• 著者: Michels S, Massutí B, Schildhaus HU, Franklin J, Sebastian M, Felip E, Grohé C, Rodriguez-Abreu D, Abdulla DSY, Bischoff H, et al.
  • Corresponding author: Jürgen Wolf (University Hospital of Cologne, Germany)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30978502

背景

ROS1転座は非小細胞肺がん (NSCLC) の約1%に認められるドライバー遺伝子変異であり、ALK受容体型チロシンキナーゼ (ALK) と密接に関連する受容体型チロシンキナーゼをコードする。ROS1転座陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブ (ALK/ROS1 TKI) の治療的有効性は、米国での第I相試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) および東アジアでの第II相試験 (Wu et al. J Clin Oncol 2018) において示されており、欧州・米国でROS1陽性NSCLCに対する承認を得ている。これらの先行研究では、奏効率 (ORR) が約70%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が15.9〜19.2ヶ月と報告されていた。しかし、欧州の患者集団を対象としたクリゾチニブの有効性と安全性を前向きに評価したデータはこれまで不足していた。

また、ROS1融合パートナーの種類や、腫瘍抑制遺伝子であるTP53の変異共存がクリゾチニブの効果に影響を与える可能性が示唆されていたが、これらの因子が治療成績に及ぼす影響に関する前向きデータは乏しく、その臨床的意義は未解明であった。特に、TP53変異はALK陽性NSCLCにおいてTKI耐性や予後不良と関連することが報告されており (Kron et al. Ann Oncol 2018)、ROS1陽性NSCLCにおいても同様の関連があるかどうかの検討が課題であった。本研究は、欧州におけるROS1転座陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの有効性、安全性、およびQOLを評価し、さらに分子学的特性と治療効果の関連を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、ROS1転座陽性NSCLCの欧州患者を対象に、クリゾチニブの有効性、安全性、およびQOLを評価する前向き多施設単アーム第II相臨床試験 (EUCROSS) を実施することである。主要評価項目は、治験担当医評価によるORRとし、副次評価項目としてPFS、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DOR)、独立画像審査委員会 (IRR) 評価による有効性、安全性、QOL、および腫瘍組織の分子学的特性評価を設定した。

結果

患者背景と治療状況: 2014年6月から2015年12月にかけて、ROS1転座陽性NSCLC患者35例がスクリーニングされ、34例がクリゾチニブ治療を受けた。このうち4例は主要なプロトコル違反 (3例は不適格、1例はベースライン腫瘍評価不十分) により有効性解析から除外され、有効性評価可能集団は30例であった。全ITT集団 (n=34) のベースライン特性は、年齢中央値56歳 (範囲33-84歳)、女性56% (n=19)、非喫煙者68% (n=23) であった (Table 1)。有効性評価可能集団 (n=30) では、16例 (53%) が治療歴なしまたは1ラインの治療歴、14例 (47%) が2ライン以上の治療歴を有していた。データカットオフ時点での追跡期間中央値は20.6ヶ月であった。

有効性: 主要評価項目である治験担当医評価によるORRは70% (95% CI: 51-85%、30例中21例) であり、病勢コントロール率 (DCR) は90% (95% CI: 74-98%、30例中27例) であった (Table 2, Figure 2A)。独立画像審査委員会 (IRR) 評価によるORRは73% (95% CI: 54-88%、30例中22例) と同様の結果を示した。PFS中央値は20.0ヶ月 (95% CI: 10.1-NR)、奏効期間 (DOR) 中央値は19.0ヶ月 (95% CI: 9.1-NR) であった (Table 2, Figure 2C)。OS中央値はデータカットオフ時点で未到達であり、12ヶ月OS率は83% (95% CI: 69-97%)、24ヶ月OS率は63% (95% CI: 42-84%) であった (Figure 2D)。ITT集団における有効性およびOSも同様の傾向を示した。

