• 著者: Hamada C, Tanaka F, Ohta M, Fujimura S, Kodama K, Imaizumi M, Wada H
  • Corresponding author: Chikuma Hamada (Faculty of Engineering, Tokyo University of Science, Tokyo, Japan); Hiromi Wada, MD
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 16051951

背景

テガフール・ウラシル配合経口薬 (UFT: tegafur-uracil) は、5-フルオロウラシル (5-FU) の前駆体であるテガフールとその代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ (DPD) 阻害剤ウラシルを4:1のモル比で配合した経口フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬である。UFTの経口長期投与によって一定の血漿中FU濃度が維持され、微小転移を抑制する機序が想定された。進行・再発非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するUFTの奏効率は約7%と低いが、術後補助化学療法という微小残存病変制御を目的とした使用場面では異なる役割が期待された。

完全切除NSCLCに対する術後補助化学療法の標準化は1990年代から2000年代前半の主要課題であった。1995年のメタ解析 (NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995) において、シスプラチンベース補助化学療法でハザード比 (HR) 0.87 (p=0.08) の有意でない傾向が示されたが、含まれた症例数は少なく、確定的な結論には至らなかった。2004年のIALT試験 (Arriagada et al. NEnglJMed 2004) は、シスプラチンベース補助化学療法の初めての大規模陽性試験として注目を集め、5年生存率44.5%対40.4% (p<0.03) を報告した。同時期に報告されたNCIC-JBR.10試験では、シスプラチンとビノレルビンの併用がpStage IB-II患者において5年生存率69%対54% (HR 0.69, 95% CI 0.52-0.92, p=0.011) をもたらし、CALGB-9633試験ではカルボプラチンとパクリタキセルの併用がpStage IB患者において4年生存率71%対59% (HR 0.62, 95% CI 0.41-0.95, p=0.028) を示した。これらの成績は、シスプラチンベース補助化学療法の有効性を確立した。

一方、日本では1985年からUFTを用いた術後補助化学療法の複数のランダム化比較試験 (RCT) が独立して実施されていた。WJSG (West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery) 第2試験 (Wada et al. JClinOncol 1996) はUFTによる術後補助化学療法の有効性を初めて示したが、個々の試験は規模が限られており一般化可能性に制限があった。複数の個別試験の中には陽性結果を示すものもあれば陰性のものもあり、統合的なエビデンスの構築が急務であった。また、要約データを使用した非個人患者データ (IPD) メタ解析は限界が指摘されており、個人データに基づくメタ解析の実施が科学的必然性をもって求められた。これまでの要約データに基づく解析では、部分集団解析や多変量解析、意図した治療 (ITT: intent-to-treatment) 解析を厳密に行うための情報が不足しており、統計的な信頼性が不十分であるという課題があった。特に、早期肺癌におけるUFTの真の生存ベネフィットや、組織型・病期ごとの詳細な効果の違いについては不明な点が多く、議論がcontroversialな状態であった。このような背景から、個々の患者の追跡データを直接統合する個人患者データメタ解析の実施が必要不可欠とされた。

目的

本研究の目的は、日本国内で実施された完全切除後の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とする、テガフール・ウラシル (UFT) 術後補助化学療法に関する複数のランダム化比較試験 (RCT) から個人患者データ (IPD) を収集・統合し、手術単独群と比較してUFT投与が全生存期間 (OS: overall survival) を統計的に有意に改善するかどうかを検証することである。さらに、収集した詳細な個人データを活用し、患者の年齢、性別、組織型 (腺癌や扁平上皮癌など)、および病理学的病期 (pStage、特にpT因子やpN因子) に応じたサブグループ解析および交互作用検定を実施することで、UFTによる術後補助療法の恩恵を最も強く受ける特定の患者集団を同定し、臨床現場における個別化治療の指針を確立することを目指す。本メタ解析は、複数の小規模試験のデータを統合することで、統計的検出力を大幅に向上させ、早期肺癌患者における術後補助化学療法の真の有効性を明らかにすることを企図している。

