- 著者: Smit EF, Burgers SA, Biesma B, Smit HJ, Eppinga P, Dingemans AM, Joerger M, Schellens JH, Vincent A, van Zandwijk N, Groen HJ
- Corresponding author: Egbert F. Smit, MD, PhD (Department of Pulmonary Diseases, Vrije Universiteit Medical Centre, Amsterdam, Netherlands)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-03-23
- Article種別: Original Article (Randomized Phase 2 trial with pharmacogenetic correlative)
- PMID: 19307503
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するプラチナ含有化学療法は1次治療の標準として確立しているが、再発・進行例における2次治療成績は依然として不十分であった。これまでの研究では、docetaxelとerlotinibがbest supportive care (BSC) と比較してOSとQOLを有意に改善することが示されている (Shepherd et al. NEnglJMed 2005、Shepherd 2000)。Hanna 2004のPhase 3試験 (Hanna et al. JClinOncol 2004) ではpemetrexed単剤がdocetaxelと同等の有効性 (mOS 8.3対7.9ヶ月) を示し、より良好な毒性プロファイル (好中球減少が顕著に低い) からNSCLC 2次治療薬として承認された。
しかし、これらの2次治療レジメンは依然としてmOS約8ヶ月・1年生存率30%程度に留まり、有効性向上のためにpemetrexedを基盤とした併用療法の開発が望まれていた。Pemetrexedとcisplatinの併用は1次治療では活性が示されていたが、2次治療におけるプラチナ製剤の役割は未確立であり、何が足りなかったかは「プラチナ前治療後のNSCLCに対するpemetrexed基盤併用療法の有効性を、単剤と直接比較したランダム化比較試験データの欠如」であった。
さらに、pemetrexedの主要標的thymidylate synthase (TS) のVNTR (variable number of tandem repeats) 多型がフルオロウラシル感受性の予測因子となること、TS・SLC19A1 (reduced folate carrier)・GGH (γ-glutamyl hydrolase)・MTHFR (methylenetetrahydrofolate reductase) の機能的多型がメトトレキサート治療成績と相関することが消化器癌・関節リウマチ領域で報告されていた (Jakobsen 2005、Dervieux 2004、Urano 2002)。NSCLCに対するpemetrexed治療においてこれら葉酸代謝経路遺伝子多型と臨床効果の相関を検討した先行研究は存在せず、本試験はこの薬理ゲノミクス仮説を併せて検証する先駆的デザインとした。
目的
プラチナ含有化学療法後に再発した進行NSCLC患者を対象に、(1) 2次治療としてのpemetrexed+carboplatin併用 (PC) のpemetrexed単剤 (P) に対するTTP (time to progression) 延長効果を検証 (33%のハザード低下を検出可能な設計)、(2) ORR・OS・毒性プロファイルを副次的に比較、(3) 葉酸代謝経路の遺伝子多型 (TS・SLC19A1・GGH・MTHFR) と臨床効果・毒性の相関を探索すること。
結果
主要評価項目—PFS (TTP) 延長 (Fig 2、Table 3):解析対象240例 (Arm A n=121、Arm B n=119、4例は治療開始前に脱落) で、Arm B (PC) のmPFSは4.2ヶ月 (95% CI 3.7-4.6)、Arm A (P) では2.8ヶ月 (95% CI 2.5-3.0)、層別化ハザード比HR 0.67 (95% CI 0.51-0.89、P=.005) と、事前設定の33%ハザード低下に合致する有意なPFS延長が観察された。carboplatin追加によりpemetrexedの抗腫瘍活性が約1.5倍に増強されたことを意味し、2次治療設定でのプラチナ製剤再投与の臨床的有用性を初めてランダム化試験として実証した重要な所見である。
