- 著者: Ciuleanu T, Socinski MA, Obasaju C, Luft AV, Szczesna A, Szafrański W, Ramlau R, Bálint B, Molinier O, Depenbrock H, Nanda S, Paz-Ares L, Thatcher N
- Corresponding author: Tudor Ciuleanu, MD, PhD (Institute of Oncology Ion Chiricuta and UMF Iuliu Hatieganu, Cluj-Napoca, Romania)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-10-13
- Article種別: Original Article (Phase III 試験の後向きサブグループ解析)
- PMID: 29158123
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は全肺癌の 85-90% を占め、その内訳は腺癌 32-40%、扁平上皮癌 25-30% であり、組織型別の治療選択が予後改善の鍵となる (Jemal et al. CA Cancer J Clin 2011)。腺癌では pemetrexed 維持療法 (PARAMOUNT 試験で mOS 13.9 vs 11.0ヶ月、HR 0.78, 95%CI 0.64-0.96) (Paz-Ares et al. J Clin Oncol 2013、Paz-Ares et al. Lancet Oncol 2012) や bevacizumab/erlotinib 維持などの新規維持療法戦略が承認・推奨され OS 延長が示されたが、扁平上皮 NSCLC では同様の維持戦略の確立が遅れていた (Johnson et al. JClinOncol 2014)。扁平上皮 NSCLC では epidermal growth factor receptor (EGFR) の蛋白過剰発現が約 95% の症例で認められ、増殖シグナルとして病態形成に寄与する。ネシツムマブは第2世代の完全ヒト型抗 EGFR IgG1 モノクローナル抗体で、第III相 SQUIRE 試験 (Thatcher et al. LancetOncol 2015) において gemcitabine + cisplatin (GC) との併用で対照 GC 単剤に対し mOS 11.5 vs 9.9ヶ月 (HR 0.84, 95%CI 0.74-0.96, p=0.01) と有意な OS 改善を示し 2015 年に米国 FDA 承認された (Park et al. JClinOncol 2007 では誘導後 2 サイクル追加と 4 サイクル追加の比較が行われ、4 サイクル超の延長は毒性に見合う利益が乏しいことが示された)。一方で SQUIRE プロトコルは 6 サイクルの誘導完了後に増悪のない necitumumab 群では単剤継続が許容されていたが、本試験は 継続維持効果を単独で評価する設計ではなく、また腺癌主体の従来維持療法エビデンスを扁平上皮 NSCLC にそのまま外挿できる根拠も不足していた。これまで扁平上皮特異的な分子標的維持療法の有効性・安全性データが手薄で、また EGFR 発現の予測価値も未解明であり (knowledge gap)、ネシツムマブ継続単剤療法が survival benefit を維持するか、また EGFR 発現が予測バイオマーカーとして機能するかという臨床上の重要な未解決問題が残されていた。
目的
SQUIRE 第III相試験において、necitumumab + GC 誘導 4 サイクル以上完了後に増悪のなかった患者に対する necitumumab 単剤継続療法の有効性 (OS, PFS) と安全性を、GC 単剤誘導 4 サイクル以上完了後に増悪・AE による中止のなかった対照群と比較する。さらに事前計画した探索的解析として EGFR 発現陽性サブグループ (EGFR > 0) における継続療法の有用性を評価する。
結果
ベースライン特性と治療曝露:継続群 (n=261) と GC 非増悪群 (n=215) の年齢中央値 62 歳 (両群同一)、男性比 81% 対 89%、白人 82% 対 85%、ECOG PS 0-1 が 93% 対 95% と概ねバランスが取れていた (Table 1)。EGFR 発現陽性サブグループ (n=228 対 n=194) も同様にバランスが保たれていた (Supplemental Table 1)。組織検体は 1,093 例中 982 例 (90%) で IHC 評価可能、その 95% (935 例) が EGFR > 0、解析対象集団でも継続群の 87% (228/261)、対照群の 90% (194/215) が EGFR 発現陽性であった。Gemcitabine と cisplatin の中央値サイクル数はいずれも 6 サイクル、相対用量強度はそれぞれ 87% および 94% で群間に差はなかった (Supplemental Table 2)。継続群の necitumumab 全体投与中央値は 10 サイクル (range 5-45)、継続フェーズのみでは 4 サイクル (range 1-41)、相対用量強度は全体で 96%。
