- 著者: Miyawaki T, Naito T, Kodama A, Nishioka N, Miyawaki E, Mamesaya N, Kawamura T, Kobayashi H, Omori S, Wakuda K, Ono A, Kenmotsu H, Murakami H, Notsu A, Mori K, Harada H, Endo M, Takahashi K, Takahashi T
- Corresponding author: Tateaki Naito, MD, PhD (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center, Shizuoka, Japan)
- 雑誌: JTO Clinical and Research Reports
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-04
- Article種別: Original Article (後向き観察研究)
- PMID: 34589927
背景
ICI (immune checkpoint inhibitor; 免疫チェックポイント阻害薬) はNSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺癌) の治療を革新したが、TPS (tumor proportion score; 腫瘍割合スコア) で定義されるPD-L1 (programmed death-ligand 1) PD-L1 高発現例でも奏効しない患者が存在する。がんカヘキシア (cancer cachexia) は進行肺癌患者の過半数に認められる多因子性代謝症候群であり、不随意的体重減少を主体とする (Baracos et al. 2018)。先行研究 (Shiroyama et al. 2019、Nishioka et al. 2019) では筋肉量低下 (サルコペニア) や体重減少がICIの有効性低下と関連する可能性が示唆されていたが、いずれもPD-L1発現・ドライバー変異・PS (performance status; 全身状態スコア) を十分に調整しておらず、カヘキシアがICI有効性の独立した予測因子かどうかは未確立であった。PD-L1 TPS等の既存バイオマーカーだけでは全患者の応答を予測できない点は未検証であり、その知識ギャップは臨床上重要であった。ペムブロリズマブ対化学療法の大規模第3相試験 (Mok et al. Lancet 2019) においても、PD-L1高発現例の一部が奏効しない理由は解明されていなかった。複数の先行研究 (Flint et al. 2016、Im et al. 2016) が免疫抑制性サイトカイン — IL-6 (interleukin-6)・IL-1β (interleukin-1β)・TNFα (tumor necrosis factor alpha) — の腫瘍浸潤TIL (tumor-infiltrating lymphocyte; 腫瘍浸潤リンパ球) 抑制作用を示しており、カヘキシアに伴う全身性炎症によるICI感受性減弱が機序として想定されていたが、大規模なNSCLCコホートでの定量的評価は insufficient であった。
目的
進行NSCLC患者において、がんカヘキシア (ICI開始前6ヶ月以内の体重減少>5%) がPD-1/PD-L1阻害薬単剤療法のORR (objective response rate; 客観的奏効率)・PFS (progression-free survival; 無増悪生存期間)・OS (overall survival; 全生存期間) に及ぼす影響を、PD-L1 TPS・ドライバー変異・PS等の交絡因子を調整したうえで評価し、カヘキシアとPD-L1 TPSの相互作用 (「不感作」効果) を検証する。
結果
がんカヘキシアとORR:全解析対象n=108 patients のうち、カヘキシアあり群n=52 patients・カヘキシアなし群n=56 patients で比較した。全体ORR 35% (95% CI 26-44%)。カヘキシア群ORR 15% vs 非カヘキシア群 57% (P<0.001) で約4倍の差を示した (Table 2)。多変量ロジスティック回帰でカヘキシアは独立した予測因子 (OR 0.13、95% CI 0.04-0.35、P<0.001)。PD-L1低発現も独立してORR低下と関連 (OR 0.12、95% CI 0.04-0.35、P<0.001)。BMI (body mass index; 体格指数)・年齢・性別・喫煙歴・組織型・PSはいずれもORRと有意な関連を示さなかった。これはカヘキシアとPD-L1 TPSが互いに独立した予測因子として機能することを意味する。
がんカヘキシアとPFS:観察終了時点でprogression eventは108例中76例 (70%)。追跡期間中央値19.7ヶ月 (95% CI 15.9-23.2)。全体mPFS 5.8ヶ月 (95% CI 3.7-9.9)。KM (Kaplan-Meier; 生存解析) 曲線でカヘキシア群 mPFS 2.3ヶ月 vs 非カヘキシア群 12.0ヶ月 (log-rank P<0.001; Fig. 2B) とPFSに5倍以上の差。PD-L1低発現 mPFS 2.8ヶ月 vs 高発現 10.8ヶ月 (P=0.002; Fig. 2A)。多変量Cox回帰では、カヘキシア (HR 2.46、95% CI 1.52-3.98、P<0.001)・PD-L1低発現 (HR 1.62、95% CI 1.01-2.58、P=0.044)・扁平上皮癌 (HR 0.50、95% CI 0.28-0.91、P=0.023) がPFSの独立因子であった (Table 3)。カヘキシアはPFSに対する最強の独立予後因子であった (HR 2.46 vs PD-L1低発現 HR 1.62)。カヘキシアの影響はPD-L1の影響を上回った。
