- 著者: Satomi Watanabe, Takeshi Yoshida, Hisato Kawakami, Naoki Takegawa, Junko Tanizaki, Hidetoshi Hayashi, Masayuki Takeda, Kimio Yonesaka, Junji Tsurutani, Kazuhiko Nakagawa
- Corresponding author: Takeshi Yoshida; Hisato Kawakami (Department of Medical Oncology, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka, Japan)
- 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Basic science)
- PMID: 28839001
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) に対する第一世代EGFR-TKI (gefitinib, erlotinib) 治療後、主要な獲得耐性機序としてT790M変異が出現する。このT790M変異を標的とするosimertinibをはじめとする第三世代T790M選択的EGFR-TKIが開発され、臨床的有効性を示した。例えば、AURA3試験では、T790M陽性NSCLC患者においてosimertinibがpemetrexed+platinum併用療法と比較して有意に無増悪生存期間 (PFS) を延長した (ハザード比 [HR] 0.30; 95%信頼区間 [CI] 0.23-0.41; PFS中央値 10.1ヶ月 vs 4.4ヶ月) Mok et al. NEnglJMed 2017。しかし、osimertinib治療後も最終的に獲得耐性が生じ、PFS中央値は約10ヶ月と報告されている。T790M陽性NSCLCがosimertinibなどの第三世代TKIに対して完全な応答を示さない一因として、Src family kinases (SFK) が代替的な生存シグナル経路 (PI3K/Akt経路やRAS/ERK経路) を活性化し、アポトーシス抵抗性をもたらす可能性が先行研究で示唆されていた。著者らの先行研究 (Yoshida et al. Clin Cancer Res 2014) では、SFKがT790M変異と共同して腫瘍増殖を支持し、Src阻害薬dasatinibとafatinibまたはWZ4002 (前臨床段階のT790M選択的TKI) の組み合わせが抗腫瘍効果を増強することが前臨床的に示されていた。しかし、臨床的に承認されたT790M選択的TKI (ASP8273やosimertinib) とdasatinibの組み合わせについては、その有効性や詳細な作用機序が未解明であり、T790M陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI耐性克服のための新たな治療戦略が不足していた。
目的
T790M変異陽性EGFR変異NSCLCモデルを用いて、Src阻害薬dasatinibと臨床的に関連性の高いT790M選択的EGFR-TKI (ASP8273およびosimertinib) の併用効果を評価する。具体的には、併用療法の相乗効果、細胞内シグナル伝達経路への影響、アポトーシス促進機序、およびin vivoでの抗腫瘍活性を詳細に解析することを目的とする。
結果
DasatinibとT790M選択的EGFR-TKIの相乗効果: PC9GRおよびH1975細胞株 (T790M陽性) において、T790M選択的EGFR-TKIであるASP8273およびosimertinibは単剤で細胞生存率を低下させたが、そのIC50値はT790M陰性PC9細胞の約2倍高かった (Figure 1B, C, E, F)。dasatinibとASP8273の併用、またはdasatinibとosimertinibの併用は、PC9GRおよびH1975細胞において単剤療法と比較して細胞生存抑制効果を顕著に増強した。併用指数 (CI) の計算結果は、PC9GRおよびH1975細胞の全ての組み合わせでCI値が1未満であり、相乗効果を示唆した (Table 1)。特に、osimertinibとdasatinibの1:1の比率で最も低いCI値 (PC9GRで0.32、H1975で0.44) が観察された。一方、T790M陰性PC9細胞 (n=3 cells) では、erlotinibとdasatinibの相乗効果は限定的であった (Figure 1A, D)。
