• 著者: Wada H, Miyahara R, Tanaka F, Hitomi S
  • Corresponding author: Hiromi Wada (West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery, Osaka University, Osaka, Japan)
  • 雑誌: European Journal of Cardio-Thoracic Surgery
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (multicenter randomized controlled trial, RCT)
  • PMID: 10371118

背景

完全切除NSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) stage I-IIは根治的手術が可能な集団であるが、術後再発率が高く (stage Iの pT1N0でさえ15-20%、pT2N0で25-40%) 、微小転移病変 (micrometastasis, ミクロ転移) の制御のための術後補助化学療法 (adjuvant chemotherapy, 術後補助療法) の有用性が長年模索されていた。Matthews 1973 (PMID 4580861) は肺癌手術切除標本の組織学的検査で頻繁に残存腫瘍が見つかることを示した先駆的pathology研究で、補助化学療法の必要性を示唆した。Pairolero 1984 (PMID 6512581) はstage I NSCLC切除例の再発パターンを系統的に解析し、遠隔転移が主要な再発様式であることを示した。LCSG (Lung Cancer Study Group, 米国肺癌研究グループ) 1988 (Holmes 1988、PMID 3009726) はstage II/IIIA adenocarcinomaおよびlarge cell carcinomaに対する CAP (cisplatin + adriamycin + cyclophosphamide) 補助療法でDFS improvement (HR 0.79) を示したが、OS有意差は示さなかった。Niiranen 1992 (PMID 1333518) はランダム化試験でCAP 6サイクル補助療法のstage I 5年OS improvement (67% vs 56%) を示した先行研究の一つである。日本では1990年代にcisplatin + vindesine + mitomycin C (PVM, 当時の日本標準) レジメンが肺癌化学療法のスタンダードとして使用されており、UFT (uracil + tegaful、経口5-FU prodrug、Fujii 1979 PMID 381088でuracil-tegaful相乗効果報告) は経口フッ化ピリミジン系薬剤として長期維持療法に適していた。西日本肺癌外科研究グループ WJSG (West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery) はWada et al. JThoracCardiovascSurg 1996 でstage III/IVに対するPVM+UFT補助療法を検討し、subgroup-level benefitを示唆していた。これまでの研究で何が足りなかったかというgapを整理すると、(a) より早期 (stage I-II) の完全切除NSCLCに対する術後補助化学療法のOS benefitの直接的エビデンスが不足し未解明、(b) 日本固有のregimen (PVM + UFT) のefficacyが大規模RCTで未解明、(c) サブグループ (T-stage・組織型) 別の利益分布が体系的に評価されていない点が未解明、の3点であった。本WJSG試験はこれら3つのgapを完全切除NSCLC stage I-II集団のRCTで検証する目的で実施された。

目的

完全切除stage I-II NSCLC患者において、PVM (cisplatin 80 mg/m² + vindesine 2-3 mg/m² + mitomycin C 8 mg/m²) を2サイクル + UFT (400 mg/day経口、1年間維持) の術後補助化学療法が、手術単独と比較して5年OS (overall survival) ・5年DFS (disease-free survival) を改善するかをintention-to-treat解析で検証すること。副次目的はサブグループ別 (pT stage・pN stage・組織型) のtreatment effect heterogeneity評価、コンプライアンス・安全性profile。

結果

5年OSと5年DFS — 全体集団では有意差なし: 5年OSは化学療法群76.8% (95% CI 67.5-84.8%) ・手術単独群71.1% (95% CI 62.1-79.0%) でHR 0.79 (95% CI 0.49-1.28、log-rank P=0.39) と有意差なし (Fig 1、Table 1)。5年DFSも化学療法群74.1% (95% CI 64.8-82.2%) ・手術単独群69.8% (95% CI 60.6-77.8%) でHR 0.82 (95% CI 0.51-1.32、P=0.46) と有意差なし。全体としてPVM+UFT術後補助化学療法の統計的有意なOS改善は示されなかった (chemotherapy vs control)。

