- 著者: Lecia V. Sequist, James C.-H. Yang, Nobuyuki Yamamoto, et al.
- Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (National Taiwan University)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23816960
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子のドライバー変異は、腫瘍細胞の生存がEGFR経路シグナル伝達に依存している癌を定義する重要なバイオマーカーである。EGFR変異陽性NSCLC患者では、可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブにより、劇的な腫瘍縮小と持続的な奏効が期待されることが報告されてきた。複数の第III相臨床試験、例えばMok et al. NEnglJMed 2009、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Zhou et al. LancetOncol 2011、Rosell et al. LancetOncol 2012などにより、これらの第一世代EGFR-TKIが化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善することが確立された。これらの試験では、主にタキサン系またはゲムシタビンを含むプラチナ併用化学療法が対照群として用いられていた。
近年、ペメトレキセドは肺腺癌患者にとって好ましい薬剤となり、非扁平上皮NSCLC患者において、タキサン系やゲムシタビンと比較して良好な奏効と生存期間を示し、忍容性も優れていることが無作為化試験で示された。しかし、第一世代EGFR-TKIとペメトレキセドを含む化学療法との直接比較は、本研究の時点ではまだ行われておらず、この点が未解明なギャップとして残されていた。
アファチニブ (BIBW2992) は、EGFR (ErbB1)、HER2 (ErbB2)、ErbB4からのシグナル伝達を不可逆的に阻害する経口利用可能なErbBファミリーブロッカーである。前臨床試験では、アファチニブは既存のEGFR-TKIよりも低い半数阻害濃度 (IC50) を示し、EGFR変異に対して広範な活性を有することが報告されていた。また、第一世代TKI耐性細胞株に対しても活性を示す可能性が示唆されていた。第II相試験 (LUX-Lung 2) では、EGFR変異陽性肺腺癌患者において高い奏効率とPFSが示された。これらの背景から、EGFR変異陽性転移性肺腺癌の一次治療として、アファチニブがペメトレキセドベースの化学療法と比較して優れているかを検証する目的で、LUX-Lung 3試験が実施された。この試験は、EGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした最大規模のプロスペクティブ無作為化試験であり、第一線EGFR標的TKI療法とクラス最高の化学療法レジメンであるシスプラチンとペメトレキセドの比較を初めて行った研究である。これまでの研究では、第一世代TKIのPFS改善効果は示されていたものの、第二世代TKIであるアファチニブの有効性、特にペメトレキセド併用化学療法に対する優越性は未確立であり、この点が本研究の重要な知識ギャップであった。特に、より現代的な化学療法レジメンに対するEGFR-TKIの有効性の検証が不足していた。
目的
LUX-Lung 3試験は、EGFR変異陽性転移性肺腺癌の一次治療として、不可逆的ErbBファミリーブロッカーであるアファチニブ (40 mg/日) と、シスプラチン (75 mg/m²) + ペメトレキセド (500 mg/m²) 併用化学療法 (最大6サイクル) の有効性および安全性を比較評価することを目的とした。主要評価項目は独立中央画像診断委員会による無増悪生存期間 (PFS) であった。副次評価項目には、客観的奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、奏効持続期間 (DoR)、疾患コントロール率 (DCR)、患者報告アウトカム (PROs: patient-reported outcomes) によるQOL、および安全性プロファイルが含まれた。特に、EGFR変異サブタイプ (Exon 19欠失、L858R、その他稀な変異) 別のアファチニブの有効性を詳細に解析することも目的の一つであった。本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する第一線治療におけるアファチニブの役割を確立し、個別化医療の進展に貢献することを目指した。
結果