ITT (全集団) における主要有効性:継続群の median OS は 15.9ヶ月 vs GC 非増悪群 15.0ヶ月 で HR 0.85 (95%CI 0.69-1.05) と有意差には到達しなかった (Figure 2A)。多変量調整後 HR も 0.85 (95%CI 0.69-1.06) と一致。Post-induction 起算 mOS は 11.5 vs 10.9ヶ月、HR 0.84 (95%CI 0.68-1.04)。Median PFS (無作為化起算) は 7.4 vs 6.9ヶ月、HR 0.86 (95%CI 0.70-1.06)、post-induction 起算 PFS は 3.2 vs 2.3ヶ月、HR 0.85 (95%CI 0.70-1.04) (Figure 2B)。死亡は継続群 190/261 (73%)、対照群 162/215 (75%)、計 352 件 (74%) が発生した。HR 点推定値は一貫して continuation favor の方向を示すが信頼区間上限が 1.0 を僅かに超える pattern であった。
EGFR 発現陽性サブグループ (EGFR > 0) における有効性:継続群 n=228 vs GC 非増悪群 n=194 における median OS は 16.1ヶ月 vs 14.9ヶ月 で HR 0.76 (95%CI 0.61-0.96) と統計学的に有意な OS 改善を示した。多変量 Cox model でも HR 0.78 (95%CI 0.62-0.98) と一致。Post-induction 起算 mOS 11.6 vs 10.2ヶ月、HR 0.76 (95%CI 0.61-0.95)。Median PFS は 7.4 vs 6.9ヶ月、HR 0.83 (95%CI 0.67-1.03)、post-induction 起算 PFS は 3.2 vs 2.1ヶ月、HR 0.82 (95%CI 0.66-1.02)。EGFR-expressing 集団では PFS は CI 上限が 1.03 と境界域だが、OS HR は 0.76 vs 全集団 0.85 と 9 ポイント低く、効果量がより明確に観察された (Fig 2A)。
有害事象と安全性プロファイル:継続群 vs GC 非増悪群の全 grade AE は 100% vs 97.2%、Grade ≥3 AE は 70.9% vs 53.0% (p<0.01)、重篤 AE は 37.2% vs 22.8%、治療中止に至った AE は 23.0% vs 10.2%、死亡転帰の AE は 5.7% (15/261) vs 1.4% (3/215)、治療関連死は 3 例 (1.1%) vs 0 例であった (Table 3)。これは継続群の治療期間 (および安全観察期間) が必然的に長くなることを反映する。Necitumumab 特有の毒性として hypomagnesemia は全 grade 40% vs 19%, Grade ≥3 14% vs 0.9%、皮疹 (rash) は全 grade 86% vs 10%, Grade ≥3 6% vs 0.5% と顕著に高頻度であった (Table 4)。Venous thromboembolic event (VTE; 静脈血栓塞栓症) は全 grade 7% vs 4%、arterial thromboembolic event (ATE; 動脈血栓塞栓症) は 3% vs 0.5%、Grade ≥3 interstitial lung disease (ILD; 間質性肺疾患) は 0.4% vs 0% と低頻度であった。継続フェーズ単独では新規の安全性シグナルは認められず、AE による hospitalization 率は 14.2% に留まった。EGFR 発現陽性集団における AE プロファイル (Supplemental Table 4) も全集団とほぼ同一で、サブグループ特異的な毒性増加は観察されなかった。
ポスト試験治療:継続群の 57.5% (150 例) と対照群の 51.2% (110 例) が試験後の全身治療を受け、docetaxel が 41.0% 対 28.4% と継続群でやや多かったが、erlotinib 13.8% 対 15.8%、vinorelbine 8.4% 対 5.6% など他剤の使用率は概ね均衡が取れていた (Table 2)。3rd-line 治療は両群とも 18% 前後、4th-line は 5% 前後で、ポスト試験治療の差で OS 結果が大きく confound された可能性は低い。
考察/結論
本 SQUIRE 後向きサブグループ解析は、necitumumab 継続単剤維持療法が ITT 全集団では OS HR 0.85 (95%CI 0.69-1.05) と統計学的有意差に到達しなかったものの、EGFR 発現陽性サブグループでは HR 0.76 (95%CI 0.61-0.96) と有意な OS 改善を示すことを明らかにした。① 先行研究との違い: PARAMOUNT 試験 (Paz-Ares et al. J Clin Oncol 2013) が腺癌 (非扁平上皮 NSCLC) における pemetrexed 維持の有効性を示したのと異なり、本解析は扁平上皮 NSCLC という histology を対象として継続維持戦略の効果を評価しており、これまで腺癌に偏っていた維持療法エビデンスを扁平上皮領域に拡張した点に位置づけがある。また従来の squamous NSCLC を含む維持療法 meta-analysis では、腺癌の方が継続から PFS benefit を得やすいと報告されており、本研究の squamous-specific 結果はこの先行知見と対照的に EGFR 発現陽性ならば squamous でも benefit が得られる可能性を示唆する。