- 著者: Shaw AT, Ou SHI, Bang YJ, Camidge DR, Solomon BJ, Salgia R, Riely GJ, Varella-Garcia M, Shapiro GI, Costa DB, Doebele RC, Le LP, Zheng Z, Tan W, Stephenson P, Shreeve SM, Tye LM, Selaru P, Wilner KD, Clark JW, Iafrate AJ, Engelman JA
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-09-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 25264305
背景
ROS1はALKと同じインスリン受容体スーパーファミリーに属するオーファン受容体型チロシンキナーゼであり、非小細胞肺癌(NSCLC)における染色体再配列型ドライバー変異として、Rikova et al. Cell 2007によるリン酸化プロテオミクス解析でSLC34A2-ROS1およびCD74-ROS1融合として初めて同定された。ROS1再構成の推定頻度は全NSCLC患者の約1%であり、年間世界規模では約15,000例が罹患すると見積もられる。ROS1再構成は、ALK再構成と同様に、非喫煙者または軽度喫煙歴のある患者、および腺癌の組織学的特徴を有する患者に多く見られる。しかし、遺伝子レベルでは、ALKとROS1の再構成は同じ腫瘍で同時に発生することは稀であり、それぞれがNSCLCのユニークな分子サブグループを定義している。
クリゾチニブは、元来c-METおよびALK阻害薬として開発され、2011年にALK陽性NSCLC(PROFILE 1001 ALKコホート、その後PROFILE 1007)の成績に基づきFDA承認を受けた。ALKとROS1はATP結合部位内でアミノ酸同一性77%を共有しており、クリゾチニブが両者を標的とできる構造的根拠となっていた。Bergethon et al. JClinOncol 2012は、1,073例のNSCLC組織をFISHスクリーニングしてROS1陽性18例(1.7%)を同定し、1例でクリゾチニブへのほぼ完全奏効を初めて報告したが、ROS1再構成NSCLC患者におけるクリゾチニブの有効性と安全性に関する前向きかつ系統的な評価は、この時点ではまだ実施されていなかった。この点が、ROS1陽性NSCLCに対するクリゾチニブの治療的役割を確立する上で重要な知識ギャップとして残されていた。
前臨床的には、クリゾチニブのROS1キナーゼドメインへの結合定数(Kd)は等温滴定熱量計法で0.4 nMと測定されており、ALKへのKd 4.4 nMと比較して10倍以上高い親和性を有することが示されていた。さらに細胞ベースのアッセイでは、クリゾチニブはALK駆動よりもROS1駆動細胞(Ba/F3-CD74-ROS1)に対して約5倍高い効力を示した。これらの前臨床知見は、ALK陽性NSCLCを上回る客観的奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)における臨床効果を強く示唆していたが、臨床データによる裏付けが不足していた。このため、ROS1再構成NSCLC患者におけるクリゾチニブの有効性および安全性を前向きに評価することが、喫緊の課題として残されていた。
PROFILE 1001試験は、当初ALK陽性NSCLCを対象とした第I相用量設定・拡大コホート試験として開始されたが、2009年11月の試験修正によりROS1陽性NSCLC拡大コホートが追加された。本報告は、このROS1コホートにおけるクリゾチニブの前向き評価結果であり、ROS1再構成NSCLCに対するクリゾチニブの有効性と安全性を確立することを目的とした。
目的
PROFILE 1001試験のROS1拡大コホート(NCT00585195)において、進行ROS1再構成NSCLC患者50例を対象に、クリゾチニブ250 mg 1日2回投与の客観的奏効率(ORR)を主要エンドポイントとして前向きに評価すること。さらに、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性プロファイル、およびROS1融合パートナーの多様性を分子レベルで明らかにすることを副次目的とした。本研究は、ROS1再構成NSCLCをクリゾチニブの新規適応として確立するためのエビデンスを提供し、ROS1融合遺伝子の臨床的意義を解明することを目指した。
