• 著者: Mok TSK, Wu YL, Kudaba I, Kowalski DM, Cho BC, Turna HZ, Castro G Jr, Srimuninnimit V, Laktionov KK, Bondarenko I, Kubota K, Lubiniecki GM, Zhang J, Kush D, Lopes G
  • Corresponding author: Tony S.K. Mok, MD (Department of Clinical Oncology, Chinese University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30955977

背景

ドライバー遺伝子変異を持たない進行非小細胞肺がん (NSCLC) において、化学療法が長らく唯一の治療選択肢であり、その標準的な全生存期間 (OS) は約12ヶ月であった。しかし、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、この治療パラダイムは大きく変化した。PD-1 (programmed cell death protein 1) 阻害薬であるペムブロリズマブは、先行研究であるKEYNOTE-001試験 (Phase 1) および既治療NSCLCを対象としたKEYNOTE-010試験 (Herbst et al. Lancet 2016) において、PD-L1 (programmed death ligand 1) 腫瘍比率スコア (TPS) とペムブロリズマブの有効性との相関が確立された。特に、KEYNOTE-024試験 (Reck et al. NEnglJMed 2016) では、PD-L1 TPSが50%以上の未治療転移性NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が白金製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) およびOSを有意に延長することが示され (PFSのハザード比 [HR] 0.50、OSのHR 0.60)、PD-L1 TPSが50%以上の患者に対する一次治療の標準として確立された。

しかし、PD-L1 TPSが1〜49%の低〜中等度発現患者におけるペムブロリズマブ単剤の一次治療としての有効性は、この時点では未確立であった。同様にPD-L1 TPSが1%以上の患者を対象としたニボルマブと化学療法を比較したCheckMate 026試験では、主要評価項目であるPFSにおいて優越性が示されず、ニボルマブ単剤の低PD-L1発現集団での有効性には疑問が呈されていた。このため、PD-L1低発現患者における免疫チェックポイント阻害薬単剤の有効性に関する知識ギャップが残されており、この領域の知見が不足していた。

本研究であるKEYNOTE-042試験は、PD-L1 TPSが1%以上の未治療局所進行または転移性NSCLC患者を対象に、ペムブロリズマブ単剤療法と化学療法を比較する大規模な国際共同第3相試験として計画された。本試験は、PD-L1 TPSが50%以上、20%以上、および1%以上の3つの異なるPD-L1発現集団におけるOSを共主要評価項目として設定し、東アジアを含む広範なグローバル患者集団での有効性を検証することを目的とした。試験途中でPD-L1 TPSが20%以上という中間カットオフポイントが追加されたが、これはKEYNOTE-010試験のデータ (PD-L1 TPSが1%以上でもOS利益が示唆された) とCheckMate 026試験の結果 (PD-L1 TPSが1%以上でニボルマブ単剤がPFS優越性を示せなかった) を踏まえたプロトコル修正であった。これにより、PD-L1発現レベルに応じたペムブロリズマブ単剤の有効性をより詳細に評価することが可能となり、PD-L1低発現患者に対する一次治療の選択肢を確立する上で重要な役割を果たすことが期待された。

目的

本研究の目的は、EGFR遺伝子変異およびALK転座陰性で、PD-L1 TPSが1%以上の未治療局所進行または転移性NSCLC患者1274人を対象に、ペムブロリズマブ単剤療法と標準的な白金製剤ベースの化学療法を比較し、その有効性と安全性を評価することである。主要評価項目は、PD-L1 TPSが50%以上、20%以上、および1%以上の各患者集団におけるOSであり、これらの評価は階層的検定戦略に基づき、PD-L1 TPSが50%以上の集団から順に検証された。具体的には、ペムブロリズマブ200 mgを3週間ごとに最大35サイクル投与する群と、術者選択の白金製剤ベース化学療法を4〜6サイクル投与する群の間で、OSの優越性を比較した。副次評価項目には、PFS、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、および安全性プロファイルが含まれた。本試験は、PD-L1低発現患者におけるペムブロリズマブ単剤療法の臨床的有用性を確立し、一次治療の選択肢を拡大することを目指した。

