• 著者: A. Ono, H. Kenmotsu, M. Watanabe, M. Serizawa, K. Mori, H. Imai, T. Taira, T. Naito, H. Murakami, T. Nakajima, Y. Ode, M. Endo, N. Yamamoto, Y. Koh, T. Takahashi
  • Corresponding author: Akira Ono (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center, Shizuoka, Japan)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25009007

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるEGFR-TKI (gefitinib、erlotinib) の有効性は広く確立されており Lynch et al. NEnglJMed 2004、特に進行肺腺癌に対する初回治療としてのEGFR-TKIの有効性は複数の臨床試験で示されている Mitsudomi et al. LancetOncol 2010 Han et al. JClinOncol 2012。しかし、EGFR変異陽性患者の間でも治療反応性は均一ではないことが知られており、BIM欠失多型、de novo T790M変異、腫瘍内不均一性などがEGFR-TKI治療における予後不良因子として報告されてきた。変異アレル頻度 (MAF: mutant allele frequency) は腫瘍内の変異細胞の相対的割合を反映する指標であり、大腸癌においてはKRAS変異のMAF低値 (<10%) が抗EGFR治療の恩恵を減弱させることが報告されている。しかし、EGFR変異陽性NSCLCにおけるMAFとTKI治療効果の関連については、これまで十分に検討されておらず、その臨床的意義は未解明な点が多かった。特に、EGFR L858R変異におけるMAFの定量的な評価と、それがTKI治療効果に与える影響については、明確なデータが不足していた。このため、L858R変異のMAFがEGFR-TKIの治療効果予測に有用であるかどうかの課題が残されている。

目的

EGFR L858R変異を有する進行肺腺癌患者において、変異アレル頻度 (MAF) がEGFR-TKI治療効果の予測因子となりうるかを検討する。具体的には、pyrosequencing (Py) 法を用いてL858R変異のMAFを定量し、無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (RR) との関連を評価する。また、L858R変異検出におけるPy法と他の検出法 (Cycleave: Cy、ScorpionARMS: ARMS) との一致率を解析し、異なる検出法間の技術的な閾値MAFを設定することを目的とする。本研究は、L858R変異におけるMAFの臨床的意義を明確にし、個別化治療戦略への貢献を目指す。

結果

技術的閾値MAFの設定と検出法の一致率: Py法とCy法の両方でL858R変異が評価された48例において、両検出法の一致率は94% (45/48例) であった。残りの3例 (6%) はPy法のみでL858R変異が検出された。ROC曲線解析の結果、L858RのMAF (MAFLR) のAUCは0.967 (95%CI: 0.91-1) であり、MAF=9%が技術的閾値として100%の感度と99%の特異度を示した (Figure 2)。この閾値は、異なる検出法間の差異を定量的に説明する境界値であり、9%未満のMAFはPy法特異的な検出であり、Cy法では陰性となることを示唆する。この結果は、低MAFの変異がCy法のような標準的なアッセイでは見逃される可能性を示している。

EGFR-TKI治療後の無増悪生存期間 (PFS) 解析: 進行肺腺癌患者29例 (術後再発を除く) の患者背景は、中央値年齢69歳 (範囲: 47〜84歳)、男性14例 (48%)、非喫煙者16例 (55%)、ECOG PS 0-1が26例 (90%)、ステージIVが25例 (86%) であった (Table 1)。中央値MAFLRは18% (範囲: 8〜63%) であった。EGFR-TKI (gefitinib 20例、erlotinib 6例) が初回EGFR-TKIとして使用された。MAF>9%群 (n=24) の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は284日 (9.5か月) であったのに対し、MAF≤9%群 (n=5) のPFS中央値は92日 (3.1か月) と有意に短かった (p=0.0027、log-rank検定) (Figure 3)。この結果は、低MAF群においてTKI治療効果が著しく減弱することを示している。このPFSにおける顕著な差は、MAFがEGFR-TKI治療効果の強力な予測因子であることを示唆する。

奏効率 (RR) および腫瘍内容量との関連: MAF>9%群の奏効率は79.1%であったのに対し、MAF≤9%群の奏効率は25.0%と有意に低かった (p=0.022、Fisherの正確確率検定)。この結果は、低MAFが治療奏効の低下と強く関連していることを裏付けている。また、MAFと腫瘍内容量 (tumor content) の相関は低く (Spearman相関係数0.33、p=0.090)、腫瘍細胞比率のみではMAFを十分に説明できないことが示された。このことは、腫瘍内不均一性がMAFの主要因である可能性を示唆し、MAFが単なる腫瘍細胞割合以上の情報を提供することを示唆する。

