• 著者: Montero A, Fossella F, Hortobagyi G, Valero V
  • Corresponding author: Vicente Valero, MD (Department of Breast Medical Oncology, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Systematic Review
  • PMID: 15811618

背景

Docetaxelは半合成taxane系抗腫瘍薬であり、β-チューブリンに結合して微小管を過安定化させることで細胞周期G2/M期停止とアポトーシスを誘導する。ビンカアルカロイドやコルヒチンが微小管脱重合を促進するのとは逆の機序であり、taxane類は独自の抗腫瘍スペクトラムを持つ。構造的にdocetaxelはpaclitaxelと3’位側鎖および10’位baccatin環の2か所で異なり、臨床的に交差耐性が完全ではないことが示されている。

1990年代後半から2000年代にかけて、docetaxelは複数の固形腫瘍で個別のPhase III試験結果が蓄積されてきた。乳癌領域ではSjostrom et al.らのdocetaxel対methotrexate+フルオロウラシル試験 (TTP 6.3 vs 3.0ヶ月) やNabholtz et al.のmitomycin+vinblastine対照試験 (OS 11.4 vs 8.7ヶ月) など複数の無作為化試験が有効性を示し、NSCLC領域ではSchiller et al. NEnglJMed 2002 (ECOG 1594) が4レジメンを比較してplatinum-doubletの同等性を示した。NSCLC 2次治療ではShepherd et al. JClinOncol 2000 (TAX 317) とFossella et al. JClinOncol 2000 (TAX 320) がdocetaxelの2次治療効果を個別に報告していたが、腫瘍型を跨いだ比較・統合は未実施であった。前立腺癌ではmitoxantrone+prednisoloneが従来標準であったが生存改善エビデンスは不足しており、卵巣癌ではGOG-111試験 (paclitaxel+cisplatin vs cisplatin+cyclophosphamide: OS 38 vs 24ヶ月、p<0.001) によりtaxane含有レジメンが標準化されていた。しかしながら、2005年時点で「どの腫瘍型の・どの治療設定で・どのdocetaxelレジメンが生存を改善するか」を腫瘍型横断的に統合したレビューは存在せず、これが未解決のknowledge gapであった。臨床現場では腫瘍型別の適正用量・スケジュール・combination相手の選択根拠が不明確なまま個別試験結果が散在しており、腫瘍型を越えたdocetaxelの有効性スペクトラムの全体像が体系的に整理されていないことが重大な情報の欠落であった。

目的

乳癌・NSCLC・前立腺癌・卵巣癌・胃癌におけるdocetaxelの主要Phase III無作為化試験データを腫瘍型ごとに系統的にレビューし、各領域での有効性 (奏効率・time-to-progression・OS)・安全性プロファイル・生存への影響を統合的に評価すること。

結果

NSCLC 2次治療 — docetaxelがbest supportive care (BSC) 比でOS改善を初証明: TAX 317試験 (Shepherd et al. JClinOncol 2000) はplatinum難治stage IIIB/IV NSCLC患者にdocetaxel (初期100 mg/m2 → 毒性で75 mg/m2に減量) またはBSCを割り付けた試験である。intention-to-treat解析でdocetaxel群mOS 7.0ヶ月 (95% CI 5.5-9.0) vs BSC群4.6ヶ月 (95% CI 3.7-6.0、p=0.047)、1年OS 29% vs 19%と有意な生存延長を達成した (Table 3)。Grade 4好中球減少はdocetaxel 75 mg/m2群で管理可能であり (発熱性好中球減少2%、敗血症死なし)、100 mg/m2では22%と高率であった。TAX 320試験 (Fossella et al. JClinOncol 2000)では373例をdocetaxel 100 mg/m2・75 mg/m2・vinorelbine/ifosfamideに割り付け、1年OS docetaxel 75 mg/m2群32% (95% CI 23-40) vs対照群19% (95% CI 12-26) と有意差が確認された (Table 3)。mOSは5.7 vs 5.6ヶ月でNS (not significant) だったが、ORR docetaxel 7% vs 1%未満 (p有意) の差も認められた。Pemetrexedとdocetaxelを比較した試験 (Hanna et al. JClinOncol 2004) ではmOS 8.3 vs 7.9ヶ月 (NS)・1年OS 29.7% vs 29.7%と両者同等であり、docetaxelが2次治療の基準薬として新薬比較の対照に用いられるようになった。週1回投与 (qw) vs 3週1回投与 (q3w) の比較では、q3w群mOS 5.8ヶ月vs qw群mOS未到達であり、毒性面の差は認められたが生存への影響は不明瞭であった。

