- 著者: Park JO, Kim SW, Ahn JS, Suh C, Lee JS, Jang JS et al.; Keunchil Park (corresponding author)
- Corresponding author: Keunchil Park, MD, PhD (Samsung Medical Center、Seoul、Korea)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2007
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 3 randomized noninferiority trial)
- PMID: 18024869
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) (Stage IIIB-IV) に対する初回プラチナ含有化学療法の最適な投与サイクル数は、長年にわたり議論されてきた未解決の課題であった。2002年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO) ガイドラインでは、プラチナ2剤併用療法を最大6サイクル、奏効患者であってもそれ以上は投与しないことを推奨しているが、この推奨の根拠となった臨床試験は、いずれも少数の比較にとどまり、最適なサイクル数を定量的に決定するには至っていなかった。過剰なサイクル数の化学療法は、骨髄抑制、腎毒性、神経毒性、QOL (Quality of Life) 低下などの累積毒性を引き起こし、その後の二次治療への移行を困難にする可能性がある。一方で、より多くのサイクルを投与することで、疾患進行を遅らせ (TTPの延長)、全生存期間 (OS) を改善できる可能性も指摘されていた。この相反する懸念のバランスを評価し、早期に化学療法を中止し二次治療へ早期に移行する戦略が生存面で有利であるかを検証することが求められていた。
さらに、本研究はプラチナ系化学療法の最適サイクル数をアジア人 (韓国人) コホートで初めて検証した試験として位置付けられる。アジア系患者は、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR TKI) (gefitinibなど) への感受性が高いことが知られており、三次治療としてのgefitinibの寄与もOSに影響を与える可能性があった。先行研究では、人種・民族性が予後因子として十分に検討されていなかったため、アジア人集団における化学療法の有効性と忍容性の潜在的な差異を評価することは重要な課題であった。また、本研究は独自の試験デザインを採用した。具体的には、初回2サイクル後に非増悪 (部分奏効 [PR] または安定 [SD]) であった患者のみをランダム化することで、より均質な患者集団を形成し、厳密な比較を可能とした。これにより、治療効果の希釈効果を最小限に抑え、治療継続の真の利益を評価できると期待された。これまでの試験では、治療開始時からランダム化が行われていたため、早期に増悪する患者も含まれてしまい、治療効果の評価が複雑になるという不足があった。これまでの研究では、最適な治療期間に関する明確な結論が未確立であり、特にアジア人集団におけるデータが不足していた。
目的
本研究の目的は、進行NSCLC (Stage IIIB-IV) 患者において、プラチナ系第三世代化学療法2サイクル後に非増悪 (PRまたはSD) であった患者を対象に、追加で4サイクル (合計6サイクル、Arm A) を実施する群と、追加で2サイクル (合計4サイクル、Arm B) を実施する群のOSを比較し、4サイクルで中止する戦略が6サイクル継続と比較して非劣性であることを検証することである。主要評価項目はOSの非劣性であり、副次評価項目として無増悪生存期間 (TTP)、奏効率、毒性、二次治療移行率、およびQOL (EORTC QLQ-C30/LC13) を多面的に評価し、4サイクルで中止する戦略の合理性を検証することを目指した。特に、アジア人コホートにおける最適な治療期間を特定し、人種・民族性が治療結果に与える影響についても考察することを意図した。本研究は、韓国における進行NSCLC患者に対する初回化学療法の最適な期間を明確にすることを目的とした。
結果
患者特性と治療完了率: 登録された452例中、2サイクル後に138例 (30.5%) が増悪し、314例 (69.5%) がランダム化された。ランダム化された患者の特性は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。Arm A (6サイクル群、n=158) では74.1% (117例) が5サイクル以上、91.2% (144例) が4サイクル以上を完了した (中央値6サイクル)。Arm B (4サイクル群、n=156) では92.3% (144例) が計画された4サイクルを完了した (中央値4サイクル)。両群ともに90%以上の患者が少なくとも4サイクルの化学療法を受けた。相対投与量強度は両群で90%を超えていた。
OS (主要評価項目: 非劣性確認): 全てのランダム化された患者がintention-to-treat解析に含まれた。中央観察期間は12.2ヶ月 (範囲 2.3〜31.5ヶ月) であった。Arm AのmOSは14.9ヶ月 (95% CI 13.0〜16.8ヶ月) であり、Arm BのmOSは15.9ヶ月 (95% CI 12.4〜19.4ヶ月) であった (log-rank P=.461)。両群間でOSに統計学的な有意差は認められなかった。1年OS率はArm Aで59.0%、Arm Bで62.4%であり、その差は3.4% (95% CI -8.0〜14.8) であった。この差は事前に規定された非劣性マージン15%を満たしており、4サイクル群の6サイクル群に対するOSの非劣性が確認された。2年OS率もArm Aで31%、Arm Bで33%とほぼ同等であった。Cox回帰分析によるハザード比はHR 0.98 (95% CI 0.75〜1.27, P=.461) であり、複数の統計手法で非劣性が頑健に確認された (Figure 2B)。