血漿液状生検におけるL858R変異の検出: TKI開始前に血漿液状生検 (digital PCR) を実施した10例中4例 (40%) でL858R変異が検出された。TKI開始後の血漿検体では、6例中4例でL858R変異が消失し (治療奏効を示唆)、2例で持続的に検出された。これらの2例 (患者13および15) のPFSは、L858R変異が消失した4例と同様であった。この小規模な解析は限定的ではあるが、超低MAFの変異クローンが血漿ctDNAでも反映されうる可能性を示唆し、液状生検によるモニタリングの潜在的な有用性を示している。

考察/結論

本研究は、EGFR L858R変異を有する進行肺腺癌患者において、変異アレル頻度 (MAF) がEGFR-TKI治療効果の予測因子となりうることを初めて定量的に示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR変異陽性患者におけるTKI治療効果の不均一性が指摘されてきたが、MAFを定量的に評価し、その閾値を設定して治療効果との関連を検討した報告は少なかった。大腸癌におけるKRAS変異のMAFと抗EGFR治療効果の関連は報告されているが、肺癌のEGFR変異における同様の知見は不足していた。本研究は、Yu et al. AnnOncol 2014がT790M変異のMAFと治療効果の関連を示唆したこととは異なり、L858R変異に焦点を当て、そのMAFがTKI治療効果を予測しうることを明確に示した点で新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、L858R変異のMAFがEGFR-TKI治療効果の潜在的な予測因子となることを、定量的な閾値 (MAF≤9%) を用いて実証した。この閾値は、Py法とCy法という異なる検出法の一致率から導き出されたものであり、検出感度の異なるアッセイ間の差異を埋める技術的意義も持つ。MAFが低い患者群では、奏効率 (25.0% vs 79.1%) およびPFS (中央値92日 vs 284日、HR 0.32, 95% CI 0.14-0.75, p=0.0027) が有意に低いことが示され、腫瘍の不均一性や変異クローンの少数性が治療応答を制限する可能性が新規に示唆された。

臨床応用: 本知見は、EGFR L858R変異陽性患者に対するEGFR-TKI治療戦略の個別化に貢献する臨床的意義を持つ。特に、低MAFのEGFR変異陽性患者では、標準的なEGFR-TKI単剤療法では十分な効果が得られない可能性があり、併用療法や他の治療戦略を検討する必要があることを示唆する。これは、臨床現場における治療選択の意思決定に新たな情報を提供するものであり、より精密な医療の実現に寄与すると考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。第一に、解析対象の症例数が少ないこと (特にMAF≤9%群が5例) であり、結果の一般化には注意が必要である。第二に、エクソン19欠失変異のMAF解析を含んでいない点である。第三に、pyrosequencingが必ずしも標準的な測定法ではないため、他の施設での結果との比較や外部への一般化が難しい可能性がある Pao et al. ClinCancerRes 2007。今後の検討課題として、大規模な前向きコホートでの検証、エクソン19欠失変異における同様の解析、およびデジタルPCRなどの高感度技術を用いた血漿ctDNAによるMAFモニタリングの臨床的有用性の評価が必要である Arcila et al. ClinCancerRes 2011

方法

本研究は、静岡がんセンターで実施された静岡肺癌変異研究 (SLCMS: Shizuoka Lung Cancer Mutation Study) に2011年7月〜2013年3月に登録された705例の患者データから、後向きコホート解析として実施された。このうち、Py法を用いてL858R変異が同定された肺腺癌102例を解析対象とした。Py法によりL858Rのピログラム値からMAFを定量し、腫瘍内の変異アレル比率を算出した。Py法とCy法の両方でEGFR変異評価を行った48例において、L858R検出の一致率を評価し、ROC曲線解析を用いて技術的閾値MAFを算出した。進行肺腺癌患者 (術後再発を除く) のうち、Py法とCy法またはARMS法の両方でL858R変異が評価された29例について、EGFR-TKI治療効果をPFSおよびRRで評価した。PFSはEGFR-TKI開始からRECIST v1.1による病勢進行または死亡までの期間と定義した Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。患者の登録は静岡がんセンターの倫理審査委員会の承認を得て実施された。統計解析にはKaplan-Meier法を用いてPFSを推定し、log-rank検定により群間のPFSの有意差を評価した。奏効率の比較にはFisherの正確確率検定を用いた。統計解析はSPSS version 11.0を用いて実施され、p値が0.05未満の場合を有意差ありと判断した。