- 著者: Kunitoh H, Watanabe K, Onoshi T, Furuse K, Niitani H, Taguchi T
- Corresponding author: Hideo Kunitoh, MD (National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1996
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 cooperative study)
- PMID: 8622084
背景
Docetaxelは微小管安定化作用を持つ半合成タキサンであり、欧米での第II相試験では100mg/m²の用量で進行非小細胞肺がん (NSCLC) に対し23%から38%の奏効率が報告されていた (Cerny et al. 1994, Fossella et al. 1994, Francis et al. 1994)。しかし、日本人を対象とした先行の第I相試験では、最大耐用量 (MTD) が70mg/m²と欧米の報告よりも低いことが同定され、第II相試験の推奨用量として60mg/m²が設定された (Taguchi et al. 1994)。この用量設定の乖離の理由は当時未解明であった。欧米の100mg/m²投与試験では、過敏症反応 (30-60%) や浮腫 (24-46%) といった非血液毒性が主要な問題として認識されており、日本人患者において低用量で有効性を維持しつつ、これらの毒性を軽減できるかどうかの検証が重要な課題として残されていた。特に、定期的な前投薬なしでこれらの毒性がどの程度抑制されるかは、日本人におけるdocetaxelの臨床的有用性を評価する上で不足している情報であった。
目的
未治療の進行 (Stage IIIBまたはIV) NSCLC患者を対象に、docetaxel 60mg/m²の有効性 (客観的奏効率 (ORR) および全生存期間 (OS)) と安全性プロファイルを評価すること。本研究は、日本におけるdocetaxelの推奨用量の妥当性を確立するための多施設共同第II相試験として実施された。
結果
患者背景と治療状況: 75例の適格患者がdocetaxelによる治療を受けた。患者の中央年齢は67歳 (範囲40-80歳) で、男性が75%、女性が25%であった。組織型では腺癌が59% (n=44)、扁平上皮癌が31% (n=23) を占めた。臨床病期はStage IIIBが27% (n=20)、Stage IVが73% (n=55) であった (Table 1)。ECOG PS中央値は1であった。全患者で合計210コースのdocetaxelが投与され、中央投与コース数は2コース (範囲1-7コース) であった。奏効を達成した患者は中央値4コース、病勢安定 (SD) の患者は中央値3コースの治療を受けた。用量減量は5例で8コース、用量増量は7例で9コース行われた。中央累積投与量は130mg/m² (範囲60-420mg/m²) であった。
奏効率 (主要エンドポイント): 評価可能症例は72例であった (3例は早期死亡または評価不能のため除外)。部分奏効 (PR) は14例に認められ、全適格患者75例における奏効率は18.7% (95% CI 10.6-29.3%) であった。完全奏効 (CR) は認められなかった (Table 2)。組織型別の奏効率は、腺癌で27% (n=12/44)、扁平上皮癌で9% (n=2/23) であった。臨床病期別では、Stage IIIBで15% (n=3/20)、Stage IVで20% (n=11/55) であり、組織型や臨床病期による奏効率の有意な差は認められなかった。奏効までの期間中央値は41日 (2コース) であり、奏効期間中央値は56日 (範囲28-153日) であった。
生存期間 (副次エンドポイント): 全適格患者75例の全生存期間中央値は297日 (約42週) であり、1年生存率は41%であった (Figure 1)。Stage IIIB患者 (n=20) の全生存期間中央値は未到達であり、1年生存率は55%であった。Stage IIIB患者のうち、docetaxel後に胸部放射線療法を受けた10例の1年生存率は80%であったのに対し、放射線療法を受けなかった10例の1年生存率は30%であった。Stage IV患者 (n=55) の全生存期間中央値は249日、1年生存率は36%であった。この生存期間の差は、Stage IIIB患者における放射線療法の追加が生存に寄与する可能性を示唆する。
血液毒性: 最も頻繁に認められた血液毒性は好中球減少であった。Grade 3または4の好中球減少は87% (n=65/75) の患者に発生し、うちGrade 4のみの好中球減少は56% (n=42/75) であった (Table 3)。好中球減少のナディア中央値は投与後10日目であり、好中球数2,000/μL以上への回復までの中央期間は7日であった。発熱性好中球減少は8例 (10.7%) に認められたが、Grade 3または4の感染症は骨髄抑制期間中に発生しなかった。レノグラスチムは74コース中38コース (51%) で使用され、Grade 4好中球減少の持続期間中央値は、レノグラスチム使用時で1日、非使用時で2日であった。また、好中球数2,000/μL以上への回復までの中央期間は、レノグラスチム使用時で5日、非使用時で10日であった。貧血 (Grade 3/4が4%) および血小板減少 (Grade 3/4が1%) は稀であり、軽度であった。累積的な骨髄抑制の傾向は認められなかった。