患者背景と治療実施: 2009年8月から2011年2月にかけて、1,269名の患者がスクリーニングされ、EGFR変異陽性の345名が本試験に無作為に割り付けられた (アファチニブ群 n=230、化学療法群 n=115)。患者背景は両群間でバランスが取れており (Table 1)、中央年齢は61.5歳、アジア人が72%、非喫煙者が68%、女性が65%を占めた。EGFR変異の内訳は、Exon 19欠失が49%、L858Rが40%、その他の変異が11%であった。アファチニブは中央値11.0ヶ月 (16サイクル) 投与され、平均服薬遵守率は98%であった。用量減量は120名 (52%) で必要とされ、43名 (19%) は複数回の減量を受けた。化学療法は中央値6サイクル投与され、83名 (75%) が4サイクル以上、61名 (55%) が全6サイクルを完遂した。化学療法群では18名 (16%) がAEによる用量減量を受け、41名 (40%) で治療開始が6日以上遅延した。
主要エンドポイント (PFS・全変異型): 独立中央レビューによる主要評価項目であるPFSは、アファチニブ群で有意に延長された (Figure 2A)。全EGFR変異型患者 (n=345) におけるPFS中央値は、アファチニブ群で11.1ヶ月 (95% CI 9.7-13.7) であったのに対し、化学療法群では6.9ヶ月 (95% CI 5.6-8.4) であった。ハザード比 (HR) は0.58 (95% CI 0.43-0.78, p=0.001) であり、アファチニブ群の優越性が統計学的に有意に示された。これは、PFSの絶対差が4.2ヶ月であり、化学療法と比較して60.9%のPFS延長に相当する。6ヶ月無増悪率はアファチニブ群で80% vs 化学療法群45%、12ヶ月無増悪率はアファチニブ群で47% vs 化学療法群22%と、長期的な無増悪状態の維持においてもアファチニブの優越性が一貫して示された。治験責任医師評価によるPFSも同様の結果を示し、アファチニブ群で11.1ヶ月 vs 化学療法群6.7ヶ月 (HR 0.49, 95% CI 0.37-0.65, p=0.001) であった (Figure 3A)。
PFS (Exon 19欠失/L858R変異型別解析): 事前に計画された主要なEGFR変異 (Exon 19欠失およびL858R変異) を有する患者 (n=308) におけるPFSのベネフィットはさらに顕著であった (Figure 2B)。独立中央レビューによるPFS中央値は、アファチニブ群で13.6ヶ月 (95% CI 11.1-16.9) であったのに対し、化学療法群では6.9ヶ月 (95% CI 5.6-8.4) であった。HRは0.47 (95% CI 0.34-0.65, p=0.001) であり、アファチニブ群のPFSが化学療法群と比較して約2倍に延長された。治験責任医師評価ではHR 0.41 (95% CI 0.31-0.55, p=0.001) であった。サブグループ解析では、年齢、性別、人種、ECOG PSなどのほとんどの臨床的に関連するサブグループにおいて、アファチニブのPFSベネフィットが維持されることが示された (Figure 2C)。特に、Exon 19欠失単独の患者 (n=191) ではHR 0.35 (95% CI 0.22-0.53, p=0.001) と最も強い改善効果が認められた。一方、L858R変異単独の患者 (n=117) ではHR 0.76 (95% CI 0.50-1.16, p=0.06) と統計的有意差には至らなかったものの、数値的には改善傾向が示された。この結果は、Exon 19欠失変異がL858R変異よりもアファチニブに対する感受性が高い可能性を示唆するものであった。
Uncommon変異サブグループ (探索的解析): Exon 19欠失/L858R以外の稀な変異 (uncommon mutations) を有する患者 (n=37、アファチニブ群26名、化学療法群11名) におけるPFS中央値は、アファチニブ群で6.9ヶ月 vs 化学療法群4.6ヶ月であり、HR 0.83 (95% CI 0.39-1.77, p=0.25) と統計的有意差は認められなかった。このサブグループの患者数が少なかったため、さらなる詳細な解析は困難であった。
ORR・奏効持続期間 (副次エンドポイント): 客観的奏効率 (ORR) は、独立中央レビューによりアファチニブ群で56.1% (129/230) であったのに対し、化学療法群では22.6% (26/115) であり、アファチニブ群で有意に高かった (p<0.001)。疾患コントロール率 (DCR) もアファチニブ群で90% vs 化学療法群81%と高かった。奏効持続期間 (DoR) 中央値は、独立中央レビューによりアファチニブ群で11.1ヶ月 vs 化学療法群5.5ヶ月と、アファチニブ群で奏効がより長く持続した。
OS (副次エンドポイント): データカットオフ時点 (中央値追跡期間16.4ヶ月) で、死亡イベントは98件 (28%) のみであったため、OSデータは速報値とされた。全患者集団におけるOS中央値は、アファチニブ群で24.9ヶ月 (95% CI 19.0-未到達) vs 化学療法群19.9ヶ月 (95% CI 16.7-25.6) であり、HR 0.80 (95% CI 0.59-1.09, p=0.14) と統計的有意差は認められなかった。これは、化学療法群の患者の65%が病勢進行後にEGFR-TKIによる後治療を受けていたこと、およびアファチニブ群の患者の62%が化学療法による後治療を受けていたという高い後治療クロスオーバー率が、OSの差を希釈した主要因と考えられた。
