- 著者: Satoshi Oizumi, Shunichi Sugawara, Koichi Minato, Toshiyuki Harada, Akira Inoue, et al.
- Corresponding author: Satoshi Oizumi (Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organization Hokkaido Cancer Center, Sapporo, Japan)
- 雑誌: ESMO Open
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29531840
背景
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌 (NSCLC) は、分子標的治療薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) に対して劇的な奏効を示すことが多くの研究で報告されている。例えば、Maemondo et alやMitsudomi et alなどの第III相試験では、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKI単剤療法が標準化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが示され、EGFR-TKIが一次治療の標準となる基盤を築いた。しかし、一次治療としてのEGFR-TKI単剤療法は、PFS中央値が9〜10ヶ月と良好な成績を示すものの、最終的にはほぼ全ての患者で薬剤耐性が獲得され、病勢進行に至るという課題があった。このため、EGFR-TKI単剤療法を上回る治療効果を目指し、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題として認識されていた。
特に、細胞傷害性化学療法とEGFR-TKIの併用療法が、単剤療法と比較してより優れた臨床的アウトカムをもたらすか否かについては、これまで明確な結論が得られていなかった。また、併用療法における最適な投与スケジュール、すなわち同時投与 (concurrent) と逐次交互投与 (sequential alternating) のどちらが優れているかについても、その有効性と安全性に関するデータが不足していた。本研究の背景には、EGFR-TKIと化学療法の併用療法の可能性を探る複数の臨床試験が存在する。しかし、これらの研究では、EGFR-TKIと化学療法の併用療法については十分に検討されておらず、その最適な投与方法も未解明であった。
NEJ005/TCOG0902試験は、EGFR変異陽性未治療NSCLC患者を対象に、EGFR-TKIであるゲフィチニブとプラチナベース化学療法 (カルボプラチン/ペメトレキセド) の併用療法における同時投与と逐次交互投与の有効性と安全性を比較する第II相無作為化比較試験 (RCT) として計画された。本試験の初回報告であるSugawara et al. AnnOncol 2015では、両併用療法が予測可能な毒性プロファイルと共に有望な有効性を示すことが報告されたが、全生存期間 (OS) データについては、死亡イベントの発生が不十分であったため、最終的な評価には至っていなかった。このため、長期的な追跡データに基づくOSの解析が不足しているという課題が残されていた。
本論文は、NEJ005/TCOG0902試験の最終解析結果を報告するものであり、追跡期間を延長したデータを用いて、PFS、OS、安全性プロファイルに関する最新情報を提供することを目的としている。特に、初回報告では不足していたOSデータについて、十分なイベント数に基づいて詳細な解析を行うことで、最適な治療戦略の確立に貢献することが期待された。EGFR変異陽性NSCLCの治療において、EGFR-TKIと化学療法の併用が単剤療法を上回る効果をもたらすか、そしてその最適な投与方法が何であるかという、これまで未解明であった重要な臨床的疑問に対する答えを提供することが本研究の主要な目的の一つである。
目的
本研究の目的は、EGFR活性化変異陽性未治療進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした第II相NEJ005/TCOG0902試験の最終解析結果を報告することである。具体的には、ゲフィチニブとカルボプラチン/ペメトレキセドの同時併用療法 (concurrent regimen) と逐次交互投与療法 (sequential alternating regimen) の2つの治療戦略における有効性(主要評価項目であるPFSおよび副次評価項目であるOS)と安全性を詳細に評価し、比較することを目指した。
