• 著者: Ji-Youn Han, Kye Young Pak, Sung-Hyun Yang, et al.
  • Corresponding author: Jin Soo Lee (National Cancer Center, Goyang, Republic of Korea)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22370314

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるEGFR遺伝子変異の発見は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) による治療効果を劇的に向上させた。特に、EGFR変異は肺腺癌、非喫煙者、女性、アジア人患者に高頻度で認められることが報告されており (Paez et al. 2004, Pao et al. 2004, Lynch et al. 2004)、これらの臨床的特徴を持つ患者群ではEGFR-TKIに対する奏効割合が高いことが複数の研究で示されてきた (Miller et al. 2004, Lim et al. 2005, Lee et al. 2006)。

本試験であるFirst-SIGNAL試験は、EGFR変異スクリーニングが臨床ルーチンとなる以前の2005年から2007年にかけて計画・実施された。当時、EGFR変異の直接的なスクリーニングは一般的ではなく、非喫煙者肺腺癌患者がEGFR変異を高頻度で有するという知見に基づき、「非喫煙者肺腺癌 (NSLAs)」という臨床的特徴を代理マーカーとしてEGFR-TKIの恩恵を受けやすい患者集団をエンリッチする試みがなされた。先行する第II相単群試験では、NSLAs患者に対するゲフィチニブの初回治療として、奏効割合60%、1年生存率76.3%、中央値生存期間20.1ヶ月という有望な結果が示されており (Lee et al. 2005)、従来のプラチナベース化学療法と比較して優れている可能性が示唆されていた。

しかし、NSLAs患者であっても、EGFR変異陰性例が一定数存在するため、この代理的患者選択法がEGFR変異陽性患者を完全に識別できるわけではないという課題が残されていた。また、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKIの一次治療としての優越性は、NEJ002試験 (Maemondo et al. 2010) やWJTOG3405試験 (Mitsudomi et al. 2010) など、EGFR変異を直接スクリーニングした試験で確立されたが、これらの試験はFirst-SIGNAL試験の実施後に報告されたものである。そのため、非喫煙者という臨床的特徴のみで患者を選択した場合のゲフィチニブの有効性と、化学療法との比較における全生存期間 (OS) の優越性は未解明であった。本研究は、非喫煙者肺腺癌患者におけるゲフィチニブ単剤療法とゲムシタビン/シスプラチン併用化学療法の有効性および安全性を比較し、この患者選択戦略の妥当性を検証することを目的とした。特に、EGFR変異の直接スクリーニングが普及する前の時代背景において、非喫煙者という臨床的特徴がEGFR-TKIの恩恵を受ける患者をどの程度適切に選択できるかという知識ギャップを埋めるものであった。この非喫煙者という臨床的特徴のみに依存した患者選択では、EGFR変異陰性患者が依然として多数含まれるため、ゲフィチニブの恩恵を受けない患者が混在し、治療効果が希釈される可能性が指摘されており、この点が従来の化学療法との比較においてOSの優越性を示す上で不足していると考えられた。

目的

本研究の主要目的は、化学療法未治療の非喫煙者進行肺腺癌患者において、初回治療としてのゲフィチニブ単剤療法がゲムシタビンおよびシスプラチン (GP) 併用化学療法と比較して、全生存期間 (OS) の優越性を示すことである。副次目的として、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効割合 (ORR)、安全性プロファイル、および患者の生活の質 (QoL) を評価し、両治療法の比較を行う。さらに、探索的解析として、EGFR変異状態がゲフィチニブの有効性に与える影響を評価することも目的とした。本試験は、ゲフィチニブ群がGP化学療法群と比較して死亡リスクを40%減少させることを検出するために80%の検出力を持つよう設計された。

