• 著者: Fick CN, Caso R, Tan KS, Jones DR, Dycoco J, Bains MS, Sarkaria IS, Huang J, Isbell JM, Molena D, Park BJ, Rizk NP, Rocco G, Rusch VW, Travis WD, Adusumilli PS, Bott MJ
  • Corresponding author: Matthew J Bott (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
  • 発行年: 2024
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38788834

背景

I期非小細胞肺がん (NSCLC) は、外科的完全切除により良好な長期生存が期待できる。しかし、肺腺がん (LUAD) においては、完全切除後であっても10%から30%の患者が術後に再発を経験し、予後不良に至ることが知られている。近年、切除不能または進行期肺がんの治療が大きく進歩する中で、術後補助療法の開発も活発化している。例えば、Felip et al. Lancet 2021 (IMpower010試験) では、術後化学療法後のアテゾリズマブ補助療法の有用性が示され、OBrien et al. LancetOncol 2022 (KEYNOTE-091試験) ではペムブロリズマブの有用性が報告された。さらに、Wu et al. NEnglJMed 2020 (ADAURA試験) により、EGFR変異陽性のIB-IIIA期患者に対するオシメルチニブの劇的な再発抑制効果が証明された。しかし、これらの大規模臨床試験の多くはIB期からIIIA期を対象としており、IA期を含むI期全体における再発高リスク群の同定や、どのような臨床病理学的因子を組み合わせてリスク層別化を行うべきかについては、依然として「未解明」な部分が多い。現行のTNM分類 (第8版) は主に腫瘍径 (T因子) に基づいてステージングが行われているが、腫瘍径のみでは生物学的侵攻性を十分に反映できず、再発予測モデルとしては「不足」している。先行研究である Pignon et al. JClinOncol 2008 などのメタ解析でも、I期における補助化学療法のベネフィットは一貫しておらず、臨床現場における意思決定を支援するための、より精緻なリスク層別化システムの構築が強く求められていた。特に、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer; 世界肺癌学会) 組織学的グレード、LVI (lymphovascular invasion; 血管リンパ管侵襲)、VPI (visceral pleural invasion; 臓側胸膜浸潤)、術前PETにおける最大標準化取り込み値である SUVmax (maximum standardized uptake value) などの複数の因子を統合した大規模コホートでの多変量解析は「不足」しており、どの因子が独立して再発に寄与するのか、またそれらの累積がどのように再発率に影響するのかは「不明」であった。

目的

本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において完全切除 (R0切除) が施行された病理学的I期肺腺がん (LUAD) の大規模コホートを対象に、術後再発に関連する独立した臨床病理学的因子 (SUVmax、IASLC組織学的グレード、LVI、VPI、切除術式、腫瘍径など) を多変量競合リスクモデルを用いて同定することである。さらに、同定された高リスク因子の累積数に基づき、患者を低リスク、中間リスク、高リスクの3群に層別化する実用的なリスク層別化モデルを構築し、将来的な術後補助療法の適応判断や、個別化された術後フォローアップ計画の策定に寄与する臨床的エビデンスを提供することを目指す。

結果

コホートの基本特性と病期別の累積再発率の比較: 本研究の解析対象となった病理学的I期肺腺がん患者は1,912例であった (Table 1)。患者背景として、年齢中央値は69歳 (IQR 63-75歳)、女性が1,250例 (65%)、男性が662例 (35%) であった。中央値68ヶ月の観察期間において、250例 (13%) に再発が確認された。コホート全体の5年累積再発率 (CIR) は12% (95% CI 11-14%) であった。病期別の5年CIRを比較すると、Stage IA1期で5% (95% CI 3-8%)、Stage IA2期で11% (95% CI 9-14%)、Stage IA3期で12% (95% CI 9-15%)、Stage IB期で24% (95% CI 20-29%) であり、病期の上昇に伴い再発リスクが有意に増加することが示された (p < 0.001、Figure 1)。特に、Stage IB期 vs Stage IA1期の比較において、5年CIRは24% vs 5% と、病期により再発リスクに大きな開きが認められた。

多変量解析における独立した再発予測因子の同定: Fine-Gray競合リスクモデルを用いた多変量解析 (Table 2) の結果、複数の臨床病理学的因子が独立した再発予測因子として同定された。術前因子では、原発腫瘍のSUVmaxが HR 1.04 (95% CI 1.02-1.06, p<0.001) と、有意な再発リスク上昇に関連していた。病理学的因子においては、IASLC組織学的グレードが最も強力な独立した再発予測因子であり、Grade 1と比較して、Grade 2では HR 5.32 (95% CI 1.93-14.7, p=0.001)、Grade 3では HR 7.93 (95% CI 2.81-22.4, p<0.001) と、グレードの上昇に伴い再発リスクが段階的かつ大幅に上昇した。また、血管リンパ管侵襲 (LVI) 陽性は HR 1.70 (95% CI 1.23-2.34, p=0.001)、臓側胸膜浸潤 (VPI) 陽性は HR 1.54 (95% CI 1.09-2.17, p=0.014) と、いずれも独立して有意な再発リスク上昇を示した。腫瘍径も1cm増加ごとに HR 1.30 (95% CI 1.10-1.55, p=0.003) と独立したリスク因子であった。

