- 著者: Lala M, Li TR, de Alwis DP, Sinha V, Mayawala K, Yamamoto N, Siu LL, Chartash E, Aboshady H, Jain L
- Corresponding author: Lokesh Jain (Quantitative Pharmacology and Pharmacometrics; Pharmacokinetics, Pharmacodynamics and Drug Metabolism, Merck & Co., Inc., 126 East Lincoln Avenue, Rahway, NJ 07065 USA; lokesh.jain@merck.com)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 32305010
背景
ペムブロリズマブ (MK-3475) は、プログラム細胞死受容体-1 (PD-1) とそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2との相互作用を阻害するヒト化IgG4κモノクローナル抗体である。本薬剤は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC)、メラノーマ、頭頸部扁平上皮癌、古典的ホジキンリンパ腫、マイクロサテライト不安定性高 (MSI-H) 癌、進行尿路上皮癌、進行胃癌、進行子宮頸癌、原発縦隔B細胞リンパ腫、進行肝細胞癌、進行メルケル細胞癌など、2019年7月時点で複数の癌種で承認されている。当初、KEYNOTE-001試験の結果に基づき、体重依存性の2 mg/kg 3週毎 (Q3W) 投与が承認された (Garon et al. NEnglJMed 2015)。その後、体重非依存性の200 mg Q3Wフラットドーズが、200 mgと2 mg/kgの用量で同様の曝露分布を示すことが確認され、承認された (Freshwater et al. J Immunother Cancer 2017)。
しかし、複数の適応症において、多くの患者が長期にわたり頻繁な外来点滴を必要とすることは、患者のQOL低下や医療機関の負担増大という臨床上の課題を提起していた。投与間隔を6週毎 (Q6W) に延長することで、外来通院回数の削減、患者の利便性向上、医療機関におけるスケジュール管理の効率化、スタッフおよび薬剤準備コストの軽減が期待された。
ペムブロリズマブの曝露量-反応 (E-R) 関係は、5つのランダム化用量比較試験(合計2262例、2 mg/kg Q3Wから10 mg/kg Q2Wまでの5倍の用量範囲)から詳細に解析されており、用量-曝露量-効果および安全性の関係がフラットであることが確立されていた (Patnaik et al. Clin Canc Res 2015, Joseph et al. J Clin Oncol 2015, Sachs et al. Clin Canc Res 2016)。すなわち、5倍の用量範囲において有効性および安全性が同等であることが示されている。この知見は、米国食品医薬品局 (FDA) のガイダンスが示す「既承認用量と同等の曝露量を達成する別の投与スケジュールであれば、同等の有効性および安全性を期待できる」という医薬品承認の枠組みを支持するものであった (U.S. FDA Guidance Document. Providing clinical evidence of effectiveness for human drug and biological products. 1998)。
このような背景から、患者の利便性向上と医療負担軽減のために、より少ない頻度での投与スケジュールを検討する必要性が認識されていた。しかし、400 mg Q6W投与が既存のQ3W投与レジメンと同等の薬物曝露量と安全性プロファイルを提供するかどうかについては、厳密なモデルベース解析による検証が未確立であった。特に、投与間隔の延長に伴う定常状態トラフ濃度 (Cmin,ss) の低下が、PD-1受容体占有率の維持に影響を与えないかという点が未解明であった。このギャップを埋めるため、本研究では集団薬物動態 (PPK) モデルを用いたシミュレーションにより、400 mg Q6W投与の薬物動態プロファイルを詳細に評価し、既存のQ3W投与レジメンとの同等性を検証することが喫緊の課題として認識されていた。特に、既存の臨床試験では、Q6Wのような長期間の投与間隔における厳密な薬物動態学的データが不足しており、モデルベースのアプローチによる予測が不可欠であった。
目的
本研究の目的は、ペムブロリズマブ400 mg Q6W投与レジメンの薬物動態 (PK) プロファイルを集団薬物動態 (PPK) モデルに基づくシミュレーションにより評価することである。具体的には、承認済みの200 mg Q3Wおよび2 mg/kg Q3W投与レジメンと比較して、定常状態における曝露量(平均濃度 (Cavg)、トラフ濃度 (Cmin)、ピーク濃度 (Cmax))が同等または臨床的に許容可能な範囲内にあることを検証する。さらに、PD-1受容体占有率の維持を評価し、安全性プロファイルが既存の用量範囲内で一貫していることを確認することで、新しい投与スケジュールの有効性および安全性の同等性を科学的に実証することを目的とする。これにより、患者の利便性向上と医療負担軽減に資する新たな投与選択肢の確立を目指す。本研究は、特にQ6W投与が既存のQ3W投与に対して非劣性であることを、薬物動態学的観点から明確に位置づけることを目標とした。
