- 著者: Alexandria Dymun, Mark Y. Jeng, Arielle Elkrief, Harshita Mehrotra, Soo-Ryum Yang, Charles M. Rudin, Helena A. Yu, Álvaro Quintanal-Villalonga ほか
- Corresponding author: Charles M. Rudin; Helena A. Yu; Álvaro Quintanal-Villalonga (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 42308331
背景
非小細胞肺癌(NSCLC)における組織型形質転換は、腫瘍細胞の系譜可塑性(lineage plasticity)に駆動される標的治療抵抗性の機序である。EGFR 変異肺腺癌(LUAD)では 1 次標的薬 osimertinib 治療下で、小細胞肺癌(SCLC)への transdifferentiation が約 14%、肺扁平上皮癌(LUSC)への形質転換が約 9% の症例で生じる。進行時の再生検が日常的でないため、これらは過小評価された頻度であり、形質転換腫瘍の治療反応は乏しく短期的である。
小細胞肺癌(SCLC)形質転換が TP53 と RB1(retinoblastoma 1)の不活化に関連することは確立しているが、LUSC 形質転換の分子ドライバーは依然として不明瞭である。先行研究(Okamoto et al. AnnOncol 2006)は EGFR 変異肺癌でも組織型転換が起こりうることを示し、earlier-generation TKI(tyrosine kinase inhibitor、チロシンキナーゼ阻害薬)後の LUSC 形質転換が AKT/mTOR(mammalian target of rapamycin)経路の変化と関連すると症例報告で示された。本研究グループの先行研究は AKT/mTOR と MYC の活性化が EGFR TKI 抵抗性および扁平上皮表現型(napsin A・TTF-1(thyroid transcription factor-1)喪失、p40・cytokeratin 5/6 獲得)の獲得に寄与することを示してきた。しかし MYC・AKT シグナルの上昇のみでは形質転換過程を完全には説明できない。
未治療患者にも adenosquamous(LUAS、腺扁平上皮癌)腫瘍が観察されること、de novo EGFR 変異 LUSC が全 LUSC の約 5% を占め女性非喫煙者に多いことから、LUSC 形質転換は治療圧の非存在下でも生じうると示唆される。LUAD と LUSC の遺伝子発現サブタイプには有意な差があり扁平上皮癌特異的な治療反応が異なることは先行研究(Faruki et al. JThoracOncol 2017、Soria et al. LancetOncol 2015)でも示されている。de novo と transformed LUSC の関係、および LUSC 形質転換の予防・標的化の治療開発は重大な unmet need であり、この点が先行研究で十分に解明されていなかった「足りなかった部分」である。本研究はこの gap を埋めるべく、EGFR 変異患者検体の臨床・多層オミクス解析と in vivo 前臨床モデルを統合した。
目的
本研究の目的は、EGFR 変異肺癌における扁平上皮癌(LUSC)形質転換の (i) 臨床アウトカム上の意義、(ii) ゲノム・トランスクリプトーム・メチル化・プロテオームにわたる分子ドライバー、(iii) 治療標的としての脆弱性を、臨床コホートと遺伝子改変ヒト in vivo モデルおよび PDX を統合して明らかにすることである。具体的には、osimertinib 1 次治療下での扁平上皮組織型患者の全生存(OS)と治療中止までの時間(TTD)を非形質転換 LUAD と比較し、形質転換・LUAS・de novo LUSC 腫瘍に共通する遺伝子経路の富化を同定し、Rb 経路不活化が形質転換を促進するかを CRISPR-Cas9 改変 xenograft で機能的に検証し、トランスクリプトーム上で同定された治療標的(MET)を PDX で阻害薬により検証することを目指した。
結果