結果
主要エンドポイント(ORR): 独立評価委員会(IRC)による評価の結果、ROS1再構成NSCLC患者50例におけるクリゾチニブの客観的奏効率(ORR)は72%(95% CI 58-84%)であった。内訳は、完全奏効(CR)が3例(6%)、部分奏効(PR)が33例(66%)であった。病勢制御率(DCR、CR+PR+安定病変[SD])は92%(46/50例)と非常に高かった。最初の奏効までの期間中央値は7.9週(範囲4.3-32.0週)であり、比較的早期に治療効果が発現することが示された。データカットオフ時点で、奏効を達成した36例のうち23例(64%)が奏効を継続中であった。最初の30例でのORRは67%、追加の20例では80%であり、最終的なORR 72%は登録期間を通じて一貫した有効性を示唆するものであった(Figure 1A)。
奏効期間(DOR)と無増悪生存期間(PFS): 奏効期間(DOR)中央値は17.6ヶ月(95% CI 14.5-未到達)であった。治療継続期間中央値は64.5週(範囲2.3-182.0週)であり、データカットオフ時点で30例(60%)が治療を継続中であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は19.2ヶ月(95% CI 14.4-未到達)であった(Figure 2)。27例(54%)のデータは打ち切られ、そのうち25例(50%)は病勢進行の追跡を継続中であった。PROFILE 1001 ALK拡大コホート(n=143)におけるDOR中央値49.1週(約11.3ヶ月)およびPFS中央値9.7ヶ月と比較すると、ROS1コホートでの成績はDORおよびPFSともに大幅に上回っており、クリゾチニブのROS1に対する高い生化学的親和性を反映した結果と解釈された。この優れたPFSは、ROS1再構成NSCLCに対するクリゾチニブの強力な効果を示唆する。
全生存期間(OS): 12ヶ月全生存率(OS率)は85%(95% CI 72-93%)であった。OS追跡期間中央値は16.4ヶ月(95% CI 13.8-19.8ヶ月)であり、データカットオフ時点での死亡は9例(18%)のみであった。OS中央値は未到達であり、ROS1陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ治療の長期的な生存利益が示唆された。これは、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブのOSデータと比較しても遜色のない、有望な結果である。
ROS1融合パートナーの同定と特性: 30例の腫瘍組織でROS1融合パートナー解析が実施された(27例でNGS、3例でRT-PCR)。そのうち25例で特異的なROS1融合遺伝子が同定された。最も頻繁に検出された融合パートナーはCD74-ROS1で11例(44%)であった。その他にSDC4が4例(16%)、EZRが4例(16%)、SLC34A2が3例(12%)、TPM3が1例(4%)で同定された。さらに、NGS(アンカーマルチプレックスPCR)によって、LIMA1(LIM domain and actin binding 1)とMSN(moesin)という2つの新規融合パートナーが同定された。これにより、合計7種類のROS1融合パートナーが確認されたことになる。各融合パートナーの間で奏効率に有意差は認められず、すべての既知融合変異でクリゾチニブへの奏効が観察された。治療継続期間とROS1融合パートナーの種類の間にも明確な相関は認められなかった(Figure 3)。残り5例ではNGSが失敗または陰性であり、うち1例はEML4-ALK陽性と判明し、FISH ROS1陽性は偽陽性と判断された。
ROS1に対するクリゾチニブの生化学的親和性の優位性: 等温滴定熱量計法による測定で、クリゾチニブのROS1キナーゼドメインへの平衡解離定数(Kd)は0.4 nM、ALKへのKdは4.4 nMと確認され、ROS1への結合はALKの10倍以上高い親和性を持つことが裏付けられた。この親和性の差が、ALKコホートを上回るDOR中央値17.6ヶ月およびPFS中央値19.2ヶ月という優れた臨床効果の分子基盤と解釈された。薬物動態解析では、クリゾチニブのトラフ血漿濃度はALK陽性患者とROS1陽性患者で同等であり、薬物動態の差による成績の違いは否定された。
