• 著者: Tatsuya Yoshida, Yuko Oya, Kosuke Tanaka, Junichi Shimizu, Yoshitsugu Horio, Hiroaki Kuroda, Yukinori Sakao, Toyoaki Hida, Yasushi Yatabe
  • Corresponding author: Tatsuya Yoshida (Department of Thoracic Oncology, Aichi Cancer Center Hospital, Nagoya, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27354483

背景

ALK遺伝子再構成は、非小細胞肺癌(NSCLC)の約5%に認められる重要なドライバー変異である。この再構成は、染色体2pの逆位によってEML4-ALK融合遺伝子を形成するが、その融合点には複数のバリアントが存在することが知られている。最も頻繁に報告されるのはvariant 1 (EML4 exon 13とALK exon 20の融合、E13;A20) であり、全EML4-ALK融合の約33%を占める。次いでvariant 3a/b (E6a/b;A20) が約29%、variant 2 (E20;A20) が約10%を占める。これらのバリアントは、いずれもALKのキナーゼドメインを含むexon 20-29を共通して保持するが、EML4側の融合長が異なる。特に、EML4のN末端に位置するコイルドコイルドメインは、EML4-ALKの二量体化とキナーゼ活性化に必須であり、全ての既知のEML4-ALK融合バリアントにおいて保持されている。

ALK阻害剤であるクリゾチニブは、ALK再構成陽性NSCLCに対して高い有効性を示すが、その奏効期間には患者間で異質性が認められる。この異質性の一因として、EML4-ALK融合バリアントの違いが関与する可能性が示唆されてきた。先行研究では、in vitroでの実験により、EML4-ALKバリアント間のタンパク質安定性やクリゾチニブ感受性の差が報告されている。例えば、Heuckmann et al. (2012) は、variant 3bがvariant 1よりもタンパク質安定性が高く、クリゾチニブに対する感受性が低い可能性を示唆した。また、Hrustanovic et al. (2015) は、variant 3bにおけるHELPドメインの欠失がRAS-MAPK経路の活性化を促進し、クリゾチニブ感受性の低下につながることを報告している。しかし、これらのin vitroの知見が実際の臨床におけるクリゾチニブの有効性にどのように影響するかについては、系統的な臨床研究が不足しており、その臨床的意義は未解明であった。

EGFR変異陽性NSCLCにおいては、exon 19欠失とL858R点変異の間でEGFR-TKIの有効性に差があることが確立されており、例えばYang et al. LancetOncol 2015の報告では、アファチニブがexon 19欠失患者においてのみ全生存期間(OS)を改善することが示されている。同様に、GISTにおけるKIT遺伝子変異(exon 9 vs exon 11)もイマチニブの奏効性に影響を与えることが知られている。これらの例は、同じドライバー遺伝子内の異なるバリアントがTKIの有効性に大きく影響する可能性を示唆している。しかし、ALK陽性NSCLCにおけるEML4-ALKバリアントとクリゾチニブの有効性の関連については、大規模な臨床データに基づく詳細な解析が不足しており、治療戦略の層別化に資する知見は確立されていなかった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とする。

目的

本研究の目的は、ALK陽性非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、EML4-ALK融合遺伝子のバリアントタイプがクリゾチニブの治療効果に与える影響を後方視的に評価することである。具体的には、EML4-ALK融合バリアント別に、客観的奏効割合(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、および無増悪生存期間(PFS)を比較検討し、バリアントステータスがALK-TKIであるクリゾチニブの有効性を予測する因子となり得るかを検証する。これにより、ALK陽性NSCLCの個別化医療におけるバリアント情報の臨床的意義を明らかにすることを目指す。

結果

ALKバリアントの頻度と患者背景: 本研究の対象となった35例のALK陽性NSCLC患者におけるEML4-ALK融合バリアントの頻度は、variant 1が19例(54%)で最も多く、次いでvariant 2が5例(14%)、variant 3a/3bが4例(12%)、その他のバリアントが7例(20%)であった(図1)。患者の年齢中央値は57歳(範囲26~80歳)で、男性が13例(37%)、女性が22例(63%)であった。Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0または1の患者は30例(86%)であった。組織型は全例が腺癌であり、病期はIIIB/IV期が26例(74%)、術後再発が9例(26%)であった。クリゾチニブは、初回治療として10例(29%)、二次治療として18例(51%)、三次治療以降として7例(20%)に投与された。ベースラインで脳転移を有する患者は7例(20%)であった。variant 1群と非variant 1群の間で、年齢、性別、PS、喫煙歴、病期、治療ライン、脳転移の有無といった患者背景因子に統計学的に有意な差は認められなかった(表2)。

