• 著者: Kiyotaka Yoh, Yukio Hosomi, Kazuo Kasahara, Kazuhiko Yamada, Toshiaki Takahashi, Nobuyuki Yamamoto, Makoto Nishio, Yuichiro Ohe, Toshiko Koue, Takashi Nakamura, Sotaro Enatsu, Pablo Lee, David Ferry, Tomohide Tamura, Kazuhiko Nakagawa
  • Corresponding author: Kiyotaka Yoh (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27565938

背景

血管内皮増殖因子 (VEGF) 経路は、がん治療において重要な標的である。Ramucirumabは、VEGF受容体-2 (VEGFR-2) の細胞外ドメインに高親和性で結合し、VEGF-A/C/Dの結合と活性化を阻害する完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体である。これまでの研究では、ramucirumabが進行胃がん/胃食道接合部がん、または結腸直腸がん患者において、二次治療として単剤またはパクリタキセルとの併用で生存期間を改善することが示されている。非小細胞肺がん (NSCLC) においても、第III相REVEL試験では、プラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行したStage IV NSCLC患者において、ramucirumab 10mg/kgとドセタキセル 75mg/m²の併用療法が、プラセボとドセタキセル併用と比較して全生存期間 (OS) を有意に延長することが示された。具体的には、OS中央値はramucirumab-ドセタキセル群で10.5ヶ月、プラセボ-ドセタキセル群で9.1ヶ月であり、ハザード比 (HR) は0.86 (95% CI 0.75-0.98, p=0.023) であった Garon et al. Lancet 2014

しかし、REVEL試験では東アジア人患者の登録が限定的であり、特にドセタキセル 60mg/m²(日本の承認用量)で治療された患者は、試験途中のプロトコル改訂により新たに登録されたアジア人患者24例のみであった。このため、ドセタキセル 60mg/m²とramucirumabの併用における有効性および安全性に関するデータは不足していた。日本人のNSCLC患者では、EGFR遺伝子変異陽性率が非東アジア人よりも高く (26-49%)、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) が一次治療として推奨されている Paez et al. Science 2004。しかし、EGFR野生型患者に対する二次治療の選択肢は限られているのが現状である。ドセタキセルは、プラチナ製剤治療後に進行したNSCLC患者に対する標準的な二次治療薬として承認されており Fossella et al. JClinOncol 2000、EGFRステータスや組織型に依存しない効果が期待されている Scagliotti et al. Oncologist 2009

日本人患者では、ドセタキセル 75mg/m²の投与で好中球減少症や発熱性好中球減少症の発生率が高いことが報告されており、60mg/m²が推奨用量とされている Kunitoh et al. JClinOncol 1996。REVEL試験の東アジア人サブグループでも、ドセタキセル 75mg/m²投与群で好中球減少症および発熱性好中球減少症の発生率が増加したことが示されている。このような背景から、日本人患者におけるramucirumabとドセタキセル 60mg/m²併用療法の有効性と安全性を確認することは、臨床現場への適用において重要な課題であった。特に、REVEL試験で得られた結果が日本人集団にも一貫して適用可能であるか、また日本人特有の安全性プロファイルが管理可能であるかについては、未解明な点が残されていた。

目的

本研究の目的は、プラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行した日本人Stage IV非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、ramucirumab 10mg/kgとドセタキセル 60mg/m²の併用療法が、プラセボとドセタキセル 60mg/m²の併用療法と比較して、その有効性および安全性を評価することである。主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) とし、副次評価項目として全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR) および安全性を評価した。また、本試験の結果が国際共同第III相REVEL試験の結果と一貫性を示すか検証し、日本人患者におけるドセタキセル 60mg/m²併用時のramucirumabの臨床的ベネフィットを明確にすることを目的とした。さらに、EGFR遺伝子変異陽性でEGFR-TKI前治療歴のある患者を探索的集団として組み入れ、このサブグループにおけるramucirumab併用療法の効果も評価した。

結果

患者背景: 主要集団では160例がランダム化され、157例が治療を受けた (ramucirumab-ドセタキセル群n=76、プラセボ-ドセタキセル群n=81)。患者の年齢中央値は約65歳、男性が77%を占め、ECOG PS 1の患者が55-60%であった。喫煙歴のある患者は82%、非扁平上皮がんが88%であり、EGFR野生型が92-95%であった。前治療としてベバシズマブ投与歴のある患者は約30%、タキサン系薬剤投与歴のある患者は29-32%であった。両群間でベースラインの患者背景因子にバランスが取れていた (Table 1)。探索的集団にはn=37例が登録され、ramucirumab-ドセタキセル群n=19例、プラセボ-ドセタキセル群n=18例が治療を受けた。