結果

患者背景および臨床的特性: 本メタ解析には、1985年12月から1997年3月までに登録された総計 2,082 例の患者データが収集された。このうち適格基準を満たした 2,003 例 (手術単独群 n=1,002、UFT群 n=1,001) が主解析の対象となった (Table 1)。追跡期間中央値は 6.44 年であった。登録患者の臨床的特徴として、組織型は腺癌が 1,679 例 (83.8%) と圧倒的多数を占め、扁平上皮癌は 299 例 (14.9%)、その他は 25 例 (1.2%) であった (Table 2)。病期は早期がんが大半であり、病理学的T因子は pT1 が 1,308 例 (65.3%)、pT2 が 674 例 (33.6%)、その他が 21 例 (1.0%) であり、リンパ節転移陰性 (pN0) は 1,923 例 (96.0%) に達した。最大規模のJLCRG試験 (n=979) がpStage I腺癌のみを対象としていたため、全体の患者構成も早期腺癌に偏る結果となったが、治療群間における年齢 (平均 62.3 歳 vs 62.0 歳)、性別、組織型、pT、pNなどの主要予後因子の分布に有意な偏りは認められなかった (Table 2)。

UFT投与による全生存割合の有意な改善: 主要評価項目である全生存期間 (OS) において、UFT群は手術単独群と比較して統計的に有意な生存ベネフィットを示した (Figure 2)。5年生存率は 81.8% vs 77.2% であり、UFT群において 4.6% の生存率向上が認められた (p=0.011)。さらに長期の7年生存率においては、76.5% vs 69.5% となり、生存率の差は 7.0% に拡大した (p=0.001)。固定効果モデルを用いた全体統合解析における死亡のハザード比は HR 0.74 (95% CI 0.61-0.88, p=0.001) であり、UFT投与により死亡リスクが 26% 有意に低下することが示された (Figure 3)。試験間の異質性は認められず (p=0.79)、ランダム効果モデルを用いた解析でもほぼ同一の結果が得られた。また、不適格例を含む全ランダム化患者 2,082 例を対象とした意図した治療 (ITT) 解析においても、HR 0.76 (95% CI 0.64-0.90, p=0.005) と有意な生存改善効果が維持され、主解析結果の極めて高い頑健性が確認された。

多変量解析による独立した予後改善効果の検証: 年齢 (69歳以下 vs 70歳以上)、性別、組織型 (腺癌 vs 扁平上皮癌・その他)、pT因子 (T1 vs T2-4)、pN因子 (N0 vs N1-3)、および治療群 (手術単独 vs UFT) の6つの共変量を含めたCox比例ハザードモデルによる多変量解析を実施した。その結果、UFTによる治療効果は他の主要な背景因子を調整した後も、HR 0.75 (95% CI 0.63-0.90, p=0.002) と有意な独立した予後改善因子であることが証明された。この結果は、患者背景の不均一性を考慮しても、UFT術後補助化学療法が完全切除後のNSCLC患者において一貫して有効な治療介入であることを裏付けるものである。

組織型および病期別のサブグループ解析: 組織型別のサブグループ解析において、腺癌 (n=1,679) では HR 0.69 (95% CI 0.56-0.85, p<0.001) と極めて顕著な生存改善効果が認められた (Figure 4)。一方、扁平上皮癌 (n=299) におけるハザード比は HR 0.82 (95% CI 0.57-1.19, p=0.30) であり、統計的な有意差を証明するには至らなかった。病理学的T因子別では、pT1 (n=1,308) において HR 0.73 (95% CI 0.56-0.93, p=0.012) と有意な生存改善が示され、pT2 (n=674) においても HR 0.78 (95% CI 0.60-1.01, p=0.059) と改善の傾向が認められた。組織型やpT因子、年齢、性別の各因子と治療効果との間に統計的に有意な交互作用は検出されず、UFTの生存改善効果は特定のサブグループに限定されるものではなく、全体として一貫した傾向を有していることが示唆された。

