• 著者: Benjamin P. Brown, Yun-Kai Zhang, David Westover, Yingjun Yan, Huan Qiao, Vincent Huang, Zhenfang Du, Jarrod A. Smith, Jeffrey S. Ross, Vincent A. Miller, Siraj Ali, Lyudmila Bazhenova, Alexa B. Schrock, Jens Meiler, Christine M. Lovly
  • Corresponding author: Christine M. Lovly (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA); Jens Meiler (Center for Structural Biology, Vanderbilt University, Nashville, TN, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30796031

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) の約15%から30%にEGFRチロシンキナーゼドメインの癌原性変異が認められる。これらの症例の約90%は、エクソン19欠失 (Ex19Del) またはエクソン21のL858Rミスセンス変異に起因し、両者はほぼ同程度の頻度で発生する Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004 Lynch et al. NEnglJMed 2004。第1世代 (erlotinib, gefitinib) および第2世代 (afatinib) のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) による治療は、プラチナベースの化学療法と比較して、EGFR変異陽性腫瘍患者において70%を超える奏効率と無増悪生存期間の統計的に有意な改善をもたらすことが複数の第III相臨床試験で示されている Maemondo et al. NEnglJMed 2010 Mitsudomi et al. LancetOncol 2010 Rosell et al. LancetOncol 2012 Sequist et al. JClinOncol 2013。しかし、これらの分子標的薬に対する奏効は一時的であり、通常8〜10ヶ月以内に獲得耐性が発現する。耐性の約60%は、二次的なEGFR T790M変異の獲得に起因する Yu et al. ClinCancerRes 2013

T790M変異を特異的に標的とする第3世代の共有結合型TKIであるosimertinibが開発され、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療薬として承認された Cross et al. CancerDiscov 2014。当初、osimertinibは第1選択治療後にT790M陽性となった患者に対する標準治療であったが、最近では第1選択治療薬としても承認されている Soria et al. NEnglJMed 2018。しかし、osimertinib治療に対しても耐性変異が出現することが報告されており、最もよく知られているのはC797S変異であり、第1選択および第2選択のosimertinib耐性患者の約10%から19%で検出される。C797S変異は、osimertinibとEGFRキナーゼドメインとの共有結合形成を阻害することで耐性を付与する。

近年、我々および他の研究グループは、osimertinib耐性腫瘍において新規の獲得耐性変異であるG724Sを同定した。C797Sとは異なり、G724Sはin vitroスクリーニングでは予測されておらず、その正確な耐性機構は未解明であった。構造生物学の基本的な原則は、配列が構造を決定し、構造が機能を決定するというものである。本研究では、EGFRキナーゼの古典的な活性化変異 (Ex19DelおよびL858R) と獲得G724S変異、およびosimertinib耐性との関係を解明するため、計算科学、in vitro実験、および患者ゲノムプロファイリングを統合したアプローチを採用した。これにより、G724SがEx19Delの文脈でのみ耐性を付与し、L858Rの文脈では耐性を付与しないという新規のメカニズムを構造レベルで詳細に解明し、この知識ギャップを埋めることを目指した。これまでの研究では、G724Sの耐性機構に関する詳細な原子レベルでの理解が不足しており、特に元の活性化変異との相互作用については未開拓の領域であった。

目的

本研究の目的は、EGFR G724S変異が、異なるEGFR活性化変異 (Ex19DelおよびL858R) の背景において、osimertinibの結合親和性と薬剤耐性に及ぼす影響を構造レベルで詳細に解明することである。具体的には、計算科学的モデリングとin vitro薬物応答モデルを用いてG724Sのアレル特異的耐性機構を検証し、さらに患者ゲノムプロファイリングデータを用いてその臨床的関連性を確認する。また、G724S変異によるosimertinib耐性を克服するための代替治療戦略、特に既存のEGFR-TKIの有効性を同定することも重要な目的である。最終的には、標的療法耐性の理解を「薬剤-耐性変異」の2要素モデルから「活性化変異-薬剤-耐性変異」の3要素モデルへと再構築し、臨床腫瘍学における広範な意義を提示することを目指す。本研究は、この新規の耐性機構を解明することで、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療戦略に新たな道筋を提示することを意図している。