病期別・組織型別サブグループ解析 — pT1N0で有意改善: pT1N0サブグループ (n=116, 化学療法n=58 vs 手術単独n=58) の5年OSは化学療法群90.7% vs 手術単独群75.3%でHR 0.32 (95% CI 0.11-0.93、P=0.03) と有意な絶対差15.4%の改善 (Fig 2、Table 2)。一方、より進行のサブグループでは: pT2N0でOS 74.8% vs 67.7% (HR 0.81, P=0.51)、pT1N1で57.1% vs 50.0% (HR 0.96, P=0.97)、pT2N1で52.8% vs 50.0% (HR 0.95, P=0.85)。組織型別では腺癌 (n=140) で73.8% vs 67.2% (HR 0.83, P=0.51) 、扁平上皮癌 (n=70) で77.7% vs 78.4% (HR 1.02, P=0.99) と組織型による差はなし。pT1N0 (最早期病期) でのみ有意改善が観察された (subgroup vs overall comparison)。

治療コンプライアンスと毒性:PVM投与完了率94.5% (n=103/109)、UFT完了率78.8% (n=86/109)、平均UFT累積投与量127.6±75.3 g (target 146 gに対する達成率87%、Table 3)。再発率は化学療法群24.8% (n=27/109) ・手術単独群29.3% (n=34/116) と化学療法群でやや低値 (Table 4)。Grade 2以上血液毒性 (好中球減少・血小板減少・貧血) 発生率は85.6% (n=93/109、主にPVM期の最初の8週) 、Grade 3以上は42.2% (n=46/109) 。化学療法関連死n=0、UFT中止に至る肝障害n=8 (7.3%)、Grade 2以上の悪心・嘔吐n=72 (66.1%、後の制吐療法時代と比較すると高頻度)。再発部位の内訳は局所n=8 (29.6%) ・縦隔n=4 (14.8%) ・肺n=6 (22.2%) ・脳n=4 (14.8%) ・骨n=3 (11.1%) ・肝n=2 (7.4%) (化学療法群、Table 4) で、手術単独群と比較して脳転移が約30%減少。なお化学療法群のEarly mortality (90日以内) はn=2 (1.8%、両者ともnon-treatment-related)、手術単独群はn=3 (2.6%) と差なし。Late toxicity (12か月以降) として末梢神経障害n=12 (11%、vindesine関連) ・腎機能低下 (Cr ≥1.5x baseline) n=6 (5.5%、cisplatin関連) が認められた。

長期follow-upによる再発時期分布と二次がん: 再発は主に2-3年目に集中し (化学療法群中央値22か月 vs 手術単独群中央値19か月、HR 0.85, 95% CI 0.51-1.42, P=0.54)、5年以降の遅延再発はn=4 (1.8%) のみ。Second primary cancerの発生は化学療法群でn=7 (6.4%) ・手術単独群でn=9 (7.8%)で差なし。最頻部位は肺 (n=8) ・胃 (n=4) ・大腸 (n=3) ・前立腺 (n=1) であり、UFTを含むfluoropyrimidine長期投与が二次癌リスクを増加させる懸念は本試験では示されなかった (P=0.68)。10年OS追跡データはavailable subset (n=180) で化学療法群62.3% vs 手術単独群55.2% (HR 0.83, 95% CI 0.55-1.26, P=0.38) と5年OSの傾向を維持したが、サンプルサイズ縮小により統計的有意差は得られなかった。

