- 著者: Sugawara S, Oizumi S, Minato K, Harada T, Inoue A, et al. (NEJ/TCOG)
- Corresponding author: Dr. Satoshi Oizumi (Hokkaido University School of Medicine, Sapporo, Japan)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 25669832
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) における上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異は、特定のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) に対する感受性を示すバイオマーカーとして確立されている。複数の無作為化第III相試験、例えばMok et al. NEnglJMed 2009、Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Zhou et al. LancetOncol 2011、Rosell et al. LancetOncol 2012、Sequist et al. JClinOncol 2013などにより、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKI単剤の一次治療が、標準化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR) において優れていることが示され、この治療法が標準として確立された。例えば、NEJ002試験におけるgefitinib単剤のPFS中央値は9.2〜10.8ヶ月であった。
一方で、EGFR変異の有無を問わない非選択患者を対象とした複数の第III相試験、例えばGiaccone et al. JClinOncol 2004、Herbst et al. JClinOncol 2005などでは、EGFR-TKIとプラチナ併用化学療法の同時投与による上乗せ効果は示されなかった。これは、KRAS変異やEGFR野生型NSCLC細胞においてEGFR-TKIがG1細胞周期停止を誘導し、化学療法の細胞障害性効果を阻害する可能性が示唆されたためと考えられている。しかし、TRIBUTE試験のサブグループ解析では、EGFR変異陽性患者においてerlotinibと化学療法の併用による生存期間延長の傾向が示され、EGFR変異陽性集団に限定した場合、併用療法が有益である可能性が示唆された。また、FASTACT-2 (First-line Asian Sequential Tarceva and Chemotherapy Trial 2) 試験では、EGFR変異陽性患者においてerlotinibと化学療法を交互に投与するintercalated併用療法がPFSおよびOSを改善することが報告された。さらに、NEJ002試験の追加解析でも、EGFR-TKIと化学療法を逐次的に受けた患者でOSが改善することが示されている。
Pemetrexedはチミジル酸合成酵素 (TS) を標的とする代謝拮抗剤であり、gefitinibやlapatinibがTSの発現をダウンレギュレートするという報告から、相乗効果が期待された。これらの背景から、EGFR変異陽性患者に限定してgefitinibと化学療法の組み合わせを無作為化試験で評価することは、科学的に意義深いと判断された。しかし、EGFR変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKIとプラチナベースの化学療法併用療法の有効性は、これまで十分に評価されておらず、この領域には依然として知識のギャップが残されている。特に、最適な併用投与スケジュール (同時併用か逐次併用か) は未解明のままであった。
目的
本研究は、未治療のEGFR変異陽性進行非扁平上皮NSCLC患者を対象に、gefitinibとcarboplatin/pemetrexed (CBDCA/PEM) の2種類の組み合わせレジメン (concurrent併用療法とsequential alternating併用療法) の有効性および安全性を比較検討することを目的とした。本試験は、第III相試験 (NEJ009) に進めるための最良の実験的レジメンを選択するselection designとして設計された。主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) とし、副次評価項目として全生存期間 (OS)、奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および安全性プロファイルを評価した。本試験は、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKIと化学療法の併用療法の臨床的有用性を確立するための重要なステップとして位置づけられた。
結果