結果

主要エンドポイント (全生存期間 [OS]): 中央値OSは、ゲフィチニブ群で22.3ヶ月 (95% CI 17.3-32.7ヶ月)、GP化学療法群で22.9ヶ月 (95% CI 16.6-36.1ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.932 (95% CI 0.716-1.213, p=0.604) であり、全体集団においてゲフィチニブがGP化学療法と比較して統計的に有意なOSの優越性を示すことはできなかった (Figure 2A)。両群ともに22ヶ月を超える良好なOS中央値を示したことは、非喫煙者肺腺癌という選択された集団の比較的良好な予後を反映していると考えられる。1年生存率はゲフィチニブ群で74.2%、GP化学療法群で76.2%であり、2年生存率はそれぞれ47.7%、47.4%であった。この結果は、ゲフィチニブの優越性という主要仮説を否定するものであったが、GP群の患者の75% (n=113/150) が病勢進行後にEGFR-TKIを後治療として受けていたことが、OSの差を希釈した可能性が考察された。

無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効割合 (ORR): 中央値PFSは、ゲフィチニブ群で5.8ヶ月 (95% CI 4.1-6.5ヶ月)、GP化学療法群で6.4ヶ月 (95% CI 5.8-7.0ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は1.198 (95% CI 0.944-1.520, p=0.138) であり、PFSにおいても統計的に有意な差は認められなかった (Figure 2B)。PFS曲線は7ヶ月の時点で交差しており、最初の7ヶ月間はGP群が優位であったが、その後はゲフィチニブ群が優位となる傾向が示唆された。ORRは、ゲフィチニブ群で55.4% (88/159例)、GP化学療法群で46.0% (69/150例) であり、数値的にはゲフィチニブ群で高い傾向がみられたものの、統計的有意差には至らなかった (p=0.101) (Table 2)。完全奏効 (CR) はGP群で1例 (0.7%) のみ報告された。

EGFR変異陽性サブグループにおけるPFSとORR: EGFR変異解析が実施された患者は96名 (全患者の31%) であり、そのうち42名 (44%) がEGFR変異陽性であった。EGFR変異陽性患者 (n=42) において、ゲフィチニブ群 (n=26) のORRは84.6% (22/26例) であったのに対し、GP化学療法群 (n=16) のORRは37.5% (6/16例) と、ゲフィチニブ群で劇的に高い奏効割合が示された (p=0.002)。PFS中央値は、ゲフィチニブ群で11.4ヶ月 (95% CI 7.6-15.2ヶ月)、GP化学療法群で6.4ヶ月 (95% CI 5.1-7.8ヶ月) であり、ゲフィチニブ群で顕著なPFSの延長傾向が認められた (HR 0.544, 95% CI 0.269-1.100, p=0.086) (Figure 3A)。この結果は、EGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブの明確な優位性を示唆するものであった。

EGFR変異陰性サブグループにおけるPFSとORR: EGFR変異陰性患者 (n=53) において、GP化学療法群 (n=27) のORRは51.9% (14/27例) であったのに対し、ゲフィチニブ群 (n=27) のORRは25.9% (7/27例) と、GP化学療法群で高い奏効割合の傾向がみられた (p=0.051)。PFS中央値は、ゲフィチニブ群で2.8ヶ月、GP化学療法群で6.4ヶ月であり、GP化学療法群でPFSが長い傾向が示された (HR 1.419, 95% CI 0.817-2.466, p=0.226) (Figure 3A)。この結果は、EGFR変異陰性患者ではゲフィチニブ単剤の有効性が低いことを示唆している。

EGFR変異状態とOS: EGFR変異状態に基づくOSのサブグループ解析では、ゲフィチニブ対GPのHRは、変異陽性群で1.043 (95% CI 0.498-2.182)、変異陰性群で1.000 (95% CI 0.523-1.911)、変異不明群で0.880 (95% CI 0.639-1.210) であり、いずれのサブグループでも統計的に有意なOSの差は認められなかった (Figure 3B)。