結果

患者背景: 2014年12月19日から2017年3月6日までに、PD-L1 TPSが1%以上の患者1274人が無作為化され、ペムブロリズマブ群にn=637人、化学療法群にn=637人が割り付けられた。両群間で患者のベースライン特性は均衡がとれていた (Table 1)。年齢中央値は63歳 (IQR 57-69) で、男性が71%を占めた。東アジアからの患者は29%であった。組織型は扁平上皮癌が38%、非扁平上皮癌が62%であった。PD-L1 TPSの分布は、50%以上が47% (599/1274例)、20〜49%が17%、1〜19%が36%であった。脳転移を有する患者は両群ともに5〜6%であった。

PD-L1 TPS 50%以上集団におけるOS延長: 主要評価項目であるPD-L1 TPSが50%以上の集団において、ペムブロリズマブ群のOS中央値は20.0ヶ月 (95% CI 15.4-24.9) であったのに対し、化学療法群では12.2ヶ月 (95% CI 10.4-14.2) であった。ハザード比 (HR) は0.69 (95% CI 0.56-0.85, p=0.0003) であり、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較してOSを有意に延長した (Figure 2A)。24ヶ月時点でのOS推定値は、ペムブロリズマブ群で45%、化学療法群で30%であった。

PD-L1 TPS 20%以上集団におけるOS延長: 次に評価されたPD-L1 TPSが20%以上の集団では、ペムブロリズマブ群のOS中央値は17.7ヶ月 (95% CI 15.3-22.1) であり、化学療法群の13.0ヶ月 (95% CI 11.6-15.3) と比較して有意な延長が認められた。HRは0.77 (95% CI 0.64-0.92, p=0.0020) であった (Figure 2B)。24ヶ月OS推定値は、ペムブロリズマブ群で41%、化学療法群で30%であった。

PD-L1 TPS 1%以上集団におけるOS延長: 全てのPD-L1発現レベルを対象としたPD-L1 TPSが1%以上の集団においても、ペムブロリズマブ群のOS中央値は16.7ヶ月 (95% CI 13.9-19.7) vs 化学療法群の12.1ヶ月 (95% CI 11.3-13.3) と比較して有意なOS延長が示された。HRは0.81 (95% CI 0.71-0.93, p=0.0018) であった (Figure 2C)。24ヶ月OS推定値は、ペムブロリズマブ群で39%、化学療法群で28%であった。

PD-L1 TPS 1〜49%集団におけるOS (探索的解析): 探索的サブグループ解析として、PD-L1 TPSが1〜49%の集団では、ペムブロリズマブ群のOS中央値は13.4ヶ月 (95% CI 10.7-18.2) vs 化学療法群の12.1ヶ月 (95% CI 11.0-14.0) と比較して、HRは1.00前後と両群でほぼ同等であった (Figure 2D)。この結果は、PD-L1 TPSが1%以上の集団全体でのOS利益 (HR 0.81) が、主にPD-L1 TPSが50%以上の高発現患者によって牽引されている可能性を示唆している。

無増悪生存期間 (PFS) の比較: PD-L1 TPSが50%以上の集団におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ群で7.1ヶ月 (95% CI 5.9-9.0)、化学療法群で6.4ヶ月 (95% CI 6.1-6.9) であった。この差は事前に設定された優越性境界値に達せず、統計的有意差は認められなかった。同様に、PD-L1 TPSが20%以上および1%以上の集団においても、PFSの有意な優越性は示されなかった (Figure 3)。PD-L1 TPSが1%以上の集団では、ペムブロリズマブ群のPFS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 4.3-6.2) であったのに対し、化学療法群では6.5ヶ月 (95% CI 6.3-7.0) と、数値的には化学療法群がわずかに長い結果であった。このPFSとOSの乖離は、免疫療法に特有の治療パターンを示唆している。