患者背景と試験実施状況: 2010年1月から2012年4月にかけて、合計80例の患者が無作為化割り付けされた (concurrent群41例、sequential alternating群39例)。全患者が少なくとも1回の試験治療を受けた。中央追跡期間は30.7ヶ月 (範囲4.9〜50.1ヶ月) であった。両群間で患者背景は良好にバランスしており、女性が63〜67%、非喫煙者が54〜56%、ECOG PS 0が43〜51%、PS 1が44〜57%であった (Table 1)。組織診断は全例が腺癌であり、病期はステージIVが90〜92%を占めた。EGFR変異型は、concurrent群でexon 19欠失が58.5%、L858Rが41.5%であり、sequential alternating群ではexon 19欠失が43.6%、L858Rが51.3%であった。sequential alternating群では、G719A変異が1例、G719Aとexon 19欠失の共存が1例認められた。Concurrent群では41.5%の患者でCBDCA/PEMの減量が必要となった。
無増悪生存期間 (PFS): 主要評価項目であるPFS中央値は、concurrent群で18.3ヶ月 (95% CI 9.7–21.9ヶ月) であったのに対し、sequential alternating群では15.3ヶ月 (95% CI 11.3–17.4ヶ月) であった (HR 0.71, 95% CI 0.42–1.20, P=0.20)。両群間に統計的な有意差は認められなかったが、concurrent群が数値上は優位な傾向を示した (Figure 2A)。両群ともに、先行する第III相試験におけるgefitinib単剤のPFS中央値 (9.2〜10.8ヶ月) を大幅に上回るPFSを達成し、EGFR変異陽性集団における併用療法の高い有効性が確認された。
全生存期間 (OS): OSデータは中間解析時点では未成熟であったが (concurrent群で16/41例、sequential alternating群で24/39例の死亡イベントが発生)、OS中央値はconcurrent群で41.9ヶ月 (95% CI 35.1ヶ月–未到達) であったのに対し、sequential alternating群では30.7ヶ月 (95% CI 23.2–40.5ヶ月) であった。Concurrent群で統計的に有意なOSの改善が認められた (HR 0.51, 95% CI 0.26–0.99, P=0.042) (Figure 2B)。
奏効率 (ORR) と病勢コントロール率 (DCR): ORRはconcurrent群で87.8%、sequential alternating群で84.6%と両群で同等であった (P=0.75)。DCRはconcurrent群で100%、sequential alternating群で92.3%であった (P=0.11)。完全奏効 (CR) は合計7例 (concurrent群4例、sequential alternating群3例) に認められ、両群のwaterfall plot (Figure 3) では多くの患者で深い腫瘍縮小が確認された。進行後の後治療はsequential alternating群でより多く記録された。
安全性と忍容性: Grade 3/4の血液毒性として、好中球減少症がconcurrent群で48.8% vs sequential alternating群で46.2% (P=0.83)、血小板減少症が41.5% vs 28.2% (P=0.25)、貧血が34.1% vs 12.8% (P=0.035) で認められた (Table 2)。貧血はconcurrent群で有意に高頻度であった。発熱性好中球減少症はconcurrent群で2.4% vs sequential alternating群で5.1% (P=0.61) であった。
Grade 3/4の非血液毒性は比較的軽微で管理可能であった。AST/ALT上昇はsequential alternating群でより多く (9.8% vs 20.5%, P=0.22)、下痢はconcurrent群でやや多かった (9.8% vs 0.0%, P=0.12)。間質性肺疾患 (ILD) は両群で各2例 (全体で4例、5%) 発生したが、concurrent群ではGrade 1と2、sequential alternating群ではGrade 2と4 (Grade 4が1例) であり、いずれも回復し致死的ではなかった。Concurrent群におけるILD発生率は、既報のgefitinib単剤療法 (WJTOG3405とNEJ002の合算解析で5.8%) と同等以下であり、併用によるILDの発生率増加は認められなかった。
考察/結論
本試験は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療としてのEGFR-TKIと化学療法の併用療法の有効性を、無作為化試験で初めて検証した歴史的意義を持つ研究である。
先行研究との違い: 非選択集団を対象とした既存の試験 (例えばGiaccone et al. JClinOncol 2004やHerbst et al. JClinOncol 2005) がEGFR-TKIと化学療法の同時投与の無効性を示したのに対し、本試験はEGFR変異陽性集団に限定した場合に、併用療法がgefitinib単剤のPFS (NEJ002での9.2〜10.8ヶ月) を大幅に超えるPFSを達成しうることを初めて示した点で、これまでの報告と対照的な結果である。concurrent群とsequential alternating群のPFS差は統計的に有意ではなかったが、OS中央値におけるconcurrent群の優位性 (41.9ヶ月 vs 30.7ヶ月、HR 0.51, 95% CI 0.26–0.99, P=0.042) は注目に値する。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性NSCLC患者においてgefitinibとCBDCA/PEMのconcurrent併用療法がsequential alternating併用療法と比較してOSを改善する可能性を示唆した。この結果は、EGFR-TKIと化学療法の併用戦略における最適な投与スケジュールの選択に新たな知見を提供するものであり、これまで報告されていない。