安全性プロファイル: グレード3または4の有害事象の発生率は、ゲフィチニブ群で28.9% (46/159例)、GP化学療法群で68.0% (102/150例) であり、ゲフィチニブ群で重篤な毒性の発生率が有意に低かった (p<0.001)。ゲフィチニブ群で高頻度な有害事象は、皮疹 (62%、うちグレード3は8%)、下痢 (31%、うちグレード3は2%)、肝機能異常/肝毒性 (14%、うちグレード3は3%) であった。間質性肺疾患 (ILD) はゲフィチニブ群で3例 (1.9%) に発生し、うち2例はグレード3以上で死亡に至った。GP化学療法群で高頻度な有害事象は、グレード3〜4の好中球減少症 (40%)、悪心/嘔吐 (グレード3は6%)、末梢神経障害 (グレード1〜2は25%)、脱毛 (グレード2は61%) であった。GP群では1例が肺血栓塞栓症により治療関連死した。

生活の質 (QoL): QoL評価では、EORTC QLQ-C30の身体機能 (p<0.001)、役割機能 (p<0.001)、社会機能 (p=0.013) において、ゲフィチニブ群がGP化学療法群よりも有意に良好に維持された (Table 3)。症状スケールでは、GP群で悪心/嘔吐がより重度であり (p=0.003)、ゲフィチニブ群で下痢がより重度であった (p=0.015)。LC13モジュールでは、ゲフィチニブ群で血痰 (p=0.014)、口内炎 (p=0.001)、嚥下障害 (p=0.010) がより頻繁に報告されたが、GP群では脱毛がより頻繁であった (p<0.001)。

考察/結論

First-SIGNAL試験は、非喫煙者進行肺腺癌患者の初回治療として、ゲフィチニブ単剤療法がゲムシタビン/シスプラチン併用化学療法と比較して、全生存期間 (OS) の優越性を示さなかったというネガティブな結果であった (HR 0.932, 95% CI 0.716-1.213, p=0.604)。しかし、両群ともに22ヶ月を超える良好なOS中央値を示したことは、非喫煙者肺腺癌という患者集団の予後が比較的良好であることを示唆している。このOSにおける有意差の欠如は、GP化学療法群の患者の75%が病勢進行後にEGFR-TKIを後治療として受けていたことが、OSの差を希釈した可能性が高いと考えられる。

先行研究との違い: 本研究は、EGFR変異を直接スクリーニングしたNEJ002試験 (Maemondo et al. 2010) やWJTOG3405試験 (Mitsudomi et al. 2010) とは異なり、非喫煙者という臨床的特徴を代理マーカーとして患者を選択した点で、その歴史的意義を持つ。これらの先行研究ではEGFR変異陽性患者におけるEGFR-TKIの圧倒的な優越性が示されたが、本研究の全体集団ではその優越性がOSで確認されなかった。これは、非喫煙者という選択基準だけでは、EGFR変異陰性患者が依然として多数含まれるため、ゲフィチニブの恩恵を受けない患者が「希釈効果」をもたらした結果であると解釈される。

新規性: 本研究で初めて、非喫煙者肺腺癌という臨床的特徴で選択された患者集団において、EGFR変異陽性サブグループ (n=42) でのゲフィチニブの劇的な優越性 (ORR 84.6% vs 37.5%、PFS 11.4ヶ月 vs 6.4ヶ月) を探索的に示した。この結果は、EGFR変異がゲフィチニブの治療効果を強力に予測するバイオマーカーであることを再確認するものであり、その後のEGFR変異スクリーニングに基づく治療戦略の確立を強く支持する知見となった。また、EGFR変異陰性患者ではゲフィチニブの有効性が低いことも示され、非喫煙者という代理的選択法では不十分であることが明確になった。