客観的奏効率 (ORR) と奏効期間 (DOR) の比較: PD-L1 TPSが50%以上の集団におけるORRは、ペムブロリズマブ群で39% (118/299)、化学療法群で32% (96/300) であった。PD-L1 TPSが1%以上の全集団では、ORRは両群ともに27% (ペムブロリズマブ群174/637、化学療法群169/637) と同等であった。奏効期間中央値は、ペムブロリズマブ群で全てのPD-L1 TPS集団において20.2ヶ月と一貫して長かった。一方、化学療法群では、PD-L1 TPSが50%以上で10.8ヶ月、20%以上で8.3ヶ月、1%以上で8.3ヶ月であり、ペムブロリズマブ群が化学療法群と比較して奏効の持続期間において著明に優れていた。

安全性プロファイルと治療関連有害事象 (TRAE): 任意のグレードのTRAEは、ペムブロリズマブ群で63% (399/636)、化学療法群で90% (553/615) に発生した (Table 2)。特に、グレード3以上のTRAEは、ペムブロリズマブ群で18% (113/636) であったのに対し、化学療法群では41% (252/615) と、ペムブロリズマブ群で著明に低かった。治療関連死は両群ともに2% (ペムブロリズマブ群13例、化学療法群14例) であった。治療中止に至った有害事象の割合も両群で9%と同程度であった。ペムブロリズマブ群で最も多く見られたTRAEは、甲状腺機能低下症11% (グレード3以上は1%未満)、倦怠感8%、掻痒症7%、発疹7%、肺臓炎7% (グレード3以上は3%) であった。免疫関連有害事象としては、甲状腺機能低下症12% (グレード3以上1%)、肺臓炎8% (グレード3以上3%)、甲状腺機能亢進症6%、重篤な皮膚反応2% (グレード3は2%) などが報告された。化学療法群で最も多く見られたTRAEは、貧血37% (グレード3は13%)、悪心30%、食欲不振18%、脱毛22%、倦怠感17%、好中球数減少14% (グレード3は9%) であった。

考察/結論

試験の意義と先行研究との違い: KEYNOTE-042試験は、東アジアを含む32カ国213施設で実施された大規模な国際共同第3相試験であり、PD-L1 TPSが50%以上、20%以上、および1%以上の全ての3つの集団において、ペムブロリズマブ単剤療法が化学療法と比較してOSを有意に延長することを実証した。これは、PD-L1 TPSが50%以上の患者のみを対象としたKEYNOTE-024試験 (Reck et al. NEnglJMed 2016) で確立された適応を、PD-L1 TPSが1〜49%の低〜中等度発現患者まで拡張する画期的な意義を持つ。CheckMate 026試験 (ニボルマブ vs 化学療法、PD-L1 TPS≥1%) が主要評価項目であるPFSで優越性を示せなかったことと対照的に、本研究はペムブロリズマブ単剤の幅広いPD-L1発現患者における有効性を明確に示した点で、これまでの報告とは異なる重要な知見を提供した。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1 TPSが1%以上の未治療進行NSCLC患者全体において、ペムブロリズマブ単剤が化学療法に対してOSの有意な改善をもたらすことが示された。特に、PD-L1 TPSが20%以上の集団においてもOSの有意な延長が確認されたことは、高発現患者だけでなく、より広範なPD-L1陽性患者に対するペムブロリズマブ単剤療法の有用性を新規に確立するものである。

OS-PFS乖離と免疫療法の特性: 本試験ではPFSの優越性が示されなかったにもかかわらず、OSで有意な差が得られた。これは、免疫療法に特有の遅発性応答、偽増悪、およびRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 評価後の生存期間延長といった特性を反映していると考えられる。奏効期間中央値がペムブロリズマブ群で20.2ヶ月と、化学療法群の8.3〜10.8ヶ月と比較して著明に長かったことが、OSの優越性につながった可能性が高い。この結果は、標準的なRECISTによる放射線学的評価が免疫療法の真の有効性を過小評価する可能性があることを示唆しており、免疫療法の評価における新たな視点を提供する。