TTP (副次評価項目: 6サイクル優位): 中央TTPはArm Aで6.2ヶ月 (95% CI 5.7〜6.7ヶ月)、Arm Bで4.6ヶ月 (95% CI 4.4〜4.8ヶ月) であり、Arm Aで統計学的に有意な延長が認められた (P=.001) (Figure 2A)。この1.6ヶ月のTTP延長は、OSの改善には繋がらなかった。ランダム化時の2サイクル後の奏効状況 (PR vs SD) 別のサブグループ解析では、PR例においてArm AのmTTPが7.4ヶ月、Arm Bが5.8ヶ月であり、SD例ではArm Aが4.8ヶ月、Arm Bが3.9ヶ月であった。いずれのサブグループでも6サイクル群でTTPが数値上優位であったが、OSの群間差はPR例 (P=.86) でもSD例 (P=.26) でも有意ではなかった。PS、病期、組織型、投与レジメン (cisplatin+paclitaxel/docetaxel/gemcitabine) 別の全てのサブグループ解析においても、一貫してOSの非劣性が確認された (Figure 2C)。
二次治療移行率と三次治療: 二次治療の施行率はArm Aで62.7% (99/158例)、Arm Bで74.4% (116/156例) であり、Arm Bで有意に高率であった (P=.026) (Table 4)。二次治療の主要レジメンはdocetaxel (Arm A 33.3%、Arm B 43.1%) であり、Arm Bでdocetaxelの使用率が有意に高かった (P=.046)。その他、gemcitabine、gefitinib、pemetrexedなどが使用された。三次治療の施行率はArm Aで38.0% (60例)、Arm Bで44.9% (70例) であり、有意差はなかった (P=.236)。三次治療ではgefitinibが両群の約80〜85%を占めていた。Arm BではArm Aと比較して、化学療法中止から二次治療開始までの期間が短縮されており、TTP延長にもかかわらずOSが均等化した主な要因であると著者らは考察している。
QOL評価: QOLデータは311例から前向きに収集され、77.1%が完全解析可能であった。ベースラインのQOLサブスケールに両群間で差はなかった。4サイクル完了時点まではQOLに有意な群間差は認められなかった。しかし、4サイクル完了時点から3ヶ月後にかけての変化では、Arm B (4サイクル群) の患者はArm A (6サイクル継続群) と比較して、役割機能 (role functioning) の有意な改善を示した (P<.05)。症状スコアでは、悪心・嘔吐、口腔内炎、呼吸困難のいずれもArm Bで有意に低値であった (P<.05)。これは、追加の2サイクルが症状の悪化に寄与することを示唆している。感情的機能、疲労、疼痛、食欲不振については、両群間で4サイクル完了前後を通じて有意差はなかった。
毒性: Grade 3/4の好中球減少はArm Aで12.7%、Arm Bで9.6%であり、有意差はなかった (P=.36)。Grade 3/4の貧血はArm Aで9.5%、Arm Bで0.6%であり、Arm Aで有意に高率であった (P=.002)。Grade 3/4の嘔吐はArm Aで1.9%、Arm Bで3.2%であり、有意差はなかった (P=.41)。発熱性好中球減少はArm Aで2.5%、Arm Bで1.9%であった。致死的な毒性は報告されなかった (Table 3)。両群ともに相対投与量強度は90%以上を達成しており、高い投与量コンプライアンスが維持された。Arm Aで追加2サイクルにより貧血の累積的な増加が有意に認められた点は注目に値する。
考察/結論
先行研究との違い: 本試験は、進行NSCLC患者においてプラチナ系第三世代化学療法を4サイクルで中止する戦略が、6サイクル継続と比較してOSにおいて非劣性であることを、アジア人コホートとして初めて示した。mOSは4サイクル群で15.9ヶ月、6サイクル群で14.9ヶ月であり、差は1.0ヶ月であった。特筆すべきは、6サイクル群でTTPが有意に延長 (6.2ヶ月 vs 4.6ヶ月、P=.001) したにもかかわらず、OSが同等であった点である。著者らはその理由として、4サイクル早期中止群における二次治療移行率の有意な向上 (74.4% vs 62.7%、P=.026) を主因に挙げている。毒性やPSの低下が、6サイクル群で二次治療を受ける患者が少なかった理由であると考えられる。本研究は、先行する西洋人集団での試験 (Smith et al. JClinOncol 2001、Socinski et al. JClinOncol 2002) でも短期化学療法とOSの非劣性が示されていたが、これらと異なり、初回2サイクル後に非増悪であった患者のみをランダム化することで、より均質な患者集団を構成し、治療効果の希釈効果を最小限に抑えた。