患者報告アウトカム (PROs): PROsの事前規定解析では、咳 (HR 0.60, 95% CI 0.41-0.87, p=0.007) および呼吸困難 (HR 0.68, 95% CI 0.50-0.93, p=0.01) の悪化までの期間が、化学療法群と比較してアファチニブ群で有意に遅延した。疼痛の悪化までの期間もアファチニブ群で長かったが、統計的有意差はなかった (HR 0.83, 95% CI 0.62-1.10, p=0.19)。これらの結果は、アファチニブが患者のQOLを改善する可能性を示唆する。
安全性 (毒性プロファイル): 両治療群ともに忍容性は良好であり、有害事象は用量減量や投与遅延により管理可能であった (Table 2)。治療関連のGrade 3以上の有害事象は、アファチニブ群で112名 (49%)、化学療法群で53名 (48%) に発生した。アファチニブ群で最も一般的な治療関連有害事象は、下痢 (全Grade 95.2%、Grade 3以上 14.4%)、皮疹/ざ瘡様発疹 (全Grade 89.1%、Grade 3以上 16.2%)、口内炎/粘膜炎 (全Grade 72.1%、Grade 3以上 8.7%)、爪囲炎 (全Grade 56.8%、Grade 3以上 11.4%) であった。一方、化学療法群で最も一般的な治療関連有害事象は、食欲不振 (全Grade 53.2%、Grade 3以上 2.7%)、疲労 (全Grade 46.8%、Grade 3以上 12.6%)、悪心/嘔吐 (全Grade 65.8%、Grade 3以上 3.6%)、骨髄抑制 (好中球減少症 全Grade 31.5%、Grade 3以上 18.0%) であった。治療関連の有害事象による治療中止率は、アファチニブ群で8%、化学療法群で12%であった。アファチニブ関連の最も一般的な有害事象のうち、治療中止に至ったのは下痢 (1.3%) と爪囲炎 (0.9%) のみであった。間質性肺疾患様イベントはアファチニブ群で3例 (1%) 報告され、治験責任医師により治療関連と判断された死亡はアファチニブ群で4例 (呼吸不全2例、敗血症1例、不明1例) であった。化学療法群では治療関連の致死的な毒性は認められなかった。
考察/結論
LUX-Lung 3試験は、EGFR変異陽性転移性肺腺癌の一次治療において、アファチニブがシスプラチンとペメトレキセド併用化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することを示した。全EGFR変異型患者におけるPFS中央値はアファチニブ群で11.1ヶ月 vs 化学療法群6.9ヶ月 (HR 0.58, 95% CI 0.43-0.78, p=0.001) であり、アファチニブの優越性が明確に示された。この結果は、アファチニブが第一線EGFR変異陽性NSCLC治療の標準選択肢となり得ることを強く支持するものである。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異サブタイプ別の治療反応性の差異が大規模な第III相試験で明確に示されたことは新規な知見である。特にExon 19欠失変異を有する患者では、アファチニブのPFS延長効果がより顕著であり (HR 0.35, 95% CI 0.22-0.53, p=0.001)、L858R変異と比較してアファチニブへの感受性が高い可能性が示唆された。この知見は、後のEGFR変異サブタイプに基づいた個別化治療戦略の発展に重要な基盤を提供した。また、本試験は、第一線EGFR標的TKI療法と、当時クラス最高の化学療法レジメンであるシスプラチンとペメトレキセドの比較を初めて行った研究であり、その点でも新規性が高い。
先行研究との違い: 過去の第一世代EGFR-TKI (ゲフィチニブ、エルロチニブ) の第III相試験 (例: Mok et al. NEnglJMed 2009、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010) と同様に、アファチニブも化学療法に対してPFSの有意な改善を示した。しかし、本研究の対照群は、非扁平上皮NSCLC患者に推奨されるペメトレキセドを含むプラチナ併用化学療法であり、これは従来の試験で用いられたタキサン系やゲムシタビンを含むレジメンとは異なる。このため、本研究は、より現代的な化学療法レジメンに対するEGFR-TKIの優越性を確立した点で、これまでの研究とは異なる意義を持つ。また、患者報告アウトカム (PROs) の解析において、アファチニブ群では咳や呼吸困難などの肺癌関連症状の悪化が化学療法群と比較して有意に遅延したことも、患者のQOL改善という点で重要な結果である。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR変異陽性転移性肺腺癌患者に対する第一線治療としてアファチニブを標準治療選択肢として確立する上で重要な臨床的意義を持つ。特にExon 19欠失変異患者における顕著なPFS延長効果は、このサブグループの患者に対するアファチニブの優先的な使用を支持するものである。アファチニブの有害事象プロファイルは、下痢、皮疹、口内炎、爪囲炎が主であり、これらのEGFR阻害薬に特有の有害事象は、適切な支持療法と用量調整によって管理可能であることが示された。これは、臨床現場でのアファチニブの長期投与の実現可能性を示唆する。