臨床応用と残された課題: 本研究の成果を受け、FDAはペムブロリズマブ単剤をPD-L1 TPSが1%以上の未治療NSCLC (EGFR/ALK陰性) の一次治療として承認した。これは、PD-L1低発現患者に対する新たな治療選択肢を提供し、臨床現場における治療戦略に大きな影響を与えるものである。しかし、PD-L1 TPSが1〜49%の集団単独ではOS利益がほぼ認められなかった (HR≈1.00) ことは、PD-L1 TPSが1%以上の集団全体でのOS改善が、主にPD-L1 TPSが50%以上の患者によって牽引されていることを示唆している。また、同時期に承認されたKEYNOTE-189試験 (Gandhi et al. NEnglJMed 2018) (ペムブロリズマブと化学療法の併用療法 vs 化学療法単独、非扁平上皮癌、PD-L1発現レベルを問わずPFSおよびOSを改善) の結果との比較において、PD-L1 TPSが1〜49%の患者では、単剤療法よりも併用療法の優位性が示唆される。この点は、本研究の主要なlimitationとして認識されており、PD-L1 TPS別および組織型別の治療選択をさらに精緻化することが今後の検討課題として残されている。東アジア患者が29%含まれていたことも、EGFR変異陽性患者の割合が高い可能性があり、化学療法への良好な応答がPD-L1 TPS 1〜49%でのペムブロリズマブ単剤の利益を希釈した可能性も今後の研究で検証すべき点である。

方法

試験デザインと患者選択: 本研究は、多施設共同、無作為化、オープンラベル、第3相試験 (KEYNOTE-042、ClinicalTrials.gov登録番号 NCT02220894) として、32カ国の213施設で実施された。対象患者は18歳以上の成人で、EGFR遺伝子変異またはALK転座陰性の未治療局所進行または転移性NSCLCを有し、PD-L1 TPSが1%以上 (Agilent Technologies社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイを用いた中央検査で評価)、ECOG Performance Status (PS) が0または1、生存期間が3ヶ月以上、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有することが条件とされた。主な除外基準には、活動性または未治療の中枢神経系転移、全身性ステロイド治療を必要とする非感染性肺炎の既往、活動性自己免疫疾患、免疫抑制剤の使用、活動性B型またはC型肝炎ウイルス感染などが含まれた。

無作為化と治療: 患者はペムブロリズマブ群と化学療法群に1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、PD-L1 TPS (50%以上 vs 1〜49%)、地域 (東アジア vs その他)、ECOG PS (0 vs 1)、および組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮) で層別化され、ブロックサイズ4で実施された。ペムブロリズマブ群の患者には、ペムブロリズマブ200 mgが3週間ごとに静脈内投与され、最大35サイクルまで継続された。化学療法群の患者には、術者選択の白金製剤ベースの化学療法が4〜6サイクル投与された。化学療法レジメンは、カルボプラチン (AUC 5〜6) とパクリタキセル200 mg/m²の併用 (扁平上皮癌および非扁平上皮癌)、またはカルボプラチンとペメトレキセド500 mg/m²の併用 (非扁平上皮癌) であり、非扁平上皮癌患者ではペメトレキセドによる維持療法がオプションで推奨された。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は、PD-L1 TPSが50%以上、20%以上、および1%以上の各集団におけるOSであった。これらの仮説は、家族全体での第一種過誤率を片側α=0.025に厳密に制御するため、階層的検定戦略を用いて順次評価された。具体的には、PD-L1 TPSが50%以上の集団で有意差が認められた場合にのみ、PD-L1 TPSが20%以上の集団の評価に進み、同様にPD-L1 TPSが1%以上の集団の評価に進むという手順がとられた。副次評価項目には、PFS、ORR、DOR、および安全性プロファイルが含まれた。OS、PFS、DORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が使用された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) は、層別Cox回帰モデルを用いて推定された。ORRの群間差は、層別Miettinen and Nurminen法を用いて評価された。安全性は、治療を受けた全患者を対象に、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づき評価された。データカットオフは2018年2月26日であり、追跡期間中央値は12.8ヶ月であった。