NSCLC 1次治療 — TAX 326でdocetaxel+cisplatin優位性を確認: Stage IIIB/IV NSCLCの化学療法未治療例を対象としたRoszkowski et al.試験 (n=207) ではdocetaxel 100 mg/m2 q3w vs BSCで1年OS 25% vs 16% (p=0.026)・2年OS 12% vs 0と、1次治療としてのdocetaxel単剤がBSCより優れることが示された (Table 3)。ECOG 1594 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) はCD (cisplatin+docetaxel)・cisplatin+gemcitabine・paclitaxel+cisplatin・paclitaxel+carboplatinの4レジメンを比較した大規模試験 (n=1207) であり、CD群ORR 17%・mOS 7.4ヶ月・1年OS 31% (95% CI 26-36) と4群間でOS差なし (Table 3)。Georgoulias et al.試験 (n=441) では100 mg/m2 docetaxel+cisplatin vs gemcitabine+docetaxelでmOS 10.0 vs 9.5ヶ月と同等であり、gemcitabine+docetaxel群でGrade 3-4好中球減少 (22% vs 34%、p=0.01) と下痢 (3% vs 10%、p=0.001) がより少なかった。TAX 326試験 (n=1218) はDC (docetaxel+cisplatin)・DCb (docetaxel+carboplatin)・CV (cisplatin+vinorelbine) を比較し、DC群mOS 11.3ヶ月 (95% CI 10.1-12.4) vs CV群10.1ヶ月 (95% CI 9.2-11.3) と有意差 (p<0.05)、1年OS 46% (95% CI 42-51) vs 41% (95% CI 36-46) を達成した (Table 3)。DCb群mOS 9.4ヶ月はCV群と同等 (非劣性確認)。ORRはDC 32% (95% CI 27-36) vs DCb 24% vs CV 25%。QoL (quality of life) はdocetaxel含有レジメン群でCV群より有意に良好 (p<0.05)。術前 (neoadjuvant) 設定ではMattson et al.試験 (n=274、stage IIIA/B) でdocetaxel 100 mg/m2 3サイクル→根治的局所療法 vs 局所療法単独を比較し、1年OS 59.1% (95% CI 50.4-67.7) vs 50.5% (95% CI 41.9-59.1) でdocetaxel群に数値上の差はあったがOS・TTPともにNSであった。

乳癌 — 転移・術前・術後補助の三設定での有効性: 転移乳癌では10の主要Phase III試験が整理された (Table 1)。TAX 311試験 (n=449、アントラサイクリン前治療例) でdocetaxel 100 mg/m2 vs paclitaxel 175 mg/m2比較では、ORR同等 (32% vs 25%、NS) ながらTTP 5.7 vs 3.6ヶ月 (p<0.001)・mOS 15.4 vs 12.7ヶ月 (p=0.030) とdocetaxelが有意に優れた。2年OS 33% vs 22%・3年OS 19% vs 12%・4年OS 11% vs 7%といずれもp<0.05でdocetaxelの長期生存ベネフィットが持続した。Capecitabine+docetaxel vs docetaxel単剤 (n=511) ではmOS 14.5 vs 11.5ヶ月 (p=0.0126)・TTP 6.1 vs 4.2ヶ月 (p=0.001) とcapecitabine追加による生存延長が確認された。Docetaxel vs doxorubicin比較 (n=326) ではORR 48% vs 33% (p=0.008) ながらOS 15.0 vs 14.0ヶ月でNSであり、ドキソルビシンと同等の生存効果で心毒性・血小板減少が少なかった。Dose escalation試験 (60・75・100 mg/m2、n=527) ではORR 20% vs 22% vs 30% (p=0.017) と100 mg/m2で奏効率は高いがTTP・OSに有意差なく、発熱性好中球減少は5% vs 7% vs 14%と用量依存性増加のみ認められた (Table 1)。術前化学療法では、Aberdeen試験 (CVAP (cyclophosphamide, vincristine, adriamycin, prednisolone) →docetaxel vs CVAP×8) でpCR 34% vs 16%・5年DFS 90% vs 72% (p=0.04)・5年OS 93% vs 78% (p=0.04) とdocetaxel追加による病理学的奏効および生存改善を実証した (Table 2)。NSABP B-27 (n=2411) でも術前AC→docetaxel追加によりpCR 26% vs 14% (p<0.001) と組織学的完全奏効率が倍近く増加し、腋窩リンパ節陽性率低下 (51% vs 58%、p<0.001) も達成された。術後補助では、BCIRG 001試験 (TAC vs FAC、n=1491、55ヶ月追跡) でDFS 75% vs 68% (p=0.001)・OS 87% vs 81% (p=0.008) と、特にリンパ節転移1-3個の亜群でOS 96% vs 89% (p=0.006) と顕著な効果が示された。PACS 01試験 (FEC×6 vs FEC×3+docetaxel×3、n=1999) でも5年DFS 78% vs 74% (p=0.041)・5年OS 91% vs 87% (p=0.05) と補助療法でのdocetaxel有効性が確認された。

