• 著者: E.B. Garon, N.A. Rizvi, R. Hui, N. Leighl, A.S. Balmanoukian, J.P. Eder, A. Patnaik, C. Aggarwal, M. Gubens, L. Horn, et al.
  • Corresponding author: E.B. Garon (David Geffen School of Medicine at UCLA, Los Angeles, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25891174

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は、世界的に癌関連死の主要な原因であり、2010年代前半における標準治療であるプラチナ製剤ベースの化学療法では、生存期間中央値が約1年と限定的であった。このため、より効果的で持続的な治療法の開発が喫緊の課題であった。近年、癌細胞が免疫系から逃れるメカニズムの一つとして、PD-1/PD-L1シグナル経路が注目されていた。PD-1は活性化T細胞に発現する抑制性受容体であり、そのリガンドであるPD-L1またはPD-L2との結合により、細胞傷害性T細胞の応答が阻害される。癌細胞はこの経路を悪用し、T細胞による抗腫瘍活性から逃避することが知られている (Schreiber et al. Science 2011)。

初期の臨床試験では、PD-1阻害薬であるpembrolizumabやPD-L1阻害薬が、非選択の進行NSCLC患者の約20%に持続的な奏効を示すことが報告されていた (Brahmer et al. NEnglJMed 2012Topalian et al. NEnglJMed 2012)。しかし、これらの治療から恩恵を受ける患者を予測するための信頼性の高いバイオマーカーの確立が依然として重要な課題であった。PD-L1の腫瘍細胞発現が治療効果と相関する可能性が示唆されていたものの、最適なカットオフ値や評価方法については未解明であり、その臨床的有用性を検証する必要があった。特に、PD-L1発現レベルと治療効果の関連性を大規模かつ前向きに評価したデータは不足しており、このギャップを埋めることが本研究の重要な動機付けとなった。癌の免疫回避機構に関する理解は深まっていたが (Hanahan et al. Cell 2011)、個々の患者における免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測する具体的なツールは確立されていなかった。また、PD-1/PD-L1経路の阻害が癌治療に革新をもたらす可能性が指摘されていたものの (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)、どの患者が最も効果を得られるかを特定する手段が不足していた。

目的

本研究の目的は、大規模な国際共同第Ib相試験であるKEYNOTE-001において、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対するpembrolizumabの安全性プロファイル、副作用、および抗腫瘍効果を包括的に評価することであった。さらに、pembrolizumabの臨床的有益性と相関するPD-L1発現の最適なカットオフ値を定義し、その予測的価値を検証することも重要な目的とされた。具体的には、免疫組織化学的解析によりPD-L1発現を評価し、トレーニングコホートで最適なカットオフ値を探索した後、バリデーションコホートでそのカットオフ値の有効性を確認することを目指した。これにより、PD-L1をpembrolizumab治療のバイオマーカーとして確立し、患者選択の最適化に貢献することを目指した。本研究は、PD-L1発現を治療効果予測バイオマーカーとして前向きに検証する最初の試みの一つであり、個別化医療の推進に資する知見を提供することを意図した。

結果

全体奏効・生存アウトカム (495例): 全患者495例における客観的奏効率 (ORR) は19.4% (95% CI 16.0-23.2) であった。内訳として、既治療患者394例でのORRは18.0% (95% CI 14.4-22.2)、未治療患者101例でのORRは24.8% (95% CI 16.7-34.3) であった。奏効持続期間中央値は12.5ヶ月 (範囲 1.0-23.3ヶ月) と長く、解析時点での奏効継続率は84.4%と高い持続性を示した。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は全体で3.7ヶ月 (95% CI 2.9-4.1)、既治療患者で3.0ヶ月 (95% CI 2.2-4.0)、未治療患者で6.0ヶ月 (95% CI 4.1-8.6) であった。全生存期間 (OS) 中央値は全体で12.0ヶ月 (95% CI 9.3-14.7)、既治療患者で9.3ヶ月 (95% CI 8.4-12.4)、未治療患者で16.2ヶ月 (95% CI 16.2-未到達) であった。これらの結果は、pembrolizumabが進行NSCLC患者に対して臨床的に意義のある抗腫瘍活性を有することを示唆する。

