• 著者: Zhan L, Clark MA, Loos P, Lee CM, Paulus LER, Shi R, Sekhon PK, Piret JM, Evgin L, Bennewith KL
  • Corresponding author: Kevin L. Bennewith (BC Cancer Research Institute / University of British Columbia, Vancouver, Canada; kbennewi@bccrc.ca)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-15
  • Article種別: Brief Research Report
  • PMID: 42064056

背景

CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法は、血液腫瘍において革命的な治療法として確立され、B細胞急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫などに対して、2025年時点でFDAおよびHealth Canadaが合計13製品を承認している (O’Leary et al. 2019, Summary Safety Review 2025)。しかし、全癌症例の70%以上を占める固形腫瘍に対するCAR T細胞療法の有効性は依然として限定的であり (Hou et al. 2019)、成功例は少ないのが現状である。固形腫瘍におけるCAR T細胞療法の最大の障壁の一つは、腫瘍微小環境 (TME) における機能不全な血管と低い血流である (Anderson and Simon 2020)。これはCAR T細胞の腫瘍内浸潤、抗腫瘍活性、および持続性を著しく制限する要因となる。血液腫瘍ではCAR T細胞が血流、リンパ組織、二次リンパ器官に直接アクセスできるのとは対照的に、固形腫瘍へのCAR T細胞は、異常な血管構造、腫瘍内高圧、および免疫抑制性TMEを越えて標的に到達しなければならない (Al-Haideri et al. 2022)。この問題に対する効果的な解決策は未確立であり、CAR T細胞の腫瘍内送達を改善するための戦略開発が不足している

放射線照射は、その線量に応じて腫瘍血管機能に影響を与えることが知られている (Köry et al. 2024)。特に、10 Gy未満の低線量放射線では、腫瘍血流の一過性増加が複数の研究で報告されており (Wong et al. 1973, Dewhirst et al. 1990, Sonveaux et al. 2002)、この生理学的特性をCAR T細胞療法の補助的前処置として活用できる可能性が示唆されていた。これまでの固形腫瘍に対するCAR T細胞療法の改善戦略としては、オンコリティックウイルスによる腫瘍細胞のプライミング (Evgin et al. 2022)、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害によるCAR T細胞機能の回復 (Song et al. 2020, Cherkassky et al. 2016)、細胞外マトリックス分解酵素によるCAR T細胞浸潤の増加 (Caruana et al. 2015) などが検討されてきた。しかし、これらの戦略はいずれも、固形腫瘍におけるCAR T細胞のトラフィッキングを著しく制限する異常な腫瘍血管構造とそれに伴う血流不良という根本的な問題に直接対処するものではなかった (Ribatti and Pezzella 2021, Ribatti 2024)。血管拡張薬やカルボゲン吸入なども検討されたが、腫瘍血管の構造的異常により効果が限定的であったり、「steal effect」と呼ばれる他組織への血流増加による腫瘍血流減少の問題が指摘されていた (Siemann 2011, Becker 1978, Jirtle 1988, Wu et al. 2009)。また、VEGF-A抗体や血管発達に関わるキナーゼを標的とするモノクローナル抗体も研究されてきたが、その利用可能性、簡便性、およびコストの面で課題が残されていた (Bocca et al. 2017, Ma et al. 2021)。

本研究では、電離放射線 (IR) による腫瘍血管灌流の一過性改善がCAR T細胞の腫瘍内送達と集積を増強し、固形腫瘍における治療効果を向上させるという仮説を検証する。このアプローチは、放射線が精密に腫瘍に集中して投与でき、正常組織への影響を最小限に抑えられるという点で、CAR T細胞療法のネオアジュバント前処置として実用的に実装可能であるという点で、これまでの研究とは異なる新規性を持つ。

目的

本研究の目的は、電離放射線 (IR) による腫瘍血管灌流の一過性改善が、CAR T細胞の腫瘍内送達、集積、および固形腫瘍における治療効果を向上させるかを、EGFRvIII発現B16F10メラノーマ免疫コンピテントマウスモデルを用いて検証することである。具体的には、以下の点を明らかにする。

  1. 様々な線量の単回および分割照射プロトコルにおける腫瘍血管灌流の変化を評価し、CAR T細胞投与に最適な放射線線量とタイミングを特定する。
  2. 特定された最適な放射線照射条件が、全身投与されたCAR T細胞の腫瘍内集積を増強するかどうかを評価する。
  3. CD28zと4-1BBzの2種類の共刺激ドメインを持つCAR T細胞の固形腫瘍内での治療活性を比較評価し、放射線併用療法における共刺激ドメイン選択の重要性を検討する。
  4. 放射線とCAR T細胞の併用療法が、腫瘍増殖遅延と生存期間延長に与える影響を評価する。