分子解析とサブグループ解析: 有効性評価可能集団の20例 (67%) から得られた腫瘍組織を用いて中央DNAシーケンシングを実施した。ROS1転座は18例 (90%) で確認され、CD74 (n=9, 50%) が最も頻度の高い融合パートナーであり、次いでEZR (n=3, 17%)、SLC34A2 (n=3, 17%) であった (Figure 2F)。FISHでROS1陽性と判定されたもののDNAシーケンシングでROS1転座が確認されなかった2例は、最良効果が病勢進行 (PD) であった。DNAシーケンシングでROS1転座が確認された18例では、治験担当医評価によるORRは89% (95% CI: 65-99%、18例中16例) と、有効性評価可能集団全体よりも高い値を示した (Table 2, Figure 2B)。CD74-ROS1融合型患者は、他のROS1融合型患者と比較してORRが高く、PFSが長い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった。

共存する遺伝子異常は18例中11例 (61%) で検出され、TP53変異が最も頻繁に認められた (5例, 28%)。TP53変異共存患者のPFS中央値は7.0ヶ月 (95% CI: 1.7-20.0) であったのに対し、TP53野生型患者では24.1ヶ月 (95% CI: 10.1-NR) と有意に短縮していた (ハザード比 [HR] 3.89; 95% CI: 1.12-13.6; p=0.022) (Figure 2E)。ベースライン時の脳転移の有無については、脳転移を有する患者のPFS中央値は9.4ヶ月 (95% CI: 1.7-NR) であったのに対し、脳転移のない患者では20.0ヶ月 (95% CI: 10.1-NR) であったが、統計的有意差は認められなかった (HR 1.53; 95% CI: 0.488-4.77; p=0.464)。前治療ライン数はORR、DCR、PFS、OSに影響を与えなかった。

安全性: 全ITT集団 (N=34) のうち33例 (97%) で治療関連有害事象 (TRAE) が発生した (Table 3)。Grade 3以上のTRAEは8例 (24%) で認められ、Grade 5のTRAE (肺塞栓症に関連する死亡) が1例発生した。最も頻繁に報告されたTRAE (10%以上) は、視覚障害 (65%)、下痢 (56%)、浮腫 (50%)、徐脈 (47%)、悪心 (41%) であった。治療中断は17例 (50%) で必要となり、用量減量は16例 (47.1%) で実施された。用量減量の主な理由は、徐脈 (11.8%、4例、全てGrade 2)、浮腫 (8.8%、3例、Grade 1または2)、好中球減少症 (8.8%、3例、全てGrade 3)、嘔吐 (5.9%、2例、Grade 2および3) であった。用量減量率は先行試験 (15-21%) と比較して高い割合であった。これは、プロトコルで規定された徐脈に対する厳格な管理が影響した可能性が示唆された。

QOL: QLQ-C30およびQLQ-LC13を用いたQOL評価では、全般的な健康状態スコアはベースラインから治療期間を通して増加傾向を示した (Supplementary Figure 4)。他のQLQ-C30機能尺度スコアも、認知機能を除いて経時的に増加傾向を示したが、多重代入解析では統計的に有意な時間的傾向は認められなかった。QLQ-LC13症状スコアでは、咳、呼吸困難、胸痛が経時的に減少傾向を示し、咳については多重代入解析で有意な改善が認められた (p=0.0027〜0.042)。

考察/結論

EUCROSS試験は、ROS1転座陽性NSCLCに対するクリゾチニブの有効性を欧州患者集団で前向きに確認した初の試験である。本試験で得られたORR 70%およびPFS中央値20.0ヶ月という結果は、米国PROFILE 1001試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) や東アジアの第II相試験 (Wu et al. J Clin Oncol 2018) の成績 (ORR約70%、PFS 15.9〜19.2ヶ月) と一致しており、クリゾチニブの有効性が欧州コホートにおいても同様であることを示した。これまでの後ろ向き研究であるEUROSI試験で報告されたPFS中央値9.1ヶ月と比較して本試験のPFSが長かったのは、EUROSI試験におけるROS1ステータスの中央確認の欠如による患者選択バイアスが原因であると考えられる。

新規性: 本研究の最も重要な新規知見は、TP53変異共存患者においてPFSが有意に短縮したこと (7.0ヶ月 vs 24.1ヶ月、HR 3.89; 95% CI: 1.12-13.6; p=0.022) である。これは、ROS1陽性NSCLCにおけるTP53変異の予後的役割を前向きに示した初めての報告であり、ALK陽性NSCLCにおけるTP53変異の影響と同様に、TP53変異がゲノム不安定性を介してTKI耐性を促進する可能性を示唆する。

