- 著者: Keunchil Park, Eric B. Haura, Natasha B. Leighl, et al.
- Corresponding author: Byoung Chul Cho (Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-08-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 34339292
背景
EGFR exon 20挿入 (Exon20ins) 変異は、非小細胞肺癌 (NSCLC) においてEGFR変異全体の約12%を占める主要な変異群の一つである Arcila et al. MolCancerTher 2013。この変異は100種以上の多様なバリアントから構成され、EGFRキナーゼドメインのCヘリックス近傍への挿入により、既承認の全てのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブに対して固有の耐性を示すことが知られている (奏効率0〜9%) Yang et al. LancetOncol 2015。このため、Exon20ins変異を有するNSCLC患者に対する標準一次治療は、長らくプラチナ製剤ベースの化学療法であった。しかし、TKI感受性EGFR変異NSCLCと比較して、Exon20ins変異NSCLCは予後が不良であり、全生存期間 (OS) 中央値が16ヶ月と、TKI感受性変異の39ヶ月と比較して有意に短いことが報告されている Yang et al. LancetOncol 2015。このような背景から、Exon20ins変異NSCLCはアンメットメディカルニーズが高い領域であり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。
Amivantamab (JNJ-61186372) は、EGFRとMETの細胞外ドメインに結合する完全ヒト型EGFR-MET二重特異性抗体である。その作用機序は、リガンド結合阻害、受容体複合体のエンドサイトーシス促進、Fc依存性食細胞によるトロゴサイトーシス、およびNK細胞による抗体依存性細胞傷害 (ADCC) という多重の経路を介する。このTKI結合部位を介さない作用機序は、Exon20ins変異によるTKI耐性を回避し、腫瘍細胞に直接的な抗腫瘍効果を発揮することが期待された。これまでの研究では、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKIの有効性が示されてきたが Lynch et al. NEnglJMed 2004、Exon20ins変異に対する効果は限定的であった。また、MET経路の活性化はEGFR-TKI耐性メカニズムの一つとして知られており、二重特異性抗体であるamivantamabが両経路を同時に阻害することで、より広範な抗腫瘍効果を発揮する可能性が示唆された。しかし、プラチナ製剤治療後に進行したExon20ins変異NSCLC患者におけるamivantamabの臨床的有効性と安全性プロファイルは、本研究の実施時点ではまだ十分に確立されておらず、この領域における知識のギャップが残されていた。特に、既存の治療法では効果が不十分であり、新たな治療選択肢が不足している状況であった。
目的
本研究の目的は、CHRYSALIS第I相試験 (NCT02609776) のExon20ins後プラチナコホートにおいて、EGFR Exon20ins変異を有するプラチナ製剤治療後に進行した非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、amivantamabの推奨Phase II用量 (RP2D) における客観的奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を評価することである。具体的には、amivantamabの単剤療法が、この難治性患者集団において臨床的に意義のある抗腫瘍活性と忍容性のある安全性を示すか否かを検証することを目的とした。また、EGFR-TKI前治療歴の有無による有効性の違いや、様々なExon20insバリアントに対する奏効のパターンも探索的に評価した。本研究は、Exon20ins変異NSCLCに対する初の生物製剤としてのamivantamabの可能性を評価する上で重要な位置づけとなる。
結果
患者背景と試験コホート: 安全性評価集団は114例のEGFR Exon20ins変異NSCLC患者で構成され、全例がプラチナ製剤治療後に進行し、amivantamabのRP2Dで治療された。有効性評価集団は81例であった。患者の年齢中央値は62歳 (範囲42〜84歳) であり、女性が59% (48/81)、アジア人が49% (40/81) を占めた (Table 1)。全例がプラチナ製剤ベースの化学療法歴を有し、前治療ライン数の中央値は2ライン (範囲1〜7ライン) であった。EGFR-TKI前治療歴は25% (20/81) の患者に認められ、免疫チェックポイント阻害薬の前治療歴は46% (37/81) であった。有効性評価集団におけるフォローアップ期間中央値は9.7ヶ月 (範囲1.1〜29.3ヶ月) であった。
