• 著者: Soria JC, Felip E, Cobo M, Lu S, Syrigos K, Lee KH, Göker E, Georgoulias V, Li W, Isla D, Guclu SZ, Morabito A, Min YJ, Ardizzoni A, Gadgeel SM, Wang B, Chand VK, Goss GD
  • Corresponding author: Jean-Charles Soria, MD, PhD (Gustave Roussy Cancer Campus and University Paris-Sud, Paris, France)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-07-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26156651

背景

進行扁平上皮型非小細胞肺がん (Sq-NSCLC) は、非小細胞肺がん全体の20-30%を占める組織型であり、特に一次化学療法後に病勢進行した患者において、有効な治療選択肢が限られているという大きなアンメットニーズが存在していた。本試験開始時点では、二次治療として承認されていた薬剤は可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であるエルロチニブとドセタキセルのみであり、これらの薬剤による全生存期間 (OS) の延長効果は限定的であった。例えば、Shepherd et al. JClinOncol 2000はドセタキセルが最良支持療法と比較してOSを改善することを示したが、その効果は十分とは言えなかった。

Sq-NSCLCでは、EGFR活性化変異は5%未満と稀であるものの、EGFRの過剰発現が最大82%の腫瘍で認められることが複数の研究で報告されており (Hirsch et al. 2003, Lopez-Malpartida et al. 2009)、ErbBファミリーシグナルが腫瘍の病態生理に一定の役割を果たしている可能性が示唆されていた。この観察は、EGFR変異がなくても一部のSq-NSCLC患者がEGFR標的治療に感受性を示す可能性を裏付けるものであった (Dearden et al. 2013)。実際、エルロチニブの二次治療としての有効性は、プラセボと比較してOSを改善することが示されており (Clark et al. 2006, Wojtowicz-Praga et al. 2012)、その低骨髄抑制性も併せて、併存疾患の多い患者集団にとって実行可能な治療選択肢と位置付けられていた。さらに、抗EGFRモノクローナル抗体であるセツキシマブやネシツムマブを一次化学療法に追加することでOSが改善することも報告されており (Pirker et al. 2012, Thatcher et al. LancetOncol 2015)、ErbBシグナル経路の重要性が強調されていた。

アファチニブは、EGFR (ErbB1)、HER2 (ErbB2)、ErbB4を含むErbBファミリーのすべてのホモダイマーおよびヘテロダイマーシグナルを不可逆的に遮断する広域な作用機序を持つ。これは、エルロチニブやゲフィチニブのような可逆的EGFR-TKIとは異なり、HER2やErbB4も包括的に阻害するため、Sq-NSCLCにおける広範なErbBシグナル依存性腫瘍への有効性が期待された。EGFR変異陽性肺腺がんにおいては、LUX-Lung 3試験 (Sequist et al. JClinOncol 2013) およびLUX-Lung 6試験 (Wu et al. LancetOncol 2014) でアファチニブが化学療法に対する無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善を示し、特にdel19変異症例ではOS改善も実証されていた (Yang et al. LancetOncol 2015)。また、LUX-Lung 1試験 (Miller et al. LancetOncol 2012) では、既存のEGFR-TKI後に進行した患者に対するアファチニブの有効性が示されていた。

しかし、Sq-NSCLCにおける不可逆的ErbBファミリー阻害薬の有効性は、可逆的EGFR-TKIと比較して十分に確立されておらず、この領域には治療ギャップが残されていた。特に、Sq-NSCLCの治療選択肢は依然として不足しており、より効果的な新規治療法の開発が喫緊の課題であった。LUX-Lung 8は、Sq-NSCLCに対してアファチニブとエルロチニブを直接比較した初のヘッド・ツー・ヘッド第III相試験であり、この治療ギャップを埋めることを目的とした。試験開始後の2015年3月には、ニボルマブがSq-NSCLCの二次治療として承認され (Rizvi et al. LancetOncol 2015, Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、新たな治療選択肢が登場したことも本試験の位置づけに関わる背景として重要である。

