• 著者: Jotte R, Cappuzzo F, Vynnychenko I, Stroyakovskiy D, Rodriguez-Abreu D, Hussein M, Soo R, Conter HJ, Kozuki T, Huang KC, Graupner V, Sun SW, Hoang T, Jessop H, McCleland M, Ballinger M, Sandler A, Socinski MA
  • Corresponding author: Robert Jotte, MD, PhD (Rocky Mountain Cancer Centers, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-03-28
  • Article種別: Original Article (Phase 3 randomized controlled trial — IMpower131)
  • PMID: 32302702

背景

扁平上皮NSCLCは全肺がんの25〜30%を占め、プラチナ系化学療法が長らく標準治療とされてきたが、その中央OS (overall survival) は1年未満と不十分であった。抗PD-L1 (programmed death-ligand 1) 抗体atezolizumabは、2次治療のOAK試験において、PD-L1発現や腫瘍組織型によらずdocetaxelに対して有意なOS改善を達成し、プラチナ系化学療法後の転移性NSCLCへの承認根拠となった (Rittmeyer et al. Lancet 2017)。1次治療においても、atezolizumab単独療法がPD-L1高発現 (TC ≥50%またはIC ≥10%) のNSCLC患者で有意なOS改善を示すことが報告されている。非扁平上皮NSCLCではIMpower130試験でatezolizumab+carboplatin+nab-paclitaxelがOS・PFSを有意に改善し承認を取得した (West et al. LancetOncol 2019)。一方、扁平上皮NSCLCでは抗VEGF療法 (bevacizumab) が使用できないという制約があり、KEYNOTE-407試験においてpembrolizumab+carboplatin+paclitaxel/nab-paclitaxelが全体OS HR 0.71で有意改善を達成し、化学免疫療法の標準化が進んだ (Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018)。しかし、抗PD-L1抗体であるatezolizumabを化学療法と組み合わせた場合の扁平上皮NSCLCへの有効性は未検証であり、この組織型における最適な免疫化学療法レジメンの選択は gap in knowledge として残されていた。IMpower131 (a global multicenter randomized Phase 3 trial) はこの空白を埋めるため、atezolizumab+carboplatin+nab-paclitaxelを扁平上皮NSCLCの1次治療として検証するために設計された。

目的

未治療Stage IV扁平上皮NSCLC患者を対象として、atezolizumab+carboplatin+nab-paclitaxel (A+CnP) とcarboplatin+nab-paclitaxel (CnP) 単独を比較し、PFS (progression-free survival) および OS (overall survival) における優越性を第一共同主要エンドポイントとして検証すること (IMpower131試験)。

結果

PFS:主要エンドポイント達成 (ITT集団):一次PFS解析 (CCOD 2018年1月22日、追跡期間中央値A+CnP 18.1ヶ月 vs CnP 16.1ヶ月) において、A+CnP群はCnP単独群に対して有意なPFS改善を達成した。中央PFS:A+CnP 6.3ヶ月 (95% CI 5.7-7.1) vs CnP 5.6ヶ月 (95% CI 5.5-5.7)、HR 0.71 [95%CI 0.60-0.85]、P=0.0001 (Fig 1A)。HRの95%CIは0.60-0.85であり、下限が1.0を大きく下回ることでA+CnP群の統計的有意な優越性を確認した。12ヶ月PFS率はA+CnP群24.7% vs CnP群12.0%と大きな差が認められた。PFSイベント発生数:A+CnP群270例 (78.7%) vs CnP群289例 (85.0%)。PD-L1高発現 (TC3/IC3) サブグループでは特にPFS改善が顕著で、中央PFS 10.1 vs 5.5ヶ月 (HR=0.44, 95% CI 0.27-0.71) であった (Table 2)。TC1/2またはIC1/2低発現サブグループでもHR=0.70 (95% CI 0.53-0.92) のPFS改善が観察されたが、TC0/IC0陰性サブグループではHR=0.81 (95% CI 0.64-1.03) にとどまった。Teff高発現集団でのHR=0.61 (95% CI 0.46-0.81) と比べ、Teff低発現集団ではHR=0.84 (95% CI 0.67-1.05) と利益が減弱した。

OS:最終解析で有意差なし (ITT集団):最終OS解析 (CCOD 2018年10月3日、追跡期間中央値A+CnP 26.8ヶ月 vs CnP 24.8ヶ月) において、A+CnP vs CnPのITT集団OSは統計的有意差に達しなかった。中央OS:A+CnP 14.2ヶ月 (95% CI 12.3-16.8) vs CnP 13.5ヶ月 (95% CI 12.2-15.1)、HR 0.88 [95%CI 0.73-1.05]、P=0.1581 (Fig 1B)。OSのHRに対する95%CIは0.73-1.05であり、上限が1.0を超えることで有意差なしを示した。24ヶ月生存率はA+CnP群32.5% vs CnP群26.6%であった。死亡数:A+CnP群228例 (66.5%) vs CnP群245例 (72.1%)。注目すべきことに、後続抗がん療法受療率はCnP群58.2% vs A+CnP群36.2%と大きく異なり、特に後続免疫療法 (主にnivolumab) の受療率はCnP群43.2% vs A+CnP群6.4%と、対照群に大幅な後続免疫療法の偏りがあった (Table A.2)。