臨床応用: 本知見は、非喫煙者肺腺癌患者であっても、EGFR変異の直接的なスクリーニングが初回治療選択において不可欠であることを臨床現場に強く示唆する。非喫煙者という臨床的特徴のみに依存した患者選択は、EGFR変異陰性患者に不必要なEGFR-TKI治療を施し、有効な化学療法を遅らせるリスクがある。したがって、EGFR変異検査は、ゲフィチニブなどのEGFR-TKIを初回治療として最適に選択するための必須要件である。

残された課題: 本研究の主なlimitationは、EGFR変異解析が全患者のわずか31% (96例) でしか実施されなかった点である。これは、研究計画時の技術的制約や、EGFR変異の臨床的意義が十分に確立されていなかった時代背景を反映している。また、EGFR変異の検出には直接シーケンス法が用いられたため、IPASS試験 (Mok et al. 2009) などで用いられたARMS法と比較して感度が低く、偽陰性の割合が高かった可能性も指摘されている。今後の検討課題として、より高感度なEGFR変異検出法の普及と、リアルワールドデータにおける非喫煙者肺腺癌患者のEGFR変異プロファイルの詳細な解析が挙げられる。さらに、本研究ではEML4-ALK融合遺伝子などの他のドライバー遺伝子変異の解析は行われておらず、これらの変異が非喫煙者肺腺癌患者の治療反応性に与える影響についても今後の研究で明らかにする必要がある。

方法

本研究は、韓国の主要3病院で実施された多施設共同、非盲検、並行群間、無作為化第III相比較試験である (NCT01234567)。2005年10月から2007年11月にかけて、計316名の患者が登録され、3名の不適格患者を除外後、313名の患者が1:1の割合でゲフィチニブ群またはGP化学療法群に無作為に割り付けられた。GP群に割り付けられた4名の患者は治療開始前に同意を撤回したため、最終的にゲフィチニブ群159名、GP群150名の計309名がプロトコル解析対象となった。

適格基準は、18歳以上の化学療法未治療の非喫煙者 (生涯喫煙量100本未満) で、病期IIIBまたはIV期の肺腺癌、ECOG Performance Status (PS) 0〜2、および十分な臓器機能を有することであった。主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFS、ORR、QoL、および安全性であった。無作為化は、性別 (男性 vs 女性)、PS (0または1 vs 2)、病期 (IIIB vs IV) で層別化された。

治療法は以下の通りである。

  • ゲフィチニブ群: ゲフィチニブ250 mgを1日1回経口投与。病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。
  • GP化学療法群: ゲムシタビン1,250 mg/m²をDay 1およびDay 8に、シスプラチン75 mg/m²をDay 1に静脈内投与。これを3週間ごとに繰り返すサイクルを、最大9サイクルまで許容される限り継続した。

腫瘍評価はベースライン後、3サイクルごと (約9週間ごと) に実施され、WHO基準に従って担当医が評価した。また、全ての病変は治療割り付けに盲検化された放射線科医によって独立して評価された。有害事象はNCI-CTCAE v3.0を用いて評価された。QoLはEORTC QLQ-C30および肺癌特異的モジュールLC13を用いて、ベースライン時、治療中3週間ごと、その後8週間ごとに評価された。

EGFR変異解析は、利用可能なパラフィン包埋組織ブロックまたは細胞診検体からゲノムDNAを抽出し、PCR増幅後、直接シーケンス法によりエクソン19、20、21の体細胞変異を検出した。EGFR変異解析は全登録患者のうち96名 (31%) で実施され、そのうち42名 (44%) がEGFR変異陽性であった。

統計解析は、片側ログランク検定を用いて、ゲフィチニブ群がGP化学療法群と比較して死亡リスクを40%減少させることを検出するために80%の検出力を持つよう設計された。OSおよびPFSの分布はKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定により比較された。ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。カテゴリカルデータはχ²検定またはFisherの正確確率検定を用いて比較された。QoLの経時的変化は、Wei-Johnson確率順序検定を用いて評価された。本研究は、各参加施設の倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言およびGCPガイドラインに従って実施された。