目的

本研究の目的は、プラチナ製剤ベースの化学療法を4サイクル以上受けた後に病勢進行したStage IIIBまたはIVの進行扁平上皮型非小細胞肺がん (Sq-NSCLC) 患者を対象に、不可逆的ErbBファミリー阻害薬であるアファチニブ (40mg/日) と、可逆的EGFR-TKIであるエルロチニブ (150mg/日) の有効性および安全性を比較検証することであった。主要評価項目は独立中央判定による無増悪生存期間 (PFS) と全生存期間 (OS) であり、アファチニブがエルロチニブに対して優越性を示すかを検証した。

その他の副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、疾患コントロール率 (DCR)、腫瘍縮小の程度、患者報告アウトカム (QoLおよび症状コントロール)、および安全性が評価された。本試験は、より広範なErbBシグナル遮断が、Sq-NSCLC患者において単一のEGFR阻害よりも優れた臨床的利益をもたらすという仮説を検証することを意図した。特に、Sq-NSCLCにおけるErbBファミリーの役割が未解明な部分も多く、アファチニブの広範な阻害作用が臨床的アウトカムにどのように影響するかを明らかにすることも重要な目的であった。

結果

患者背景と治療曝露: 2012年3月30日から2014年1月30日までに977名の患者がスクリーニングされ、795名が登録された (アファチニブ群 n=398、エルロチニブ群 n=397)。ベースライン特性は両群間で概ね均衡が取れていた (Table 1)。中央値年齢は64歳、男性が84%、東アジア人が22%、喫煙歴のある患者が91-92%であった。治療期間中央値はアファチニブ群で121日、エルロチニブ群で97日であった。アファチニブ群の39名 (10%) の患者が用量漸増の対象となり、平均106日間50mgの用量で治療を受けた。

PFSと疾患コントロール率の改善: 主要評価項目である独立中央判定によるPFSは、アファチニブ群で有意に延長された (Figure 2A)。OS解析時点での再評価では、アファチニブ群のPFS中央値は2.6ヶ月 (95% CI 2.0-2.9) であったのに対し、エルロチニブ群では1.9ヶ月 (95% CI 1.9-2.1) であり、ハザード比 (HR) は0.81 (95% CI 0.69-0.96, p=0.0103) と、アファチニブ群の優越性が示された。この結果は、初次解析でのHR 0.82 (95% CI 0.68-1.00, p=0.0427) と一貫していた。疾患コントロール率 (CR+PR+SD) は、アファチニブ群で201/398例 (51%) であったのに対し、エルロチニブ群では157/397例 (40%) と、アファチニブ群で有意に高かった (p=0.0020) (Table 2)。客観的奏効率 (ORR) は、アファチニブ群で22例 (6%)、エルロチニブ群で11例 (3%) であり、統計的有意差は認められなかった (p=0.0551)。しかし、腫瘍縮小 (任意の縮小) はアファチニブ群で103例 (26%)、エルロチニブ群で90例 (23%) に認められた。

OSと長期生存率の有意な改善: 主要副次評価項目であるOSは、追跡期間中央値18.4ヶ月 (IQR 13.8-22.4) の時点で、アファチニブ群で有意な改善が認められた (Figure 3A)。OS中央値は、アファチニブ群で7.9ヶ月 (95% CI 7.2-8.7) であったのに対し、エルロチニブ群では6.8ヶ月 (95% CI 5.9-7.8) であり、HRは0.81 (95% CI 0.69-0.95, p=0.0077) と有意な改善を示した。マイルストーン生存率もアファチニブ群で有意に高かった。6ヶ月OSはアファチニブ群で63.6% vs エルロチニブ群で54.6% (p=0.0099)、12ヶ月OSは36.4% vs 28.2% (p=0.0155)、18ヶ月OSは22.0% vs 14.4% (p=0.0132) であり、長期時点での群間差が有意に持続・拡大する傾向が認められた。特に12ヶ月OSで8.2%、18ヶ月OSで7.6%という絶対差の拡大は臨床的に意義深い。OSの改善効果は、ベースライン特性に関わらず、事前規定されたすべてのサブグループで一貫して認められた (Figure 3B)。

