- 著者: Hiroaki Akamatsu, Nobuyuki Yamamoto, et al.
- Corresponding author: Nobuyuki Yamamoto (Third Department of Internal Medicine, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31027689
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) 治療において、治療効果のリアルタイムモニタリングと耐性出現の早期検出は臨床的に重要な課題である。特に、afatinibのような第2世代EGFR-TKIの登場により、治療選択肢が拡大する一方で、個々の患者における治療反応性の予測と耐性機序の早期特定が求められていた。血漿中の循環腫瘍DNA (ctDNA) に含まれるEGFR変異を液体生検として検出する技術は、次世代シーケンシング (NGS) やデジタルPCR (dPCR) の発展により急速に進歩し、組織生検の代替またはモニタリングツールとしての実用化が検討されてきた。
先行研究では、EGFR-TKI治療開始早期の血漿EGFRドライバー変異の消失 (clearance) が良好な予後と相関する可能性が後方視的に示唆されていた。例えば、慢性骨髄性白血病 (CML) におけるBCR-ABL遺伝子の分子学的寛解が長期奏効のサロゲートマーカーとなることが報告されており (Hughes et al. NEnglJMed 2003)、固形がんにおいても同様の概念が期待されていた。しかし、NSCLCにおけるEGFR-TKI治療において、この早期の分子応答と臨床的アウトカムとの関連を前向きに評価した大規模な研究は不足していた。また、afatinib治療における耐性機序として最も頻繁に認められるT790M変異の血漿での早期検出が、放射線学的増悪よりも先行して認められる可能性が示唆されていたが、この「液体生検による先行増悪検出」が治療変更の判断に有用であるかどうかの前向きエビデンスは未確立であった。
さらに、液体生検の検出感度に関する議論も存在した。主要な臨床試験では血漿EGFR変異の検出率が50-60%と報告されていたが (Wu et al. JThoracOncol 2017、Wu et al. BrJCancer 2017)、実臨床における大規模な観察研究では検出率が20%程度に留まるという報告もあり、アッセイの感度や患者集団の特性が検出率に影響を与える可能性が示唆されていた。特に、腫瘍量の少ない患者や早期病期の患者におけるctDNA検出の限界は、液体生検の適用範囲を限定する要因として残された課題であった。
WJOG8114LTR試験は、これらの臨床的問いに前向きデータで応えることを目的として計画された。本研究は、高感度な多重化デジタルPCRアッセイを用いて、afatinib治療中のEGFR変異陽性NSCLC患者における血漿ctDNAの動態を詳細に追跡し、その臨床的意義を評価することを意図した。
目的
本研究の主要な目的は、EGFR変異陽性 (exon 19 del、L858R、その他) 進行NSCLC患者に対するafatinib 40mg/日一次治療において、デジタルPCRを用いた多重血漿EGFR変異モニタリングの臨床的意義を前向きに評価することである。具体的には、以下の2点を主要評価項目として設定した。
- 治療4週時点での血漿EGFRドライバー変異の消失 (clearance) と無増悪生存期間 (PFS) との相関を評価する。 早期の分子応答が長期的な臨床的アウトカムに与える影響を前向きに検証し、治療効果予測バイオマーカーとしてのctDNAモニタリングの有用性を確立することを目指した。
- 血漿でのT790M変異の早期検出と放射線学的増悪との時間的関係を評価する。 放射線学的画像診断よりも早期に耐性変異の出現を検知できるか否かを検証し、ctDNAモニタリングが治療変更の早期判断に寄与する可能性を探ることを目的とした。
副次評価項目として、ベースラインにおける血漿EGFR変異の検出率と臨床病理学的因子との関連、ベースラインの変異アレル頻度と治療効果との相関、および増悪時における血漿T790M変異の検出率を評価した。
結果
患者背景と治療効果: 2015年2月から12月にかけて57名の患者が登録された。患者の臨床特性はTable 1に示されている。57例中31例 (53%) が女性であり、39例 (68%) がステージIV、16例 (28%) が術後再発であった。EGFR変異の内訳はexon 19 delが29例、exon 21 L858Rが28例であった。2名の患者は急性間質性肺疾患および急速な病勢進行のためプロトコール治療を受けず、55例が有効性および安全性解析の対象となった。奏効率 (ORR) は78.6% (95% CI: 67.3-89.1%)、PFS中央値は14.2ヶ月 (95% CI: 10.5-19.1ヶ月) であった。有害事象プロファイルは先行する主要試験 (Sequist et al. JClinOncol 2013) と同様であった。
