• 著者: James Chih-Hsin Yang, Martin Schuler, Nobuyuki Yamamoto, et al.
  • Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25589191

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)患者は、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療に高い奏効を示すことが知られている。これまでに実施された7つのランダム化第III相試験では、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、EGFR-TKIが良好な無増悪生存期間(PFS)と奏効割合を示すことが報告されている Mok et al. NEnglJMed 2009Maemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010Rosell et al. LancetOncol 2012Zhou et al. LancetOncol 2011。しかし、これらの先行研究では、EGFR変異タイプにかかわらず、全生存期間(OS)における有意な改善は報告されていなかった。これは、一次化学療法群の多くの患者が、病勢進行後にEGFR-TKIによる後続治療を受けていたため、OSへの影響が希釈されたことが主な要因と考えられている。この点に関して、EGFR-TKIのOSベネフィットに関する知識ギャップが残されていた。

アファチニブは、EGFR、HER2、ERBB3、ERBB4を含むERBB受容体ファミリーの全てのホモダイマーおよびヘテロダイマーからのシグナル伝達を阻害する第2世代不可逆的チロシンキナーゼ阻害薬である。アファチニブは、EGFR変異陽性肺腺癌の未治療患者において臨床的活性を示すことが報告されていた。LUX-Lung 3(欧州・北米・アジア;アファチニブ vs シスプラチン+ペメトレキセド;n=345)およびLUX-Lung 6(アジア;アファチニブ vs ゲムシタビン+シスプラチン;n=364)の両試験は、EGFR変異陽性NSCLCに対するアファチニブ一次治療のPFS優越性を確立した Sequist et al. JClinOncol 2013Wu et al. LancetOncol 2014。これらの研究では、アファチニブのPFS効果がEGFR変異タイプによって異なることが示唆されており、特にエクソン19欠失(del19)変異陽性患者で最も改善が大きく、次いでエクソン21 L858R変異陽性患者であった。

しかし、これらの個別試験ではOS解析のための症例数が限られており、特に変異サブタイプ(del19 vs L858R)別のOS差異を統計的に検出する検出力が不足していた。del19陽性例でL858R例よりも大きなPFS効果が観察される傾向がLUX-Lung 3・6の個別解析から示唆されていたが、OS確認は未実施であった。EGFR del19変異とL858R変異は、EGFR-TKIに対する反応性において生物学的に異なる特性を持つ可能性が示唆されており、これらのサブタイプ間のOSの差異を明確にすることは、個別化医療の観点から極めて重要である。この問いに対し、前計画された合算解析は検出力強化を目的として設計されており、del19とL858Rという二大EGFR変異サブタイプ別のOSベネフィットの有無を初めて系統的に評価する機会を提供した。これまでの研究では、del19とL858Rのサブタイプ別にOSの差を検討したものはほとんどなく、この点に関する知識ギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、LUX-Lung 3(n=345)とLUX-Lung 6(n=364)の事前計画合算解析として、EGFR変異陽性進行NSCLC患者におけるアファチニブと化学療法の全体OSおよびEGFR変異サブタイプ(del19およびL858R)別のOSを評価することである。主要な目的は、アファチニブが化学療法と比較して、全EGFR変異陽性集団および特定の変異サブタイプ(del19またはL858R)においてOSを改善するかどうかを明らかにすることであった。副次的な目的として、変異サブタイプ別のPFSも評価し、OS結果との整合性を確認する。また、後続治療の影響を考慮しながら、アファチニブの長期的な臨床的有用性を評価することも目的とした。本解析は、EGFR変異サブタイプによる治療効果の異質性を詳細に検討し、将来の臨床試験デザインや治療戦略に貢献することを目指した。