結果
定常状態での曝露量等価性の検証: 400 mg Q6W投与のシミュレーション結果は、既存の投与レジメンと比較して詳細に評価された。定常状態平均濃度 (Cavg,ss) は、200 mg Q3Wとの幾何平均比で+0.7%であり、実質的に同等であった (Table 1, Fig. 2A)。2 mg/kg Q3Wとの比較では、Cavg,ssは+35%高かった。これは、AUC/Cavgが200 mg Q3Wとほぼ完全に一致することを示している。
定常状態トラフ濃度 (Cmin,ss) の評価: 定常状態トラフ濃度 (Cmin,ss) は、200 mg Q3Wと比較して-34%、2 mg/kg Q3Wと比較して-12%低下した (Table 1, Fig. 2B)。しかし、99%を超える患者において、Cmin,ssは参照用量範囲内を維持した。具体的には、200 mg Q3Wを参照した場合、Cminが低下した患者の割合は0.7%であり、2 mg/kg Q3Wを参照した場合は0.5%であった。Cmin,ssが参照用量の下限を下回る0.5%の患者においても、この低下は一時的なものであり、6週間サイクル中の平均約3日間のみの一時的な低下に留まった。
定常状態最高濃度 (Cmax,ss) と安全域: 定常状態最高濃度 (Cmax,ss) は、200 mg Q3Wと比較して+59%、2 mg/kg Q3Wと比較して+113%高かった (Table 1, Fig. 2C)。しかし、最大臨床投与量である10 mg/kg Q2WのCmax,ssと比較すると、400 mg Q6WのCmax,ssは-65.6%低く、安全域内であることが確認された。早期治療期間 (1-6週) においても、Cavg,wk6は200 mg Q3Wより+16%高く、Cmin,wk6は-41%低下、Cmax,wk6は+108%高かったが、これら全てのパラメータは10 mg/kg Q2Wの範囲内であった (Table 1)。
投与レジメン切り替え時のPKプロファイル: 200 mg Q3W投与を継続していた患者が400 mg Q6Wに切り替える場合、最初の400 mg投与後に血清濃度は迅速に400 mg Q6Wの定常状態濃度に近づき、その後の治療期間を通じて維持された (Supplementary Fig. 1)。これは、継続的な400 mg Q6W投与を受けた患者と同等のPKプロファイルを示すものであった。
PD-1受容体占有率の維持: PBPKモデルに基づくPD-1の半減期 (ターンオーバー) は約1.4日と推定された。これは、定常状態のPD-1が5半減期、すなわち約7日で置換されることを意味する。Cminの一時的な低下期間が平均約3日であることを考慮すると、この期間はPD-1の置換に必要な期間 (7日) よりも短い。したがって、Cminが一時的に低下しても、その間にPD-1受容体占有率は90%以上に維持されると推定された。これは、ペムブロリズマブの薬理活性がPD-1への直接結合を介するため、ターゲット飽和が最大薬理活性の代替エンドポイントとして機能するという推論に基づいている。
irAEプロファイルの用量間一貫性: 2799例の安全性データが評価された (Table 2)。任意グレードのirAEの発生率は、2 mg/kg Q3W群で148例 (20.0%)、10 mg/kg Q3W群で304例 (21.7%)、10 mg/kg Q2W群で142例 (21.5%) と、3つの用量群間で一貫していた。Grade III-VのirAEは、それぞれ37例 (5.0%)、80例 (5.7%)、35例 (5.3%) であった。重篤な有害事象 (SAE) の発生率は、5.5% vs 5.9% vs 5.0%であった。
主要なirAEの内訳も、用量間で一貫した傾向を示した。甲状腺機能低下症は8.1% vs 7.7% vs 10.5%、甲状腺機能亢進症は2.8% vs 3.4% vs 4.2%、肺臓炎は3.4% vs 3.9% vs 2.3%、注射関連反応は1.4% vs 1.7% vs 3.5%、大腸炎は1.6% vs 1.8% vs 1.8%であった。これらの結果は、全ての用量区分にわたってirAEプロファイルに用量-毒性相関が認められないことを示している。400 mg Q6WのCmax,ssが10 mg/kg Q2Wより65.6%低いため、400 mg Q6Wの安全性プロファイルは承認済み200 mg Q3Wと同等であると予測された。
全適応症への外挿可能性: 腫瘍種間のPKの一致性が複数の試験から確認されており (Supplementary Fig. 3)、腫瘍種によるPKの臨床的意義のある差は認められなかった。メラノーマおよびNSCLC以外の適応症においても、400 mg Q6Wは5倍の用量範囲にわたるフラットなE-R関係を示した。これらの知見に基づき、欧州医薬品庁 (EMA) の医薬品委員会 (CHMP) は、全ての単剤適応症における400 mg Q6W投与を承認した。
考察/結論
本研究は、ペムブロリズマブ400 mg Q6W投与が、確立された集団薬物動態 (PPK) モデルを用いた厳密なシミュレーションにより、既存の200 mg Q3W投与と実質的に同等の曝露量プロファイルを示し、安全性プロファイルも変化しないことを実証した。