カヘキシアによるPD-L1予測能消失 (ICI不感作効果):非カヘキシア群 (n=56) では、PD-L1高発現患者はORR 77%・mPFS 20.5ヶ月 に対し、PD-L1低発現ではORR 23%・mPFS 5.1ヶ月 (P<0.001; Fig. 3B) と、PD-L1が強力な予測因子として機能した。一方カヘキシア群 (n=52) では、PD-L1高発現でORR 13%・mPFS 2.8ヶ月 vs PD-L1低発現でORR 7%・mPFS 2.2ヶ月 (ORR P=0.514、PFS P=0.992; Fig. 3A) と、PD-L1高発現の有無によって有意差が消失した。この「カヘキシアがPD-L1の予測能を無効化する」現象が本研究の最重要知見であり、著者はこれをICI「不感作 (desensitization)」効果と命名した。
がんカヘキシアとOS:観察終了時点で108例中51例 (47.2%) が死亡。追跡期間中央値18.1ヶ月。全体mOS 21.9ヶ月 (95% CI 13.5-26.9)。カヘキシア群 mOS 12.9ヶ月 vs 非カヘキシア群 27.3ヶ月 (log-rank P<0.001)。PD-L1高発現 mOS 27.3ヶ月 vs 低発現 13.0ヶ月 (P=0.004)。OS多変量解析でカヘキシアは独立予後因子 (HR 2.77、95% CI 1.51-5.06、P=0.001)。PD-L1低発現のOS調整HRは1.66 (P=0.090) で、OSではPD-L1の独立した影響は弱まる傾向を示した。カヘキシアはPFSのみならずOSにおいても最強の独立的な予後予測因子であり、栄養状態の評価が生存予後に直結することが確認された。
患者背景と薬剤使用状況:解析対象108例はpembrolizumab 75例 (69%)・nivolumab 18例 (17%)・atezolizumab 15例 (14%) 全例単剤投与 (Table 1)。1次治療40例 (37%)・2次治療以降68例 (63%)。カヘキシア群でBMI中央値が低く (20 kg/m² vs 22 kg/m²、P<0.001)、BMI≥25の割合が低かった (10% vs 29%、P=0.013)。PD-L1 TPS≥50%の分布はカヘキシア群46%・非カヘキシア群63%で、基線における主要交絡因子の分布は両群で概ね均衡していた。
考察/結論
本研究は、がんカヘキシア (体重減少>5%) がICI単剤療法に対して「不感作」を引き起こすことを初めて (first to demonstrate) 体系的・定量的に示した重要な臨床エビデンスである。本研究の新規性 (novelty) は、カヘキシアがPD-L1 TPSの予測能を無効化する点を示したことであり、PD-L1高発現 (≥50%) でもカヘキシア合併例では奏効率13%・mPFS 2.8ヶ月にとどまることを実証した。
先行研究 (Magri et al. 2019、Shiroyama et al. 2019 等) と比較して、本研究は従来のサルコペニア研究と異なり (differs from)、EGFR/ALK/ROS1変異陽性例を除外し真のドライバー変異なし集団に限定した点、ECOG PS≥2を除外してPSの影響を最小化した点、PD-L1発現を多変量解析で調整した点で優れており、カヘキシアのネットな独立効果を評価した。
臨床的含意 (clinical implication) として、ICI候補患者の評価に体重変動・栄養状態アセスメントを加える必要性が示唆される。抗カヘキシア療法 (anamorelin・enobosarm等) とICI併用によりICI感受性を回復させる「抗カヘキシア療法+ICI」戦略が期待されるが、前向き検証が不可欠である。
残された課題として (future direction)、本研究の限界として (1) 単施設後向きで未知交絡因子の排除が困難、(2) IL-6・IL-1β・TNFα等の炎症性サイトカインを実測していない、(3) 骨格筋量の客観的評価 (CT骨格筋面積) が未実施、(4) n=108という規模的制約があり、大規模前向き多施設研究による確認が必要である。カヘキシアに伴う全身性炎症がCD8-T-cell (cytotoxic differentiation type 8 T lymphocyte; 細胞傷害性T細胞) (細胞傷害性T細胞) の腫瘍浸潤を阻害し、PD-1/PD-L1阻害薬 (PD-1-inhibitor) 効果を減弱させる機序の解明が今後の課題である。
方法
後向き観察研究。静岡がんセンター倫理審査委員会承認 (institutional ethics review board approval)。
対象: 2016年5月〜2018年12月に進行NSCLC (stage III/IV または術後再発) に対し ICI 単剤療法 (nivolumab、pembrolizumab、atezolizumab) を受けた 286 例から適格例を選別した。除外基準は EGFR/ALK/ROS1 変異陽性 (n=36)、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status)≥2 (n=35)、PD-L1 TPS 不明 (n=85)、その他 (n=4) で、最終解析対象は n=108 (カヘキシア群n=52、非カヘキシア群n=56) であった。
カヘキシアの定義: 国際コンセンサス基準 (Fearon et al. 2011) に基づき、ICI 開始前 6 ヶ月以内の体重減少 >5% とした。
評価: PD-L1 評価は 22C3 pharmDx アッセイによる TPS とし、カットオフ≥50% を「高発現」と定義した。投与薬の内訳は pembrolizumab 69%・nivolumab 17%・atezolizumab 14% であった。
主要評価項目: ORR (objective response rate)・PFS (progression-free survival) を主要評価項目とした。OS (overall survival) は副次評価項目とした。
統計解析: 多変量解析には ORR にロジスティック回帰、PFS と OS に Cox 比例ハザードモデルを用いた。生存曲線は Kaplan-Meier 法、群間比較は log-rank 検定で評価した。データカットオフは 2019 年 8 月 10 日とした。