考察/結論

本WJSG試験は1990年代の日本における完全切除NSCLC術後補助化学療法の主要な無作為化試験のひとつであり、全体的なOS改善の非達成 (P=0.39) ながら pT1N0サブグループでの有意改善 (P=0.03、HR 0.32) という興味深い結果を示した。これまでの研究と比較すると、LCSG 1988 (Holmes、stage II/IIIA) ・LCSG 1990 (Feld、stage I CAP補助療法) ・JCOG 8806 (Ohta et al. JClinOncol 1996 のstage III RCT) が異なるstage群でnegativeまたはmarginal benefitを示したのと相違する点として、本試験はWada et al. JThoracCardiovascSurg 1996 のstage III/IVでのpositive subgroup findingに続き、より早期 (stage I-II) のpopulationで「最早期 (pT1N0) のみが選択的に利益を得る」というnovelなsubgroup-specific patternを示した点が新規である。これは「微小残存病変の絶対量が少ない早期病変ほど化学療法の根絶効果が相対的に大きい」という生物学的仮説と整合する。先行研究のOhta et al. JClinOncol 1996 のstage III JCOGがHR 0.96でnegativeだったのと相違して、本試験は早期病期で初めて positive subgroup effectを示した。臨床応用および臨床的意義の観点では、この知見は後のLACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) メタ解析 (Pignon 2008 JCO、シスプラチンベース術後化学療法のOS改善: HR 0.89、95% CI 0.82-0.96、P=0.005、stage IB/II/IIIで一貫した改善示唆) の先駆けとなる情報を提供し、JBR.10試験 (Winton 2005 NEJM、stage IB-II cisplatin+vinorelbine、HR 0.69、p=0.04) およびANITA試験 (Douillard 2006 LancetOncol、stage IB-IIIA cisplatin+vinorelbine、HR 0.80、p=0.017) の理論的根拠形成にも貢献した。bench-to-bedside translationとして、術後補助化学療法 stage IB-II標準化のevidence baseの一翼を担った歴史的に重要な試験である。pT1N0での選択的有効性は、微小残存病変の多いN0早期病変で術後化学療法による根絶効果が相対的に大きい可能性を示唆するが、サンプルサイズ (探索的解析、各n=58) の限界を考慮した解釈が必要である。1990年代のシスプラチンベースレジメン (PVM) の毒性プロファイル (Grade 2以上血液毒性85.6%) と現代の術後補助療法 (atezolizumab・osimertinib等) の安全性・有効性のギャップは大きく、本試験の歴史的意義は現代の補助療法戦略の出発点として理解すべきである。残された課題と今後の展望 (limitation) として、(i) 全体ITT解析でのnegative outcome (P=0.39) のため、pT1N0改善はexploratory subgroup findingに留まる、(ii) UFTのadditional contribution (vs PVM alone) が試験デザイン上検証できない、(iii) modern molecular subtype分類 (EGFR・ALK・KRAS変異) 別の予測解析が時代的に不可能、(iv) modern adjuvant standardとして確立されたcisplatin+vinorelbine (LACE meta-analysis標準) ・atezolizumab (IMpower010) ・osimertinib (ADAURA、EGFR陽性) との直接比較不能、(v) 患者報告アウトカム (PRO, patient-reported outcome) の欠如、(vi) survival analysisでcompeting risk (other cause mortality) を考慮しないsimple Kaplan-Meier法、(vii) 1985-1990年の登録のため現代の手術技術 (video-assisted thoracoscopic surgery) ・staging (FDG positron emission tomography) の進歩を反映しない、が挙げられる。本試験は完全切除NSCLC術後補助化学療法のregimen選択における日本人エビデンスの基盤として位置付けられ、現代のIMpower010・ADAURA時代の補助療法戦略構築の土台となった。

方法

試験デザインと対象: 多施設前向きランダム化比較試験 (West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery, WJSG主催) 。1985年-1990年に登録、完全切除 (R0 resection) NSCLC stage I-II (1997年版TNM分類) を対象。組織学的にNSCLC (腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌・腺扁平上皮癌) と確定。全例で標準的開胸肺葉切除 + 系統的縦隔リンパ節郭清を施行。除外基準: 他の術前/術後治療歴、PS 3以上、活動性合併症。N=229を登録 (適格n=225) し、化学療法群n=109・手術単独群n=116に1:1中央割付 (層別化因子: ステージ・組織型・施設) 。

化学療法レジメン: PVM = Day 1にcisplatin 80 mg/m² i.v. + vindesine 2-3 mg/m² i.v. + mitomycin C 8 mg/m² i.v.、Day 8にもvindesine追加投与可、4週毎を2サイクル施行 (合計8週間)。その後、UFT (uracil + tegaful 4:1 molar ratio) 400 mg/day経口を1年間継続投与 (maintenance phase)。Total UFT cumulative dose target 146 g (400 mg × 365 day)。

主要評価項目: 5年OS。副次評価項目: 5年DFS、サブグループ別 (pT1N0/pT2N0/pT1N1/pT2N1) ・組織型別 (腺癌 vs 扁平上皮癌) OS、コンプライアンス (PVM completion rate, UFT cumulative dose)、毒性 (NCI-CTC v1.0、Grade 2以上発生率)。

統計: Kaplan-Meier法 + log-rank test (生存解析)、Cox proportional hazards regressionでHR (hazard ratio) ・95% CIを算出、chi-square test (頻度比較) 、両側p<0.05を有意水準とした。中間解析: なし (固定sample size、α=0.05)。Cell line・mouse strain・NCT番号は対象外 (1990s前向きRCTでNCT登録制度導入前)。試験はWJSG中央事務局で監督、各参加施設のIRB (Institutional Review Board) 承認下に実施、全例から文書同意取得。Statistical analysis softwareはSAS v6.12を使用。