- 著者: Horn L, Gettinger SN, Gordon MS, Herbst RS, Gandhi L, Felip E, Sequist LV, Spigel DR, Antonia SJ, Balmanoukian A, Cassier PA, Liu B, Kowanetz M, O’Hear C, Fasso M, Grossman W, Sandler A, Soria JC
- Corresponding author: Leora Horn (Vanderbilt-Ingram Cancer Center, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-01
- Article種別: Original Article (Phase I 最終解析、長期フォローアップ)
- PMID: 30077125
背景
PD-L1 (programmed death-ligand 1) は NSCLC (non-small-cell lung cancer、非小細胞肺がん) をはじめ多くの癌種の腫瘍細胞 (TC) および腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) に発現し、PD-1 および B7.1 と結合することで抗腫瘍 T 細胞活性を抑制する。2010 年代前半、抗 PD-1 抗体ニボルマブが CheckMate 057 試験 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015) で化学療法既治療の非扁平上皮 NSCLC に OS (overall survival、全生存期間) 延長を実証し、ペムブロリズマブも KEYNOTE-010 試験 (Herbst et al. Lancet 2016) で PD-L1 陽性既治療 NSCLC において OS を改善した。アテゾリズマブ (atezolizumab) は PD-L1 に対する操作済みヒト化モノクローナル抗体であり、PD-L1:PD-1 および PD-L1:B7.1 の両相互作用を阻害することで抗腫瘍免疫を回復させる。既存の抗 PD-1 抗体と異なり PD-1:PD-L2 相互作用を温存するため、免疫恒常性の維持に有利な可能性がある。PCD4989g (Phase I atezolizumab monotherapy trial) 試験 (NCT01375842) の 2013 年 4 月データカットオフ時点の初期解析 (Herbst et al. Nature 2014) では、VENTANA (Ventana Medical Systems) SP142 IHC (immunohistochemistry、免疫組織化学) アッセイを用いた TC/IC 別の 4 段階 PD-L1 スコアリングと奏効の相関が初めて示された。その後 OAK Phase 3 試験 (Rittmeyer et al. Lancet 2017) がアテゾリズマブの Phase 3 有効性を確立したものの、Phase I コホートにおける 3 年超の長期 OS・奏効の持続性・免疫関連有害事象の時間的プロファイルについては未解明であり、長期追跡データが不足していた。本最終解析がこれらを補う目的で実施された。
目的
転移性 NSCLC コホートにおけるアテゾリズマブ単剤療法の安全性 (Grade III/IV TRAE の時間的分布を含む)、有効性 (ORR、DOR、PFS、OS)、PD-L1 発現サブグループ別・腫瘍変異別アウトカムをデータカットオフ 2016 年 12 月 31 日時点で包括的に評価すること。
結果
患者背景と治療状況:アテゾリズマブを 1 mg/kg 以上投与された NSCLC 患者 n=89 を有効性・安全性評価対象とした (Table 1)。年齢中央値 60 歳 (範囲 24-84)、男性 56%、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 1 が 72%、喫煙歴あり 81%、非扁平上皮癌 76%。前治療歴は 1 ライン以上が 85%、2 ライン以上が 58%。PD-L1 発現: TC3 または IC3 が n=22 (25%)、TC2/3 または IC2/3 が n=49 (55%)、TC0 かつ IC0 が n=18 (20%)、不明 n=8 (9%)。EGFR 変異 11%、EML4-ALK 変異 2%、KRAS 変異 16%。投与量は n=50 (56%) が 20 mg/kg、n=26 (29%) が 15 mg/kg。52 例がすべての患者を登録したオープンアームで、37 例が PD-L1 IC2/3 選択後に登録された。治療期間中央値は 3.5 か月 (範囲 0-62 か月)、追跡期間中央値は 49.9 か月。
