- 著者: Saji H., Okada M., Tsuboi M., Nakajima R., Suzuki K., Aokage K., Aoki T., Okami J., Yoshino I., Ito H., Wakabayashi M., Nakamura K., Fukuda H., Nakamura S., Mitsudomi T., Watanabe S.I. (on behalf of WJOG and JCOG)
- Corresponding author: Hisashi Saji (St. Marianna University, Kawasaki, Japan)
- 雑誌: Lancet
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-01-06
- Article種別: Original Article (Phase 3 RCT、ランドマーク試験)
- PMID: 35461558
背景
肺癌は世界で最も死亡者の多い癌である (Sung et al. 2021)。早期NSCLCに対する外科的切除は治癒を目指す標準治療として確立されてきた。先行研究のLCSG821 (Lung Cancer Study Group randomized trial、1995年報告) は、亜区域切除が肺葉切除と比較して局所再発率を約3倍に増加させ、死亡率も高い傾向を示した。この結果を根拠に、肺葉切除 (lobectomy) が30年近くにわたり早期NSCLCの標準術式として推奨されてきた。一方で、術後補助療法の発展に伴い、手術術式そのものの最適化が新たな課題として浮上した。
ところが1990年代後半以降、CTスクリーニングの普及により小型・早期のNSCLCの検出頻度が著増した。特にGGO (ground-glass opacity; すりガラス陰影) を伴う病変が多く拾い上げられるようになった。こうした小型病変に対して肺葉切除は過剰侵襲である可能性があり、解剖学的区域切除 (segmentectomy) の適応拡大が模索されてきた。先行観察研究のJCOG0201 (Japan Clinical Oncology Group trial 0201) は、CTR (consolidation-to-tumour ratio; 充実成分割合) ≤0.25の病変が病理学的非侵襲性と高い5年RFSを示すことを確立した。しかし、CTR>0.5の侵襲性病変に対する縮小手術の前向きランダム化試験は存在しなかった。すなわち、ランダム化比較試験 (RCT; randomized controlled trial) による前向き検証が未確立のまま30年近くが経過し、区域切除の肺葉切除に対する非劣性・優越性を明確にするエビデンスが不足していた (臨床試験デザイン)。
目的
腫瘍径≤2cmかつ末梢性 (外側1/3) の臨床Stage IA (invasive adenocarcinoma) NSCLC (CTR>0.5の侵襲性病変) を対象に、区域切除がOSの観点で肺葉切除に対して非劣性 (非劣性マージン: HR上限1.54、5年OS下限85%) であることを検証し、さらに優越性を確認する。副次的にRFS・局所再発率・肺機能 (術後6・12ヶ月)・有害事象・手術関連指標を評価する。
結果
患者背景と登録概要: 2009年8月から2014年10月までに70施設で1,319例が一次登録され、術中適格性確認後にn=1,106例が二次登録された (肺葉切除群n=554例、区域切除群n=552例; Table 1)。患者背景は両群で良好に均衡しており、腺癌90.7%・病理Stage IA 83.5%・腫瘍径中央値1.6 cm・R0 (resection with free margin; 完全切除) 率99.4%・pN0 (pathologic node-negative; 病理リンパ節転移陰性) 93.9%といずれもバランスが取れていた。区域切除群22例は術中確認事項 (リンパ節転移16例・区域切除困難と判断6例等) を理由に肺葉切除へ変更されたが、ITT (intention-to-treat; 治療意図解析) を主解析として維持した。組織型は腺癌87.5%・扁平上皮癌7.3%・大細胞癌5.2%であった。術前CTR中央値は両群でほぼ同等 (区域切除群0.87 vs 肺葉切除群0.88) であり、高CTR病変 (CTR=1.0、完全充実影) が両群とも約50%を占めた。VATS施行率も両群で88〜90%と高く、最小侵襲アプローチの均質性が試験結果の内的妥当性を高めた。
主要エンドポイント (OS): 区域切除の有意な優越性が確立: 中央値追跡期間7.3年 (範囲0.0-10.9) における5年OSは、区域切除群94.3% (95% CI 92.1-96.0) vs 肺葉切除群91.1% (95% CI 88.4-93.2) であった (Figure 1)。層別Cox回帰によるHRは0.663 (95% CI 0.474-0.927)で、非劣性が片側P<0.0001で確認されると同時に、優越性P=0.0082も有意であった。全死亡は141例で、内訳は肺葉切除群83例 vs 区域切除群58例。注目すべきことに、肺癌関連死は両群同等 (31例 vs 31例) だった一方で、他疾患死が肺葉切除群で著明に多く (52例 vs 27例)、他のがん・呼吸器疾患・脳血管疾患による死亡差が主因であった。すなわち、OS差は肺癌制御の差ではなく非肺癌死亡の差から生じていた。さらに、第2原発肺癌への追加手術施行率は区域切除後89% (32/36例) vs 肺葉切除後63% (19/30例) と明確な差を示し、肺実質温存による予備機能維持が二次手術機会を拡大した可能性を示唆した。OS改善は全事前規定サブグループ (男性HR 0.622・70歳以上HR 0.642・非腺癌HR 0.505・CTR=1.0 HR 0.706) で一貫しており、交互作用検定でいずれも有意な交互作用は認められなかった (Figure 3)。