クリゾチニブの主要有効性評価: 全患者における客観的奏効割合(ORR)は69%(PR 24例、CR 0例)であり、安定(SD)が4例(11%)、病勢進行(PD)が5例(14%)であった。毒性により初回評価前に中止した2例は評価不能であった。全患者の無増悪生存期間(PFS)中央値は9.7ヶ月であった。バリアント別のORRは、variant 1群で74%(PR 14例)に対し、非variant 1群で63%(PR 10例)であり、両群間に有意差は認められなかった(p=0.7160)。しかし、病勢コントロール率(DCR)はvariant 1群で95%(CR+PR+SD 18例)と、非variant 1群の63%(CR+PR+SD 10例)と比較して有意に高かった(p=0.0318)。

ALKバリアント1群におけるPFSの有意な延長: 無増悪生存期間(PFS)中央値は、variant 1群で11.0ヶ月(95% CI 6.5-43.0ヶ月)であったのに対し、非variant 1群では4.2ヶ月(95% CI 1.6-10.2ヶ月)と、variant 1群が非variant 1群と比較して有意に長いPFSを示した(p < 0.05)(図2)。この結果は、ALKバリアント1がクリゾチニブに対する良好な応答期間と関連することを示す。

PFSの予測因子に関する多変量解析: PFSの予測因子を特定するための単変量解析では、PS、病期、およびALKバリアントタイプが有意な因子として抽出された。これらの因子を組み込んだ多変量Cox比例ハザードモデル解析の結果、ALKバリアント1はPFS延長の独立した予測因子であることが確認された(ハザード比 [HR] 0.350、95% CI 0.128-0.929、p < 0.05)。また、進行期(IIIB/IV期)は術後再発と比較してPFS短縮の独立した予測因子であった(HR 4.646、95% CI 1.381-21.750、p < 0.05)(表3)。

病勢進行パターンとCNS再発: 解析時点で、クリゾチニブ治療を受けた患者35例中25例(71%)が病勢進行を経験した。これらの進行例のうち、中枢神経系(CNS)再発が最も一般的な再発パターンであり、14例(56%)に認められた。CNS再発の割合は、variant 1群で53%、非variant 1群で58%であり、両群間に有意差は認められなかった。胸腔内および胸腔外再発についても、バリアントタイプによる有意な差は観察されなかった。

安全性と有害事象: 有害事象はCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0に基づいて評価された。35例中24例(69%)は用量減量なしでクリゾチニブ治療を継続した。グレード2以上の治療関連有害事象は12例に認められ、内訳はALT/AST上昇が5例(うちグレード4が2例)、悪心・嘔吐が3例、食欲不振が1例、低ナトリウム血症が1例、食道潰瘍が2例であった。グレード4のALT/AST上昇により、variant 1群と非variant 1群からそれぞれ1例ずつ、計2例が治療を永久的に中止した。治療関連有害事象による用量減量を要した患者は9例(26%)であり、variant 1群で7例、非variant 1群で2例であった。バリアントタイプ間で用量減量または中断の頻度に有意差は認められなかった(p=0.167)。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLC患者におけるEML4-ALK融合遺伝子バリアントとクリゾチニブの治療効果の関連を、単施設の後方視的解析ながら多変量解析を用いて系統的に評価した初めての報告である。主要な知見として、variant 1を有する患者は非variant 1の患者と比較して、クリゾチニブによる無増悪生存期間(PFS)が有意に長いことを示した。具体的には、variant 1群のPFS中央値が11.0ヶ月(95% CI 6.5-43.0ヶ月)であったのに対し、非variant 1群では4.2ヶ月(95% CI 1.6-10.2ヶ月)であり、約2.6倍の差が認められた。興味深いことに、客観的奏効割合(ORR)には有意差がなかったものの、病勢コントロール率(DCR)はvariant 1群で有意に高かった。このORRに差がないにもかかわらずPFSに差が生じるという結果は、各バリアントのタンパク質安定性や下流シグナル伝達経路の違いが、クリゾチニブに対する応答の持続性に影響を与えるというin vitroの先行研究(Heuckmann et al. 2012、Hrustanovic et al. 2015)の知見を臨床的に裏付けるものである。特に、Hrustanovic et al. (2015) は、variant 3bにおけるEML4のHELPドメイン欠失がRAS-MAPK経路の活性化を増強し、クリゾチニブによる効果的な持続的抑制を困難にする機序を提唱しており、本研究の結果と整合性が高い。