PD-L1バイオマーカーカットオフの選択と有病率: トレーニンググループ182例のROC解析において、PD-L1 TPS≥50%が最適なカットオフ値として選択された (Figure S3)。このカットオフ値は、使いやすさと奏効予測能に基づいて決定された。トレーニンググループにおけるTPS≥50%の患者でのORR (RECIST中央判定) は36.6% (95% CI 22.1-53.1) であった。スクリーニングされた1,143例中824例で評価可能なPD-L1発現を測定した結果、TPS≥50%の推定有病率は23.2%、TPS 1〜49%は37.6%、TPS<1%は39.2%であった。この分布は、PD-L1高発現患者がNSCLC集団の一部に存在することを示す (Figure 1)。

PD-L1バイオマーカーの検証 (validation group) と生存アウトカム: バリデーショングループ313例 (既治療223例、未治療90例) において、TPS≥50%の73例でのORRは45.2% (95% CI 33.5-57.3) と非常に高率であった。これは既治療患者で43.9% (95% CI 30.7-57.6)、未治療患者で50.0% (95% CI 24.7-75.3) であった。TPS≥50%群のPFS中央値は6.3ヶ月 (95% CI 2.9-12.5) であり、OS中央値は未到達 (95% CI 13.7-未到達) と著しく良好な長期予後を示した (Figure 3, Figure 4)。特に、TPS≥50%群の全生存期間中央値は未到達であり、これはPD-L1低発現群と比較して顕著な改善であった。一方、TPS 1〜49%群やTPS<1%群でもそれぞれORRが認められ、PD-L1が単純な二分法バイオマーカーではないことも示唆された。例えば、TPS 1-49%群のORRは16.5% (95% CI 11.2-23.0) であった。

喫煙歴・組織型・用量・スケジュールの影響: 現在または元喫煙者でのORR (22.5%) は非喫煙者 (10.3%) より高かったが、PD-L1サブグループで補正すると喫煙による差異は消失した。これは、喫煙がPD-L1発現を介して治療効果に影響を与える可能性を示唆する。組織型 (腺癌・扁平上皮癌) 、用量 (2 mg/kgまたは10 mg/kg) 、投与スケジュール (2週ごとまたは3週ごと) による奏効率および毒性の差異は認められなかった。KRAS変異を有する患者ではPD-L1発現が高い傾向が認められたが、EGFR変異患者では明確な差はなかった。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象は全患者の70.9% (351例) に認められた。最も一般的な治療関連有害事象は疲労 (19.4%)、皮膚掻痒 (10.7%)、食欲低下 (10.5%) であった (Table 1)。Grade 3以上の治療関連有害事象は9.5% (47例) と低率であった。免疫関連有害事象として、肺臓炎 (全grade 3.6%、grade 3以上1.8%)、甲状腺機能低下症 (6.9%)、下痢 (8.1%) が認められた。肺臓炎による死亡が1例 (0.2%) 報告された。全体として、pembrolizumabの毒性プロファイルは化学療法と比較して良好であることが示された。

考察/結論

KEYNOTE-001試験は、進行NSCLC患者に対するpembrolizumabの最初の大規模評価であり、持続的な抗腫瘍効果 (奏効持続中央値12.5ヶ月、解析時奏効継続率84.4%) という革新的な特徴を実証した。本研究の最も重要な貢献は、PD-L1 TPS≥50%をpembrolizumab高有効性サブグループのバイオマーカーカットオフとして確立したことである。このカットオフはバリデーショングループで45.2%のORRとして検証され、PD-L1発現がpembrolizumabの治療効果を予測する上で強力な指標となることを明確に示した。