初回報告では、死亡イベントが不足していたため、OSに関する十分なデータが得られていなかった。そのため、本最終解析では、追跡期間を延長し、より多くの死亡イベントを収集することで、両治療群間におけるOSの差を統計的に評価することを重要な目的とした。これにより、EGFR変異陽性NSCLCに対するゲフィチニブと化学療法の併用療法において、同時投与と逐次交互投与のどちらが長期的な生存ベネフィットをもたらすかを明らかにすることを意図した。
さらに、本研究は、両治療群における客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および有害事象プロファイルについても更新されたデータを提供し、各治療戦略の忍容性を評価することを目的とした。特に、長期追跡期間における新たな重篤な有害事象の発生状況を確認し、併用療法の長期的な安全性を検証することも重要な目的であった。
最終的に、本研究の結果を通じて、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療として、ゲフィチニブとプラチナベース化学療法の併用療法が単剤療法と比較して優位性を持つか、また、同時投与と逐次交互投与のどちらがより効果的であるかという臨床的疑問に対するエビデンスを提供し、今後の治療ガイドラインや臨床実践に貢献することを目指した。
結果
患者背景と治療遂行状況: 2010年1月から2012年4月までに80名の患者が無作為に割り付けられ、同時併用群に41名、逐次交互投与群に39名が登録された。両群間で患者背景は、主要なEGFR変異サブタイプを除いてバランスが取れていた (Table 1)。全患者が腺癌であり、大半がステージIVの疾患であった。最終解析のデータカットオフ時点 (2017年3月) での追跡期間中央値は35.6ヶ月であり、88.8%の患者 (同時併用群36名、逐次交互投与群35名) が病勢進行し、77.5%の患者 (同時併用群30名、逐次交互投与群32名) が死亡した。同時併用群では、35名 (85.4%) が導入療法完了後に維持療法を受け、ペメトレキセド維持療法の中央サイクル数は13 (範囲1-75) であった。逐次交互投与群では、24名 (61.5%) が維持療法を受け、ペメトレキセド維持療法の中央サイクル数は7 (範囲1-46) であった。
主要評価項目である無増悪生存期間の解析: 更新されたPFS中央値は、同時併用群で17.5 vs 逐次交互投与群で15.3 monthsであり、HR 0.68 (95% CI 0.42-1.12, p=0.13) と統計的に有意な差は認められなかった (Figure 1)。しかし、両群ともに、これまでのゲフィチニブ単剤療法 (NEJ002試験の10.8ヶ月、IPASS試験の9.5ヶ月) と比較して、大幅に長いPFSを示した。1年PFS率は同時併用群63.1% vs 逐次交互投与群61.4%、2年PFS率は同時併用群42.5% vs 逐次交互投与群36.7%であった。
主要副次評価項目である全生存期間の解析: 更新されたOS中央値は、同時併用群で41.9 vs 逐次交互投与群で30.7 monthsであり、HR 0.58 (95% CI 0.34-0.97, p=0.036) と統計的に有意な差が認められた (Figure 2)。同時併用群のOS中央値41.9ヶ月は、当時のEGFR変異陽性NSCLC一次治療としては極めて良好な成績であり、ゲフィチニブ単剤のOS中央値 (NEJ002試験の27.7ヶ月) を大幅に上回った。2年生存率は同時併用群で31.5%であった。
奏効率と疾患コントロール率の比較: 客観的奏効率 (ORR) は同時併用群で90.2% (95% CI 76.9%-97.3%)、逐次交互投与群で82.1% (95% CI 66.5%-92.5%) であり、p=0.34と有意差はなかった。疾患コントロール率 (DCR) は同時併用群で100% (95% CI 91.4%-100.0%)、逐次交互投与群で92.3% (95% CI 79.1%-98.4%) であり、p=0.11であった (Table 2)。同時併用群では完全な疾患コントロールが達成された。完全奏効 (CR) は同時併用群で2例 (4.9%)、逐次交互投与群で3例 (7.7%) であった。部分奏効 (PR) は同時併用群で35例 (85.4%)、逐次交互投与群で29例 (74.4%) であった。