扁平上皮組織型は osimertinib 下で生存が有意に劣る:本研究グループの施設で EGFR 感受性変異かつ LUSC または LUAS 組織型を病期中いずれかの時点で示した 57 例を同定した。年齢中央値 63 歳(IQR 56-73)、56%(n=32)が女性、82%(n=47)が進行期、37%(n=21)が喫煙歴ありで、ベースラインで 77%(n=44)が LUSC(n=25)/LUAS(n=19)組織型、23%(n=13)が EGFR TKI 後に LUSC 組織型を発現した。LUSC/LUAS 組織型で 1 次 osimertinib を受けた 16 例は、time-matched な EGFR 変異 LUAD(n=55)と比較し OS 中央値 18 vs 34 か月(HR 2.04, 95% CI 1.04-4.00, P=0.03; Fig 1A)と有意に短く、TTD は 11 vs 17 か月(HR 1.89, 95% CI 0.82-2.93, P=0.17; Fig 1B)で有意差なしであった。
Rb・AKT 経路変異が LUSC で高頻度かつ予後不良に関連:clinically transformed(n=21、11 例)および microdissected LUAS(n=16、9 例)検体の分子プロファイリングで(検体は T-LUAD+(transforming/microdissected な腺癌成分)と T-LUSC+(transforming/microdissected な扁平上皮成分)に分類)、AKT/mTOR 経路変異が T-LUAD+/T-LUSC+ 患者の 50% に、Rb 経路(CDKN2A/B、RB1、CCND1、CDKN2C(cyclin-dependent kinase inhibitor 2C))変異が 60%(20 例中 12 例)に観察された(Fig 1D)。de novo LUSC+/LUAS+ では CDKN2A/B 変異が 29%(24 例中 7 例)にみられた。EGFR 変異非依存の MSK-IMPACT・TCGA データセットでも de novo LUSC は LUAD に比べ Rb 経路(MSK P=4.18×10⁻¹⁵、TCGA P=3.54×10⁻⁵⁷)・AKT 経路(MSK P=1.07×10⁻³⁰、TCGA P=1.83×10⁻¹¹)の変異が富化していた(Fig 1E)。臨床的には、ベースラインで Rb/AKT 経路変異を持つ EGFR 変異 LUAD(n=70)は変異なし(n=107)に比べ TTD 中央値 18 vs 23 か月(P=0.03; Fig 1F)と短く、Rb/AKT 変異が形質転換と osimertinib 下の劣後アウトカムに関連することが裏付けられた。
幹細胞性富化と Rb 不活化が LUSC 形質転換を特徴づける:トランスクリプトーム解析で T-LUSC+ は TCGA LUSC と比べ secretory subtype に富化(binomial P=0.038)し classical subtype を欠いた(P=0.009)。幹細胞性スコアは T-LUAD+ で LUAD+ より上昇(P<0.001)し T-LUSC+ でも維持され、de novo LUSC+ の幹細胞性は LUSC−(P=0.021)より高く形質転換検体に類似した(Fig 2B)。T-LUSC+ vs T-LUAD+ では細胞周期・DNA 修復・EMT(epithelial-to-mesenchymal transition、上皮間葉転換)、AKT/mTOR、MYC、E2F 標的遺伝子の up-regulation を認め、E2F 活性は細胞周期・DNA 修復と強く正相関した(P<10⁻¹⁰)(Fig 2C)。
EGFR シグナルは形質転換中も抑制されず、メチル化で維持される:神経内分泌転換と異なり、T-LUAD+ は対照 LUAD+ に比べ EGFR シグナル遺伝子の up-regulation を示し(3 経路で P<0.02)、T-LUSC+ でも高発現が維持された。paired 検体で T-LUSC+ は matched T-LUAD+ より EGFR シグナル活性が高く(P=0.05; Fig 3B)、EGFR の IHC(immunohistochemistry、免疫組織化学)H-score も unpaired(P=0.019; Fig 3C)・paired(P=0.0625; Fig 3D)で上昇した。EGFR intron 1 の 2 つの enhancer 領域(CE1(constituent enhancer 1): 10 CpG、CE2: 8 CpG)のメチル化レベルは EGFR mRNA 発現と負相関し(Pearson r<−0.5, P<0.003; Fig 3F)、enhancer の脱メチル化が EGFR 発現の維持に寄与すると示唆された。