先行研究との違い: 本研究は、これまでのペムブロリズマブの用量設定研究とは異なり、単なる曝露量比較に留まらず、PD-1受容体占有率の維持という薬理学的メカニズムに基づいた有効性のブリッジングを試みた点で特徴的である。特に、Cminの一時的な低下がPD-1受容体飽和に与える影響を定量的に評価した点は、従来のPK/PD解析に新たな視点を提供するものである。
新規性: 本研究で初めて、ペムブロリズマブの400 mg Q6W投与レジメンが、既存のQ3W投与レジメンと同等の薬物曝露量と安全性プロファイルを保持しつつ、PD-1受容体占有率を臨床的に有効なレベルで維持できることをモデルベース解析により実証した。この知見は、長期間の投与間隔設定における新たな科学的根拠を提示するものであり、これまで報告されていない薬物動態学的特性の解釈を可能にした。
臨床応用: 本知見は、ペムブロリズマブ治療を受ける患者の臨床応用において極めて重要な意義を持つ。Q6W投与の承認は、患者の通院回数削減 (年間17回から8-9回へ)、特に移動困難な患者や遠距離からの通院患者の負担軽減に貢献する。また、医療機関の点滴投与スケジュール、薬剤準備、スタッフ稼働の効率化、および長期投与における医療コスト削減にも繋がる。本スケジュールは後にFDA (米国食品医薬品局) でも承認され、現在では200 mg Q3Wと400 mg Q6Wが共に標準選択肢として使用されており、患者中心の医療提供における臨床的有用性を示すものである。
残された課題: 今後の検討課題として、長期的な実臨床におけるQ6W投与の有効性および安全性プロファイルのリアルワールドデータによる検証が残されている。また、特定の患者集団(例:腎機能障害患者、肝機能障害患者)におけるQ6W投与の最適化についても、さらなる研究が必要である。本研究はモデルベースのシミュレーションに依存しているため、実臨床における大規模な検証が引き続き重要であるというlimitationがある。
方法
集団薬物動態モデルとシミュレーション: 本研究では、メラノーマおよびNSCLC患者を含む5つの臨床試験 (KEYNOTE-001: NCT01295827、KEYNOTE-002: NCT01704287、KEYNOTE-006: NCT01866319、KEYNOTE-010: NCT01905657、NCT02142738) から得られた計2993名の患者データに基づいて確立済みのPPKモデルを使用した。このモデルは、以前Li et al. (J Pharmacokinet Pharmacodyn 2017) で公表されたモデルと類似しているが、同一ではない。本研究は、既存のランダム化比較試験 (RCT) データとモデルベース解析を組み合わせたデザインである。
シミュレーションは100回の反復で実施され、各反復で2993例の患者データが用いられた。評価された薬物動態パラメータは、早期治療期間 (1-6週; wk6) および定常状態 (25-30週; ss) におけるCavg、Cmin、Cmaxである。400 mg Q6Wと200 mg Q3W、2 mg/kg Q3W、および最大臨床投与量である10 mg/kg Q2Wとの比較には、100回シミュレーションの全体幾何平均 (GM) の中央値が使用された。さらに、200 mg Q3Wから400 mg Q6Wに切り替える患者におけるPKシミュレーションも実施し、切り替え後の曝露量プロファイルを評価した。シミュレーションの詳細な方法論については、補足資料に記載されている。
PD-1受容体占有率の推定: 生理学的薬物動態 (PBPK) モデルを用いて、PD-1の平均半減期が約1.4日であることから、受容体占有率の維持を評価した。このモデルは、PD-1のターンオーバー速度とペムブロリズマブの結合動態を考慮し、Cminが一時的に低下する期間においても、PD-1受容体が十分に飽和状態を維持できるかを予測するために用いられた。
安全性プール解析: KEYNOTE-001、KEYNOTE-002、KEYNOTE-006、KEYNOTE-010の4つの臨床試験から、合計2799例の安全性データをプールして解析した。これらの試験では、2 mg/kg Q3W (n=740)、10 mg/kg Q3W (n=1399)、および10 mg/kg Q2W (n=660) の用量が評価されている。プールされたデータを用いて、用量間における免疫関連有害事象 (irAE) および注入関連反応のプロファイルの一貫性を評価した。irAEは、治験依頼者によって事前に定義された用語リストに基づき、治験担当医師による治療への関連性や免疫関連性に関わらず検討された。安全性解析は、少なくとも1回以上のペムブロリズマブ投与を受けた全てのランダム化患者を含む、全患者治療集団 (all-patients-as-treated population) を対象として実施された。統計解析には、記述統計とFisherの正確検定が用いられた。
全適応症への外挿可能性の評価: ペムブロリズマブのPKが腫瘍種間で一貫しており、臨床的に意義のある差がないことが複数の試験から確認されているため、メラノーマおよびNSCLC以外の適応症においても、400 mg Q6W投与が既存のQ3W投与と同様のベネフィット・リスクプロファイルを提供するかどうかを評価した。これは、交差試験、非ランダム化用量比較データに基づく曝露量-有効性評価により、200 mgおよび2 mg/kg Q3Wから10 mg/kg Q2Wまでの5倍の用量範囲または曝露量範囲にわたる一貫したフラットな曝露量-反応関係が示されていることに基づく。