本研究は、固形腫瘍におけるCAR T細胞療法の効果を最大化するための、放射線併用と共刺激ドメイン選択の重要性を示すことを目指す。

結果

放射線照射による腫瘍血管灌流の一過性増強: 単回2-12 Gyの外部照射後の腫瘍灌流を系統的に評価した。照射24時間後には、照射した腫瘍でHoechst 33342陽性腫瘍領域が有意に増加した (8 Gyでは48時間後まで増加が持続)。しかし、最も顕著な灌流増加は照射4時間後に観察され、2 Gy、4 Gy、6 Gy、8 Gyのいずれの線量でも有意なHoechst 33342陽性腫瘍領域の増加が認められた (p ≤ 0.05〜p ≤ 0.001)。特に8 Gy照射4時間後には、rhodamine-2 MDa dextran陽性領域も増加し、血管構造の拡大・内径増大を示唆した。この灌流増加は一過性であり、照射後72時間ではベースラインレベルに復帰した。分割照射プロトコル (4 Gy × 2回 [24時間間隔] または6 Gy × 2回) では、24-48時間後に同様の灌流増加は認められず、単回8 Gyの優位性が確認された。以上より、8 Gy単回照射後4時間という特定の時間窓がCAR T細胞投与に最適なタイミングとして同定された (Figure 1, Figure 2)。

CAR T細胞の腫瘍内集積の約2倍増加: CTX (200 mg/kg) によるリンパ球除去3日後に腫瘍を8 Gy照射し、4時間後にEGFRvIII-CAR T細胞を静脈内投与した。投与24時間後のフローサイトメトリー解析では、非照射群と比較して照射群で腫瘍内CAR T細胞が約2倍に増加した (CD28z CAR T細胞: n=5 mice, 1.0 × 10^6個投与)。同様に、10.0 × 10^6個の4-1BBz CAR T細胞投与でも、照射群で約2倍の腫瘍内集積増加が確認された (n=5 mice)。重要なことに、脾臓内CAR T細胞レベルは照射・非照射群間で差がなく、放射線による灌流増強が腫瘍局所への選択的な送達増加をもたらすことが示された (Figure 3D-F)。投与6日後には、CD28z CAR T細胞が非照射・照射両群で腫瘍内で顕著に増殖しており、照射群ではさらに高い腫瘍内集積レベルを示した。注目すべきことに、10倍多い4-1BBz CAR T細胞 (10.0 × 10^6個) と比較し、1/10の投与量のCD28z CAR T細胞 (1.0 × 10^6個) のほうが腫瘍内でのThy1.1⁺細胞割合が高く、脾臓では逆にCD28zが低い頻度であり、CD28zが腫瘍特異的な選択的増殖能を持つことが示唆された (Figure 3G-H)。

4-1BBz CAR T細胞による腫瘍増殖抑制と生存延長: CTX + IR (8 Gy) + 10.0 × 10^6個の4-1BBz CAR T細胞 (CTX+IR+BBz) の三者併用群では、腫瘍増殖限界到達日が移植後33日まで延長した (CTX+BBz群: 23日)。Kaplan-Meier生存解析では、CTX+IR+BBz群の生存期間中央値は35日であり、未治療対照群 (16日)、CTX単独群 (21-23日)、CTX+BBz群 (23日) と比較して有意な生存延長が確認された (log-rank Mantel-Cox検定、p<0.001)。CTX+IR単独群では腫瘍体積限界超過による安楽死が多く、放射線単独では十分な治療効果が得られないことも明らかとなった (Figure 4B-C)。

CD28z CAR T細胞の優れた治療効果 (10分の1の投与量で上回る効果): CTX + IR (8 Gy) + 1.0 × 10^6個のCD28z CAR T細胞 (CTX+IR+CD28z) 群では、腫瘍増殖限界到達日が37日まで延長し、生存期間中央値44日を達成した (未治療: 20日、CTX単独: 22-26日、CTX+CD28z: 29-30日)。すなわち、CD28z CAR T細胞は4-1BBz CAR T細胞の10分の1の投与量 (1.0 × 10^6個 vs 10.0 × 10^6個) にもかかわらず、生存期間中央値で44日 vs 35日と明らかに優れた治療効果を示した (p<0.01)。この差は腫瘍局所での増殖能の差を反映していると考えられ、固形腫瘍における共刺激ドメイン選択の重要性を示す (Figure 4D-E)。