手術術式が再発リスクに与える影響と小型腫瘍における検討: 切除術式に関して、楔状切除または区域切除を含む亜区域切除は、標準術式である肺葉切除と比較して、多変量解析において HR 2.04 (95% CI 1.53-2.72, p<0.001) と有意に高い再発リスクと関連していた (Table 2)。この再発リスクの上昇は、Saji et al. Lancet 2022 (JCOG0802試験) などの知見とも関連するが、本コホートにおける腫瘍径2cm以下の小型肺腺がんに限定したサブグループ解析 (n=1,127) においても同様に認められた。小型腫瘍における亜区域切除 vs 肺葉切除の比較では、亜区域切除が HR 2.61 (95% CI 1.69-4.01, p<0.001) と、独立して有意な再発リスク上昇を示した (Table E2 [E: electronic、電子付録表2])。この結果は、小型肺がんに対する縮小手術の適応決定において、腫瘍の生物学的悪性度を十分に考慮する必要性を示唆している。

遺伝子変異およびPD-L1発現と再発との関連: 主要なドライバー遺伝子変異の解析では、EGFR変異陽性例が351例 (19%)、KRAS変異陽性例が467例 (34%)、ALK融合遺伝子陽性例が22例 (1%) に認められたが、これらの遺伝子変異の有無は単変量競合リスク解析において再発リスクと有意な関連を示さなかった (Table E6 [電子付録表6])。一方、PD-L1発現状況 (n=940) の解析では、PD-L1発現陽性 (1%以上) の割合は、高リスク因子を持たない低リスク群で8%であったのに対し、高リスク群では39%と有意に高値であった (p<0.001、Table E7 [電子付録表7])。PD-L1陽性率をリスク群間で比較すると、39% vs 8% と、生物学的悪性度が高い腫瘍ほど免疫チェックポイント阻害薬の標的分子を発現している可能性が示された。

高リスク因子の累積による再発リスクの段階的上昇: 本研究では、多変量解析で同定された独立した予後因子のうち、治療介入不可能な腫瘍径および術式を除外した4つの生物学的特徴 (SUVmax 2.6以上、IASLC grade 3、LVI陽性、VPI陽性) を「高リスク因子」と定義した。これらの因子の累積数に基づき、0個を低リスク群 (n=773)、1〜2個を中間リスク群 (n=838)、3〜4個を高リスク群 (n=301) に分類した (Table E4 [電子付録表4])。5年CIRは、低リスク群で3.6% (95% CI 2-5%) であったのに対し、中間リスク群では14% (95% CI 12-17%)、高リスク群では30% (95% CI 25-36%) と、因子の累積に伴い再発リスクが段階的かつ有意に上昇した (p<0.001、Figure 3)。高リスク群 vs 低リスク群の比較では、5年CIRは 30% vs 3.6% と、因子の累積により再発リスクが約8.3倍に跳ね上がることが示された。さらに、STASのデータが存在するサブグループ (n=1,127) において、STASを高リスク因子に加えた解析を行ったところ、低リスク群の5年CIRは1%未満 (95% CI 0.2-2.9%) であったのに対し、高リスク群では24% (95% CI 19-30%) と、極めて明瞭なリスク層別化が可能であった (Figure E3 [電子付録図3])。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、腫瘍径 (T因子) のみに依存して術後再発リスクを評価してきた「これまで」のTNM分類やガイドラインの評価基準と異なり、腫瘍の生物学的侵候性を反映する複数の病理学的・画像統計学的因子を統合して評価した点で対照的である。従来のNCCN (National Comprehensive Cancer Network) ガイドライン等では、IB期肺がんの一部を臨床病理学的特徴に基づいて高リスクと分類していたが、2023年末の改訂でこの基準が削除され、I期におけるリスク層別化の明確な指針が失われていた。本研究は、腫瘍径が小さくとも特定の生物学的特徴を有する症例では再発リスクが極めて高いことを示し、病期分類のみに頼る予後予測の限界を浮き彫りにした。