特徴的な生存曲線の分離パターンと毒性プロファイル: 本メタ解析におけるカプランマイヤー生存曲線は、術後約4年が経過するまでは両群の曲線がほぼ重なり合って推移し、4年から5年以降になって初めて明確に分離し始めるという極めて特徴的な遅延型のパターンを示した (Figure 2)。これは、シスプラチンベースの強力な多剤併用化学療法を短期間行う試験で見られる早期の曲線分離とは対照的である。毒性に関しては、本メタ解析では個別データの直接統合は行わなかったが、各個別試験の報告に基づくと、UFT投与に伴う主な有害事象は悪心、下痢、肝機能異常などであり、Grade 3または4の重篤な毒性の発現頻度は 3% 未満と極めて低かった。治療関連死の報告はなく、1〜2年間にわたる長期の経口投与における良好な認容性と安全性が確認されている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、要約データのみを用いた従来の非個人データメタ解析と異なり、日本国内で実施された6つのRCTから2,003例の個人患者データ (IPD) を直接収集して統合解析を行った。これにより、要約データに基づく解析では不可能であった詳細なサブグループ解析や多変量解析、および厳密なITT解析が可能となり、統計的信頼性が極めて高いエビデンスを構築した。また、同時代に欧米で報告されたシスプラチンベースの術後補助化学療法に関する臨床試験 (例えば、IALT試験やNCIC-JBR.10試験など) が主にpStage IB〜IIIAの進行した病期を対象としていたのに対し、本解析は主としてpStage I (特にpStage IA) という極めて早期の肺腺癌患者を対象としている点が大きく異なる。さらに、シスプラチンベースの治療が30%〜50%に及ぶ重篤な急性毒性を伴うのに対し、UFTはGrade 3以上の毒性が3%未満と極めて低毒性であり、経口で1〜2年間の長期投与が可能であるという点で、先行する多剤併用静注化学療法とは対照的なアプローチを提示している。

新規性: 本研究は、完全切除後のNSCLC患者 (特にpStage I腺癌) において、UFTによる術後補助化学療法が手術単独と比較して長期生存割合を統計的に有意に改善することを、個人患者データメタ解析のレベルで本研究で初めて証明した。特に、5年生存率 (81.8% vs 77.2%) および7年生存率 (76.5% vs 69.5%) の双方において有意な改善を示し、死亡リスクを26%低減させること (HR 0.74, 95% CI 0.61-0.88, p=0.001) を頑健なデータをもって明らかにした。また、術後4年以降に生存曲線が分離し始め、5年から7年にかけてベネフィットが拡大するという遅延型の生存改善パターンを新規に同定したことは、UFTが微小転移の長期抑制を介して作用するという生物学的メカニズムを臨床データから強く支持するものである。

臨床応用: 本解析の結果は、早期肺癌治療における術後補助療法の選択肢として、低毒性な経口フッ化ピリミジン系薬剤の投与が極めて有用であることを示しており、実際の臨床現場における治療方針の決定に多大な影響を与えた。特に、日本の肺癌診療ガイドラインにおいて、完全切除後のpStage I (特にpStage IB) 肺腺癌に対するUFT術後補助化学療法が標準治療として推奨される決定的な科学的根拠となった。この知見の臨床的意義は極めて大きく、シスプラチンなどの強力な多剤併用静注化学療法の適応となりにくい高齢者や、軽微な副作用での治療継続を望む早期肺癌患者に対して、安全かつ有効な治療選択肢を提供するという臨床的有用性を確立した。患者の治療選択に関しても、約85%の患者が同等の有効性を有する治療法の選択肢が与えられた場合、経口投与を注射療法よりも選好することが報告されており、UFTの利便性と安全性の組み合わせは患者QOLの観点からも重要な臨床的含意を有する。