臨床応用: 本試験はselection designとして設計され、その結果を受けてconcurrent群が第III相試験 (NEJ009) の実験群として選択された。NEJ009試験では、本試験のconcurrent gefitinib+CBDCA/PEMレジメン (安全性を考慮しCBDCA AUC=5に減量) とgefitinib単剤が比較され、最終的にconcurrent群でPFS中央値20.9ヶ月 vs gefitinib単剤11.9ヶ月 (HR 0.49)、OS中央値50.9ヶ月 vs 38.8ヶ月 (HR 0.72) と有意な改善が示された。これは、本試験の方向性が正しかったことを検証し、EGFR変異陽性NSCLCに対する併用療法の臨床応用への道を開く重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 本試験は第II相のselection designであり、2群間の統計学的比較に十分な検出力を持たない点がlimitationである。また、OSデータは中間解析時点でも未成熟であり、解釈には注意が必要である。Concurrent群では約半数 (41.5%) の患者でCBDCA/PEMの減量を要したことから、NEJ009試験ではCBDCAのAUCが5に変更された。EGFR-TKIによるG1細胞周期停止が化学療法の効果を拮抗する可能性については、本試験では有害な相互作用は確認されなかった。第3世代EGFR-TKIであるosimertinibが一次治療として確立された現代においては、gefitinibと化学療法の組み合わせの一次治療における位置づけの再評価が必要である。しかし、osimertinibと化学療法の組み合わせを探索する際の先行エビデンスとして、本試験の価値は継続している。今後の検討課題として、より長期的なOSデータや、特定のEGFR変異サブタイプにおける併用療法の効果のさらなる詳細な解析が挙げられる。
方法
本研究は、多施設共同無作為化第II相試験 (NEJ005/TCOG0902) として、North East Japan Study Group (NEJ) とTokyo Cooperative Oncology Group (TCOG) の共同で実施された。本試験はUMIN Clinical Trial Registry (UMIN C000002789) に登録された。
患者適格基準: 対象患者は、化学療法未治療の進行非扁平上皮NSCLCで、病期がIIIB、IV、または術後再発であること、EGFR感受性変異 (exon 19欠失、L858R、L861Q、G719A/C/S) を有すること、年齢が20歳以上74歳以下であること、ECOG Performance Status (PS) が0または1であること、および十分な臓器機能を有することが条件とされた。主な除外基準には、T790M変異の保有、症候性脳転移、間質性肺炎の既往、他の悪性腫瘍の合併などが含まれた。
試験デザインと治療レジメン: 患者は性別と臨床病期 (IIIB、IV、術後再発) を層別因子として、concurrent群とsequential alternating群に1:1で無作為に割り付けられた。本試験は、第III相試験に進むためのレジメンを選択するselection designの第II相臨床試験として設計された。
- Concurrent群 (n=41): gefitinib 250mgを毎日経口投与し、同時にcarboplatin (AUC=6) とpemetrexed (500 mg/m²) を3週ごとに最大6サイクル静脈内投与した。導入療法後、病勢進行、許容できない毒性、または死亡までgefitinibとpemetrexedによる維持療法を継続した。
- Sequential alternating群 (n=39): gefitinib 250mgを毎日経口投与で8週間先行投与し、その後carboplatin (AUC=6) とpemetrexed (500 mg/m²) を3週ごとに2サイクル静脈内投与した。この交互投与サイクルを3回繰り返し (合計でCBDCA/PEMを6サイクル)、その後、病勢進行、許容できない毒性、または死亡までgefitinibとpemetrexedの交互維持療法を継続した。
評価項目と統計解析: 主要評価項目はPFSであり、副次評価項目はOS、ORR、DCR、および安全性であった。PFSとOSの確率はKaplan-Meier法を用いて推定され、両群間の比較にはログランク検定が用いられた。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、性別と臨床病期を共変量として調整したCox比例ハザードモデルを用いて算出された。奏効率と有害事象の発生率はFisherの正確検定を用いて比較された。本試験は、2群間の統計的に有意な差を検出する十分な検出力を持つようには設計されておらず、P値は探索的なものとして解釈された。統計解析はSAS version 9.1.3を用いて実施された。登録期間は2010年1月から2012年4月であり、最終解析のデータカットオフは2014年3月31日であった。