新規性: 本研究は、1,912例という極めて大規模な単一施設コホートを用いて、IASLC組織学的グレード、LVI、VPI、および術前SUVmaxの4つの因子が、互いに独立した強力な再発予測因子であることを「本研究で初めて」明らかにした。特に、IASLC grade 3がStage I肺腺がんにおいて HR 7.93 という最大の再発寄与度を持つことを「新規」に同定し、さらにこれらの高リスク因子の累積数が3〜4個に達する群では、因子を持たない群と比較して5年累積再発率が約8.3倍 (30% vs 3.6%) に跳ね上がるという段階的なリスク層別化モデルを「本研究で初めて」提示した。

臨床応用: 本研究の知見は、早期肺腺がんにおける術後補助療法の適応決定という「臨床現場」における重要な課題に対して、極めて高い「臨床的意義」を持つ。現在、EGFR変異陽性のIA2/IA3期を対象としたオシメルチニブの第3相試験であるADAURA2試験 (NCT05120349) が進行中であるが、本研究で示された高リスク因子 (特にGrade 3やLVI陽性など) を組み合わせることで、真に術後補助療法の恩恵を受ける可能性が高い超高リスク群を「臨床現場」で選別することが可能となる。また、高リスク群においてPD-L1発現陽性率が有意に高かった (39%) 事実は、早期肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬を用いた術後補助療法の「臨床応用」に向けた重要なバイオマーカーとしての「臨床的有用性」を示唆している。

残された課題: 本研究にはいくつかの「残された課題」および「limitation」が存在する。第一に、単一施設における後ろ向き解析であるため、選択バイアスの影響を完全に排除することはできず、本リスク層別化モデルの外部妥当性を検証するための多施設共同前向きコホートによる検証が「今後の課題」である。第二に、気腔内腫瘍散布 (STAS) は強力な局所再発予測因子として知られているが、本コホートでは2016年以前の症例でSTASのルーチン評価が行われておらず、全症例を対象とした解析に組み込めなかった点が「limitation」として挙げられる。さらに、Abbosh et al. Nature 2023 で示されたような循環腫瘍DNA (ctDNA) 技術などのリキッドバイオプシーと、本研究で同定された高リスク臨床病理学的特徴を組み合わせることで、より精緻な再発予測モデルを構築することが「今後の研究」における重要な方向性である。

方法

本研究は、MSKCCのプロスペクティブに維持されているデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。2010年から2020年までに病理学的I期 (AJCC第8版) の肺腺がんと診断され、完全切除 (R0切除) が施行された1,912例を対象とした。除外基準は、肺がんの既往、同時性多発肺がん、粘液性または微小浸潤性腺がん、術後90日以内の死亡、術前導入療法または術後補助療法の施行例、およびリンパ節サンプリング未実施例とした。 収集されたデータには、患者背景、術前PETにおける原発腫瘍のSUVmax、手術アプローチ、切除術式 (肺葉切除 vs 亜区域切除 [区域切除または楔状切除])、および詳細な病理学的特徴が含まれる。組織学的グレードは、2020年に提案されたIASLCの新分類 (Grade 1: 伏在性 [lepidic] 優位、Grade 2: 腺胞状 [acinar]/乳頭状 [papillary] 優位、Grade 3: 乳頭体状 [micropapillary]/充実性 [solid] 優位) に基づいて再評価された。また、LVI、VPI、および気腔内腫瘍散布である STAS (spread through air spaces) の有無についても評価した。なお、STASは2016年以前にはルーチンで報告されていなかったため、データが存在する1,127例のサブグループにおいて追加解析を行った。 主要エンドポイントは、術後再発の発生確率を示す CIR (cumulative incidence of recurrence; 累積再発率) とし、手術日から再発確認日までの期間と定義した。再発の診断は画像診断または生検組織診により行い、Martini and Melamed基準および分子標的検査を用いて第二原発肺がんとの鑑別を行った。統計解析では、再発なき死亡を競合リスク (competing risk) として扱い、Fine and Gray competing-risks analysis (Fine-Gray競合リスクモデル) を用いて、各臨床病理学的因子と術後再発との関連を評価した。単変量解析においてp < 0.05であった因子を多変量解析モデルに投入した。病期 (Stage IA vs IB) とVPIは交絡するため、多変量解析には病期の代わりに腫瘍径を投入した。生存解析にはKaplan-Meier法およびCox regression (コックス比例ハザード回 回帰モデル) を用いた。すべての統計解析はR (version 4.3.1) を用いて実施され、両側p < 0.05を有意差ありと判定した。なお、本研究の背景および考察において、現在進行中のI期肺腺がんを対象とした術後補助療法臨床試験であるADAURA2試験 (臨床試験登録番号: NCT05120349) との関連性についても言及した。