PD-L1サブグループ別OS:高発現例で大きな利益、低発現例では利益なし:PD-L1発現別OS解析において、TC3/IC3高発現サブグループ (n=44〜48/arm) ではA+CnP群の中央OS 23.4ヶ月 vs CnP群10.2ヶ月 (HR=0.48, 95% CI 0.29-0.81) という大幅な改善が観察された (Table 3)。TC2/3またはIC2/3 (≥5% TC/IC) サブグループでもHR=0.72 (95% CI 0.52-1.00) の改善傾向があった。一方、TC1/2またはIC1/2低発現サブグループではA+CnP 12.8ヶ月 vs CnP 15.5ヶ月 (HR=1.08, 95% CI 0.81-1.45) と、atezolizumab追加の利益が認められないどころか数値的に劣勢であった。TC0/IC0陰性サブグループはHR=0.87 (95% CI 0.67-1.13) と中間的な結果だった。この低発現サブグループでのOS不利が全体ITT集団のOS非有意性に大きく寄与したと考えられる。

奏効率および奏効持続期間:最終解析時点 (CCOD 2018年10月3日) における担当医評価ORRはA+CnP群49.7% vs CnP群41.0%であり、中央DOR (duration of response) はA+CnP群7.3ヶ月 (95% CI 6.8-9.5) vs CnP群5.2ヶ月 (95% CI 4.4-5.6) であった (Table A.3)。TC3/IC3高発現サブグループではORR 61.7% vs 31.8%、中央DOR 13.6 vs 5.5ヶ月とさらに大きな差が観察された。低発現 (TC1/2またはIC1/2) サブグループではORR 52.6% vs 43.5%、陰性 (TC0/IC0) サブグループではORR 43.8% vs 41.5%と差は小さかった。治験終了時点での奏効持続例:A+CnP群37例 (21.8%) vs CnP群16例 (11.5%)。

安全性:A+CnP群での骨髄毒性と免疫関連毒性の増加:安全性集団はA+CP群332例、A+CnP群334例、CnP群334例。全グレードのTRAE (治療関連有害事象) 発現率:A+CnP群94.6% vs CnP群90.7%。Grade 3-4 TRAEはA+CnP群68.0% (227/334例) vs CnP群57.5% (192/334例) と、atezolizumab追加群でより高率だった (Table 4)。主要なGrade 3-4 TRAE (いずれかのarmで≥10%) は貧血 (A+CnP 22.2% vs CnP 20.7%)、好中球減少症 (A+CnP 21.3% vs CnP 22.5%)、好中球数減少 (A+CnP 10.8% vs CnP 13.8%)、血小板減少症 (A+CnP 9.3% vs CnP 8.1%) であった (Table 5)。深刻なTRAE:A+CnP群21.0% vs CnP群10.5%。免疫関連AEとして肺炎 (A+CnP群7.5% vs CnP 1.5%)、発疹 (A+CnP 23.1% vs CnP 11.7%)、甲状腺機能低下症 (A+CnP 11.1% vs CnP 0.9%)、肝機能異常 (A+CnP 17.7% vs CnP 8.1%) が認められた。治療関連Grade 5 AE (死亡):A+CnP群4例 (1.2%) vs CnP群3例 (0.9%)。治療中止をきたしたAE:A+CnP群102例 (30.5%) vs CnP群58例 (17.4%)。atezolizumabの中央治療期間はA+CnP群6.7ヶ月 (中央10サイクル)、carboplatin治療期間はA+CnP群2.6ヶ月 vs CnP群2.4ヶ月、nab-paclitaxel治療期間はA+CnP群3.0ヶ月 vs CnP群2.8ヶ月であった。

考察/結論

IMpower131試験は、扁平上皮NSCLC 1次治療においてatezolizumab+carboplatin+nab-paclitaxelがcarboplatin+nab-paclitaxel単独と比較してPFS有意改善 (HR 0.71、中央値6.3 vs 5.6ヶ月) を達成した一方で、最終OS解析はHR 0.88 (P=0.1581) と有意差なしというネガティブな結果に終わった。これまでの研究、特に非扁平上皮NSCLCへの同コンセプトのIMpower130試験やIMpower150試験でatezolizumab含有化学免疫療法がOSを有意に改善したことと対照的であり、扁平上皮NSCLCという組織型に固有の生物学的特性または試験デザイン上の交絡の存在を示唆する。