照射後投与タイミングの検証: 灌流増強の持続期間を考慮し、照射4時間後と24時間後の投与タイミングを比較した。照射24時間後にCD28z CAR T細胞を投与した場合も腫瘍増殖遅延効果が認められた (腫瘍増殖限界到達日: 33日) が、照射4時間後投与 (35日) が数値上わずかに優れる傾向を示した。この結果は、8 Gy照射後の腫瘍灌流増強が24-48時間持続するという灌流測定データと一致しており、4時間・24時間のいずれの投与タイミングも臨床的に実行可能な治療窓として機能することが示された (Supplementary Figure 5C-D)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、電離放射線 (IR) が固形腫瘍の血管灌流を一時的に改善し、CAR T細胞の腫瘍内浸潤と治療効果を増強するという点で、これまでの研究とは異なるアプローチを提示している。先行研究では、腫瘍血管を標的とする様々なアプローチ (VEGF-A抗体、血管拡張薬、カルボゲン吸入など) が検討されてきたが、血管拡張薬は腫瘍血管の最大拡張状態への応答が限られ、「steal effect」の問題も指摘されていた (Siemann 2011, Becker 1978)。また、CAR T細胞浸潤改善のためのオンコリティックウイルス、PD-1/PD-L1遮断、細胞外マトリックス分解酵素などの先行戦略は、腫瘍内異常血管の問題に直接対処していなかった (Evgin et al. 2022, Song et al. 2020, Caruana et al. 2015)。本研究は、8 Gy単回照射という臨床で利用可能な処置により腫瘍灌流を4時間後に顕著に増強し、この時間窓を活用してCAR T細胞を静脈投与することで約2倍の腫瘍内集積と有意な生存延長を達成した初の実証研究である。放射線照射は精密に腫瘍に集中でき、正常組織への影響が最小限であるため、CAR T細胞療法のネオアジュバント前処置として実用的に実装可能な点が重要な独自性である。

新規性: 本研究で初めて、固形腫瘍モデルにおいて、電離放射線による腫瘍血管灌流の一過性改善がCAR T細胞の腫瘍内送達と治療効果を劇的に向上させることを実証した。特に、CD28z共刺激ドメインを持つCAR T細胞が、10倍高濃度で投与された4-1BBz CAR T細胞よりも優れた腫瘍内増殖と治療効果を示したことは新規な知見である。これは、血液腫瘍での長期持続性に有利とされる4-1BBzの選好に再考を促すものであり、固形腫瘍では腫瘍への急速な集積と効率的な初期殺傷が重要であるという文脈において、CD28zが有利である可能性を示唆する。また、投与量の削減 (CD28z: 4-1BBzの1/10) は、サイトカイン放出症候群 (CRS) などの副作用リスク低減の観点からも臨床的意義がある。

臨床応用: 本戦略は、既存の臨床放射線照射装置とFDA承認CAR T細胞製品を組み合わせた実装が可能である。特定の線量 (8 Gy) と投与タイミング (照射後4-24時間) の最適化は、実臨床での標準化の礎となる。固形腫瘍CAR T細胞療法の主要障壁の一つである浸潤不全を物理的に解決するアプローチとして、他の固形腫瘍抗原 (HER2、GD2、EGFRなど) を標的としたCAR T細胞療法への拡張応用が期待される。放射線は腫瘍抗原提示の増加 (DeSelm et al. 2018)、cGAS/STING活性化によるCAR T細胞効果増強 (Kostopoulos et al. 2024)、ICAM-1発現上昇によるNF-κBシグナル活性化 (Zhou et al. 2022) など、複数のメカニズムでCAR T細胞療法を補完する可能性があり、本研究の血管灌流改善効果と相まって、その臨床的有用性は高いと考えられる。

残された課題: 本研究は、免疫コンピテントマウスのEGFRvIII-B16F10メラノーマという単一モデルに限定されており、他の固形腫瘍、CAR T細胞抗原、マウス品種での再現性確認が必要である。また、本モデルのEGFRvIII発現は均一性が高いが、患者腫瘍では抗原発現がより不均一であるため、その影響も検討すべきである。放射線-CAR T細胞併用による内因性免疫細胞 (NK細胞、内在性T細胞) への影響の評価も未検討である。最適な放射線分割方法 (SBRTなど) との比較、免疫チェックポイント阻害薬との三者併用の可能性、そして臨床的なスケールへの移行を支持するトランスレーショナルエビデンスの蓄積が今後の重要課題として残されている。

方法

動物モデルと腫瘍移植: 9-13週齢のメスC57Bl/6JマウスをJackson Laboratoryから入手し、BC Cancer Research Instituteの動物資源センターで飼育した。動物実験は、カナダ動物保護委員会およびブリティッシュコロンビア大学動物保護委員会の要件に準拠し、承認された動物プロトコルA21–0266およびA25-0214の下で実施された。EGFRvIII発現B16F10メラノーマ細胞 (2.0 × 10^5個) を、血清フリーDMEMとMatrigel®基底膜マトリックスの1:1混合液100 µlに懸濁し、麻酔下でマウスの右下腹部に皮下移植した。腫瘍移植後7日目にマウスを各治療群にランダムに割り付けた。