新規性: 本研究で初めて、アジア人集団におけるプラチナ併用化学療法の最適な治療期間を検証し、高い治療遵守率 (90%以上) を達成した。これは、過去の西洋試験 (約30〜40%) を大幅に上回るものである。この高いコンプライアンスは、アジア人の薬物代謝や毒性プロファイルの差異を反映する可能性があり、著者らはERCC2などの薬理遺伝学的多型の関与を新規に示唆している。また、三次治療としてのgefitinib使用率が約80〜85%と極めて高く、アジア系患者におけるEGFR TKIへの高感受性が総生存に貢献した可能性が考えられる。これは、Thatcher et al. Lancet 2005 などで示されたアジア人におけるEGFR TKIの有効性と一致する所見である。
臨床応用: 本研究結果は、現在のASCOガイドライン (初回化学療法は4〜6サイクル、奏効例でも6サイクルを超えない) を支持する強力なエビデンスの一つとなる。4サイクルでの中止は、(1) QOLの改善 (悪心・嘔吐、呼吸困難、役割機能の有意な改善)、(2) 二次治療への早期アクセス確保、(3) 累積毒性の軽減という3つの臨床的利点を提供する。免疫療法が導入された現代においても、化学療法と免疫療法の併用における最適なサイクル数設定 (4サイクル vs 6サイクル誘導、その後のメンテナンス療法への移行) に関するエビデンスとして、本研究は依然として臨床現場で参照価値を持つ。
残された課題: 本試験の残された課題およびlimitationとして、(1) 韓国単一民族コホートであるため、他民族への結果の一般化には注意が必要である点、(2) gefitinibが三次治療の主体となった時期の試験であり、現代の治療体系 (特に一次治療でのEGFR TKIや免疫療法の導入) とは乖離がある点、(3) OSをランダム化前の2サイクルも含む全体の文脈で解釈する必要がある点が挙げられる。しかし、TTP延長がメンテナンス療法戦略への前段として有用であるという著者らの指摘は、細胞傷害性化学療法後の毒性の少ない薬剤によるメンテナンスという概念の先駆的提言として歴史的意義を有する。今後の検討課題として、分子標的薬をメンテナンス療法として統合する新たな治療戦略が、特にアジア太平洋地域において積極的に検討されるべきである。
方法
本研究は、韓国の15施設で実施された多施設共同前向きランダム化第III相非劣性試験である。2002年9月から2004年12月にかけて、合計452例の患者が登録された。本試験は、韓国癌研究グループ (Korean Cancer Study Group) のプロトコル審査委員会および各施設の治験審査委員会によって承認された。
患者選択: 組織学的に確認されたStage IIIB (悪性胸水あり) またはStage IV NSCLC患者で、化学療法未施行、ECOG PS 0〜2、および十分な臓器機能 (好中球数 ≥ 1,500/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、クレアチニン ≤ 2 × ULN、クレアチニンクリアランス ≥ 60 mL/min、ビリルビン ≤ 1.5 × ULN、AST ≤ 2.5 × ULN) を有する患者が対象とされた。脳転移のある患者は除外された。全ての患者はQOL評価への参加と書面によるインフォームドコンセントが義務付けられた。
治療レジメン: 適格患者は、まずcisplatin 70 mg/m² (day 1) と、paclitaxel 175 mg/m² (day 1)、docetaxel 75 mg/m² (day 1)、またはgemcitabine 1,000 mg/m² (day 1, 8) のいずれかのプラチナ2剤併用療法を3週サイクルで2サイクル施行された。
ランダム化: 初回2サイクル後に疾患進行が認められなかった314例の患者が、さらに4サイクル追加 (合計6サイクル、Arm A) または2サイクル追加 (合計4サイクル、Arm B) のいずれかの群にランダムに割り付けられた (Figure 1)。ランダム化は、施設、PS (0-1 vs 2)、2サイクル後の奏効状況 (PR vs SD)、病期 (IIIB vs IV) で層別化された。治療は、最大サイクル数に達するか、疾患進行、許容できない毒性、または患者の治療拒否が発生するまで継続された。
評価項目: 主要評価項目はOSであった。非劣性マージンは1年生存率の差15%以内、ハザード比 (HR) ≤ 1.33、差分8週以内と事前に規定された。副次評価項目には、TTP、奏効率、毒性、二次治療移行率、およびQOLが含まれた。QOLは、EORTC QLQ-C30および肺癌特異的モジュールQLQ-LC13 Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993 を用いて、ベースライン、3サイクル目、5サイクル目、4サイクル完了3週後、および3ヶ月後に前向きに収集された。
統計解析: サンプルサイズは、片側検定p=0.05、検出力80%で、1年生存率の差15%の非劣性マージンに基づき、各群109例、合計218例と算出された。2サイクル後の疾患進行率40%を見込み、目標登録患者数は452例と設定された。OS曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定 (log-rank test) で比較された。サブグループ解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が用いられた。QOL解析では、QOLスコアの平均変化が2つの期間 (ベースラインから4サイクル完了まで、および4サイクル完了から3ヶ月後まで) に分けて算出され、反復測定共分散分析 (analysis of covariance with repeated measures) を用いて群間の差が比較された。毒性はNCI Common Toxicity Criteria version 2.0に従って評価された。