安全性プロファイルと患者報告アウトカム: Grade 3以上の有害事象の発生頻度は両群で類似しており、アファチニブ群で224/392例 (57%)、エルロチニブ群で227/395例 (57%) であった。しかし、有害事象の種類には質的な差異が認められた (Table 3)。Grade 3の下痢はアファチニブ群で39例 (10%) と、エルロチニブ群の9例 (2%) と比較して著明に高頻度であった。Grade 3の口内炎はアファチニブ群で16例 (4%) に発生したが、エルロチニブ群では0例であった。一方、Grade 3の皮疹/ざ瘡はエルロチニブ群で41例 (10%) と、アファチニブ群の23例 (6%) よりも高頻度であった。有害事象による治療中止は、アファチニブ群で79例 (20%)、エルロチニブ群で67例 (17%) であった。患者報告アウトカム (PRO) においては、アファチニブ群で全体的な健康関連QoLの改善がエルロチニブ群よりも有意に多く認められた (36% vs 28%, p=0.041)。また、咳の症状改善もアファチニブ群で有意に高かった (43% vs 35%, p=0.029)。呼吸困難の悪化までの期間もアファチニブ群で有意に延長された (HR 0.79, 95% CI 0.66-0.94, p=0.0078)。

考察/結論

LUX-Lung 8試験は、既治療進行Sq-NSCLC患者を対象に、不可逆的ErbBファミリー阻害薬であるアファチニブと可逆的EGFR-TKIであるエルロチニブを直接比較した初の最大規模の第III相試験であり、アファチニブがPFS (HR 0.81, 95% CI 0.69-0.96, p=0.0103) およびOS (HR 0.81, 95% CI 0.69-0.95, p=0.0077) の双方で有意な優越性を示すことを実証した。この結果は、アファチニブがSq-NSCLCの二次治療薬としての新たな選択肢となることを確立するものである。

先行研究との違い: これまでのSq-NSCLCの二次治療薬は、OS改善効果が限定的であったり、特定のEGFR変異陽性患者に限定される傾向があった。本研究は、EGFR変異が稀なSq-NSCLCにおいて、広範なErbBファミリーを不可逆的に阻害するアファチニブが、単一のEGFRを可逆的に阻害するエルロチニブと比較して、PFSとOSの両方を改善することを示した点で、これまでの知見とは異なり、治療戦略に新たな方向性を示した。特に、エルロチニブがSq-NSCLCにおいてOSを改善することが示されていたにもかかわらず、アファチニブがそれを上回る効果を示したことは注目に値する。

新規性: アファチニブによるOS中央値の延長は1.1ヶ月と絶対値は小さいものの、12ヶ月OSで+8.2% (36.4% vs 28.2%)、18ヶ月OSで+7.6% (22.0% vs 14.4%) と、長期生存時点での絶対差が有意に拡大したことは臨床的に意義がある。これは、最も遺伝的に複雑で治療が困難なヒトがんの一つであるSq-NSCLCにおいて、アファチニブが持続的な抗腫瘍効果を発揮する新規の機序を示唆する。疾患コントロール率の改善 (51% vs 40%, p=0.0020) は、ORRの差が非有意であったにもかかわらず、アファチニブが疾患安定の持続において優れることを示しており、ErbBシグナルの包括的遮断による腫瘍増殖抑制の機序的論拠と整合する。

臨床応用: 本試験の結果を受けて、アファチニブは2016年にFDAによってSq-NSCLCの二次治療薬として承認され、エルロチニブに代わるEGFR-TKI系薬剤としての選択肢が扁平上皮組織型でも確立された意義は大きい。アファチニブの経口投与の利便性と、予測可能で管理可能な安全性プロファイルは、この治療困難な患者集団にとって重要な臨床的有用性を持つ。特に、エルロチニブに不忍容な患者、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療後に進行した患者、またはPS不良例など、特定のサブグループにおけるアファチニブの役割は今後も探索する価値がある。