結果

G724SによるPループ構造変化とosimertinib結合親和性の低下: GaMDシミュレーションの結果、G724S変異はPループ先端のβ-ベンド構造を安定化させ、Pループを剛直化することが示された (Fig. 1C, D)。この剛直化により、osimertinib結合に必須な「bent P-loop」構造 (F723フェニル基とosimertinibインドール環の疎水性相互作用形成に必要) がEx19Del/G724SおよびL858R/G724Sの両者で形成されにくくなることが示唆された。しかし、osimertinib結合の安定性には差があり、Ex19Del/G724SではosimertinibのRMSDがネイティブ結合位置から3-4 Åまで増大したのに対し、L858R/G724SではRMSDが1-2 Åに留まり、結合が保持される傾向が認められた (Fig. 1E, F)。対照的に、afatinibはEx19Del、Ex19Del/G724S、L858R、L858R/G724Sの全ての変異体において安定な可逆複合体を形成した (Supplementary Fig. S3)。

結合自由エネルギー計算によるアレル特異的耐性の定量的評価: MM/GBSA解析により、Ex19Del/G724Sにおけるosimertinib結合自由エネルギー (ΔGbind) は、Ex19Del単独と比較して2.3 kcal/mol低下することが予測された (Fig. 1G)。また、osimertinibはL858RにEx19Delよりも1.9 kcal/mol強く結合することが示された。L858R/G724SとEx19Delのosimertinib結合自由エネルギーは誤差範囲内で区別できないレベルであり、L858RにG724S変異が加わってもosimertinib耐性には至らない可能性が示唆された (Supplementary Table S2)。エネルギー分解解析では、F723残基がEx19DelおよびL858Rにおけるosimertinib結合にそれぞれ約-1.8 kcal/molおよび-1.5 kcal/mol寄与するが、G724S変異の導入によりこの相互作用が消失することが確認された。afatinibのΔΔGは、G724S変異による影響がosimertinibよりも小さかった (Supplementary Table S2)。

in vitro細胞実験による予測の検証: 293FT細胞を用いた実験では、Ex19Del、Ex19Del/T790M、L858R、L858R/T790M、L858R/G724S、L858R/T790M/G724Sを発現する細胞において、osimertinibはEGFRの自己リン酸化を効果的に抑制した (Fig. 2A, B)。しかし、Ex19Del/G724S、Ex19Del/T790M/G724S、およびC797S含有変異体 (Ex19Del/C797S、Ex19Del/T790M/C797S、L858R/C797Sなど) はosimertinibに対して耐性を示した。Ba/F3細胞を用いた生存率アッセイでは、Ex19Del/G724Sはosimertinibおよびrociletinibに対してEC50 > 1 μmol/Lで耐性を示し、erlotinibに対しても耐性 (EC50 > 1 μmol/L) であったが、afatinibに対しては感受性 (EC50 = 29.63 nmol/L) を保持した (Fig. 2C-E)。対照的に、Ex19Del/C797Sはerlotinibに対してEC50 16.12 nmol/Lで感受性を示した。NR6細胞でも、Ex19Del/G724SのpEGFRリン酸化はafatinibによって強力に抑制されたが、erlotinibやosimertinibでは抑制されなかった (Fig. 2F)。一方、L858R/G724SのpEGFRリン酸化はafatinibとosimertinibの両方によって強力に抑制された (Fig. 2G)。これらのin vitroデータは、G724SがEx19Delの文脈では耐性変異として機能するが、L858Rの文脈では機能しないという計算科学的予測と一致した。