主要評価項目であるPFS: 主要集団におけるPFS中央値は、ramucirumab-ドセタキセル群で5.22ヶ月 (95% CI 3.52-6.97)、プラセボ-ドセタキセル群で4.21ヶ月 (95% CI 2.83-5.62) であった。層別ハザード比 (HR) は0.83 (95% CI 0.59-1.16) であり、ramucirumab群で約1ヶ月のPFS延長が認められた (Fig. 3)。独立評価委員会 (IRRC) による感度分析では、PFS中央値はramucirumab-ドセタキセル群で5.75ヶ月 (95% CI 4.30-7.29)、プラセボ-ドセタキセル群で4.07ヶ月 (95% CI 2.83-5.62) であり、HR 0.70 (95% CI 0.50-1.00) と、より顕著な差が示された。

全生存期間 (OS): OS中央値は、ramucirumab-ドセタキセル群で15.15ヶ月 (95% CI 12.45-26.55)、プラセボ-ドセタキセル群で14.65ヶ月 (95% CI 11.93-24.44) であった。層別HRは0.86 (95% CI 0.56-1.32) であった (Fig. 4)。両群の絶対OSは、REVEL試験の全体集団 (10.5ヶ月 vs 9.1ヶ月) と比較して4-5ヶ月長く、これは日本人集団の予後良好性 (EGFR変異率、後治療到達率、全身状態など) を反映していると考えられる。試験中止後の後続全身療法使用率は、ramucirumab-ドセタキセル群で67.1%、プラセボ-ドセタキセル群で74.1%と両群で類似していた。

腫瘍奏効: 客観的奏効率 (ORR) はramucirumab-ドセタキセル群で28.9% (95% CI 19.1-40.5)、プラセボ-ドセタキセル群で18.5% (95% CI 10.8-28.7) であり、病勢コントロール率 (DCR) はそれぞれ78.9% (95% CI 68.1-87.5) と70.4% (95% CI 59.2-80.0) であった。Ramucirumab群で数値的に高い奏効が認められた。IRRCによる評価でも、ORRはramucirumab群で26.3% (95% CI 16.9-37.7)、プラセボ群で19.8% (95% CI 11.7-30.1) と、同様の結果が得られた。両群ともに完全奏効 (CR) 例は報告されなかった。

探索的集団 (EGFR変異陽性、EGFR-TKI前治療あり) における効果: EGFR変異陽性でEGFR-TKI前治療歴のある探索的集団n=37例では、PFS中央値はramucirumab-ドセタキセル群で5.65ヶ月、プラセボ-ドセタキセル群で4.37ヶ月と、ramucirumab群で優位な傾向が示された。ORRはramucirumab群で44.4%、プラセボ群で41.2%、DCRはそれぞれ88.9%と76.5%であった。OS中央値はプラセボ-ドセタキセル群で17.28ヶ月 (95% CI 7.06-未到達) であったが、ramucirumab-ドセタキセル群ではイベント数が不十分なため算出できなかった (n=18例中6例の死亡)。12ヶ月OS率はramucirumab-ドセタキセル群で88.9% (95% CI 62.4-97.1)、プラセボ-ドセタキセル群で58.8% (95% CI 32.5-77.8) と、数値的に顕著な差が認められ、EGFR変異陽性患者においてもramucirumab-ドセタキセルの臨床的ベネフィットが示唆された。