EGFR変異型別の生存期間サブグループ解析: 探索的解析として、エクソン19欠失 (Del19) とL858R変異の患者におけるOSを比較した。Del19変異を有する患者 (同時併用群n=24、逐次交互投与群n=17) では、同時併用群のOS中央値が45.3 vs 逐次交互投与群が33.3 monthsであり、HR 0.44 (95% CI 0.21-0.91, p=0.024) と同時併用群でより顕著なOS延長が認められた。一方、L858R変異を有する患者 (同時併用群n=17、逐次交互投与群n=20) では、同時併用群のOS中央値が31.4 vs 逐次交互投与群が28.9 monthsであり、HR 0.77 (95% CI 0.37-1.61, p=0.49) と、両群間の差は小さかった (Figure 3B)。この結果は、Del19変異がL858R変異よりも化学療法との相乗効果を示しやすい可能性を示唆するが、サブグループの患者数が少ないため、解釈は探索的なものに留まる。
病勢進行時の再発パターンと安全性: RECIST基準による病勢進行時の最初の再発部位を評価したところ、両群ともに約29%〜36%の患者で中枢神経系 (CNS) への進行が認められた。同時併用群と逐次交互投与群の間でCNS進行率に有意な差はなく、脳転移抑制における明確な差は得られなかった。病勢進行後の治療実施率は両群で概ね同等 (70〜80%) であり、後次治療によるOSへの交絡は限定的であると考えられた。初回報告以降の追跡期間において、新たな重篤な有害事象の増加は認められず、長期的な安全性が確認された。間質性肺疾患 (ILD) は合計4例 (全患者の5%) で発生したが、いずれも可逆的であり、死亡例はなかった。
考察/結論
本研究の最終解析は、EGFR変異陽性NSCLCに対するゲフィチニブとプラチナベース化学療法 (カルボプラチン/ペメトレキセド) の併用療法が、特に同時投与において、ゲフィチニブ単剤療法を大幅に上回るPFSおよびOSを達成することを示した重要な第II相データである。同時併用群のOS中央値41.9ヶ月は、当時の標準治療であったゲフィチニブ単剤療法 (OS中央値21〜27ヶ月) を大きく超過するものであり、PFS中央値17.5ヶ月も単剤療法の約2倍に相当する。この結果は、EGFR-TKIと化学療法の併用戦略が、EGFR変異陽性NSCLC患者の予後を改善する可能性を強く示唆するものである。
先行研究との違い: これまでのEGFR-TKI単剤療法に関する研究、例えばMaemondo et alやMitsudomi et alでは、PFSの優位性は示されたものの、OSの有意な改善は限定的であった。本研究は、これまでの単剤療法に関する研究と異なり、第II相試験という規模ではあるが、OSにおいて統計的に有意な差 (HR 0.58, 95% CI 0.34-0.97, p=0.036) を示した点で、明確な生存ベネフィットを示唆する。また、同時投与と逐次交互投与の比較において、PFSに有意差がなかったにもかかわらず、OSで同時投与群が優位であった点は、治療スケジュールの重要性を示す知見である。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性NSCLC患者において、ゲフィチニブと化学療法の同時併用療法が逐次交互投与療法と比較してOSを有意に改善する可能性を新規に示した。特に、同時併用群で達成されたOS中央値41.9ヶ月は、当時のEGFR変異陽性NSCLCの一次治療としては極めて良好な成績であり、この治療戦略の有効性を裏付けるものである。また、Del19変異を有する患者で同時併用群のOSがより顕著に延長されたという探索的解析結果は、変異型に応じた治療戦略の最適化の可能性を示唆する発見である。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療において、EGFR-TKIと化学療法の併用療法、特に同時投与が有効な選択肢となり得ることを示唆する。この知見は、その後の大規模第III相試験であるNEJ009試験の基盤となり、同時投与群でPFSおよびOS双方の改善が確認された。現代の臨床現場では、オシメルチニブと化学療法の併用療法というさらに強力な組み合わせが標準化されつつあり、本試験で示されたTKIと化学療法の相乗効果という概念は、第3世代TKIへと発展的に継承されている。