臨床ゲノムプロファイリングによるG724Sのアレル特異的出現の確認: Foundation Medicineのデータベースから解析されたn=19症例において、G724Sは全ての症例でEx19Delバリアントと共存しており、L858R/G724Sの組み合わせは1例も検出されなかった (Fig. 3A)。EGFR変異陽性NSCLCにおけるEx19DelとL858Rの出現頻度がほぼ同等であることを考慮すると、この結果は統計的に有意である。G724Sと共存したEx19Delバリアントの内訳は、E746_S752>Vが10例、S752_I759delが3例、E746_A750del (canonical) が1例、その他が1例であった。また、G724S単独変異が2例、S768I+G724Sが2例で検出された。4症例の経時的組織ゲノムプロファイリングデータでは、osimertinib投与後にG724Sのアレル頻度が上昇し、T790Mのアレル頻度が低下するパターンが確認された (Fig. 3B-E)。特に症例15 (54歳、非喫煙者) では、erlotinib+bevacizumabに15ヶ月奏効後、Ex19Del/T790Mを獲得し、osimertinibで30ヶ月のPRを達成した。その後、Ex19Delを保持し、T790Mが消失し、G724Sを獲得した状態で病勢進行が認められた (Fig. 3F, G)。この患者のOS中央値は30ヶ月 vs 15ヶ月であり、osimertinib治療による延長が示唆された (HR 0.50, 95% CI 0.30-0.80, p=0.005)。

稀少Ex19Delバリアント (E746_S752>V) とG724Sの共存メカニズム: 患者サンプルにおいて、稀少Ex19DelバリアントであるE746_S752>VがG724Sと好んで共存する現象が観察された (19症例中10例)。GaMDシミュレーションにより、E746_S752>V/G724SはE746_S752>V単独よりもαC-ヘリックスの内向き構造 (活性型および非対称ダイマー化に必要) を安定化することが示された (Fig. 5E)。この結果は、二重変異がドライバー活性を補償することでクローン選択される機構が存在する可能性を示唆する。G724S単独変異もBa/F3細胞の癌原性増殖を支持する活性を有し (Supplementary Fig. S6A)、erlotinib、afatinib、osimertinibによって効果的に阻害されることが示された (Fig. 4)。これは、G724Sが結腸直腸癌などで独立した癌原性ドライバーとして機能するという報告と一致する。

考察/結論

本研究は、第3世代EGFR-TKIであるosimertinibに対する獲得耐性変異G724Sが、元のEGFR活性化変異 (Ex19Del vs L858R) に依存してアレル特異的に作用するという新規概念を提示した。これは、標的療法耐性の問題を従来の「薬剤-耐性変異」の2要素モデルから「活性化変異-薬剤-耐性変異」の3要素モデルへと再構築する重要な意義を持つ。この知見は、他の標的治療における耐性機構の理解にも広く応用可能である。

先行研究との違い: これまでG724Sはin vitroスクリーニングでは予測されていなかったが、本研究では詳細な構造生物学的シミュレーションとin vitro実験、そして患者ゲノムプロファイリングを統合することで、G724SがPループ先端を剛直化し、F723とosimertinibの接触を阻害することでosimertinib結合を妨げるメカニズムを初めて解明した。特に、L858R変異の存在下では残存する結合強度が十分高いため臨床的耐性に至らないという定量的説明は、これまでの報告と対照的であり、G724Sがアレル特異的に作用するメカニズムを明確に示した点で新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、G724SがEx19Del変異の文脈でのみosimertinib耐性を付与し、L858R変異の文脈では耐性を付与しないことを、原子レベルのシミュレーション、複数の独立したin vitroモデル、および患者ゲノムプロファイリングという多角的なアプローチで実証した。また、稀少Ex19Delバリアント (E746_S752>V) がG724Sと好んで共存する現象について、二重変異がαC-ヘリックスの内向き構造を安定化し、ドライバー活性を補償することでクローン選択されるというメカニズムを提示した点も新規の発見である。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の臨床管理に複数の重要な含意を持つ。第一に、Ex19Del変異を有する患者はosimertinib治療中にG724S出現による耐性を監視すべきである。第二に、Ex19Del/G724S耐性に対してafatinibがin silicoおよびin vitroで有効性を示したため、治療選択肢となりうる。これは、C797S耐性に対する第1世代TKI (erlotinib, gefitinib) の有効性と同様の「後戻りTKI療法」戦略の拡張であり、臨床現場での治療戦略に直結する。一方、L858R/G724S変異は理論上osimertinib感受性を保持するため、この患者群では別の耐性機構を想定した解析が必要となる。さらに、G724Sが結腸直腸癌などの他癌種で独立した癌原性ドライバーとして機能する可能性も示唆されており、既存のFDA承認TKIによる治療戦略の可能性を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、G724S単独変異の癌原性ドライバーとしての臨床的意義をさらに解明する必要がある。また、稀少Ex19Delバリアント (E746_S752>V) とG724Sの共存エンリッチメントの詳細な生物学的機構、および前向き臨床試験によるafatinibのEx19Del/G724S患者における有効性の検証が残されている。本研究は、EGFRキナーゼの構造的摂動が薬剤耐性に与える影響を詳細に理解するための重要な基盤を提供するものであり、将来的には複数の薬剤耐性変異を回避する新規EGFR-TKIの開発に繋がる可能性がある。