安全性プロファイル: 全ての患者で少なくとも1つの有害事象 (AE) が報告され、ほとんどの患者でGrade ≥ 3のAEが報告された (Table 2)。最も頻繁に報告されたAEは血液毒性であり、特に好中球減少症 (Grade ≥ 3: ramucirumab群89.5% vs プラセボ群90.1%) および白血球減少症 (ramucirumab群69.7% vs プラセボ群71.6%) が両群で同程度に高頻度であった。非血液毒性AEで最も多かったのは、脱毛症、食欲減退、口内炎であった。発熱性好中球減少症 (FN) の発生率は、ramucirumab-ドセタキセル群で34.2%、プラセボ-ドセタキセル群で19.8%と、ramucirumab群で高かった。これはREVEL試験の全体集団 (ramucirumab群16% vs プラセボ群10%) よりも両群で高い値であり、日本人集団のドセタキセルに対する感受性を示唆している。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の使用率は、ramucirumab群で43.6%、プラセボ群で36.7%であった。出血事象はramucirumab群で51.3% (主に鼻出血47.4%)、プラセボ群で28.4%とramucirumab群で高かったが、Grade ≥ 3の出血事象はramucirumab群で2.6%、プラセボ群で0%と低頻度であった。蛋白尿 (ramucirumab群26.3% vs プラセボ群9.9%)、高血圧 (ramucirumab群7.9% vs プラセボ群0%)、口内炎 (ramucirumab群50.0% vs プラセボ群28.4%) もramucirumab群でやや高頻度であった。間質性肺疾患 (ILD) の発生率は、ramucirumab群で10.5%、プラセボ群で7.4%と両群で同程度であった。ILDモニタリング委員会は、ramucirumab群のILD関連イベント8例中2例でびまん性肺胞傷害パターンを認め、これらは解析時点で回復傾向にあったと報告した。重篤なAEの発生率は両群で類似しており (ramucirumab群28.9% vs プラセボ群33.3%)、最も頻繁に報告された重篤なAEは発熱性好中球減少症であった (ramucirumab群10.5% vs プラセボ群6.2%)。治療関連死は各群で1例ずつ報告された。

考察/結論

先行研究との違い: 本第II相試験の結果、プラチナ製剤治療後に増悪した日本人Stage IV NSCLC患者において、ramucirumab 10mg/kgとドセタキセル 60mg/m²の併用療法は、プラセボとドセタキセル 60mg/m²の併用療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を約1ヶ月延長した (HR 0.83, 95% CI 0.59-1.16)。このPFSの改善は、国際共同第III相REVEL試験で示されたPFS延長 (HR 0.76) と一貫した有効性を示しており、日本人患者においてもramucirumab併用療法の臨床的ベネフィットが維持されることを確認した。全生存期間 (OS) のハザード比も0.86 (95% CI 0.56-1.32) であり、客観的奏効率 (ORR) もramucirumab群で28.9% vs プラセボ群18.5%と、REVEL試験の結果と整合的であった。

新規性: この結果は、日本で承認されているドセタキセル 60mg/m²の用量においてもramucirumab併用の臨床的ベネフィットが維持されることを明確に示し、日本における実地臨床への適用に直接的な根拠を提供した点で新規性がある。安全性プロファイルは、これまでのramucirumabおよびドセタキセルの主要試験で確立されたものと一貫していた。発熱性好中球減少症 (FN) の発生率はramucirumab群で34.2%と、REVEL試験全体 (16%) や日本人患者を対象としたドセタキセル単剤の第III相試験 (7.1%) と比較して高かった。しかし、本試験における全てのFNはGrade 3であり、ほとんどの症例で回復し、治療中止に至ったのは1例のみであったことから、G-CSFによる一次予防的投与や厳格なモニタリング体制を構築することで管理可能であると考えられる。これは、日本人患者におけるドセタキセル感受性の高さと、それに対する適切なマネジメントの重要性を示唆する。

臨床応用: 探索的集団であるEGFR遺伝子変異陽性でEGFR-TKI前治療歴のある患者においても、PFS、ORR、DCR、およびOSの数値的優位性が示唆された点は、今後の治療戦略を検討する上で重要な臨床的含意を持つ。この知見は、後にramucirumabとエルロチニブの一次治療併用を評価したRELAY試験の臨床的根拠の一つとなった可能性もある。本試験およびREVEL試験の結果に基づき、ramucirumabとドセタキセルの併用療法は、プラチナ製剤治療後の日本人NSCLC患者に対する標準治療選択肢の一つとして2016年に日本で承認された。

残された課題: 本研究の限界としては、第II相デザインであるためサンプルサイズが限定的 (n=157) であり、PFSのHRの95% CIが1を跨いでいる (0.59-1.16) ため、統計的有意差の確認には至らなかった点が挙げられる。また、先行するベバシズマブ治療後のramucirumabの効果検証には十分な統計的検出力が不足していた可能性もある。今後の検討課題として、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 時代におけるramucirumabとドセタキセルの位置付け、ICI治療後のサルベージ療法としての有効性、およびRELAY試験のようなTKI併用戦略のさらなる評価が残されている。