残された課題: 本試験のOSデータは、化学療法群における高い後治療EGFR-TKIクロスオーバー率 (65%) のため、統計的有意差には至らなかった (HR 0.80, 95% CI 0.59-1.09, p=0.14)。この後治療の影響を考慮した解析や、より長期の追跡期間でのOSデータの評価が今後の検討課題として残されている。実際、その後のLUX-Lung 3およびLUX-Lung 6試験の統合解析では、Exon 19欠失変異患者においてアファチニブによるOSの有意な改善が確認されている。また、稀なEGFR変異に対するアファチニブの有効性については、本試験では患者数が少なく統計的有意差が得られなかったため、さらなる大規模な研究や統合解析が必要である。現在では、第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブがFLAURA試験でアファチニブや第一世代TKIを上回るPFS延長効果を示し、一次治療の標準となっているが、本試験は第二世代TKIの有効性を確立し、EGFR変異陽性NSCLC治療の進化における重要な一歩を記した歴史的な位置づけを持つ。
方法
LUX-Lung 3試験は、世界25カ国133施設で実施された国際共同、無作為化、非盲検、第III相比較試験である (NCT00949650)。対象患者は、病期IIIB/IVの転移性肺腺癌で、治療歴がなく、ECOG Performance Statusが0または1であり、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づき測定可能な病変を有していた。EGFR変異は、標準化されたアレル特異的定量的リアルタイムPCRキット (Therascreen EGFR 29; Qiagen) を用いて、3つの独立中央検査室でスクリーニングされ、活性化変異 (Exon 19欠失、L858R、またはその他の変異) が確認された患者が登録された。
患者は、EGFR変異タイプ (Exon 19欠失、L858R、その他) および人種 (アジア人、非アジア人) で層別化され、アファチニブ群 (40 mg/日、経口投与) またはシスプラチン (75 mg/m²、Day 1) + ペメトレキセド (500 mg/m²、Day 1) 併用化学療法群 (21日サイクル、最大6サイクル) に2:1の割合で無作為に割り付けられた。アファチニブ群の患者は、最初の21日サイクルでGrade 1を超える皮疹、下痢、口内炎などの薬剤関連有害事象 (AE) が発生しなかった場合、1日50mgに増量することが許可された。化学療法群の患者は、ペメトレキセドの添付文書の推奨に従い、葉酸、ビタミンB12、デキサメタゾンを投与された。維持化学療法は許可されなかった。治療は、治験責任医師による病勢進行が確認されるまで継続された。有害事象の管理と用量減量に関する推奨事項が提供され、アファチニブはNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 3.0に基づき、Grade 3または特定の持続性Grade 2のAEに対して10mg刻みで20mg/日まで減量可能であった。
腫瘍評価は、最初の48週間は6週間ごと、その後は病勢進行または新たな抗癌治療開始まで12週間ごとにCTまたはMRIにより実施された。画像は、治療割り付けに盲検化された独立中央画像診断グループ (放射線科医と腫瘍内科医を含む) によってレビューされた。主要評価項目であるPFSは、独立中央レビューによって評価された。PROsは、Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993およびEORTC QLQ-LC13質問票を用いて21日ごとに評価された。PROsの解析では、咳、呼吸困難、疼痛の悪化までの期間に焦点が当てられた。
統計解析は、intention-to-treat (ITT) 解析として、無作為化された全患者を対象に実施された。PFSの比較は、無作為化時に使用された層別因子を用いた層別ログランク検定により行われた。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) は、Cox比例ハザードモデルを用いて算出され、Kaplan-Meier法によりPFS曲線が推定された。主要なEGFR変異 (L858RおよびExon 19欠失) を有する患者におけるPFS解析は事前に規定されていた。奏効率は、各群における最良総合奏効 (RECIST version 1.1に基づくCRまたはPR) の割合として定義され、ロジスティック回帰モデルを用いて比較された。安全性解析は、治験薬を少なくとも1回投与された全患者を対象に実施された。OSの主要解析は、約209件の死亡イベントが観察された時点で実施される予定であった。