シグナル経路の同時抑制とBcl-xLの低下: T790M陽性PC9GRおよびH1975細胞において、T790M選択的EGFR-TKI (ASP8273またはosimertinib) 単剤はEGFRの自己リン酸化 (pEGFR) を強く抑制したが、Src (pSrc Tyr416)、Akt (pAkt Ser473)、Erk (pErk) の活性化が残存した (Figure 2A-D)。この残存するシグナル活性化が、T790M陽性細胞におけるアポトーシス抵抗性の主要因であることが示唆された。dasatinib単剤はSrc活性を抑制したが、EGFR-TKI単剤では抑制されなかった。dasatinibとT790M選択的EGFR-TKIの併用は、pEGFRの強力な抑制に加え、単剤療法では残存していたpSrc、pAkt、pErkの活性化を完全に同時抑制した。さらに、抗アポトーシス因子であるBcl-xLの発現は、dasatinibの添加により顕著に低下した (Figure 4A, B)。このBcl-xLの抑制は、T790M陽性細胞におけるアポトーシス増強の重要なメカニズムであることが示唆された。
アポトーシス促進効果: T790M選択的EGFR-TKI単剤では、T790M陽性細胞 (PC9GR、H1975) のアポトーシス率の増加は限定的であった (Figure 3A-D)。しかし、dasatinibとT790M選択的EGFR-TKIの併用は、単剤と比較してAnnexin-V陽性アポトーシス細胞の割合を有意に増大させた (p<0.05)。このアポトーシス促進効果は、dasatinib添加によるBcl-xLのダウンレギュレーションと関連することが示された。Src阻害薬であるbosutinibとosimertinibの併用も同様にアポトーシスを増強したことから、Src阻害がT790M選択的EGFR-TKIの抗腫瘍活性を増強することが確認された (Figure 3E, F)。また、Bcl-xL/Bcl-2阻害薬であるnavitoclax (ABT-263) とosimertinibの併用もアポトーシスを増強し、Bcl-xLの抑制がT790M陽性細胞におけるアポトーシス増強の主要な原因であることを支持した (Figure 4C, D)。navitoclaxとosimertinibの併用では、Annexin-V陽性細胞の割合がPC9GR細胞で約60%に達し、H1975細胞でも約50%に増加した。
In vivo抗腫瘍活性: H1975ゼノグラフトモデル (n=6 mice/group) において、osimertinib単剤 (1 mg/kg) およびdasatinib単剤 (50 mg/kg) は、vehicle群と比較して腫瘍増殖を部分的に抑制した。dasatinib単剤の抑制効果はosimertinib単剤よりも限定的であった。しかし、osimertinibとdasatinibの併用療法は、osimertinib単剤と比較して腫瘍増殖を有意に抑制した (p<0.05、反復測定モデルによる統計的有意差) (Figure 5A)。併用療法は体重減少が5%未満であり、忍容性は良好であった (Figure 5B)。腫瘍組織の免疫ブロット解析では、併用療法群でpSrc、pAkt、pErkの抑制とBcl-xLの低下、およびアポトーシスマーカーであるcleaved PARPの増加が確認され、in vitroでの結果と一致した (Figure 5C)。これらの結果は、dasatinibがin vivoにおいてもosimertinibによる増殖抑制とアポトーシス誘導を増強することを示唆する。
考察/結論
本研究は、T790M陽性NSCLCにおいてSrc family kinase (SFK) がアポトーシス抵抗性の共ドライバーとして機能し、dasatinib (Src/ABL阻害薬) とT790M選択的EGFR-TKI (ASP8273およびosimertinib) の組み合わせが相乗的な抗腫瘍効果と増強されたアポトーシスをもたらすことをin vitroおよびin vivoで示した。特に、併用療法が単剤では残存するSrc、Akt、Erk経路の活性化を同時に抑制し、抗アポトーシス因子Bcl-xLの発現を低下させることでアポトーシスを促進するメカニズムを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、臨床的に関連性の高いT790M選択的EGFR-TKIであるosimertinibとdasatinibの併用が、T790M陽性NSCLCにおいてBcl-xLのダウンレギュレーションを介してアポトーシスを増強し、相乗的な抗腫瘍効果を示すことを実証した。このBcl-xLの低下がdasatinib添加によるアポトーシス促進の分子的基盤として同定されたことは、これまで報告されていない新規の知見である。