② 新規性: 本研究は necitumumab 継続維持効果を独立に評価した 本研究で初めて の解析で、これまで報告されていない necitumumab continuation phase 単独の有効性・安全性プロファイル (Grade ≥3 AE 70.9%, 関連死 1.1%, hypomagnesemia 14%, rash 6%) を定量化した novel な subgroup analysis である。③ 臨床応用: EGFR 発現 IHC を予測バイオマーカーとして用いることで、necitumumab 継続療法の 臨床応用 を benefit が大きい sub-population (EGFR-expressing 95%) に絞り込むことが可能になり、欧州 EMA が 2016 年に “EGFR-expressing squamous NSCLC” に承認を限定した臨床決定とも整合する。実地臨床での 臨床的意義 として、squamous NSCLC 患者では GC + necitumumab 6 サイクル後に増悪のない症例で IHC 陽性が確認されれば、毒性プロファイル (主に hypomagnesemia/rash で管理可能) を踏まえて continuation を提供する根拠となる。④ 残された課題: 本解析は retrospective かつ post-randomization selection (誘導 4 サイクル完了 + 増悪なし患者のみが対象) を内包しており、true continuation effect と responder selection bias を分離できないという limitation がある。今後の研究 としては (i) prospective ランダム化試験 (誘導完了時点で再 randomize して continuation 対 observation を比較) による継続効果の確認、(ii) EGFR IHC 以外の予測バイオマーカー (gene copy number, FISH, KRAS 変異等) の探索、(iii) immunotherapy 時代における necitumumab maintenance の位置付けの再評価、が求められる。なお本邦では 2022 年に necitumumab + GC が扁平上皮 NSCLC 一次治療として承認されており、現在は pembrolizumab/atezolizumab を含む免疫化学療法レジメンが標準であるため、本データは限定された clinical niche (PD-L1 低発現で免疫療法非適応症例等) での選択肢としての位置付けが妥当である。
方法
研究デザインは SQUIRE 試験 (ClinicalTrials.gov NCT00981058、26 ヵ国 184 施設、open-label, 1:1 ランダム化, phase III) の retrospective subgroup analysis である。組入は histology/cytology 確定の stage IV squamous NSCLC、ECOG performance status (PS) 0-2、化学療法歴なし、解析用 archival tumor tissue 利用可能、計 1,093 例を gemcitabine 1,250 mg/m² (day 1, 8) + cisplatin 75 mg/m² (day 1) ± necitumumab 800 mg (day 1, 8) の 3 週サイクル最大 6 サイクルに無作為化した。割付層別因子は ECOG PS (0-1 対 2) と地理的地域 (北米/欧州/豪 対 南米/南ア/印 対 東アジア)。継続単剤療法の解析対象 (n=476) は (a) necitumumab 継続群: 誘導 4 サイクル以上完了 + 進行/AE 中止なし + 単剤 necitumumab を 1 dose 以上受けた n=261、(b) GC 非増悪群: GC 4 サイクル以上完了 + AE 中止なし + 進行なし n=215。EGFR 蛋白発現は archival 凍結組織に対し EGFR PharmDx Kit (Dako, Glostrup) を用いた immunohistochemistry (IHC) で central lab 2 病理医評価、≥1 陽性細胞で EGFR-expressing (EGFR > 0) と定義。応答評価は RECIST v1.0、有害事象は MedDRA v16.0 + CTCAE v3.0。OS は無作為化から全死因死亡までの期間、PFS は無作為化から放射線学的増悪または死亡までの期間と定義、加えて post-induction 起算 (誘導終了 + 21 日) でも測定し lead-time bias を補正した。統計解析は Kaplan-Meier 法で生存曲線を推定、log-rank test で群間比較、Cox proportional hazards model で HR と 95% CI を算出。多変量 Cox model 共変量は age, ECOG, sex, metastatic site 数, Lung Cancer Symptom Scale (LCSS) maximum severity score, sum of target lesions, hemoglobin, leukocytes。SAS v9.1.3 (SAS Institute, Cary, NC) を使用。データカットオフ 2013 年 6 月 17 日。