先行研究との違い: これまでの免疫チェックポイント阻害薬の試験では、PD-L1発現と奏効の関連性が示唆されていたものの、本研究のように大規模なコホートで明確なカットオフ値を定義し、それを独立したバリデーショングループで検証した点は、これまでの報告と異なり、PD-L1を実用的なバイオマーカーとして確立する上で画期的な成果である。例えば、先行研究ではPD-L1発現のカットオフ値が統一されておらず、その予測的価値が十分に確立されていなかった。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1 TPS≥50%という明確なカットオフ値が、進行NSCLC患者におけるpembrolizumabの有効性を予測する強力なバイオマーカーとして新規に確立された。この知見は、その後のKEYNOTE-024試験 (一次治療TPS≥50%集団におけるpembrolizumab vs 化学療法) の設計に直接つながり、2016年にpembrolizumabがNSCLC一次治療として承認される礎石となった。これは、個別化医療の進展における重要なマイルストーンである。

臨床応用: 本知見は、進行NSCLC患者の治療戦略に大きな臨床的意義をもたらす。PD-L1 TPS≥50%の患者を特定することで、pembrolizumabによる治療効果を最大限に引き出すことが可能となり、不必要な治療を避けることができる。これにより、臨床現場での患者選択が最適化され、治療成績の向上に貢献する。特に、PD-L1高発現患者ではOS中央値が未到達という結果は、長期生存の可能性を示唆しており、治療選択における重要な情報となる。

残された課題: 一方、TPS<50%の患者でも奏効が観察されることから、PD-L1単独では患者選択が完全ではないことが示唆される。今後の検討課題として、腫瘍変異負荷 (TMB)、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)、遺伝子変異シグネチャーなどの追加バイオマーカーを探索し、PD-L1発現と組み合わせることで、より高精度な患者選択アルゴリズムを開発する必要がある。また、PD-L1発現の動態性や、アーカイブ検体と同時期検体の比較研究も今後の研究方向性として残されている。本試験で確立されたTPS≥50%カットオフは、その後のNSCLC免疫療法試験で広く採用されている。

方法

本研究は、大規模な国際共同第Ib相試験であるKEYNOTE-001の一環として実施された。本試験は、Merck社によって資金提供され、ClinicalTrials.govにNCT01295827として登録されている。対象は、局所進行性または転移性のNSCLC患者495例であり、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、十分な臓器機能を有することが条件とされた。主要評価項目は安全性、副作用プロファイル、および抗腫瘍活性であった。患者はpembrolizumabを、2 mg/kgまたは10 mg/kgを3週ごとに、あるいは10 mg/kgを2週ごとに静脈内投与された。治療は、独立中央判定によるRECIST v1.1に基づく疾患進行、許容できない毒性、または患者の同意撤回まで継続された。

PD-L1発現の評価には、DAKO社製の22C3抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) 法が採用された。結果は、腫瘍細胞膜にPD-L1染色が認められる腫瘍細胞の割合 (Tumor Proportion Score; TPS) として報告された。PD-L1カットオフ値の探索と検証のため、患者はトレーニンググループ (182例) とバリデーショングループ (313例) に割り当てられた。トレーニンググループでは、ROC解析を用いてPD-L1発現と奏効率の相関を評価し、最適なカットオフ値が探索された。その後、バリデーショングループにおいて、このカットオフ値の予測的価値が検証された。

奏効評価は、9週ごとに独立中央判定によるRECIST v1.1基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づいて実施された。有害事象は、NCI-CTCAE v4.0を用いてグレード分類された。統計解析には、奏効率の95%信頼区間 (CI) を算出するための二項正確法、奏効期間、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) の中央値を算出するためのカプラン・マイヤー法が用いられた。PD-L1発現レベルごとの奏効率の差を評価するためには、Cochran-Armitage傾向検定が実施された。