薬物動態、薬力学、および免疫原性: 最大評価用量である1,750 mgまで最大耐用量 (MTD) は特定されなかったため、RP2Dは1,050 mg (体重80 kg以上の患者は1,400 mg) に設定された。Amivantamabは350〜1,750 mgの範囲で線形薬物動態を示し、平均半減期は11.3日であった。RP2Dでは、循環血中のEGFRおよびMET標的の飽和が達成され、前臨床で確立された標的濃度168 μg/mLをカバーした。抗amivantamab抗体の発生率は低く、薬物動態パラメータ、臨床活性、または安全性への明確な影響は認められなかった。
客観的奏効率 (ORR): 有効性評価集団 (n=81) における独立中央判定委員会 (BICR) 評価によるORRは40% (95% CI 29〜51%) であった (Table 3)。これには、完全奏効 (CR) 3例 (4%) と部分奏効 (PR) 29例 (36%) が含まれる。治験責任医師評価によるORRも36% (95% CI 25〜47%) と同様の結果を示した。このORR 40%は、プラチナ製剤後単剤化学療法の歴史的ベンチマークであるORR 23%を大幅に上回るものであり、EGFR Exon20ins変異NSCLCに対する初の標的療法としてのamivantamabの強力な活性を実証した。前EGFR-TKI治療歴の有無によるORRの差は認められず、TKI前治療例 (n=20) でORR 40%、TKI未治療例 (n=61) でORR 39%と、治療歴に関わらず一貫した抗腫瘍活性が確認された (Figure 2B)。
奏効期間 (DoR)、臨床的有用性割合 (CBR)、および全生存期間 (OS): 奏効期間中央値 (DoR) は11.1ヶ月 (95% CI 6.9ヶ月〜未到達) であり、持続的な奏効が示された。奏効した32例のうち、28例 (89%) が6ヶ月以上奏効を維持した。臨床的有用性割合 (CBR; CR/PR/SD≥11週) は74% (95% CI 63〜83%) であった。全生存期間中央値 (OS) は22.8ヶ月 (95% CI 14.6ヶ月〜未到達) であり、これはExon20ins変異NSCLCの歴史的OS (約16ヶ月) を超える良好な成績であった。プラチナ製剤後の二次治療としては非常に有望な結果である。
無増悪生存期間 (PFS): 無増悪生存期間中央値 (PFS) は8.3ヶ月 (95% CI 6.5〜10.9ヶ月) であった。これは、Exon20ins変異NSCLCにおけるプラチナ製剤後の自然歴 (PFS 2〜3ヶ月) と比較して顕著な延長であり、約3倍のPFS延長が認められた。6ヶ月PFS率は65%、12ヶ月PFS率は38%であった。EGFR-TKI前治療歴を有する患者 (n=20) のPFSも8.3ヶ月であり、TKI既往例においても同等の有効性が確認された。
安全性プロファイル (n=114): 安全性評価集団 (n=114) における最も一般的な有害事象 (全グレード) は、皮疹86% (98/114)、点滴関連反応 (IRR) 66% (75/114)、爪囲炎45% (51/114)、低アルブミン血症27% (31/114)、便秘24% (27/114)、悪心19% (22/114) であった (Table 2)。これらのAEは、EGFRおよびMET経路のオンターゲット阻害作用と一致する。グレード3または4のAEは35% (40/114) の患者で報告され、最も頻繁に認められたのは低カリウム血症5% (6/114)、皮疹4% (4/114)、肺塞栓症4% (4/114)、下痢4% (4/114)、好中球減少症4% (4/114) であった。治療関連の用量減量は13% (15/114) の患者で発生し、治療中止は4% (5/114) と低かった。IRRは主に初回投与時 (サイクル1、1日目) に発生し、ほとんどがグレード1または2であった。IRRのリスク軽減のため、初回投与は2日間に分割され、予防的投薬が実施された。
考察/結論
CHRYSALIS試験は、amivantamabがEGFR Exon20ins変異を有する非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、プラチナ製剤治療後に進行した症例に対し、ORR 40% (95% CI 29〜51%)、DoR中央値11.1ヶ月、PFS中央値8.3ヶ月という臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示すことを初めて実証した。この結果は、既存の治療選択肢が限られているExon20ins変異NSCLC患者にとって、amivantamabが重要な治療選択肢となる可能性を示唆する。
先行研究との違い: 従来のEGFR-TKIは、Exon20ins変異によるキナーゼドメインの立体障害のため、結合が阻害され効果が乏しいことが課題であった。本研究で示されたamivantamabのORR 40%は、TKIとは異なる細胞外ドメイン結合機序により、TKI耐性の本質であるキナーゼドメイン構造変化を回避して達成されたものであり、この点でこれまでの治療アプローチと対照的である。これは、EGFRを細胞外ドメインから標的とすることで、TKI耐性変異に対しても効果的に作用しうるという概念実証として極めて重要である。
新規性: Amivantamabは、EGFR Exon20ins変異NSCLCに対して、プラチナ製剤治療後に臨床的に意義のある有効性を示した初の生物製剤である。本研究で初めてその有効性が確立された。この新規の作用機序を持つ二重特異性抗体は、この難治性疾患に対する治療パラダイムを大きく変える可能性を秘めている。本研究のデータに基づき、amivantamabは米国食品医薬品局 (FDA) からブレイクスルーセラピー指定を受け、2021年5月にExon20ins変異NSCLC (プラチナ製剤後) への適応で承認された。これは、当該変異に対する初の承認生物製剤であり、本研究で初めてその有効性が確立された。