方法

本研究は、2012年12月19日から2015年5月22日にかけて日本の28施設で実施された、ランダム化二重盲検プラセボ対照第II相多施設共同試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01703091) である。試験はヘルシンキ宣言およびGCP (Good Clinical Practice) の原則に従って実施され、全ての施設で治験審査委員会 (IRB) の承認を得た。全患者は、試験関連手技の前に書面によるインフォームドコンセントを提供した。

患者選択: 主要集団は、組織学的または細胞学的にStage IV NSCLCと診断され、1レジメンのプラチナ製剤ベースの化学療法 (維持療法を含む) 後に病勢進行した患者で、EGFR-TKI単剤による前治療歴がない者を対象とした。探索的集団は、EGFR遺伝子変異陽性で、プラチナ製剤ベースの化学療法およびEGFR-TKI単剤による前治療歴がある患者を対象とした。適格基準には、20歳以上の男女、ECOG Performance Status (PS) 0または1、RECIST Version 1.1で定義される測定可能病変、十分な臓器機能、および前治療による全ての臨床的に有意な有害事象がGrade ≤ 1 (NCI-CTCAE Version 4.0) に回復していることが含まれた。前治療としてベバシズマブの使用は許容された。除外基準には、未治療の中枢神経系転移、主要血管浸潤、著しい腫瘍内空洞、既存の間質性肺疾患 (ILD)、過去3ヶ月以内の重篤な出血性疾患、過去6ヶ月以内の動脈血栓塞栓症または消化管穿孔/瘻孔、過去2ヶ月以内の喀血、ramucirumabまたはドセタキセルの前治療歴などが含まれた。

治療プロトコル: 患者は、ramucirumab 10 mg/kgまたはプラセボを60分かけて点滴静注し、その後ドセタキセル 60 mg/m²を60分かけて点滴静注する治療を、21日サイクルのDay 1に病勢進行または許容できない毒性が発現するまで投与された (Fig. 1)。主要集団のランダム化は、ECOG PS (0/1)、性別 (女性/男性)、および前維持療法の有無 (あり/なし) で層別化された1:1の割り付け (IVRS: Interactive Voice Response Systemを使用) で行われた。探索的集団は層別化されずにランダム化された。盲検性を維持するため、ramucirumabとプラセボは外観が同一に調製された。治療サイクルの開始は、プロトコルで規定された事象からの回復のため最大2週間遅延可能であった。

評価項目: 主要評価項目は、主要集団における無増悪生存期間 (PFS) であり、ランダム化から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目は、主要集団における全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR: 完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR] の患者割合)、および病勢コントロール率 (DCR: CR、PR、または安定 [SD] の患者割合) であった。探索的集団においても、PFS、OS、ORR、DCRが評価された。有効性評価には、治験責任医師による腫瘍評価が用いられた。ベースライン時に胸部および上腹部のCTまたはMRI、脳の造影CTまたはMRIが必須であった。腫瘍評価は、初回投与後6週間 (±3日) ごとに、画像診断による病勢進行が確認されるまで実施された。独立評価委員会 (IRRC: Independent Response Review Committee) がCTおよびMRIデータをレビューし、腫瘍評価を行った。有害事象 (AE) は、各来院時に収集され、MedDRA Version 17.1の用語でコード化され、NCI-CTCAE Version 4.0の基準でグレード分類された。

統計解析: 主要評価項目である主要集団のPFS解析には、154例 (134イベント) のサンプルサイズが設定された。これは、真のHRを0.8 (PFS中央値3.75ヶ月 vs 3ヶ月) と仮定した場合に、推定HRが1未満となる確率が90% (推定HRが0.9未満となる確率が77%) となるように算出された。探索的集団のサンプルサイズは40例と設定され、ramucirumab-ドセタキセル群とプラセボ-ドセタキセル群で真のORRをそれぞれ20%と10%と仮定した場合に、ramucirumab-ドセタキセル群でより良い推定値が得られる確率が81%となるように計算された。主要評価項目であるPFSは、Kaplan-Meier法を用いて解析され、治療効果のHRおよび95%信頼区間 (CI) は、ランダム化に使用された層別因子を用いた層別Cox比例ハザードモデルにより推定された。OSも同様の方法で解析された。腫瘍奏効率 (ORRおよびDCR) は95% CIとともに報告された。統計解析はSASソフトウェア (SAS, Version 9.2) およびSigma Plot™ (San Jose, CA, USA) を用いて実施された。