新規性: 本研究の新規性は、ALK陽性NSCLCにおいて、EML4-ALK融合遺伝子バリアントがクリゾチニブのPFS期間の独立した予測因子であることを多変量解析で初めて示した点にある。これは、EGFR変異におけるexon 19欠失とL858R変異(Yang et al. LancetOncol 2015の報告ではアファチニブがexon 19欠失のみOSを改善)や、GISTにおけるKIT exon 9とexon 11変異(exon 11がイマチニブに良好な応答を示す)と同様に、同じドライバー遺伝子内でも遺伝子バリアントがTKIの有効性を大きく左右する可能性を示唆するものである。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は大きい。第一に、ALK陽性NSCLCの治療戦略を、EML4-ALKバリアントステータスに基づいて層別化する必要性を示唆する。第二に、variant 1を有する患者ではクリゾチニブによる一次治療で長期のPFSが期待できる一方で、非variant 1(特にvariant 3b)の患者では、より早期に第二世代または第三世代のALK-TKI(アレクチニブ、ロルラチニブなど)の導入を検討する価値があることを示唆する。第三に、治療開始前のRT-PCRまたは次世代シーケンシング(NGS)によるEML4-ALKバリアントの同定が、臨床的に有用な情報となり得ることを示している。

残された課題: 残された課題としては、本研究が単施設の後方視的解析であり、サンプルサイズが比較的小さい点が挙げられる。このため、多施設共同の前向き研究による検証が今後の検討課題である。また、非variant 1群内でのvariant 2、variant 3a、variant 3bといった個別のバリアント間の詳細な有効性解析は、サンプル数の制約から実施できなかった。今後は、これらの細分化されたバリアント間のクリゾチニブおよび他のALK-TKI(アレクチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブなど)に対する有効性の評価が必要である。さらに、バリアントステータスとALK耐性変異プロファイル、RAS-MAPKシグナル伝達経路の活性化といった耐性メカニズムを統合的に研究することで、より精密な治療戦略の確立につながるだろう。本研究は、ALK陽性NSCLCの精密医療において、融合パートナーおよびブレイクポイント情報の臨床的重要性を示した先駆的な論文として位置づけられる。

方法

本研究は、愛知県がんセンターにおいて2007年1月から2014年12月までにALK阻害剤による治療を受けた79例の患者のうち、クリゾチニブを初回ALK-TKIとして投与され、かつ腫瘍検体からRT-PCRによるALKバリアント評価が可能な35例を対象とした後方視的解析(retrospective cohort study)である。

患者選択とALK陽性判定: ALK陽性NSCLC患者は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、または免疫組織化学(IHC)のいずれか2つ以上の検査で陽性と判定された場合にALK陽性と定義された。対象患者35例中、25例はFISH、28例はIHCでも評価されており、FISHとIHCの両方で評価された19例は全てALK陽性であった。

ALKバリアントの同定: 腫瘍組織は手術検体または初回診断時の生検検体から採取され、全RNA抽出に供された。RNAサンプルは、ワンステップRT-PCRキット(Qiagen)を用いてEML4-ALK融合転写産物の検出に用いられた。PCRプライマーは、F1 (5’-GTCAGCTCTTGAGTCACGAGTT-3’)、F2 (5’-GTGCAGTGTTTAGCATTCTTGGGG-3’)、R1 (5’-ATCCAGTTCGTCCTGTTCAGAGC-3’) が使用された。PCR産物は全てサンガーシーケンスに供され、EML4-ALK融合およびALKバリアントの存在が確認された。非EML4融合遺伝子については本研究では検討しなかった。RT-PCRで陽性と判定された全ての腫瘍は、Vysis ALK Break Apart FISH解析(Abbott Molecular)および/またはALK IHCによって確認された。

クリゾチニブ投与と効果評価: クリゾチニブは250mgを1日2回経口投与され、病勢進行(PD)または許容できない毒性が発現するまで継続された。用量調整は毒性に応じて行われた。客観的腫瘍奏効は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づいて評価された。ORRは完全奏効(CR)または部分奏効(PR)の合計割合として算出され、DCRはCR、PR、安定(SD)の合計割合として算出された。Primary endpointはPFSであり、secondary endpointはORRとDCRであった。

統計解析: 全ての統計解析はJMP for Windows version 9統計ソフトウェアパッケージ(SAS Institute)を用いて実施された。ベースライン特性の群間差は、カテゴリカルデータに対してχ²検定またはFisherの正確検定を用いて比較された。PFSは、クリゾチニブ投与開始日からRECISTによるPD日までの期間と定義された。生存確率はカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法を用いて推定され、変数間の差はログランク(log-rank)検定によって評価された。多変量解析はCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)を用いて実施され、単変量解析でp ≤ 0.20であった共変量が多変量モデルに組み入れられた。全てのp値は両側検定であり、p < 0.05を有意と判断した。患者は、最も一般的なバリアントであるvariant 1 (n=19) と、それ以外のバリアントを統合した非variant 1 (n=16、variant 2、variant 3a/3b、その他のバリアントを含む) の2群に分けて比較された。