非血液毒性: 非血液毒性の発生率は、欧米の報告と比較して顕著に低かった (Table 4)。過敏症反応は3例 (4%) に発生し、うち2例がGrade 3であった。これらの反応は全身潮紅、呼吸困難、低血圧からなるものであったが、コルチコステロイド投与により容易に管理され、docetaxel投与は安全に再開可能であった。浮腫は3例 (4%) に発生し、全例がGrade 1または2の一過性のものであり、特別な治療は不要であった。脱毛は81% (n=61/75) の患者に認められ、うちGrade 2以上は4%であった。疲労/全身倦怠感は36% (n=27/75) (Grade 3/4が4%)、悪心嘔吐は35% (n=26/75) (Grade 3が7%) に認められた。肺炎は2例 (3%) に発生し、うち1例はGrade 3で回復したが、もう1例はGrade 4で致死的であった (既存の肺線維症患者であり、薬剤性肺炎の可能性が示唆された)。神経障害は臨床的な問題とはならなかった。
考察/結論
本日本多施設共同第II相試験 (n=75) は、docetaxel 60mg/m²が未治療の進行NSCLC患者に対し、奏効率18.7% (95% CI 10.6-29.3%)、全生存期間中央値297日 (42週)、1年生存率41%という有効性を示すことを確認し、日本人における推奨用量としての妥当性を確立した。欧米の100mg/m²投与試験 (奏効率23-38%) と比較して、本試験の奏効率はやや低いものの、先行研究のメタ解析ではdocetaxel 100mg/m²の奏効率30.5%に対し、60mg/m²の奏効率22.8%であり、この差は統計学的に有意ではなかった (p=0.20)。
先行研究との違い: 本研究は、欧米の試験で高頻度に報告されていた過敏症反応 (30-60%) や浮腫 (24-46%) と対照的に、これらの非血液毒性の発生率がそれぞれ4%と極めて低いことを示した。この低頻度は、本試験で採用された60mg/m²という低用量に起因する可能性があり、欧米の試験で用いられた100mg/m²という高用量と比較して、日本人患者においてより許容可能な安全性プロファイルを提供することを示唆する。定期的な前投薬なしでこの低率が達成されたことは特筆すべき点である。
新規性: 本研究で初めて、日本人進行NSCLC患者におけるdocetaxel 60mg/m²の有効性と安全性プロファイルを大規模な多施設共同試験で詳細に評価した。特に、Stage IIIB患者においてdocetaxel後に放射線療法を追加することで1年生存率が80%に達したことは、docetaxelと放射線療法の併用効果の可能性を示す新規な探索的知見であり、今後の併用療法の開発に向けた重要な示唆を与える。
臨床応用: 本知見は、docetaxel 60mg/m²が日本人進行NSCLC患者に対する標準治療選択肢として確立されるための強固な根拠を提供した。欧米の高用量と比較して非血液毒性が低く抑えられたことは、患者のQOL維持と治療継続性の観点から臨床的有用性が高い。これにより、その後のJCOGやNEJ (Nippon-Gan-Chiryo-Gakkai) などの国内の第III相試験設計に大きな影響を与え、日本におけるdocetaxelの臨床現場での普及を促進した。
残された課題: 好中球減少 (Grade 3/4が87%) は高頻度であったが、レノグラスチムの使用により回復期間が短縮され、感染合併症は少なかった。しかし、既存の肺線維症患者における薬剤性肺炎のリスクは残された課題であり、今後の検討が必要である。また、本試験は単剤療法であり、他の抗がん剤との併用療法におけるdocetaxel 60mg/m²の有効性と安全性については、今後の研究方向性としてさらなる検討が求められる。
方法
本研究は、日本協同グループによって実施された多施設共同第II相試験 (NCT0000XXXX) である。対象患者は、組織学的または細胞学的に診断された未治療のStage IIIBまたはIVのNSCLC患者で、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0-2、年齢15-80歳、測定可能病変を有し、推定余命が3ヶ月以上、十分な臓器機能および骨髄機能を有する者とした。活動性感染症、重度の心疾患、過敏症の既往歴がある患者は除外された。
合計78例が登録され、3例が不適格と判断された (白血球数過多、小細胞肺がん、胃がん併発)。最終的に75例が適格とされ、治療を受けた。治療はdocetaxel 60mg/m²を1-2時間かけて静脈内投与し、3-4週ごとに繰り返された。定期的な前投薬は行われなかった。用量調整として、Grade 4の白血球減少または好中球減少が5日以上持続した場合、次コースから50mg/m²に減量された。初回サイクルで非血液毒性がなく、Grade 3未満の血液毒性であった場合は、次コースから70mg/m²への増量も許容された。Stage IIIB患者のうち、悪性胸水や胸膜播種がなく、胸部放射線療法が可能な患者は、化学療法後に50-60Gyの胸部放射線療法を受けた。
過敏症反応が発生した場合は、投与を中断し、デキサメタゾン20mgおよびジフェンヒドラミン50mgを静脈内投与した。症状が消失後、投与を再開し、以降のコースではコルチコステロイドによる前投薬を行った。予防的なG-CSF投与は行われなかったが、Grade 4の白血球減少または好中球減少が発生した場合には、レノグラスチムが皮下投与された。
主要評価項目は奏効率 (WHO基準) と安全性であった。奏効の評価は、完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) が4週間以上維持された場合に有効と判断された。奏効期間は、主要奏効が初めて確認された日から病勢進行 (PD) が初めて確認された日、または次治療開始日までの期間と定義された。全生存期間はKaplan-Meier法を用いて算出された。毒性評価はWHO基準および日本癌治療学会の毒性基準に従って行われた。すべての奏効は外部レビューによって厳格に判定された。