結果

解析集団: 合算解析集団は、LUX-Lung 3(n=345;アファチニブ群 230例 vs シスプラチン+ペメトレキセド群 115例)およびLUX-Lung 6(n=364;アファチニブ群 242例 vs ゲムシタビン+シスプラチン群 122例)の計709例であった。全患者が事前計画OS解析に含まれた。データカットオフはLUX-Lung 3が2013年11月14日、LUX-Lung 6が2013年12月27日であった。中央追跡期間はLUX-Lung 3で41ヶ月(IQR 35–44)、LUX-Lung 6で33ヶ月(IQR 31–37)であった。OSイベントはLUX-Lung 3で213例(62%)、LUX-Lung 6で246例(68%)が死亡した。EGFR変異サブタイプ分布は、del19がLUX-Lung 3で204例(59%)、LUX-Lung 6で216例(59%)であり、Leu858ArgがLUX-Lung 3で125例(36%)、LUX-Lung 6で148例(41%)であった。両試験において、患者背景因子は治療群間でバランスが取れていた (Figure 2)。

全体OS (LUX-Lung 3): LUX-Lung 3試験における全体OS中央値は、アファチニブ群28.2ヶ月(95% CI 24.6–33.6)に対し、シスプラチン+ペメトレキセド群28.2ヶ月(95% CI 20.7–33.2)であった。ハザード比(HR)は0.88(95% CI 0.66–1.17, p=0.39)であり、アファチニブは全体OSで化学療法に対する有意な改善を示さなかった (Figure 2A)。1年OS率はアファチニブ群79% vs 化学療法群78%、2年OS率はアファチニブ群55% vs 化学療法群53%であった。化学療法群の患者の48%がEGFR-TKIを後続治療として受療しており、OS解析における群間の後続治療の非対称性がOSの希釈効果をもたらした最大の要因と考えられた。

全体OS (LUX-Lung 6): LUX-Lung 6試験における全体OS中央値は、アファチニブ群23.1ヶ月(95% CI 20.4–27.3)に対し、ゲムシタビン+シスプラチン群23.5ヶ月(95% CI 18.0–25.6)であった。HRは0.93(95% CI 0.72–1.22, p=0.61)であり、LUX-Lung 6においても全体OSでの有意な改善は示されなかった (Figure 2B)。1年OS率はアファチニブ群75% vs 化学療法群72%、2年OS率はアファチニブ群44% vs 化学療法群40%であった。LUX-Lung 6では化学療法群の44%がEGFR-TKIを後続治療として受療しており、LUX-Lung 3と同様に後続治療の影響が示唆された。

変異サブタイプ別OS (del19陽性例): 事前計画されたサブグループ解析において、del19変異陽性患者ではアファチニブが化学療法と比較して有意なOS延長を示した。LUX-Lung 3(del19、n=204;アファチニブ群 141例 vs 化学療法群 63例)では、OS中央値はアファチニブ群33.3ヶ月(95% CI 26.8–41.5)に対し、化学療法群21.1ヶ月(95% CI 16.3–30.7)であった。HRは0.54(95% CI 0.36–0.79, p=0.0015)と高度に有意であった (Figure 4A)。LUX-Lung 6(del19、n=216;アファチニブ群 127例 vs 化学療法群 89例)では、OS中央値はアファチニブ群31.4ヶ月(95% CI 24.2–35.3)に対し、化学療法群18.4ヶ月(95% CI 14.6–25.6)であった。HRは0.64(95% CI 0.44–0.94, p=0.023)と有意であった (Figure 4C)。両試験ともdel19陽性例でOS有意改善が確認された。事前計画合算del19解析では、HR 0.59(95% CI 0.45–0.77, p=0.0001)と高度に有意であり、del19患者での一次アファチニブ治療がOS改善をもたらすことが明確に示された (Figure 4E)。OS延長の差は、LUX-Lung 3で+12.2ヶ月(33.3 vs 21.1)、LUX-Lung 6で+13.0ヶ月(31.4 vs 18.4)と両試験で約12ヶ月の一貫したOS改善が示された。