OS非有意の主要な原因として、後続治療の不均衡が重大な交絡として作用した可能性が高い。CnP群の43.2%が後続免疫療法を受けた一方、A+CnP群では6.4%のみであり、試験実施期間中に免疫チェックポイント阻害薬が2次治療の標準となったという時代背景を反映している。この著しい後続治療の非対称性が、A+CnP群の長期OS優位性を希釈した可能性がある。また、PD-L1低発現 (TC1/2またはIC1/2) サブグループではOS HR=1.08とatezolizumabの追加が数値的に不利であったことが全体結果に寄与した点も重要であり、当該サブグループにおける予後因子分布の詳細な解析が今後の課題として挙げられる。

本試験で新規に注目されるのは、PD-L1高発現 (TC3/IC3) サブグループにおいてA+CnP群の中央OS 23.4ヶ月 vs CnP群10.2ヶ月 (HR=0.48, 95% CI 0.29-0.81) という大幅な利益が観察された点である。これはOAK試験、POPLAR試験、IMpower150試験などの既報においてPD-L1高発現例でatezolizumabの効果が増強されるというパターンと整合しており、バイオマーカー選択による患者集団での利益最大化という新規の治療戦略の方向性を示唆している。KEYNOTE-407試験 (Paz-Ares 2018) がpembrolizumab追加で全体OS HR 0.71を達成したこととは相違するが、これは抗PD-1 (pembrolizumab) と抗PD-L1 (atezolizumab) の有効性差、化学療法骨格の違い (paclitaxelベース vs nab-paclitaxel主体)、または試験デザイン上の差異によるものと考えられ、cross-trial比較の限界を踏まえた慎重な解釈が必要である。

臨床的意義として、PD-L1高発現扁平上皮NSCLCではatezolizumab含有化学免疫療法が意義ある利益をもたらす可能性が示唆されるが、これはサンプルサイズが限定的な事後サブグループ解析であり、統計的検定力が担保されていないため臨床現場への直接的な適用は慎重であるべきである。全体患者集団へのA+CnP適用は本試験の結果では支持されない。

残された課題として、TC3/IC3高発現扁平上皮NSCLCへのatezolizumab+CnPを専門的に検証するprospective試験の実施が今後の検討として望まれる。また、PD-L1低発現群でのOS劣勢傾向の機序の解明、抗PD-1薬と抗PD-L1薬の扁平上皮NSCLCにおける直接比較、最適なバイオマーカー選択戦略の確立が重要な課題として残る。安全性面では、A+CnP群のGrade 3-4 TRAE 68.0%という高率はCnP単独 (57.5%) を上回っており、肺炎や肝機能異常などの免疫関連AEが化学療法毒性に上乗せされることは、今後の臨床開発におけるリスク・ベネフィット評価で常に考慮されるべき重要な制約である。

方法

グローバル多施設共同非盲検無作為化Phase 3試験 (NCT02367794)。2015年6月〜2017年3月に26カ国317施設で計1021例を登録した。組み入れ基準:病理学的または細胞学的に確認されたStage IV扁平上皮NSCLC (AJCC第7版)、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0〜1、転移性疾患への未治療、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1で測定可能病変あり、中央PD-L1検査用腫瘍組織あり。EGFR変異またはALK融合遺伝子陽性例はTKI (tyrosine kinase inhibitor) 治療後の進行または不耐容患者のみ組み入れ可。無作為化 (1:1:1) の層別因子は性別、肝転移有無、PD-L1発現 (IHC [immunohistochemistry]、TC3/任意IC vs TC0/1/2 IC2/3 vs TC0/1/2 IC0/1)。

治療割り付け:Arm A (A+CP; carboplatin + paclitaxel) — atezolizumab 1200mg + carboplatin AUC6 (area under the curve 6) + paclitaxel 200mg/m² IV (day1) q3週×4〜6サイクル→atezolizumab維持 (n=338)。Arm B (A+CnP) — atezolizumab 1200mg + carboplatin AUC6 + nab-paclitaxel 100mg/m² IV (days 1, 8, 15) q3週×4〜6サイクル→atezolizumab維持 (n=343)。Arm C (CnP、対照) — carboplatin + nab-paclitaxel単独 (n=340)。主要エンドポイント:A+CnP vs CnPのITT (intention-to-treat) 集団における担当医評価PFS (一次解析、CCOD (clinical cutoff date) 2018年1月22日) とOS (最終解析、CCOD 2018年10月3日)。副次エンドポイント:ORR (objective response rate)、DOR (duration of response)、PD-L1サブグループ別PFS・OS、Teff (T-effector) 遺伝子シグネチャー集団での有効性、安全性。PD-L1発現はSP142 IHC assayで中央評価。統計解析:層別log-rank検定でPFS・OS比較、Cox比例ハザードモデルでHR (hazard ratio) を推定、Kaplan-Meier法で中央値を算出 (95% CIはBrookmeyer-Crowley法)。α配分:PFS 0.006、OS 0.044 (2側)、PFS有意時にαをリサイクルしOSを0.05で検定。