安全性プロファイル: クリゾチニブの安全性プロファイルは、以前に報告されたALK再構成NSCLC患者での結果と同様であった(Table 2)。Grade 1/2の治療関連有害事象(TRAE)として、視覚障害が41例(82%、全例Grade 1、暗から明への適応時の光輪・光フラッシュ等のbrief image persistenceが典型像)、下痢が22例(44%、Grade 1が42%、Grade 2が2%)、悪心が20例(40%)、末梢浮腫が20例(40%)、便秘が17例(34%)、嘔吐が17例(34%)、倦怠感が10例(20%)、味覚異常が9例(18%)、めまいが8例(16%)、徐脈が5例(10%)が主要なものであった。Grade 3以上のTRAEとしては、低リン血症が5例(10%)、好中球減少症が5例(10%)、ALT上昇が2例(4%)が報告された。Grade 4またはGrade 5の治療関連有害事象は報告されなかった。5例の死亡はいずれも病勢進行によるものであり、治療とは無関係と判断された。治療関連有害事象による治療中断は、悪心による1例(2%)のみと非常に少なく、全体として忍容性は良好であった。ALT上昇はGrade 3が2例(4%)で一過性であったが、肝機能の定期モニタリングの必要性が示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本PROFILE 1001 ROS1コホート試験は、ROS1再構成NSCLCに対するクリゾチニブの有効性を前向きかつ系統的に確立した最初の第I相拡大コホート試験である。ORR 72%(95% CI 58-84%)、DOR中央値17.6ヶ月(95% CI 14.5-未到達)、PFS中央値19.2ヶ月(95% CI 14.4-未到達)、12ヶ月OS率85%(95% CI 72-93%)という成績は、同じクリゾチニブのALK陽性NSCLCにおける成績(Camidge et al. LancetOncol 2012のPROFILE 1001 ALKコホート: PFS 9.7ヶ月、DOR 49.1週、Shaw et al. NEnglJMed 2013のPROFILE 1007: PFS 7.7ヶ月)を大幅に上回った。この結果は、クリゾチニブのROS1への生化学的親和性がALKの10倍以上高いこと(Kd 0.4 nM vs 4.4 nM)と整合的であり、分子標的薬の親和性と臨床効果の相関を示す典型例を提供した点で、これまでの報告とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ROS1再構成NSCLC患者においてクリゾチニブが顕著な抗腫瘍活性と持続的な奏効を示すことを大規模な前向き試験で実証した。また、アンカーマルチプレックスPCRを用いた次世代シーケンシング(NGS)により、LIMA1(LIM domain and actin binding 1)とMSN(moesin)という2つの新規ROS1融合パートナーを同定したことは、これまで報告されていない知見であり、ROS1融合遺伝子の多様性を分子レベルで明らかにした点で新規性が高い。これらの新規融合パートナーを持つ患者においてもクリゾチニブへの奏効が確認されたことは、ROS1融合遺伝子の種類にかかわらずクリゾチニブが有効である可能性を示唆する。
臨床応用: 本試験の結果は、2016年3月のFDA承認(ROS1再配列陽性転移性NSCLC)の直接的な根拠となり、同年欧州および日本でも承認された。これにより、ROS1陽性NSCLCが独立した「ドライバー変異」として、ALK、EGFR、RET、BRAF、METなどの多遺伝子検査を含む標準的な遺伝子検査パネルに組み込まれる端緒を作った。本研究は、ROS1再構成がNSCLCの治療標的として極めて有用であることを確立し、臨床現場におけるROS1検査の重要性を強調するものである。