前立腺癌 — TAX-327が初のOS改善細胞障害薬を確立: TAX-327試験 (n=1006、転移性去勢抵抗性前立腺癌 [mCRPC]) は、docetaxel 75 mg/m2 q3w・docetaxel 30 mg/m2 qw・mitoxantrone 12 mg/m2 q3wにprednisolone 5 mg 1日2回を加えた3群比較試験である。主要エンドポイントのOS: docetaxel q3w群mOS 18.9ヶ月 (95% CI 17.0-21.2) vs mitoxantrone群16.5ヶ月 (95% CI 14.4-18.6、p=0.0009) と有意な生存延長を達成した (Table 4)。PSA奏効率45% vs 32% (p=0.0005)・疼痛奏効率35% vs 22% (p=0.001) と腫瘍縮小・症状制御の両面でmitoxantroneを上回った。一方docetaxel qw群mOS 17.4ヶ月はmitoxantrone群との有意差に至らず、q3wスケジュールの優位性が示された。SWOG-9916試験 (n=770) ではdocetaxel (60→70 mg/m2) +estramustine (280 mg) vs mitoxantrone+prednisoloneで、mOS 18 vs 15ヶ月・TTP 6.0 vs 3.0ヶ月と有意な改善 (Table 4)。ただしestramustine含有群でGrade 3-4有害事象 (54% vs 34%) と心血管毒性が多く、抗凝固療法 (warfarin+aspirin) の追加が必要であった。

卵巣癌・胃癌 — 神経毒性プロファイルの差別化と新規適応: SCOTROC試験 (n=1077、FIGO stage Ic-IV上皮性卵巣癌) ではdocetaxel 75 mg/m2+carboplatin (AUC=5) vs paclitaxel 175 mg/m2+carboplatin (AUC=5) を比較し、奏効率65% vs 62% (NS)・PFS同等・mOS 15.0 vs 14.8ヶ月 (NS) と生存は同等であった (Table 4)。しかし神経感覚毒性 (Grade 3-4: 45% vs 78%、p<0.001)・神経運動毒性 (9% vs 16%、p=0.001) がdocetaxelで有意に少なく、QoL評価でもneuropathyスコアがpaclitaxel群のみ持続的に悪化した。一方docetaxel群でGrade 3-4好中球減少・発熱性好中球減少がより高率であった。胃癌のV325試験 (DCF: docetaxel+cisplatin+フルオロウラシル vs CF、n=232の中間解析) ではdocetaxel追加によりORR 39% vs 23%・TTP 5.2 vs 3.7ヶ月の改善を認めたが、mOS 10.2 vs 8.5ヶ月は事前設定閾値 (p=0.0053) に到達せず。Grade 3-4有害事象がDCF群82%・CF群81%と両群ともに高率であり毒性の高さが問題として指摘された。

考察/結論

本系統的レビューは、docetaxelが乳癌・NSCLC・前立腺癌・卵巣癌・胃癌の主要固形腫瘍においてPhase III試験で生存または生活の質を改善する強力なエビデンスを有することを、腫瘍型横断的に初めて整理・統合した。