残された課題: 本研究における最大のlimitationであり、今後の検討課題として挙げられるのは、解析対象となった患者集団の80%以上が腺癌であり、かつ大半がpStage I (特にN0) の早期症例に偏っている点である。このため、扁平上皮癌や大細胞癌などの非腺癌組織型、あるいはpStage II〜IIIの進行症例におけるUFTの有効性については、本解析のデータのみでは十分に評価できず、依然として課題が残されている。また、本解析に含まれる試験はすべて日本国内で実施されたものであり、欧米人種をはじめとする異なる民族集団における外的妥当性や有効性については未解明な部分が多い。したがって、UFTの有効性を世界的に検証するためには、欧米の患者集団を対象とした国際共同前向き臨床試験の実施など、今後の研究による検証が必要である。

方法

メタ解析の設計と試験選択: 2002年8月に東京理科大学においてメタ解析プロトコールを策定し、日本国内で実施されたUFT含有術後補助化学療法の全RCT 9試験をMEDLINE検索および専門家への問い合わせにより同定した。本研究は個人患者データ (IPD) に基づくメタ解析であり、各試験の principal investigator から全ランダム化患者の詳細なデータの提供を受けた。

包含・除外基準: 完全切除NSCLC、手術単独群との直接比較、および術後5年以上の追跡期間を満たす試験を包含した。1試験 (弘前大学試験) は手術単独群がないため除外。2試験 (中部日本試験、およびシスプラチン+ビンデシン+マイトマイシンC後にUFTを投与したWJSG第3試験 (Wada et al. EurJCardiothoracSurg 1999]) は、化学療法群がUFT単独ではなくシスプラチンベース化学療法後のUFT継続という設計であったため除外した。また、三アーム試験であるWJSG第2試験およびACTLC (Adjuvant Chemotherapy for Lung Cancer Study Group) 試験においては、シスプラチンベース化学療法後にUFTを投与した第3アームのデータは除外し、手術単独群とUFT単独群の2アーム間比較データのみを抽出して解析対象とした。

採用試験と対象患者: 最終的に包含されたのは、WJSG第2試験、WJSG第4試験 (Nakagawa et al. AnnOncol 2005)、東北日本試験、大阪肺癌研究グループ試験、ACTLC試験、およびJLCRG (Japan Lung Cancer Research Group) 試験 (Kato et al. NEnglJMed 2004) の6試験である。共通の適格基準は、組織学的に確認されたNSCLC、pStage I〜III、完全切除、年齢76歳未満、前治療なし、重複癌なし、および同意取得済みであることとした。全6試験において、ランダム化は登録センターでの中央ランダム化 (電話またはファクシミリ) により行われた。UFTの投与方法は、1日あたり400〜600 mg の経口投与を1〜2年間継続するものとした。

統計解析: 個人患者データ (IPD) に基づき、SAS (version 8.2) を用いて解析を行った。主要評価項目は全生存期間 (OS) とし、生存時間の推定には Kaplan-Meier 法を用いた。治療群間のハザード比 (HR) の算出および異質性の評価には、試験を層別因子とした Cox proportional hazards regression (コックス比例ハザード回帰モデル) を用いた。試験間の治療効果の異質性は、自由度5の尤度比検定を用いて評価した。全体統合効果の検定は、実質的に試験層別 log-rank test と等価な固定効果モデルを用いて行った。また、年齢 (69歳以下 vs 70歳以上)、性別、組織型、病理学的T因子 (pT1 vs pT2) によるサブグループ解析および交互作用検定を実施した。さらに、年齢、性別、組織型、pT、pN、治療群の6因子を共変量とした多変量解析を行い、治療効果の独立性を検証した。解析は適格患者を対象とした主解析に加え、不適格例を含む全ランダム化患者を対象とした意図した治療 (ITT) 解析も実施し、結果の頑健性を評価した。生存期間は手術日から死亡日までの期間として定義され、生存中の患者データは最終確認日で打ち切りとした。有意水準は両側検定で p<0.05 とした。