先行研究との違い: DNAシーケンシングによるROS1転座確認患者ではORRが89%とさらに高かった点は、FISH単独診断と比較してDNAシーケンシングの診断的価値が高い可能性を示唆する。また、CD74-ROS1融合型患者でORRおよびPFSが長い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった。これは、PROFILE 1001試験ではROS1転座の種類がクリゾチニブの効果に影響しないと報告されたことと対照的であり、融合パートナーとクリゾチニブ効果の関係は今後の大規模研究での検討が必要である。

臨床応用: 本研究は、ROS1転座陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの有効性と安全性を欧州患者集団で確立し、クリゾチニブがこの患者群の標準治療であることを改めて確認した。特にTP53変異の有無がPFSに与える影響は、将来的な治療戦略の個別化に臨床的意義を持つ可能性がある。

残された課題: 本試験は主要評価項目を達成したが、TP53変異共存患者の症例数が少ない (5例) ため、その解釈には注意が必要であるというlimitationがある。また、異なるROS1転座タイプがクリゾチニブの有効性に与える影響、FISHと比較したDNAシーケンシングの診断的価値、およびROS1陽性肺がんにおける脳転移の意義など、さらなる検討が残された課題である。これらの疑問については、より大規模な患者数を対象とした今後の研究で詳細に調査する必要がある。

方法

EUCROSS試験は、ドイツ、スペイン、スイスの20施設で実施された非盲検単アーム第II相試験 (NCT02183870) である。本試験はFlemingの単段階デザインに基づき、αエラー0.05、検出力92%、拒否基準20%、受容基準45%の仮定の下、30例の患者を対象としてサンプルサイズを算出した。適格基準は、18歳以上の局所進行または転移性NSCLC患者で、中央検査でFISH (fluorescence in situ hybridization) によりROS1転座が確認されたこと、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0〜2であること、RECIST v1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors, version 1.1) に基づく測定可能病変が少なくとも1つ存在すること、およびALK/ROS1 TKIの事前投与がないことであった (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)。症候性またはステロイド増量中の脳転移患者は除外された。

患者にはクリゾチニブ250 mgを1日2回、28日を1サイクルとして、病勢進行、許容できない毒性、または同意撤回まで投与された。用量変更や治療中断は、臨床的に必要と判断された場合、またはプロトコルに規定された通りに実施された。病勢進行後の治療継続も、患者が臨床的利益を得ている場合に限り許可された。有効性評価は、最初の6ヶ月間は6週間ごと、次の6ヶ月間は8週間ごと、それ以降は12週間ごとにCTおよび/またはMRIにより実施された。脳転移がベースラインで存在する場合、または新規脳転移が疑われる場合は、ベースライン時およびフォローアップ中に脳スキャンが義務付けられた。主要評価項目であるORRは、治験担当医評価に基づきRECIST v1.1に従って評価された。副次評価項目には、病勢コントロール率 (DCR)、PFS、OS、奏効期間、IRR評価による有効性、安全性、および患者報告アウトカム (PRO) によるQOL (EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13) が含まれた。安全性は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づき、有害事象 (AE) および重篤なAEのグレード分類により評価された。

分子解析として、ROS1ステータスはTargos Molecular Pathology GmbH (Kassel, Germany) によりZytoLight SPEC (dual color break-apart FISH) を用いて中央で評価された。ROS1陽性の基準は、100細胞中20細胞以上でブレイクアパートシグナルおよび/または単独の緑色シグナルが認められることとされた。さらに、NEO New Oncology AG (Cologne, Germany) のハイブリッドキャプチャーベースDNAシーケンシングパネルNEOplusを用いて、72の癌関連遺伝子の検査、ROS1再構成の検証、およびROS1融合パートナーの同定が行われた。統計解析では、PFS、OS、奏効期間などの時間依存性データはカプラン・マイヤー法で要約され、異なる層間の時間依存性エンドポイントの差はログランク検定を用いて評価された。割合の差はフィッシャーの正確検定を用いて解析された。