残された課題: 本研究は第II相試験であるため、サンプル数が少ないというlimitationがある。そのため、本研究で得られた知見は、大規模な第III相試験によってさらに検証される必要がある。特に、PFSに有意差がないにもかかわらずOSに有意差が生じたメカニズムについては、さらなる詳細な解析が今後の検討課題である。また、病勢進行後の治療がOSに与える影響についても、本研究では限定的な評価に留まっているため、今後の検討課題として残されている。T790M変異の出現頻度やその他の耐性メカニズムが、細胞傷害性薬剤の追加によってどのように変化するかについても、さらなる研究が求められる。
方法
本研究は、2010年1月から2012年4月にかけて実施された第II相無作為化比較試験 (RCT) (NEJ005/TCOG0902試験、試験登録番号: UMIN000002789 [UMIN (University Hospital Medical Information Network)]) の最終解析である。本試験は、Declaration of Helsinkiに従って実施され、各患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。対象患者は、EGFR活性化変異 (エクソン19欠失またはL858R変異) 陽性の進行NSCLC患者で、T790M変異陰性、75歳以下、未治療の患者であった。患者は、性別および臨床病期 (IIIB、IV、術後再発) に基づいて層別化され、同時併用群 (n=41) または逐次交互投与群 (n=39) に1:1で無作為に割り付けられた。
同時併用群の患者は、ゲフィチニブ250 mgを連日経口投与し、これにカルボプラチン (AUC=6、Day 1) とペメトレキセド (500 mg/m²、Day 1) を3週ごとに最大6サイクルまで併用投与した。導入療法完了後、ゲフィチニブとペメトレキセドによる維持療法を病勢進行、許容できない毒性、または死亡まで継続した。逐次交互投与群の患者は、まずゲフィチニブを8週間投与し、その後カルボプラチン/ペメトレキセドを2サイクル投与するサイクルを最大3回繰り返した(カルボプラチン/ペメトレキセドは最大6サイクル)。その後、ゲフィチニブとペメトレキセドの交互維持療法を継続した。カルボプラチン/ペメトレキセドを4サイクル以上ゲフィチニブと併用した場合、導入療法は完了とみなされた。ゲフィチニブ単独での継続は、カルボプラチン/ペメトレキセドまたはペメトレキセドの中止が決定された場合に許可された。
腫瘍効果判定は、CTまたはMRIを用いて、治療前および治療中に少なくとも2ヶ月ごとに病勢進行まで繰り返された。奏効はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 1.1基準に基づいて評価された。病勢進行は、RECIST 1.1によるPD、治験責任医師による臨床的進行、またはあらゆる原因による死亡と定義された。病勢進行および臨床的奏効データは、治療割り付けを知らない独立中央判定委員会によって確認された。有害事象は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0を用いてグレード分類された。
主要評価項目 (primary endpoint) はPFSであり、副次評価項目 (secondary endpoint) にはOS、客観的奏効率、および毒性プロファイルが含まれた。本研究は、2つのレジメン間の有効性および安全性における統計的に有意な差を検出するのに十分な検出力を持つようにはデザインされていなかった (sample size calculation は探索的設定に基づく)。したがって、報告されるp値は探索的なものとして解釈されるべきである。
統計解析は、SAS V.9.1.3を用いて実施された。PFSは無作為化日から中央判定による病勢進行確認日までの期間と定義され、OSは無作為化日からあらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。イベントが発生しなかった患者のデータは、最終非イベント確認日で打ち切られた。PFSおよびOSの確率は、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定され、生存曲線はログランク (log-rank) 検定により比較された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、性別および臨床病期を共変量としたコックス比例ハザード分析 (Cox regression) を用いて算出された。奏効率および毒性発生率は、フィッシャーの正確確率検定 (Fisher’s exact test) を用いて両群間で比較された。最終データカットオフは2017年3月であり、追跡期間中央値は35.6ヶ月であった。