Rb 経路不活化はゲノム・非ゲノム機構で形質転換に共通する:ゲノムとトランスクリプトームの統合で Rb 経路変異と遺伝子発現は強く相関し(9 経路中 8 経路で P<0.04; Fig 4A)、Rb 不活化は T-LUAD+(9 経路中 6 経路で P<0.05)、T-LUSC+・LUSC+(いずれも 9/9 経路で P<0.05)で富化した(Fig 4B)。5 組の paired 検体すべてで T-LUSC+ は相対的 Rb 経路抑制を示したが、その機構は多様であった(患者 No.3 で Rb 喪失、No.31/73 で p16 喪失と cyclin D1 誘導、No.62/67 で p16 低下と cyclin D1 誘導; Fig 4C)。CDKN2A 座(intron 1, 29 CpG)のメチル化は CDKN2A mRNA 発現と相関し(Pearson r=0.43, P<0.02; Fig 4E)、低メチル化が一部症例で CDKN2A 発現低下を駆動すると示唆された。
Rb 不活化は in vivo で LUSC 形質転換を促進し MET が治療標的となる:PC9・HCC827 細胞に MYC と恒常活性 AKT を過剰発現(MA)させ、CRISPR-Cas9 で RB1(RMA)または CDKN2A/B(CCMA)を破壊して NSG マウスに xenograft した。MYC/AKT 活性化と Rb 不活化の併存は osimertinib 抵抗性を誘導し(PC9 RMA/CCMA, P<0.0001 など)、扁平上皮マーカー P40・CK5/6 を誘導した(MA, P<0.05; RMA/CCMA, P<0.01)(Fig 5)。Rb 不活化単独では MYC/AKT 活性化なしに腫瘍増殖・マーカー発現を変化させなかった。single-cell トランスクリプトームの trajectory 解析で MET が LUAD-to-LUSC 移行中に up-regulate され(Fig 6D)、MET 発現は T-LUSC+ 4/5 例、de novo LUSC+(P<0.05)でも上昇した。3 種の EGFR 変異 PDX(Lx462, Lx1234, Lx1554b)で MET 阻害薬 crizotinib は単剤または osimertinib 併用で腫瘍増殖を有意に抑制し(Lx462, P<0.01; Lx1234, P<0.001; Lx1554b, P<0.05; Fig 6G)、Lx462/Lx1554b では併用が TTF-1 発現を回復させ P40 を低下させた(P<0.05〜0.01)。
考察/結論
本研究は、EGFR 変異肺癌における LUSC 形質転換を osimertinib 抵抗性の機序として体系的に位置づけ、Rb 経路不活化(特に CDKN2A/B 欠失)をその中核ドライバーとして同定した点で重要である。臨床的には、ベースラインで扁平上皮組織型を持つ患者が 1 次 osimertinib 下で OS 中央値 18 vs 34 か月(HR 2.04)と有意に劣後し、Rb/AKT 変異を持つ LUAD も TTD が短い(18 vs 23 か月)ことから、この遺伝子サブセットが高リスク群であることが示された。
先行研究との違い:従来 SCLC 形質転換が TP53/RB1 不活化に関連すると確立していたのに対照的に、本研究は MYC・AKT・Rb という同じ経路群が LUSC 形質転換にも関与することを実証した。さらに、慣習的な喫煙関連 LUSC とは異なり、EGFR 変異 LUSC は女性非喫煙者に多く、de novo LUSC が transformed LUSC と分子的に類似(classical subtype 欠如・幹細胞性上昇・EGFR/MET 発現上昇)することを示し、一部の de novo 例が治療曝露前の形質転換イベントを表す可能性を提起した。また、神経内分泌転換では EGFR 発現が喪失するのと異なり、LUSC 形質転換腫瘍は EGFR 発現とシグナルを保持する点が対照的である。