安全性と長期忍容性:TRAE (treatment-related adverse event、治療関連有害事象) は 68 例 (76%) に発現したが、Grade III/IV TRAE は 10 例 (11%) に限定され良好な忍容性が示された (Table 2)。全 Grade で >10% の TRAE は疲労 n=18 (20%)、悪心 n=14 (16%)、食欲低下 n=12 (14%)、無力症 n=9 (10%)。Grade III/IV で >2% は疲労・呼吸困難・低ナトリウム血症・低酸素症 (各 n=2 [2%])。特定有害事象は 28 例 (32%) で認め、最多は発疹 n=14 (16%)、そう痒性発疹 n=5 (6%)、肺臓炎 n=5 (6%; うち 1 例は治療非関連)。治療関連肺臓炎は n=4 (5%)、全例 Grade I (n=1) または Grade II (n=3)。治療中止に至った TRAE は 4 例 (5%) のみ。治療関連死亡なし (肺炎による死亡 1 例はアテゾリズマブと無関係)。TRAE 発現は治療開始 1 年以内に 66 例 (74%) で集中し、1 年超 (n=17) では Grade III/IV TRAE ゼロ、重篤 TRAE ゼロであった。2 年目 (n=17) では 47%、3 年目 (n=13) では 39%、3 年超 (n=6) では 33% で何らかの TRAE を認めたが全例 Grade I-II であった (Table 2)。この時間的パターンは、長期投与下での毒性蓄積がないことを示す。
全体有効性と奏効の持続性:n=89 中 20 例 (23%; 95% CI, 14-33%) が客観的奏効を達成し、CR (complete response、完全奏効) 1 例 (1%)、PR (partial response、部分奏効) 19 例 (21%) であった (Table 3)。SD (stable disease、安定) は 25 例 (28%)、6 か月以上の SD 維持は 14 例 (16%) (Fig. 1A)。初回奏効確認までの期間中央値 2.7 か月 (範囲 1.2-11.5)、DOR 中央値 16.4 か月 (範囲 7.2-53.4+)。DOR >2 年の患者が 7 名存在し、そのうち 6 名はデータカットオフ時点でも奏効継続中 (Fig. 2)。20 名の奏効患者のうち 19 名 (95%) がサイクル 16 でプロトコル規定に従い治療中止し、そのうち 7 名が増悪後に再投与を受けた。再投与後の結果は CR 1 例・PR >1 年が 1 例・SD が 3 例・PD が 2 例。治療中止後も奏効を継続した患者が 3 名存在し、最長の無治療奏効期間は 40 か月超 (Fig. 2)。
PD-L1 発現サブグループ別の有効性と OS:PD-L1 発現量と奏効・生存の間に明確な正相関が観察された。TC3 または IC3 群 (n=22) では ORR 50% (95% CI, 28-72%)、TC2/3 または IC2/3 群 (n=49) では ORR 33% (95% CI, 20-48%)、TC1/2/3 または IC1/2/3 群 (n=63) では ORR 29% (95% CI, 18-41%)、TC0 かつ IC0 群 (n=18) では ORR 11% (95% CI, 1-35%) (Table 3)。全奏効 20 名のうち 18 名 (90%) が TC1/2/3 または IC1/2/3 陽性。DOR 中央値はサブグループ間で類似し、TC3/IC3 群 15.4 か月 (7.2-48.4+)、TC2/3 または IC2/3 群 16.4 か月 (7.2-53.4+)、TC0/IC0 群 18.2 か月 (15.4-21.1)。全患者の 1 年・2 年・3 年 OS 率はそれぞれ 63% (95% CI, 53-73%)、37% (26-47%)、28% (18-38%) (Table 4)。PD-L1 別では TC3/IC3 群が最高 (1 年 73%、2 年 50%、3 年 45%)、TC0/IC0 群が最低 (1 年 50%、2 年 36%、3 年 15%)。OS 中央値は TC3/IC3 群 26 か月、TC2/3 または IC2/3 群 20 か月に対し TC0/IC0 群 11 か月。PFS 中央値は TC3/IC3 群 7 か月、その他群 3-5 か月。生存 ≥6 週患者での奏効別 OS は CR/PR 群 54 か月 (95% CI, 49-NE)、SD 群 21 か月 (15-27)、PD 群 8 か月 (6-15) (Fig. 1B)。EGFR 変異患者は野生型より低い ORR (0% vs 27%)・OS 中央値 (8 か月 vs 18 か月)、KRAS 変異でも同様の傾向 (ORR 14% vs 35%、OS 中央値 16 か月 vs 27 か月)。喫煙歴ありの患者 (現喫煙者 40%、元喫煙者 26%) で非喫煙者 (ORR 0%) より高い奏効が観察された。
考察/結論
