• 著者: Francesco Passiglia, Antonio Passaro, Eleonora Gariazzo, Michele Montrone, et al.
  • Corresponding author: Silvia Novello (University of Turin, S. Luigi Hospital, Orbassano, Italy)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42216441

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor) exon 20 insertion (EGFRex20ins) 変異は全 EGFR 変異の約4〜6%を占める第3の主要サブグループであり、特有の構造変化により 1〜3 世代 EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) の ATP ポケットへの結合が立体的に阻害されるため、従来の EGFR-TKI が無効である。さらに低 TMB (tumor mutational burden) と低 PD-L1 発現により免疫チェックポイント阻害薬への反応性も乏しく、長らく1次治療の標準はプラチナ+ペメトレキセド化学療法に限られていた。

bispecific antibody amivantamab は EGFR と MET を二重標的とする完全ヒト型二重特異性抗体であり (Yun et al. CancerDiscov 2020)、CHRYSALIS Phase 1 試験でプラチナ化学療法後の EGFRex20ins 変異 NSCLC に対してORR 40%、mPFS 8.3ヶ月、mOS 22.8ヶ月を示し (Park et al. JClinOncol 2021)、米国 FDA の加速承認を取得した。その後 PAPILLON Phase 3 試験でamivantamab+化学療法が1次治療においてmPFS 11.4 vs 6.7ヶ月 (HR 0.40, 95% CI 0.30-0.53, p<0.001) を示した (Zhou et al. NEnglJMed 2023)。これらの試験成績によりamivantamabは当該集団の新標準治療として位置付けられたが、試験外の多様な実臨床集団における有効性・安全性は未確立のままであり、リアルワールドデータによるその実証が急務とされていた。

目的

2024年のイタリア多施設リアルワールドレジストリ ATLAS (Advanced NSCLC Target treatments, Italian Study) から、EGFRex20ins 変異進行 NSCLC 患者の治療パターンとamivantamab単剤の有効性・安全性を報告すること。

結果

患者背景と治療パターン:EGFRex20ins コホート全体は 119例で、中央値年齢 64歳 (範囲 18-87)、女性 76例 (63.9%)、never smoker 66例 (55.5%)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0-1 が 76.5%、腺癌 97.5%。主要転移巣:骨転移 59例 (49.6%)、脳転移 36例 (30.3%)、肝転移 25例 (21.0%)。PD-L1発現:<1% が 29.4%、1-49% が 43.7%、≥50% が 16.8%。共存分子変異:MET増幅 20例 (17%)、TP53変異 16例 (13%) (Table 1)。1次治療はプラチナ化学療法 76例 (63.9%)、化学免疫療法 24例 (20.2%)、targeted therapy 9例 (7.6%)。化学療法単独と化学免疫療法の1次治療比較では ORR (45.8% vs 38.1%, p=0.50)、PFS (6.8 vs 6.9ヶ月, p=0.44)、OS (34.1 vs 44ヶ月, p=0.64) に有意差なく、Grade ≥2 毒性は化学免疫療法群で有意に高率 (41.7% vs 10.8%, p=0.008)。119例中 64例がamivantamab単剤を後続治療として受けており、2次治療 52例 (81%)、3次治療 10例 (15.6%)、4次治療 2例 (3.2%)。

amivantamab単剤の安全性:臨床試験と同等:64例中、any grade TRAE は 44例 (68.8%)、Grade 3-4 TRAE は 7例 (10.9%)。主要 TRAE:皮膚発疹 56% (Grade 3: 9.4%)、IRR (infusion-related reaction) 9.4% (Grade 3: 1.5%)、倦怠感 9%、末梢浮腫 8% (Table 2)。TRAE 発現までの中央値期間は 33日 (範囲 12-62日)、IRR の大半は初回投与サイクルに発現した。TRAE による用量中断 20.3%、用量減量 12.5%、治療中止 3.1% (うち肺炎 1例、深部静脈血栓症 1例)。治療関連死亡は報告なし。なお amivantamab コホートの 17例 (27%) は抗PD-L1薬の前治療歴を有しており、そのうち 9例 (52.9%) が Grade ≥2 TRAE を経験し、前治療なし群 (40.4%) より高い傾向を示した。

amivantamab単剤の有効性:実臨床でCHRYSALIS試験を確認:ORR 37.5% (24/64例、完全奏効 0例、部分奏効 24例)、DCR 66.2% (43/64例) (Table 3)。mPFS は 9.6ヶ月 (95% CI 7-12.3)、3ヶ月・6ヶ月・1年 PFS率 90%・74%・38%。mOS は 16.9ヶ月 (95% CI 13.9-19.9)、3ヶ月・6ヶ月・1年 OS率 96%・90%・67% (Fig 1)。高齢者 (>70歳、n=23) でも mPFS 13.6ヶ月 (95% CI 0-29.0)、mOS 29.0ヶ月 (95% CI 23.3-34.8) と良好な成績を示した。2次治療 amivantamab (n=50) vs 他治療 (n=14; 化学療法・免疫療法) の直接比較ではmPFS 10.8 vs 3.1ヶ月 (p=0.005) と有意差を認め、mOS は 16.9 vs 9.1ヶ月 (p=0.66) であった (Fig 2)。PR vs SD 例での mPFS (10.5 vs 11.6ヶ月, p=0.24) および mOS (16.3 vs 25.2ヶ月, p=0.14) に有意差はなく、SD でも臨床的意義ある転帰が得られた。治療継続中の患者は amivantamab 開始後中央値 9.6ヶ月時点で 24例 (37.5%) が治療継続中であった。