リンパ球除去: CAR T細胞投与の3日前に、フィルター滅菌した200 mg/kgのCTX (シクロホスファミド) を生理食塩水に溶解し、腹腔内 (i.p.) 投与することでリンパ球除去を実施した。

放射線照射: 腫瘍照射にはPrecision X-ray社のX-RAD320精密X線装置 (250 keV, 約3 Gy/min) を使用した。マウスを鉛製ジグで固定し、腫瘍部位のみを露出させ、正常組織を遮蔽して局所照射を実施した。照射は腫瘍移植後9日または10日目に実施した。

腫瘍灌流の評価: 腫瘍灌流の評価には、静脈内 (i.v.) 投与した蛍光色素混合液を用いた。この混合液は、Hoechst 33342 (20 mg/ml, 血管灌流マーカー) とローダミン標識2 MDa (メガダルトン) デキストラン (3 mg/ml, 血管内径マーカー) を含み、腫瘍摘出の10分前に投与した。摘出した腫瘍はOCT (Optimal Cutting Temperature) コンパウンドに包埋し、-80°Cで凍結保存した。10 µm厚の腫瘍切片を3枚 (50 µm間隔) 作製し、Zeiss AXIO Imager.Z2顕微鏡でHoechst 33342およびローダミン-デキストラン蛍光を10倍で撮影した。画像はImageJ (FIJI) を用いて解析し、DAPI染色で識別された生存腫瘍領域に対する各蛍光色素の陽性領域の割合を算出した。Hoechst画像の二値化にはLiの最小交差エントロピー閾値法を、ローダミン-デキストラン染色には三角形閾値法を使用した。

CAR T細胞の作製: CAR T細胞は、以前に報告されたプロトコル (Loos et al. 2024) に従って作製した。MSGV1レトロウイルストランスファーベクターに、EGFRvIII scFv、CD8膜貫通ドメイン、4-1BBzまたはCD28z共刺激ドメイン、およびCD3z活性化ドメインから構成される第2世代CAR構造を組み込んだ。レトロウイルスはHEK 293T細胞を用いて産生し、脾臓から採取したナイーブT細胞をIL-7、IL-15、IL-21、およびConAで活性化後、スピンキュレーションにより形質導入した。Thy1.1マーカーの発現により形質導入効率 (70-85%) を確認し、投与CAR T細胞数をThy1.1⁺細胞数で正規化した (4-1BBz CAR T細胞: 10.0 × 10^6個、CD28z CAR T細胞: 1.0 × 10^6個)。

CAR T細胞のin vitro評価: EGFRvIII-B16F10標的細胞と野生型B16F10非標的細胞を1:1で共培養し、異なるエフェクター対標的 (E/T) 比 (1:1、3:1、10:1) でCAR T細胞または非形質導入T細胞を添加した。4時間の共培養後、細胞を回収し、フローサイトメトリーで生存標的細胞数を評価した。

CAR T細胞のin vivo評価: CAR T細胞は麻酔下のマウスに100 µlの血清フリーRPMI-1640培地に懸濁して静脈内 (i.v.) 投与した。腫瘍内CAR T細胞の定量は、投与24時間後および6日後にフローサイトメトリー (CD8、CD3、Thy1.1、EGFRvIII) で実施した。脾臓内のCAR T細胞レベルも同様に評価した。

腫瘍体積測定と生存解析: CAR T細胞投与後、腫瘍体積を隔日でキャリパー測定 (幅^2 × 長さ × 0.5) した。マウスは腫瘍体積が体重の約5%に達した時点で安楽死させ、これをヒューメインエンドポイントとした。腫瘍増殖遅延プロットは、グループ内の少なくとも2匹のマウスが腫瘍体積限界に達した時点で終了した。Kaplan-Meier生存解析では、全マウスがヒューメインエンドポイントに達するまで追跡した。

統計解析: 全ての統計解析とグラフ作成にはGraphPad Prism 10を使用した。データ分布の正規性はShapiro-Wilk検定で評価した。複数のグループ間の平均値の比較には一元配置ANOVA検定を、正規分布に従わないグループ間の比較には非パラメトリックKruskal-Wallis検定を使用した。2つのグループ間の平均値の比較には両側Studentのt検定を用いた。生存曲線はKaplan-Meier法で作成し、有意性はlog-rank Mantel-Cox検定で評価した。全てのデータは平均 ± 標準誤差 (SEM) で報告した。