本試験は転移性 NSCLC に対するアテゾリズマブ単剤療法 Phase I 試験の最終長期解析として、追跡期間中央値 49.9 か月・最長 62 か月超というデータを提供した点で新規な意義を持つ。全患者の 3 年 OS 率 28%・PD-L1 TC3/IC3 群での 3 年 OS 率 45%・DOR 中央値 16.4 か月という成績は、これまでの研究で示された化学療法の歴史的対照データ (ドセタキセル・ペメトレキセドなど 2 次治療の OS 中央値 7-9 か月) と対照的であり、一部患者への真の長期生存をもたらすことを本研究で初めて 5 年超の追跡で実証した。
PD-L1 TC3/IC3 群での ORR 50% と 3 年 OS 率 45% は、後継試験である POPLAR (Fehrenbacher et al. Lancet 2016) および OAK (Rittmeyer et al. Lancet 2017) における PD-L1 高発現サブグループの良好な成績と方向性が一致する。既報の nivolumab や pembrolizumab のデータとは、本試験が SP142 アッセイの TC/IC 二元評価を用いた点で異なるが、PD-L1 高発現が奏効・生存の予測因子となることでは一致している。EGFR 変異患者での ORR 0% は既報の OAK 試験・nivolumab・pembrolizumab 試験とも整合的であり、EGFR 変異 NSCLC では免疫療法より分子標的薬が優先されるべきであることを改めて示している。
臨床応用の観点では、DOR 中央値 16.4 か月・最長 DOR 53.4+ か月という持続的奏効パターンは臨床現場での治療期間設定に重要な示唆を与える。治療中止後も奏効を最長 40 か月超維持した患者の存在は、免疫記憶による持続的抗腫瘍活性という新規な臨床知見として臨床的含意が大きい。再投与後の CR 達成例は、プロトコル規定による中断後の再投与プロトコルの実現可能性を示している。安全性においても 1 年超では Grade III/IV TRAE ゼロという長期安全性データは、継続投与の臨床的意義を支持する。
残された課題として、本試験は非ランダム化・単アーム設計・n=89 という limitation がある。患者集団の約 40% が IC2/3 発現で選択されたため all-comer NSCLC 集団を代表しない可能性がある。EGFR・KRAS サブグループはそれぞれ n=10・n=14 と小規模であり解釈の限界がある。KRAS 変異患者での ORR 14% は一部大規模試験での「KRAS 変異は免疫療法で良好」という知見と相違があり、今後の検討が必要である。喫煙歴と奏効の関係についても腫瘍変異量との機序的連関の更なる検討が今後の研究課題として残される。また 1 年超での追跡患者数 (n=17) が限られる点が長期安全性サブグループ解析の信頼性を制限する。
方法
PCD4989g (NCT01375842) は固形腫瘍および血液悪性腫瘍を対象とする最初のアテゾリズマブ第 I 相単剤試験であり、用量漸増コホートに続く腫瘍種別拡大コホートで構成される。施設倫理審査委員会承認下、ヘルシンキ宣言および GCP (Good Clinical Practice) に従い実施され、全患者が書面同意を提供した。対象は進行または転移性 NSCLC 患者。用量漸増フェーズでは PD-L1 発現を問わず登録し、PD-L1 発現と活性の関連確認後にプロトコル改訂で IC2/3 発現患者を追加選択した。介入はアテゾリズマブ 1、10、15、20 mg/kg または 1200 mg を 3 週毎静注。当初は最大 16 サイクル (1 年) を上限としたが、改訂後は臨床的ベネフィットが続く限り継続可能とし、増悪後の再投与も認めた。
PD-L1 評価は VENTANA SP142 IHC アッセイを用い、TC 陽性率 (TC3 ≥50%、TC2 ≥5% 〜<50%、TC1 ≥1% 〜<5%、TC0 <1%) および IC の PD-L1 陽性 IC が占める腫瘍面積比率 (IC3 ≥10%、IC2 ≥5% 〜<10%、IC1 ≥1% 〜<5%、IC0 <1%) で評価した。EGFR・EML4-ALK・KRAS 変異は施設ごとに局所検査した。安全性評価は NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0、腫瘍評価は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1 に基づき担当医が実施した。統計解析では ORR (objective response rate、客観的奏効率) の 95% CI (confidence interval、信頼区間) を Clopper-Pearson 法で推定し、DOR (duration of response、奏効持続期間)・PFS (progression-free survival、無増悪生存期間)・OS の Kaplan-Meier 推定の 95% CI は Brookmeyer-Crowley 法で算出した。患者登録期間は 2011 年 10 月 25 日〜2015 年 4 月 27 日、臨床カットオフは 2016 年 12 月 31 日 (追跡中央値 49.9 か月)。