脳転移サブグループでの頭蓋内活性:amivantamab 開始時に脳転移を有した 23例の解析では、頭蓋内 (ic: intracranial) PR 3例 (13%)、ic SD 10例 (43.5%)、ic DCR 56.5%。ic mPFS は 11.6ヶ月 (95% CI 4.6-18.6)。脳転移あり vs なし で 1年 ic-PFS率 38% vs 75% の差を認めた (p=0.063)。CNS 限局性進行の 5例では SRS (stereotactic radiosurgery) 追加しながら amivantamab を継続し、amivantamab 治療継続期間中央値 5.1ヶ月で Grade 3-4 TRAE は報告されなかった。

考察/結論

① 先行研究との違い:CHRYSALIS 試験 (Park et al. JClinOncol 2021) は臨床試験集団での成績であったのとは異なり、本 ATLAS レジストリ研究は実際の臨床現場で化学療法後に amivantamab を投与された多様な患者集団を対象としており、高齢者や脳転移例など試験では除外・限定されやすい患者を含む。本研究の ORR 37.5%・mPFS 9.6ヶ月は CHRYSALIS (ORR 40%、mPFS 8.3ヶ月) と近似しており、臨床試験成績が実臨床でも再現されることを示した点で相違している。また他の欧州多施設リアルワールド解析とも患者特性が概ね一致しており、EGFRex20ins 変異 NSCLC のリアルワールドプロファイルの一般性を裏付けた。

② 新規性:本研究で初めて、イタリア多施設実臨床設定においてamivantamab単剤の有効性・安全性を前向きに設計されたレジストリで系統的に検証した。高齢者 (>70歳) での mPFS 13.6ヶ月・mOS 29.0ヶ月という新規な知見は、高齢 NSCLC 集団における有効性を示す初のリアルワールドデータの一つであり、臨床的意義がある。さらに PR vs SD 例間で PFS・OS に有意差がなかった知見は、amivantamab が RECIST 基準の奏効の深さに関わらず疾患制御を通じた臨床的恩恵を提供しうることを示す新規な観察であり (Zhou et al. NEnglJMed 2023 の PAPILLON 試験知見と補完的)、治療継続判断にも示唆を与える。

③ 臨床応用:IC DCR 56.5%・ic mPFS 11.6ヶ月という脳転移コホートのデータは、amivantamab が血液脳関門を超えた効果を示す可能性を示唆し、脳転移を伴う EGFRex20ins 変異 NSCLC 患者への臨床的適用を支持する根拠となる。また化学療法単独群と比較して化学免疫療法が Grade ≥2 毒性増加 (41.7% vs 10.8%, p=0.008) をきたす一方でORR・PFS・OS に有意差がない点は、EGFRex20ins 変異例における PD-1 阻害薬の上乗せ効果の乏しさを実臨床データで示しており、PAPILLON レジメン前の適切な治療選択の臨床的意義を強調する。

④ 残された課題:本研究の主な限界として、後向きデザイン、小規模サンプルサイズ、フォローアップ期間の不均一性、耐性機序データの欠如が挙げられる。現在の実臨床では PAPILLON レジメン (amivantamab+化学療法) が標準1次治療として普及しつつあるが、プラチナ化学療法に不適な患者への amivantamab 単剤維持の位置付けや最適な後続治療の選択については今後の検討が必要である。SC (皮下) 投与 amivantamab (PALOMA 試験) の普及により毒性プロファイルが改善する可能性もあり、実臨床での SC 製剤データの蓄積が今後の方向性として重要となる。

方法

試験デザイン: 多施設後向き観察研究。対象は 2024年1月〜12月に ATLAS イタリアリアルワールドレジストリに登録された、EGFRex20ins 変異進行 NSCLC 患者。27 のイタリア施設から電子カルテおよび症例報告書を通じてデータを後向き収集。組み入れ要件は書面によるインフォームドコンセント(ATLASプロトコルは Turin 大学独立倫理委員会が承認 [倫理番号 0006981])。

対象・分子診断: 分子プロファイリングはDNA/RNA次世代シーケンシング (NGS) (85%)、RT-PCR (実時間PCR)、液体生検を実施。EGFRex20ins 変異の挿入部位はCヘリックス4%、far loop 28%、near loop 53%。

有効性評価: 主要評価項目は TRAE (treatment-related adverse events) の発現頻度 (CTCAE version 5.0)。副次評価項目はORR (objective response rate)、DCR (disease control rate)、PFS、OS (Kaplan-Meier 法)。腫瘍評価は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1 に準拠し CT スキャンで12週毎に実施。統計は SPSS Statistics version 20 を使用。