変異サブタイプ別OS (Leu858Arg陽性例): Leu858Arg変異陽性患者では、OSベネフィットは認められなかった。LUX-Lung 3(Leu858Arg、n=125;アファチニブ群 82例 vs 化学療法群 43例)では、OS中央値はアファチニブ群27.6ヶ月(95% CI 19.8–41.7)に対し、化学療法群40.3ヶ月(95% CI 24.3–推定不能)であった。HRは1.30(95% CI 0.80–2.11, p=0.29)であった (Figure 4B)。LUX-Lung 6(Leu858Arg、n=148;アファチニブ群 100例 vs 化学療法群 48例)では、OS中央値はアファチニブ群19.6ヶ月(95% CI 17.0–22.1)に対し、化学療法群24.3ヶ月(95% CI 19.0–27.0)であった。HRは1.22(95% CI 0.81–1.83, p=0.34)であった (Figure 4D)。両試験ともLeu858Arg例ではOSベネフィットは認められなかった。事前計画合算Leu858Arg解析では、HR 1.25(95% CI 0.92–1.71, p=0.16)で有意差はなかった (Figure 4F)。Del19 vs Leu858Arg間の治療交互作用(Heterogeneity)は、LUX-Lung 3でp=0.042、LUX-Lung 6でp=0.32であり、少なくともLUX-Lung 3では有意な交互作用が確認された。

変異サブタイプ別PFS (合算): 統合解析におけるPFSの結果も、OSのパターンと一致していた。Del19変異陽性患者の合算PFSは、アファチニブ群 vs 化学療法群でHR 0.22(95% CI 0.17–0.29, p<0.0001)であった。一方、Leu858Arg変異陽性患者の合算PFSは、HR 0.46(95% CI 0.35–0.60, p<0.0001)であった。del19変異陽性患者ではLeu858Arg変異陽性患者よりも大きなPFS効果(HR 0.22 vs 0.46)が観察され、OSの差(del19でのみ有意)に先行するPFSパターンと一致した。これらの結果は、del19とLeu858Argがアファチニブへの感受性および長期予後において根本的に異なる変異サブタイプであることを示した。

安全性: 両試験における安全性解析では、アファチニブ群で最も一般的なグレード3-4の有害事象は、発疹またはざ瘡(LUX-Lung 3で16%、LUX-Lung 6で15%)、下痢(LUX-Lung 3で14%、LUX-Lung 6で5%)、爪囲炎(LUX-Lung 3で11%のみ)、口内炎または粘膜炎(LUX-Lung 6で5%のみ)であった。化学療法群では、好中球減少症(LUX-Lung 3で18%、LUX-Lung 6で27%)、疲労(LUX-Lung 3で13%)、白血球減少症(LUX-Lung 3で8%、LUX-Lung 6で15%)、嘔吐(LUX-Lung 6で19%)が主なグレード3-4の有害事象であった。治療関連の重篤な有害事象は、LUX-Lung 3のアファチニブ群で14%、化学療法群で14%発生し、LUX-Lung 6のアファチニブ群で6%、化学療法群で8%発生した。

考察/結論

LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6の統合OS解析の最大の知見は、EGFR変異サブタイプ(del19 vs Leu858Arg)によるOSベネフィットの強力な異質性であった。本研究で初めて、del19変異陽性患者においてアファチニブが化学療法と比較して有意なOS延長(LUX-Lung 3: HR 0.54, 95% CI 0.36–0.79, p=0.0015; LUX-Lung 6: HR 0.64, 95% CI 0.44–0.94, p=0.023)をもたらした一方、Leu858Arg変異陽性患者ではOSベネフィットが認められなかった(合算HR 1.25, 95% CI 0.92–1.71, p=0.16)。この知見は、del19とLeu858ArgがEGFR-TKI感受性において生物学的に異なる変異であり、アファチニブが特にdel19患者の長期予後に寄与することを示す重要なエビデンスとなった。

先行研究との違い: 全体OS解析では両試験とも有意差は認められなかったが、これは化学療法群の患者が病勢進行後にEGFR-TKIを後続治療として使用したことによる希釈効果が最大の要因と考えられる。この結果は、これまでの第一世代EGFR-TKI(ゲフィチニブやエルロチニブ)の試験で全体OSの改善が示されなかったことと対照的である。アファチニブは不可逆的ERBBファミリー阻害薬であり、その作用機序の違いがdel19変異陽性患者におけるOS改善に寄与した可能性が考えられる。