OSは延長傾向に留まる (Fig 3、Table 3):副次評価項目のmOSはArm B 8.0ヶ月 (95% CI 7.4-10.5) vs Arm A 7.6ヶ月 (95% CI 6.6-9.9)、層別化HR 0.85 (95% CI 0.63-1.20、P=有意差なし) と、PFS差の大きさが生存差に翻訳されなかった。1年生存率は両群とも30% (95% CI 23-36%) で差なし。OS差が出なかった原因として、ポストプロトコール治療 (後続のerlotinibや三次治療) の影響、Phase 2試験としての検出力不足、4サイクル制限による短期暴露が考えられる。
ORRは併用群で2.9倍 (Table 3):奏効率はArm B 17% (20/119、PR 20例) vs Arm A 6% (7/121、PR 7例、χ²検定P=.008) で併用群が有意に高く、CRは両群0%、SDはArm B 55% (65例) vs Arm A 62% (75例)、PDはArm B 16% vs Arm A 24%。応答持続期間中央値は2.7ヶ月であった。前治療反応性の患者 (CR/PR既往19例、SD既往8例) で奏効が集中しており、プラチナ感受性が再治療成功の前提条件として示唆された。
Grade 3/4有害事象の用量制限毒性プロファイル (Table 2):併用群で有意に頻度が高かったのは好中球減少 (Arm B 21% vs Arm A 7%、P=.002) と血小板減少 (Arm B 15% vs Arm A 2%、P<.001)、白血球減少 (13%対7%)、貧血 (8%対4%) であり、carboplatin添加に起因する典型的な骨髄抑制パターンを示した。一方で発熱性好中球減少による入院は両群とも2%と低率、疲労 (Grade 3/4) はArm B 13% vs Arm A 12%で差なし、潜在的治療関連死は単剤群1例のみで、毒性増加は管理可能範囲内と判定された。相対用量強度はpemetrexed 87% (A) / 93% (B)、carboplatin 88%、用量遅延は10% (A) / 27% (B)。
MTHFR C677T多型がPFS約2.7倍延長と相関 (探索的薬理ゲノミクス知見、Fig 4、Table 4):127例の遺伝子型解析でMTHFR C677T homozygous mutation (TT型、7例、6%) を持つ患者は、wild-type/heterozygous (CC/CT型、120例、94%) と比較してmPFSが7.9ヶ月 (95% CI 3.9-16.0) vs 2.9ヶ月 (95% CI 2.8-3.4) と約2.7倍に延長 (log-rank P=.03)。MTHFR A1298C homozygous (14例) はむしろmPFSが2.4ヶ月vs 3.2ヶ月と短縮傾向 (P=.06)。MTHFR C677T変異は酵素活性を約30%に低下させ、葉酸プール (5,10-methylene-tetrahydrofolate; THF) を蓄積させてthymidylate合成を撹乱、結果としてpemetrexedのTS阻害効果を増強する機序が想定される。SLC19A1 (solute carrier family 19 member 1; reduced folate carrier) G80A・GGH C452T・TS発現型genotypeはいずれもPFSと無相関、毒性とも相関なし。
組織型サブグループ:非扁平上皮癌で予後良好 (Table 1、Fig 2):腺癌が45% (108/240)、扁平上皮癌25% (60/240)、大細胞癌23% (54/240)、NOS 7% (18/240)。非扁平上皮癌でmPFS 3.7ヶ月 vs 扁平上皮癌2.8ヶ月、mOS 8.0ヶ月 vs 7.7ヶ月。多変量Coxモデルでは扁平上皮癌の単剤pemetrexed投与例の予後が他集団より有意に不良 (P=.02) で、TS発現が高い扁平上皮癌でpemetrexed効果が劣るという生物学的仮説と整合した。PSと前治療からの間隔 (>6ヶ月) もOS独立予後因子として確認された。
考察/結論
本Phase 2 RCTは「プラチナ前治療歴を持つ進行NSCLC患者に対して、2次治療でpemetrexed単剤にcarboplatinを上乗せすると、忍容性を保ちつつPFSを4.2ヶ月対2.8ヶ月 (HR 0.67、P=.005)、ORRを17%対6%へと有意改善する」ことを240例で示した。これは2次治療設定におけるプラチナ製剤再投与の有用性を直接比較で実証した最初のランダム化試験であり、Hanna 2004で確立されたpemetrexed単剤の地位を併用療法へ進化させる重要な一歩となった。