新規性:本研究で初めて、Rb 不活化が RB1 変異のみならず CDKN2A/B 深部欠失やメチル化(非ゲノム機構)を介して LUSC 形質転換を駆動しうること、そして single-cell trajectory 解析により MET シグナルの up-regulation が形質転換中に生じることを示した。遺伝子改変ヒト in vivo モデルで Rb 不活化が MYC/AKT 活性化と協調して可塑性を高め、扁平上皮系譜変化を直接誘導するのではなく可塑的状態を作り出すという機序を新規に提示した。
臨床応用・橋渡し:MET を治療標的として同定し、crizotinib + osimertinib の併用が 3 種すべての LUSC-transformed PDX で抗腫瘍活性を増強し、扁平上皮マーカーを部分的に逆転させたことは、臨床承認済み阻害薬を用いた即時の臨床橋渡しの可能性を示す。MET-ADC である telisotuzumab vedotin(Teliso-V)が非扁平上皮肺癌で承認されたことも踏まえ、EGFR 変異 LUSC への MET 標的薬の評価が今後の臨床試験として有望である。
残された課題・今後の検討:本研究の limitation として、形質転換 LUSC 組織型症例数が少なく一部解析の統計的検出力が低い点、多くが手術検体でなく生検由来でサンプリングバイアスの risk がある点、xenograft モデルが完全な扁平上皮形態学的転換に必要な腫瘍微小環境を再現しきれない点が挙げられる。MYC が遺伝子レベルでは稀でエピジェネティック・翻訳後機構で制御される可能性、bypass シグナルによる残存増殖の機序、および MET 標的薬の前向き臨床効果の検証が今後の検討課題として残る。
方法
本研究は後方視的臨床解析・多層オミクスプロファイリング・in vivo 機能モデリングを統合した(study design)。患者同定では MSK で 2012-2023 年に診断された LUSC/LUAS 組織型の EGFR 変異患者(n=57)を対象とし、臨床対照として 2012-2022 年に 1 次 osimertinib を受けた time-matched な EGFR 変異 LUAD(n=55)を、Rb/AKT 変異有無の比較には EGFR 変異 LUAD osimertinib 例(n=177)を用いた。OS・TTD は治療開始から死亡/中止まで算出した。総計 69 例由来 96 検体が分子解析を受け、内訳は whole exome sequencing(WES, n=34)、MSK-IMPACT next-generation sequencing(n=82)、whole transcriptome sequencing(WTS, n=52)、IHC(n=51)、メチル化解析(n=36)であった。検体は T-LUAD+(pretransformed/microdissected 腺癌)または T-LUSC+(posttransformed/microdissected 扁平上皮癌)に分類した。
統計解析では、生存アウトカムに Kaplan-Meier 法と Cox 回帰(HR と 95% CI 算出)、群間比較に chi-square 検定(カイ二乗、Fig 1E/F の経路変異頻度)、Wilcoxon signed-rank 検定(paired 検体、Fig 3/4)、Kruskal-Wallis 検定(全条件比較)、Fisher-Freeman-Halton 検定(subtype 頻度)、two-tailed Student’s t 検定(IHC H-score)、Pearson 相関(メチル化と mRNA 発現の相関、r と P 算出)を用い、permutation 検定後に Benjamini-Hochberg 法で多重比較補正した。in vivo では PC9・HCC827 細胞に MYC と myristoylated AKT を過剰発現させ、CRISPR-Cas9 で RB1 または CDKN2A/B を編集して NSG(NOD.Cg-Prkdc^scid Il2rg^tm1Wjl/SzJ)マウスへ xenograft し、PDX(Lx462, Lx1234, Lx1554b)で osimertinib・crizotinib・併用の腫瘍増殖を評価した。腫瘍が規定容積に達した時点でマウスを治療群にランダム割付した(盲検化なし)。single-cell RNA sequencing で各細胞に LUAD/LUSC トランスクリプトーム確率を付与し trajectory 解析を行った。