残された課題: Sq-NSCLCの大半はEGFR活性化変異陰性であるため、ErbBシグナル依存性患者を事前に同定するバイオマーカー (EGFR過剰発現、HER2増幅、ErbB4発現など) の確立が今後の重要な課題である。TCGA et al. Nature 2012などの包括的ゲノム解析は、Sq-NSCLCにおけるHER2やHER3の遺伝子異常の存在を示唆しており、これらのバイオマーカーの探索が個別化治療戦略の確立に必須である。また、本試験はICIの承認 (ニボルマブ2015年3月) と時期が重複しており、ICI登場後のアファチニブの位置づけ再考が必要である。ICI、抗体薬物複合体 (ADC)、または他の新規薬剤との組み合わせ戦略も含めた次世代臨床試験設計が求められる。安全性面では、全体的なGrade 3以上の有害事象頻度は両群同等であったが、アファチニブの下痢や口内炎は患者のQoLに影響を与える可能性があり、ベースラインの消化管機能や栄養状態を考慮した治療選択、および用量調整やプロアクティブな支持療法による管理の重要性が残された課題として挙げられる。

方法

LUX-Lung 8 (NCT01523587) は、世界23カ国の183施設で実施されたオープンラベル、無作為化、第III相比較臨床試験である。対象患者は、Stage IIIBまたはIVのSq-NSCLCと診断され、少なくとも4サイクル以上のプラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行した18歳以上の成人であった。ECOGパフォーマンスステータス (PS) は0または1、RECIST 1.1基準で測定可能な病変を有し、十分な臓器機能が必須とされた。過去にEGFR-TKIまたは抗EGFR抗体による治療歴がある患者、活動性脳転移を有する患者、ランダム化前4週間以内に放射線治療を受けた患者などは除外された。

合計795名の適格患者が1:1の比率で無作為に割り付けられ、アファチニブ群 (n=398) またはエルロチニブ群 (n=397) のいずれかの治療を受けた。無作為化は、民族的背景 (東アジア人 vs 非東アジア人) で層別化された。アファチニブ群の患者にはアファチニブ40mgが1日1回経口投与され、治療開始後28日間のサイクルでGrade 1を超える皮疹、下痢、口内炎、その他の薬物関連有害事象が認められなかった患者には、用量を50mgに増量することが可能であった。Grade 3以上の薬物関連有害事象、または2日以上持続するGrade 2の下痢、7日以上持続する悪心・嘔吐が認められた場合、治療を最大14日間中断し、Grade 1以下に回復後、10mg刻みで用量減量 (最低20mgまで) が可能であった。エルロチニブ群の患者には、承認された用量であるエルロチニブ150mgが1日1回経口投与された。両群ともに、病勢進行、許容できない有害事象、またはその他の理由で中止が必要となるまで治療が継続された。

腫瘍評価は、ベースライン時、8週、12週、16週、その後8週間ごとにCTまたはMRIにより実施され、独立中央画像診断委員会によって治療割付けを盲検化した状態で評価された。有害事象はCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 3.0に従ってグレード分類された。安全性検査は、スクリーニング時、各治療サイクルの初回受診時、および治療終了時に実施された。患者報告アウトカム (PRO) は、EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13を用いて評価され、咳、呼吸困難、疼痛などの肺がん関連症状の改善率、悪化までの期間、および経時的変化が分析された。

主要評価項目は、独立中央判定によるPFSであり、ランダム化から病勢進行または死亡までの期間と定義された。主要副次評価項目はOSであり、ランダム化から死亡までの期間と定義された。その他の副次評価項目には、客観的奏効率 (CRまたはPR)、疾患コントロール率 (CR、PR、SD、または非CR非PD)、腫瘍縮小率、およびPROが含まれた。

統計解析では、PFSの主要解析には372イベントが必要とされ、ハザード比 (HR) 0.714 (アファチニブ群のmPFS 3.2ヶ月 vs エルロチニブ群のmPFS 2.3ヶ月に相当) を仮定した場合、両側α=0.05で90%の検出力が得られるように設計された。OSの主要解析は632件の死亡イベント発生時に計画され、PFSが統計的に有意であった場合にのみ検定されることになっていた。OS解析はHR 0.80 (アファチニブ群のmOS 8.8ヶ月 vs エルロチニブ群のmOS 7.0ヶ月に相当) を仮定した場合、両側α=0.05で80%の検出力が得られるように設計された。生存期間の比較には、民族的背景で層別化したログランク検定が用いられ、HRおよび95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。Kaplan-Meier法により生存曲線が推定された。ORRおよびDCRの比較には、民族的背景で層別化したロジスティック回帰モデルが用いられた。すべての有効性解析はintention-to-treat集団で実施され、安全性解析は治験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を対象とした。