これらの除外基準は、先行する第II相試験で観察された重篤な肺出血リスクを軽減するために設定された。

治療プロトコル: 患者は2群に無作為に割り付けられた。

  1. PC群 (パクリタキセル・カルボプラチン群、n=444): パクリタキセル 200 mg/m² とカルボプラチン (AUC 6.0) をday 1に静脈内投与。
  2. PCB群 (パクリタキセル・カルボプラチン・ベバシズマブ群、n=434): PC療法に加えてベバシズマブ 15 mg/kg をday 1に静脈内投与。 両群ともに3週毎に最大6サイクル実施された。PCB群の患者は、化学療法終了後も疾患進行または不忍容な毒性が発現するまでベバシズマブ単剤維持療法を継続した。

評価項目: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であり、最終解析には650件の死亡イベントが必要とされた。副次エンドポイントには、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、およびベースラインの血漿VEGFレベルと生存期間との相関が含まれた。層別化因子として、測定可能病変の有無、前治療放射線の有無、体重減少 (5%未満 vs 5%以上)、病期 (IIIB vs IV/再発) が用いられた。

統計解析: 統計解析は、割り付けられた治療群に基づくintention-to-treat (ITT) 解析が主要であったが、主要解析は適格基準を満たした患者を対象とした。生存期間およびPFSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。ハザード比 (HR) の推定とイベント発生時期の有意性検定には、層別化Cox比例ハザードモデルが用いられた。有害事象の比較にはフィッシャー正確検定が用いられた。ベースラインVEGFレベルと治療群または性別との差はWilcoxon順位和検定で評価された。本研究は、独立データモニタリング委員会によって継続的に安全性および有効性が監視された。