これまでの研究との違いとして、Georgoulias 2005の先行研究はcisplatin単剤vs cisplatin+irinotecanを比較したが、PFS差を示せなかった (これとは異なる結果)。本試験はカルボプラチン+pemetrexedという、骨髄毒性が許容範囲で外来投与可能な組み合わせで明確なPFS優越性を示した点で対照的である。また、Hanna 2004の先行研究でpemetrexed単剤のmPFSは2.9ヶ月とされており、本試験単剤群の2.8ヶ月と一致した。新規な知見として本研究で初めて (1) 2次治療のpemetrexed併用療法のRCT実証、(2) MTHFR C677T多型をpemetrexed反応性予測因子として報告した点、(3) 非扁平上皮癌でのpemetrexed優越性が2次治療でも保たれることをsubgroup解析で再確認した点が挙げられる。
臨床応用としては、(1) プラチナ感受性 (>6ヶ月無治療間隔) のあるNSCLC症例に対するpemetrexed+carboplatin再投与は許容される選択肢となり得る、(2) 非扁平上皮癌例での選択がより合理的、(3) MTHFR C677T多型は将来的に個別化治療マーカーとして臨床応用される可能性が示唆された (bench-to-bedsideの初期段階)。ただしOS差が示されなかったため標準治療化には更なるPhase 3検証が必要であった。
残された課題と本試験のlimitationとして、(1) Phase 2の検出力不足によりOS差が確認できなかった、(2) MTHFR C677T homozygous解析はn=7と極小サンプル・多重検定補正なしの探索的解析であり、再現性確認が必須、(3) 2次治療開始時のQOL評価が形式的に行われなかった、(4) 薬理ゲノミクス試料が127/240例 (53%) と限定的、(5) ポストプロトコール治療がOS解析を希釈した可能性、(6) 現代の標準治療 (PD-1/PD-L1阻害剤、ドライバー変異標的薬) の登場前のデータであり、適応集団は driver-negative・PD-L1低発現・既治療例に限定される。今後の検討として、MTHFR多型の前向きバイオマーカー試験、carboplatin再投与の最適化レジメン、現在のICI時代における再プラチナの位置付け再評価が必要である。本試験はNSCLC化学療法に薬理ゲノミクスの概念を組み込んだ先駆的Phase 2試験として、個別化化学療法研究の基盤を提供した歴史的価値を持つ (Hanna et al. JClinOncol 2004、Shepherd et al. NEnglJMed 2005)。
方法
試験デザイン: 多施設オープンラベルランダム化Phase 2試験 (オランダ24施設、Nederlandse Vereniging Artsen voor Longziekten en Tuberculose Lung Cancer Group)。2005年10月-2007年5月に登録、解析時点での観察期間中央値14.7ヶ月。
対象: 組織学的・細胞学的に確認された進行NSCLC、プラチナ含有1次化学療法から3ヶ月以上経過後の再発、ECOG PS 0-2、測定可能病変あり、正常臓器機能 (絶対好中球数 ≥1.5×10⁹/L、血小板 ≥100×10⁹/L、ビリルビン ≤1.5×ULN、AST/ALT ≤3×ULN、クレアチニンクリアランス ≥45 mL/min)。CNS転移は適切な放射線治療後・ステロイド中止後で症状なければ許容。n=240が登録された。
ランダム化と層別化: PS (0-1 vs 2)、前治療反応 (CR+PR vs SD+PD)、無治療間隔 (<6 vs >6ヶ月) で層別化し、Arm A (pemetrexed単剤 500 mg/m² IV q3週、n=121) vs Arm B (pemetrexed 500 mg/m² + carboplatin AUC 5 [Calvert式] Day 1 q3週、n=119) に1:1ランダム化、最大4サイクル。葉酸 (1 mg/日経口) とビタミンB12 (cobalamin、1000 μg筋注 q9週) 補充、デキサメタゾン (4 mg×3日) 前投薬。
評価: 主要評価項目はTTP (本論文ではPFS = progression-free survivalとほぼ同義で記載)。副次:ORR (RECIST、6週ごと評価)、OS、毒性 (CTCAE v3.0、3週ごと評価)。230例登録・190イベント発生で33%ハザード低下 (α=0.05両側log-rank検定) を検出する検出力80%設計。
薬理ゲノミクス解析: 24施設のうち11施設で別途同意取得後、5 mLのEDTA血からgenomic DNAを抽出。BigDye Terminator Cycle Sequencingで以下5多型を解析:SLC19A1 G80A、GGH C452T、MTHFR C677T、MTHFR A1298C、TS 5’-UTR VNTR + C/G多型。TS genotypeは高発現型 (2R/3G、3C/3G、3G/3G) vs 低発現型 (2R/2R、2R/3C、3C/3C) に2分。Hardy-Weinberg平衡をEmigh法で評価。多型とPFS・毒性の相関をlog-rank検定とFisher正確検定で探索 (多重検定補正なし、127例で解析)。