先行研究との違い: 著者らの先行研究 (Yoshida et al. Clin Cancer Res 2014) では、前臨床段階のT790M選択的TKIであるWZ4002とdasatinibの併用効果が示されていたが、本研究は臨床的に承認されたosimertinibおよび開発中のASP8273との併用効果を評価した点で、より臨床応用に近い知見を提供している。また、Src阻害がBcl-xLの抑制を介してアポトーシスを増強するというメカニズムは、これまでの報告とは異なる詳細な作用機序を提示している。
臨床応用: 本研究は、T790M陽性NSCLCにおけるosimertinib単剤治療後の獲得耐性克服のための有望な治療戦略として、dasatinibとの併用療法の前臨床的根拠を提供する。dasatinibは慢性骨髄性白血病治療薬として既に承認されており、既存薬の組み合わせによる治療選択肢の拡大に繋がる可能性がある。この知見は、T790M陽性NSCLC患者の治療成績向上に貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、本併用療法の臨床試験における安全性と有効性の詳細な評価が残されている。特に、dasatinibとosimertinibの併用による毒性 (間質性肺炎や血球減少など) の懸念は、実際の臨床現場での実用化における障壁となる可能性がある。現在、osimertinibとdasatinibの併用を評価する臨床試験 (NCT02954523) が進行中であり、その結果が待たれる。また、Src活性とT790M変異間の詳細なメカニズム的関連性については、さらなる研究が必要である。
方法
細胞株と試薬: EGFR exon 19欠失を有するerlotinib感受性PC9細胞株、PC9細胞から樹立されたT790M変異獲得耐性PC9GR細胞株、およびde novoでL858RとT790M変異を有するerlotinib耐性H1975細胞株を用いた。PC9GR細胞株は著者らの施設で樹立され、H1975細胞株はATCCから入手された。Erlotinib、dasatinib、osimertinibはChemietek社から購入し、ASP8273はAstellas Pharma社から提供を受けた。Bosutinib (SKI-606) およびnavitoclax (ABT-263) はSelleck Chemicals社から購入した。 細胞生存アッセイ: 各細胞株を96ウェルプレートに播種し、erlotinib、ASP8273、osimertinib、dasatinibを単剤または様々な組み合わせで72時間処理した。Cell Counting Kit-8 (CCK-8) を用いて細胞生存率を評価し、CalcuSyn v2.1ソフトウェアで併用指数 (CI) を算出した。CI値が1未満は相乗効果、1は相加効果、1より大きい場合は拮抗効果と判断した。 免疫ブロット解析: 細胞を各薬剤で6時間処理後、細胞ライセートを調製し、SDS-PAGEおよびニトロセルロース膜への転写を行った。p-EGFR (Tyr1068)、EGFR、p-Src (Tyr416)、Src、p-Akt (Ser473)、Akt、p-Erk (Thr202/Tyr204)、Erk、cleaved PARP、Bcl-xL、β-tubulin、β-actinに対する一次抗体を用いて、細胞内シグナル伝達経路およびアポトーシス関連タンパク質の発現を解析した。 アポトーシス評価: Annexin-V-FLUOS Staining Kitを用いて、フローサイトメトリーによりアポトーシス細胞 (Annexin-V陽性細胞) の割合を測定した。細胞を各薬剤で48時間処理後、Annexin-Vおよびヨウ化プロピジウムで染色し、BD FACSCanto IIシステムで解析した。 マウスゼノグラフト研究: 7週齢の雌BALB/cヌードマウスの皮下にH1975細胞 (n=5×10^6細胞/マウス) を皮下注射した。腫瘍体積が100〜200mm^3に達した時点で、マウスを4群 (vehicle、osimertinib 1mg/kg、dasatinib 50mg/kg、osimertinib 1mg/kg + dasatinib 50mg/kg) に無作為に割り付け、3週間毎日経口投与した。腫瘍体積と体重を週2回測定した。治療終了後、腫瘍組織を採取し、免疫ブロット解析によりBcl-xLおよびcleaved PARPの発現を評価した。動物実験は近畿大学の動物倫理委員会によって承認されたプロトコルに従って実施された。 統計解析: 定量データは平均値 ± 標準誤差 (SE) で示した。Annexin-V結合アッセイにおける群間の差はWilcoxon順位和検定を用いて評価した (GraphPad Prism v.7)。in vivo研究における群間の差は、STATA14 (StataCorp) を用いた反復測定モデルで評価した。p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。