臨床応用: Amivantamabの安全性プロファイルは、発疹 (86%) や点滴関連反応 (IRR) (66%) など、EGFR/MET経路のオンターゲット阻害に起因するものであったが、これらは大部分が管理可能なレベルであった。重篤な有害事象や治療中止に至る割合は低く、長期的な治療継続が可能であることが示唆される。この忍容性の高い安全性プロファイルと強力な有効性は、Exon20ins変異NSCLC患者の臨床現場における新たな標準治療となる可能性を強く支持する。
残された課題: 本研究は第I相試験であり、ランダム化比較試験ではないため、歴史的対照との比較に依存する限界がある。また、活動性または未治療の脳転移を有する患者は除外されたため、中枢神経系病変に対するamivantamabの活性は今後の検討課題である。さらに、全Exon20ins患者集団の全登録データは含まれておらず、プラチナ製剤未治療患者を含むより広範な集団での有効性評価も今後の研究で必要とされる。Amivantamabと第三世代TKIであるlazertinibとの併用療法 (MARIPOSA試験、NCT04487080) や、amivantamabと化学療法の併用療法 (PAPILLON試験、NCT04538664) など、さらなる治療戦略の最適化に向けた研究が進行中であり、これらの結果がExon20ins変異NSCLCへの治療戦略の進化に寄与することが期待される。
方法
CHRYSALIS試験は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした、ファーストインヒューマン、多施設共同、オープンラベル、用量漸増および用量拡大の第I相試験 (NCT02609776) である。本解析は、プラチナ製剤治療後に進行したEGFR Exon20ins変異NSCLC患者コホートに焦点を当てた。
患者選択基準: 対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された転移性または切除不能なNSCLCを有し、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Statusが0または1であった。また、プラチナ製剤ベースの化学療法後に疾患が進行した患者、または標準治療が不適格もしくは拒否された患者が含まれた。用量拡大コホートの患者は、RECIST v1.1に基づき測定可能病変を有し、局所検査または循環腫瘍DNA (ctDNA) もしくは腫瘍組織の次世代シーケンシング (NGS) 中央検査によりEGFR変異またはMET変異/増幅が確認された。未治療または活動性の脳転移を有する患者は除外されたが、以前に治療されスクリーニング時に無症状であった脳転移患者は適格とされた。
試験デザインと治療: 本試験は、用量漸増と用量拡大の2部構成で実施された。推奨Phase II用量 (RP2D) は、amivantamab 1,050 mg (体重80 kg以上の患者は1,400 mg) と設定された。投与スケジュールは、最初の4週間は週1回、第5週以降は2週間に1回、点滴静注であった。治療は疾患進行、許容できない毒性、または同意撤回まで継続された。点滴関連反応 (IRR) を軽減するため、初回投与は2日間に分割され、全患者に抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛薬、コルチコステロイドの予防的投与が義務付けられた。
評価項目: 主要評価項目は、用量制限毒性 (DLT) および客観的奏効率 (ORR) であった。ORRは、治験責任医師評価または独立中央判定委員会 (BICR) 評価のいずれかにより、RECIST v1.1に基づいて完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した患者の割合として算出された。副次評価項目には、奏効期間 (DoR)、臨床的有用性割合 (CBR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) が含まれた。有害事象 (AE) は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI CTCAE) v4.03に従って評価された。
統計解析: 安全性評価集団は、RP2Dで治療され、プラチナ製剤治療後に進行したEGFR Exon20ins変異NSCLC患者114例 (データカットオフ2020年6月8日) で構成された。主要有効性評価集団は、プラチナ製剤治療後に進行したEGFR Exon20ins変異NSCLC患者のうち、少なくとも3回の予定された疾患評価を完了したか、またはデータカットオフまでに中止、進行、死亡した最初の81例 (用量漸増コホートから4例、用量拡大コホートAから4例、コホートDから73例) で構成された。有効性データは、2020年10月8日までのフォローアップを反映している。ORRは、CRまたはPRを達成した患者の割合として計算され、95%信頼区間 (CI) が付与された。CBRは、CR、PR、または11週間以上の安定病変 (SD) を達成した患者の割合として算出された。時間依存性エンドポイント (DoR, PFS, OS) は、Kaplan-Meier法を用いて推定された。統計解析には記述統計が用いられ、欠測データに対する補完は行われなかった。