副次エンドポイント (RFS): 両群で同等、局所再発は区域切除群でやや増加: 5年RFSは区域切除群88.0% (95% CI 85.0-90.4) vs 肺葉切除群87.9% (95% CI 84.8-90.3) で、HR 0.998 (95% CI 0.753-1.323、P=0.9889) と完全に重なった (Figure 2)。一方で、locoregional relapse (同側胸腔内) は区域切除群でやや多く認められ (58例10.5% vs 30例5.4%、P=0.0018)、再発部位は切除断端近傍が最多であった。遠隔転移は両群で類似していた (区域切除16例2.9% vs 肺葉切除17例3.1%)。その結果、再発後5年生存率は区域切除群68% vs 肺葉切除群49%と区域切除群で高く、再手術 (区域再切除・肺葉切除への拡大) や定位放射線療法への救済治療が容易であったことがOS改善に寄与した可能性を示した。
術後肺機能 (FEV1) と安全性: FEV1 (forced expiratory volume in 1 second; 1秒量) 低下率中央値は、6ヶ月時で区域切除群10.4% vs 肺葉切除群13.1%、12ヶ月時で8.5% vs 12.0%であった。両群間差は6ヶ月時2.7%・12ヶ月時3.5% (P<0.0001) であり、統計的には有意なものの、事前規定の臨床的有意差閾値10%を下回った (Table 2)。すなわち、肺機能温存効果は確かに存在するが臨床的に体感できる差ではなかった。30日・90日死亡率はいずれも0%で、Grade 2以上の術後合併症発生率も肺葉切除群26%・区域切除群27%と差は認めなかった (主な合併症は肺瘻・肺炎・不整脈)。一方で、複雑な区域切除 (≥2区域間平面切断) は肺合併症リスクの独立予測因子であった (OR 2.07、95% CI 1.11-3.88、P=0.023)。手術時間中央値は肺葉切除174分 vs 区域切除201分で、区域切除の技術的複雑性が反映された。血液検査を含む追加安全性評価では両群に有意差は見られず、周術期死亡例は全試験期間を通じてゼロであった。
考察/結論
JCOG0802 (Japan Clinical Oncology Group trial 0802)/WJOG4607L (West Japan Oncology Group trial 4607L) 試験は、小型末梢性侵襲性NSCLC (≤2cm、CTR>0.5) において区域切除が肺葉切除に対してOSで有意に優れることを世界で初めてランダム化比較試験で示した歴史的ランドマーク試験である。この結果に基づき、当該患者層における区域切除が新しい標準術式として推奨される。
先行研究との比較: 先行研究のLCSG821 (Ginsberg & Rubinstein 1995) は縮小手術の局所再発率3倍増・死亡率高値を示したが、本試験と異なる点として、(1) LCSG821は楔状切除主体で解剖学的区域切除に限定していなかった、(2) CTスクリーニング時代の小型末梢性病変という患者選択がなかった、(3) 追跡期間が短かったという差異がある。本研究は区域切除を解剖学的に正確に実施し、CTR>0.5の侵襲性病変のみに適応を絞ることで前試験の限界を克服した。
新規性: 本研究は解剖学的区域切除が肺葉切除に対してOS面で優越することを初めてRCTで実証した、これまでにない知見であり、30年来の外科の標準を書き換える根拠となった。OS改善は肺癌死の差ではなく他疾患死の差に起因しており、区域切除による肺実質温存が将来の第2原発肺癌等への追加手術機会を拡大することが主要メカニズムと解釈される。
臨床的含意: 本研究の結果は2022年以降の各国ガイドライン改訂の根拠となり、臨床Stage IA小型末梢性NSCLCにおける区域切除を新標準術式として位置付けた。局所再発率のわずかな増加 (10.5% vs 5.4%) は臨床的に許容可能であり、再発後の積極的治療 (再手術・放射線) が可能であることがOSへの悪影響を相殺した。ロボット支援手術や3D-CT計画の普及とともに、本試験結果の一般化可能性はさらに高まると期待される。なお、IO (immuno-oncology) 系術後補助免疫療法の開発との組み合わせ試験も今後の重要課題として位置付けられる。
限界と今後の残された課題: 北米のCALGB140503試験 (楔状切除を含む) との直接比較は慎重を要し、解剖学的区域切除限定の本試験との差異がある。腫瘍径2〜3cmや中葉への縮小手術拡大適応は今後の検証課題として残されている。術者技術・施設規模による成績の差や、免疫チェックポイント阻害薬との術後補助療法の組み合わせも今後の重要な研究課題である。
方法
日本70施設 (JCOG 44施設・WJOG 26施設) による多施設共同非劣性 (後に優越性) Phase 3 RCT (UMIN000002317)。登録期間: 2009年8月10日〜2014年10月21日。
適格基準: 年齢20-85歳・ECOG PS (performance status) 0-1・原発性末梢性NSCLCが疑われる径≤2cm・CTR>0.5・外側1/3・中葉を除く・臨床Stage IA (Ia; TNM (tumour node metastasis) 分類の最も早期の腫瘍ステージ)。VATS (video-assisted thoracic surgery; 胸腔鏡手術) を含む全術式が対象。二段階登録: 第一登録 (術前) で適格確認後、術中確認 (二次登録) でランダム化。
ランダム化: 肺葉切除群 (n=554) または区域切除群 (n=552) に1:1で最小化法 (組織型・性別・年齢・CTR) によりランダム化 (術中)。盲検化なし。
主要エンドポイント: OS。非劣性マージン: HR上限1.54 (5年OS 85%相当)。1030例 (死亡イベント131件)・検出力80%・1側有意水準5%の必要症例数。層別Cox回帰モデル (組織型・性別) で主要解析。FEV1 (forced expiratory volume in 1 second; 1秒量) 低下率を術後6・12ヶ月で評価した。
患者背景 (n=1,106例): 年齢中央値67歳・男性52.7%・70歳以上38.2%・腺癌87.5%・病理Stage IA 83.5%。腫瘍径中央値1.6 cm・CTR=1.0 (完全充実影) 50.0%。VATS施行88.7% (肺葉切除) vs 89.7% (区域切除)。