残された課題と今後の方向性: 本試験でもクリゾチニブ治療後には耐性が発生しており、既知の耐性機序としてCD74-ROS1への二次変異(G2032Rなど)やEGFR経路の活性化が報告されている。今後の検討課題として、これらの耐性機序を克服する次世代ROS1-TKIの開発と臨床的有効性の検証が挙げられる。次世代ROS1-TKI(ロルラチニブ、エントレクチニブ、タレトレクチニブ、レポトレクチニブなど)は、クリゾチニブ耐性ROS1陽性NSCLCおよび中枢神経系(CNS)転移例での有効性検証が進んでおり、特にレポトレクチニブはTROPIC-1/2試験でクリゾチニブ耐性例でもORR 38%を達成し、2024年にFDA承認された。また、本研究ではFISHが診断方法の主体として使用されたが、NGSによる同時多遺伝子検査の有用性も示された。ROS1融合パートナーが多様であること(CD74が最多融合パートナーで44%)は、現在のNGSベースの包括的ゲノムプロファイリングの普及の必要性を示唆する。ROS1再構成の最も効果的なスクリーニング戦略を確立するためには、さらなる研究が残されている。
方法
試験デザインと患者選択:本研究は、PROFILE 1001試験(NCT00585195)の前向き・非盲検・単アーム拡大コホートとして実施された。対象は、組織学的に確認された進行NSCLCでROS1再構成が陽性の患者50例(2010年10月から2013年8月までに登録)であった。ROS1再構成の同定には、49例(98%)でbreak-apart FISH法が用いられ、1例ではRT-PCRアッセイが用いられた。FISH陽性患者は、15%を超えるスプリットシグナルを有していた。その他の適格基準には、18歳以上の年齢、ECOGパフォーマンスステータス0〜2、十分な臓器機能、およびRECIST v1.0に基づく測定可能病変が含まれた。
患者背景:登録患者50例の年齢中央値は53歳(範囲25-77歳)であった。女性が56%(28/50例)、人種は白人が54%(27/50例)、アジア人が42%(21/50例)であった。非喫煙者が78%(39/50例)、元喫煙者が22%(11/50例)を占めた。組織型は腺癌が98%(49/50例)であり、扁平上皮癌が1例(2%)であった。ECOG PS 0が44%(22例)、PS 1が54%(27例)、PS 2が1例であった。前治療歴については、7例(14%)が前治療なし、21例(42%)が1レジメン、22例(44%)が2レジメン以上の治療を受けていた。
治療プロトコル:クリゾチニブは、標準用量である250 mgを1日2回経口投与され、連続28日サイクルで治療が継続された。治療は、RECISTで定義される病勢進行、臨床的悪化、許容できない毒性、試験からの離脱、または死亡が発生するまで継続された。RECISTで病勢進行が確認された患者でも、治験責任医師の判断とスポンサーの承認があれば、試験治療を継続することが可能であった。
評価項目:主要エンドポイントは、独立評価委員会(IRC)によるRECIST v1.0に基づくORR(完全奏効[CR] + 部分奏効[PR]の割合)であった。副次エンドポイントには、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS、12ヶ月OS率を含む)、安全性プロファイル、および薬物動態が含まれた。腫瘍評価は、ベースライン後に8週ごとに行われ、初期奏効は4週間以上経過後に確認された。
分子解析:30例の患者から腫瘍組織または核酸が入手可能であり、ROS1融合パートナーの分子特性評価が実施された。27例では、Zheng et al. NatMed 2014で記述されたアンカーマルチプレックスPCRを用いた次世代シーケンシング(NGS)が実施され、ROS1エクソン31-37を含む融合転写産物が検出された。残りの3例では、RT-PCR法が用いられた。クリゾチニブのROS1およびALKキナーゼドメインへの結合親和性(Kd)は、等温滴定熱量計法を用いて測定された。
安全性評価:有害事象は、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v3.0に基づいて評価された。安全性および薬物動態データのカットオフ日は2014年4月11日、有効性データのカットオフ日は2014年5月16日であった。
統計解析:主要エンドポイントであるORRの評価には、単一ステージデザインが用いられた。当初、応答率が10%以下であるという帰無仮説に対して、応答率が10%を超えるという対立仮説を片側αレベル0.05で検定するために、30例の患者登録が必要とされた。より正確な評価のため、最終的にサンプルサイズは50例に拡大された。時間-イベントデータ(DOR、PFS、OS)の推定には、カプラン・マイヤー解析が用いられ、95%信頼区間はBrookmeyer-Crowley法で算出された。すべての解析はSAS統計ソフトウェアv9.2を用いて実施された。