Shepherd et al. JClinOncol 2000Schiller et al. NEnglJMed 2002 といった個別試験が単一腫瘍型・治療設定に限定した知見を提供していたのと異なり、本レビューはdocetaxelが乳癌・NSCLC・前立腺癌・卵巣癌・胃癌にわたる複数の腫瘍型・治療設定でOS改善を達成した唯一のcytotoxic agentであることを腫瘍型横断的に初めて統合・明確化した。特にNSCLCでは2次治療 (TAX 317) でBSC比の初めてのOS改善、1次治療 (TAX 326) ではdocetaxel+cisplatin群がvinorelbine+cisplatin比でOS延長、前立腺癌では初のOS改善化学療法 (TAX-327) という3つの歴史的位置付けが一つの視点で統合された。乳癌においても転移・術前・術後補助の三設定それぞれで有効性が示されており、これまで報告されていない包括的な「腫瘍型別docetaxelポジショニング」を本論文が初めて提供した。

臨床的意義として、本レビューは「いつ・どの腫瘍型で・どのdocetaxelレジメンを使うべきか」という実践的意思決定を支援する基盤を提供している。NSCLC 2次治療では75 mg/m2 q3wが標準 (100 mg/m2は毒性増加のみで生存差なし)、前立腺癌ではq3wがqwより生存で優れる、卵巣癌では末梢神経障害リスクが高い患者にはpaclitaxelの代替として使用可能、という具体的な投与戦略が導出される。臨床現場ではdocetaxelとG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor)・dexamethasone (dexamethasonの前投薬) による毒性管理プロトコルが確立されており、好中球減少・体液貯留をコントロールしながら有効性を引き出せることが示されている。

残された課題として、NSCLC・乳癌ともに「combination vs sequential chemotherapy」の優劣が依然として未解決であり、今後の検討が必要とされている。NSCLC adjuvant設定でのdocetaxelのPhase III試験は2005年時点で存在せず (paclitaxelのCALGB 9633との外挿のみ)、胃癌でのDCFレジメンは毒性 (Grade 3-4: 82%) が臨床使用を制限するため毒性軽減を目的とした試験が求められる。Dose escalationは乳癌で一貫して生存ベネフィットをもたらさず (60 vs 75 vs 100 mg/m2でOS差なし)、future researchでは奏効予測バイオマーカー (遺伝子マイクロアレイ等) によるdocetaxelbeネフィット予測例の選別が課題として示されている。また、本レビュー後の免疫療法時代においてdocetaxelはCheckMate 017 (nivolumab vs docetaxel、HR 0.59) 等のimmunotherapy比較試験の対照薬として位置付けられることとなり、その有効性・安全性プロファイルの確立が免疫療法導入の基盤ともなったという歴史的意義がある。limitationとして、本レビューはIPDメタ解析ではなく各試験の報告データに基づくため、サブグループ解析の統計的検出力や研究間の患者背景の差が考慮されていない。

方法

MEDLINE・PubMedを主要データベースとし、「docetaxel」「phase III」「randomized trial」の検索語を組み合わせて文献を同定した。検索対象期間は1996年〜2004年12月。英語論文のみを対象とし、学会抄録は既発表論文に直接関連するものに限り補完的に採用した。個人患者データ (individual patient data, IPD) メタ解析ではなく、各試験の報告データに基づくnarrative systematic reviewであり、統計的poolingは行っていない。対象腫瘍型は乳癌 (転移・術前・術後補助)・NSCLC (1次・2次治療・術前)・卵巣癌・胃癌・前立腺癌の5領域。エンドポイントは各試験の奏効率・PFS/time-to-progression・OS中央値・1年・2年OS率・安全性プロファイルとした。各原著試験における統計解析手法はlog-rank検定・Cox比例ハザード回帰が主体であり、本レビューではこれら原著の結果を引用・整理した。NCT番号については一部試験が2000年代以前の登録であり全試験への記載はない。採用基準として≥100例規模の無作為化Phase III試験を優先し、主要エンドポイントにOSまたはPFSを設定した試験を中心に評価した。試験の質はランダム割付の適切性・追跡完全性・ITT解析の実施に基づいて記述し、各試験のKaplan-Meier OS曲線・log-rank p値・ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) を主要evidence gradeの指標として腫瘍型別に比較整理した。