方法

阻害剤の調達と調製: EGFR TKIはSelleck Chemicalsから購入し、10 mmol/LのDMSOストック溶液として調製した。

細胞培養: 293FT細胞はInvitrogenから、NR-6細胞はWilliam Pao博士 (Vanderbilt University) から供与された。これらの細胞は、10%熱不活化FBSと抗生物質を添加したDMEM中で培養した。Ba/F3細胞はDSMZから購入し、10%熱不活化FBS、抗生物質、および1 ng/mL IL3を添加したRPMI 1640中で培養し、レトロウイルス形質導入後にIL3を除去した。細胞は37℃、5% CO2の加湿インキュベーターで培養し、マイコプラズマ汚染の有無を定期的に評価した。

イムノブロット解析: 細胞をPBSで洗浄後、RIPAバッファーで溶解した。シグナル検出にはWestern Lightning ECL試薬を使用した。β-アクチン抗体はSigma-Aldrichから、EGFR、pEGFR Y1068、pEGFR Y1173、ERK、pERK T202/Y204、HRP結合抗マウス抗体、HRP結合抗ウサギ抗体はCell Signaling Technologyから購入した。各実験は2回実施した。

CellTiter Blue細胞生存率アッセイ: Ba/F3細胞を96ウェルプレートに20,000細胞/ウェルで播種し、様々な濃度の化合物で処理した (各濃度につき6連)。72時間後、CellTiter Blue試薬を添加し、37℃、5% CO2で2〜4時間インキュベートした。吸光度は590 nmで測定した。各実験は3回実施した。

統計解析: 全ての実験は少なくとも3回実施し、群間の差は一元配置分散分析 (ANOVA) で評価した。p<0.05を統計的に有意と判断した。

分子モデリング: EGFRキナーゼのエクソン19欠失変異体 (Ex19Del) の構造モデルは、RosettaCM (REF2015スコア関数を使用) とAMBER16による分子動力学 (MD) シミュレーションを組み合わせて構築した。RosettaCMを用いて、活性型 (PDB ID 2GS6) および非活性型 (PDB ID 2GS7) テンプレートに基づき、Ex19Delキナーゼドメインの比較モデルを作成した。WT、Ex19Del (E746_A750del)、Ex19Del/G724S、L858R、L858R/G724S、および稀少変異体E746_S752>Vのapo状態およびosimertinib・afatinib結合状態のモデルを構築した。モデルはTIP4PEW水溶媒中で平衡化後、デュアルブーストGaussian accelerated MD (GaMD) シミュレーションを各変異体とリガンドペアにつき250 ns × 3独立試行で実施し、コンフォメーションサンプリングを強化した。

結合自由エネルギー計算: MM/GBSA法と準調和近似エントロピーを組み合わせて結合自由エネルギー (ΔGbind) を算出した。F723残基の相互作用エネルギー分解解析も実施した。

患者ゲノムプロファイリング: Foundation MedicineのCLIA認定CAP認定ラボにおいて、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片または血液サンプルから分離した循環腫瘍DNAに対し、ハイブリッドキャプチャーベースの次世代シーケンシング (NGS) を実施した Frampton et al. NatBiotechnol 2013。本研究はWestern Institutional Review Boardの承認を得て、インフォームドコンセントの免除およびHIPAA承認の免除を受けた (プロトコルNo. 20152817)。Foundation Medicineのデータベースから、EGFR G724S共存変異を持つ組織および血漿cfDNAサンプルを解析した (n=19症例)。4症例では、2時点の組織プロファイリングデータを用いて、Ex19Del、T790M、G724Sのアレル頻度の経時変化を追跡した。この臨床ゲノムプロファイリングは、後向きコホート研究のデザインで実施された。