新規性: 本研究の新規性は、EGFR変異サブタイプ別にOSの差を明確に示した点にある。これまで、del19変異陽性患者がLeu858Arg変異陽性患者よりもEGFR-TKIに対して良好なPFSを示すことは報告されていたが Riely et al. ClinCancerRes 2006、OSにおける明確な差は本研究で初めて示された。この結果は、その後の臨床診断・治療選択において、単なる「EGFR変異陽性」ではなく、サブタイプ別の情報を提供する必要性を広く認識させた。

臨床応用: 臨床的意義として、del19変異陽性肺腺癌患者に対しては、アファチニブを第一選択薬として考慮すべきであることが示唆される。この知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の個別化医療を推進し、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与える可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、後続治療の影響をより詳細に調整した解析が必要である。本研究では後続治療のデータは収集されたものの、OS解析においてその影響を統計的に調整することは行われなかった。また、Leu858Arg変異陽性患者におけるOS改善の欠如の生物学的メカニズムをさらに解明する必要がある。今後の研究では、del19とLeu858Arg変異の異なるシグナル伝達経路や耐性メカニズムを詳細に比較し、より効果的な治療戦略を開発することが期待される。さらに、第三世代TKI(例:オシメルチニブ)におけるdel19 vs Leu858ArgのOS差異についても、今後の試験で同様の傾向が観察されるかどうかの検討が重要である。

方法

本研究は、LUX-Lung 3(多施設;欧州・北米・アジア;アファチニブ群 n=230 vs シスプラチン+ペメトレキセド群 n=115;2:1割付)とLUX-Lung 6(多施設;アジア;アファチニブ群 n=242 vs ゲムシタビン+シスプラチン群 n=122;2:1割付)の事前計画合算OS解析として実施された。両試験は、ClinicalTrials.govにNCT00949650およびNCT01121393として登録されているランダム化第III相試験である。適格患者は、18歳以上、未治療のIIIB期またはIV期肺腺癌で、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、かつ中央検査機関による生検組織の解析でEGFR変異陽性(del19またはLeu858Arg)と確認された患者であった。除外基準には、過去5年以内の他の癌、活動性脳転移、既存の間質性肺疾患、臨床的に有意な消化器疾患、心血管疾患などが含まれた。

患者は、EGFR変異タイプ(del19 vs Leu858Arg vs その他の稀な変異)および民族的背景(アジア人 vs 非アジア人;LUX-Lung 3のみ)で層別化され、2:1の比率でアファチニブ群または化学療法群にランダムに割り付けられた。アファチニブは40 mg/日を連日経口投与し、忍容性に応じて50 mg/日への増量、または20 mg/日までの減量が許容された。化学療法は、LUX-Lung 3ではシスプラチン(75 mg/m²)+ペメトレキセド(500 mg/m²)を21日ごとに最大6サイクル、LUX-Lung 6ではシスプラチン(75 mg/m²)+ゲムシタビン(1000 mg/m²;1日目と8日目)を21日ごとに最大6サイクル投与した。

腫瘍評価は、最初の48週間は6週間ごと、その後は12週間ごとにCTまたはMRIで実施された。有害事象はNCI-CTCAE v3.0を用いて分類・評価された。主要評価項目はPFSであったが、本解析ではOSが主要な焦点とされた。OS解析は、LUX-Lung 3で209例、LUX-Lung 6で237例の死亡イベントが発生した時点で計画された。各試験のOS解析は独立して行われ、その後、両試験の個別患者データを統合した解析が実施された。統合解析では、研究(LUX-Lung 3またはLUX-Lung 6)およびEGFR変異タイプで調整された層別ログランク検定(log-rank test)が用いられた。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)はCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)を用いて算出された。比例ハザード仮定は、比例性検定とログ累積ハザードプロットの視覚的確認によって検証された。生存曲線はカプラン・マイヤー法(Kaplan-Meier method)を用いて作成され、中央OSが算出された。中央追跡期間は逆カプラン・マイヤー法で計算された。統計解析にはSAS(バージョン9.2)が使用された。後続治療の記録は収集されたが、OS解析における調整は行われなかった。