ベースライン血漿EGFR変異陽性率と臨床的意義: 56例の解析対象患者のうち、ベースライン時点で血漿EGFR感受性変異 (ctDNA) が陽性であったのは35例 (62.5%, 95% CI: 44.2-70.1%) であった。残りの21例 (37.5%) はベースライン時点で血漿検出陰性であり、腫瘍量が低いまたは腫瘍のctDNA shed量が少ない患者群に相当すると考えられた。ベースライン血漿陽性率は先行研究と一致しており、進行NSCLCにおける液体生検の検出感度の限界を示唆した。ベースライン血漿陽性例は陰性例と比較して、臨床病期 (c-Stage) が有意に進行している傾向が認められた (p < 0.01)。特に、ステージIVの患者では81.6% (39例中30例) と高い検出率を示したのに対し、ステージIIIBでは0% (2例中0例)、術後再発では31.2% (16例中5例) であった (Figure 2)。遠隔転移 (M1b) を有するステージIV患者では85.2% (27例中23例) とさらに高い検出率を示し、腫瘍の全身播種がctDNA検出率の主要な決定因子であることが確認された。ベースライン血漿陽性患者のPFS中央値は13.0ヶ月であり、陰性患者のPFS中央値は未到達であったが、統計学的な有意差は認められなかった (p = 0.11, Figure 3)。ベースラインにおける組織および血漿検体中のEGFR変異アレル頻度は、抗腫瘍効果との相関を示さなかった (Supplementary Fig. 1)。
治療4週以内のEGFR変異消失率と予後相関 (主要評価項目): ベースライン血漿EGFR変異陽性であった35例のうち、治療中のctDNA変化が解析された。治療開始2週時点でのctDNA陰性化 (negative conversion; NC) 率は60.6%、4週時点では87.5%に達した。治療2週時点でNCを達成した患者は、非達成患者と比較して有意に長いPFSを示した (13.6ヶ月 vs 7.5ヶ月, p = 0.0001, Figure 4a)。さらに、治療4週時点でNCを達成した患者は、非達成患者と比較して統計学的に有意に長いPFSを示した (13.6ヶ月 vs 5.1ヶ月, p < 0.0001, Figure 4b)。この大幅なPFSの差は、治療4週時点での血漿EGFR変異の消失がafatinibへの深い奏効および長期的な疾患制御と強く相関することを前向きに示した。早期の液体生検モニタリングが治療効果予測の有力なバイオマーカーであることが確認された。
血漿T790M早期検出と放射線学的増悪の先行関係: 解析時点で17名の患者が病勢進行を経験した。このうち、14名の患者から病勢進行時の血漿検体が収集された。これらの患者のうち、11名が治療中にctDNAの陰性化を達成したが、最終的に8名 (57.1%) で血漿EGFR変異の再出現 (plasma recurrence) が認められた。特に、5名 (35.7%) の患者において、血漿DNA中のEGFR変異の再出現が放射線学的増悪 (RECISTによる増悪確認) よりも先行して認められた。これらの患者における血漿再出現から放射線学的増悪までの期間中央値は45日 (範囲: 12-123日) であった。この「液体生検による先行増悪検出」は、放射線学的画像検査よりも早期に耐性の出現を検知できる可能性を示唆した。しかし、Kaplan-Meier曲線を用いた解析では、血漿再出現に基づくPFS曲線はRECISTに基づくPFS曲線と比較して有意な差を示さなかった (Figure 5)。
増悪時T790M変異検出率とデジタルPCRの有用性: 病勢進行時の血漿検体から、5例 (62.5%) でEGFR T790M変異が検出された。この知見は、afatinib治療後の耐性機序としてのT790M変異発現率に関する前向きデータとして、後のosimertinib二次治療適応 (AURA試験等) への流れを支持するものであった。多重化デジタルPCRは、EGFRドライバー変異 (exon 19 del、L858R) とT790M変異を同時に定量できる点で臨床的に有用であり、複数時点での系列測定による変異量の時系列変化追跡が治療反応性の早期評価と耐性早期検出を可能にした。デジタルPCRの定量精度は、臨床応用に十分な感度を示した。本試験では、血漿採取を2週、4週、その後8週毎に継続することで、ctDNA量の時系列変化と放射線学的評価の相関を縦断的に解析できた。
考察/結論
WJOG8114LTR試験は、afatinib治療中のEGFR変異陽性NSCLC患者において、デジタルPCRによる血漿ctDNAモニタリングが治療効果予測および耐性早期検出に有用であることを前向き試験として初めて示した。
先行研究との違い: これまでの後方視的解析や小規模研究とは異なり、本研究は前向き多施設共同試験として、治療開始早期の血漿EGFR変異消失と長期PFSとの強い相関を明確に示した。特に、治療4週での血漿EGFR変異消失を達成した患者群のPFS中央値が13.6ヶ月であったのに対し、非消失群では5.1ヶ月と、有意な差 (p < 0.0001) が認められたことは、早期の分子応答が臨床的アウトカムに与える影響の大きさを前向きに確立した点で重要である。これは、CMLにおけるBCR-ABLの分子学的寛解が長期奏効のサロゲートマーカーとなる概念を固形がんにも適用できる可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、afatinib治療における血漿T790M変異の放射線学的増悪に先行した検出が、患者の35.7%で認められることを示した。これは、画像診断よりも早期に耐性機序の出現を検知し、osimertinib等の次治療への早期切り替えの判断にctDNAモニタリングが貢献できる可能性を新規に提示するものである。この知見は、液体生検が「画像前診断 (imaging-negative pre-progression monitoring)」として活用できるという概念を支持する。
臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療管理における液体生検の臨床応用を強く支持する。特に、治療開始早期 (例: 4週時点) の血漿ctDNAモニタリングは、afatinib治療への反応性を予測し、治療戦略を個別化するための強力なツールとなり得る。また、耐性変異の早期検出は、患者の症状が悪化する前に次治療への移行を検討する機会を提供し、患者のQOL向上に寄与する可能性がある。
残された課題: 本研究の限界としては、単独アームの探索的試験であること、およびベースラインで血漿EGFR変異が陰性であった患者群 (37.5%) においては、ctDNAベースのモニタリング戦略の適用が限定的である点が挙げられる。これらの患者群では、腫瘍量が少ないためにctDNAの検出が困難であり、液体生検の限界を示す。また、本研究ではT790M以外の耐性機序については評価できなかった。今後の検討課題として、より包括的な分子解析 (例: 超高感度NGS) を用いて、T790M以外の耐性機序を同定し、治療戦略の改善に繋げることが必要である。さらに、血漿再出現に基づく治療変更が全生存期間 (OS) に与える影響については、EORTC 1613 APPLE (Afatinib Plasma Progression for Lung Cancer) 試験のような今後の大規模な無作為化比較試験で検証されるべきである。
方法
WJOG8114LTRは、日本国内の多施設で実施された前向き、単アーム、第II相バイオマーカー試験である (UMIN000015847)。
患者選択: 適格基準は、組織生検によりEGFR感受性変異 (exon 19 del、exon 21 L858Rなど) が確認された未治療の進行NSCLC患者であった。患者はafatinib 40mg/日を標準用量として、病勢進行 (PD) または許容できない毒性が発現するまで一次治療として投与された。
血液検体採取とDNA抽出: 血液検体は、ベースライン、治療2週、4週、8週、12週、24週、48週、および病勢進行時に採取された (Figure 1)。各時点において、K2EDTA (エチレンジアミン四酢酸二カリウム) 採血管に20 mLの全血を採取し、1時間以内に4℃、1400×gで10分間遠心分離して血漿を分離した。血漿は-80℃で保存され、QIAmp Circulating Nucleic Acid Kit (Qiagen) を用いてcfDNAが抽出された。抽出されたDNAはSpeedVac (Thermo Fisher Scientific) で約10 μLに濃縮され、Qubit 2.0 Fluorometer (Life Technologies) で濃度が測定された。
EGFR変異検出: 血漿DNA中のEGFR変異 (exon 19 del、exon 20 T790M、exon 21 L858R) は、MBL-IDT K.K.から調達したプライマーとプローブを用いた多重化デジタルPCR (dPCR) アッセイにより定量的に検出された。このアッセイは、RainDance Technologies社のRainDrop Digital PCRシステムを使用し、TET (テトラクロロフルオレセイン) およびFAM (6-カルボキシフルオレセイン) 蛍光色素で標識されたプローブを用いて、野生型と変異型配列を同時に検出する。PCR反応は、TaqMan Genotyping Master Mix (Life Technologies) を含む40 μLの反応液で行われ、ハイドロダイナミックフローフォーカシングにより均一な水滴が生成された。熱サイクル後、蛍光シグナルはSense chip (RainDance Technologies) で測定され、RainDrop Analystソフトウェアを用いて解析された。組織検体におけるEGFR変異解析結果は、血漿検体の解析結果が出るまで盲検化された。
評価項目: 主要評価項目は、治療4週時点での血漿EGFR感受性変異の陰性化 (negative conversion; clearance) とPFSとの相関であった。陰性化は、EGFR変異ctDNAが検出閾値以下になった時点と定義された。副次評価項目は、血漿中のEGFR T790M変異の出現と放射線学的増悪 (RECIST ver. 1.1に基づくCTまたはMRI画像診断によるPD) との時間的関係であった。血漿再出現 (plasma recurrence) は、EGFR変異ctDNAのアレル頻度が閾値以下から閾値以上に転換した場合、または変異アレル頻度が100%以上増加した場合と定義された。
統計解析: 本研究は探索的バイオマーカー研究であり、サンプルサイズは組織検体の収集可能性に基づいて設定された。参考として、組織と血漿検体におけるEGFR変異検出の一致性を評価するための統計計算が実施された。McNemar検定を用いて、タイプIエラー0.05、統計的検出力75%を達成するために47例が必要と推定され、不適格患者を考慮して55例を目標サンプルサイズとした。PFSはKaplan-Meier法を用いて推定され、群間の差はログランク検定により解析された。すべての解析はJMP ver.7 (SAS Institute Inc., USA) を用いて実施され、p値が0.05未満を有意とした。