• 著者: Nina B. Horowitz, Imran A. Mohammad, June Ho Shin, John W. Hickey, Peter Chockley, Gail Snyder, Chen Chen, Keene Lee, Krishna Sharma, Quan Tran, Anahita Nejatfard, Sainiteesh Maddineni, Vasu Divi, Catherine A. Blish, Garry P. Nolan, Jennifer A. Foltz, John B. Sunwoo
  • Corresponding author: Jennifer A. Foltz (jennifer.a.foltz@wustl.edu) (Washington University School of Medicine), John B. Sunwoo (sunwoo@stanford.edu) (Stanford University School of Medicine)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42090477

背景

NK (natural killer) 細胞は、がん細胞に対する自然免疫応答を担う重要なエフェクター細胞である。循環血液中の末梢血 NK 細胞については詳細な研究が進んでいるが、特定の組織に局在して機能する組織常在型 NK (trNK; tissue-resident natural killer) 細胞の特性やその分化制御メカニズムについては未解明な部分が多く残されている。上皮組織 (肺、皮膚、子宮、腸管など) に存在する trNK 細胞は、一般に CD49a (cluster of differentiation 49a) [ITGA1 (integrin subunit alpha 1)] および CD103 (cluster of differentiation 103) [ITGAE (integrin subunit alpha E)] を共発現する特徴を持つ (Hashemi et al., 2020)。これらの細胞は、CD56, CD49a, CD103, NKp44 (natural killer cell p44-related active receptor), CXCR6 (C-X-C motif chemokine receptor 6), T-bet (T-box transcription factor TBX21), eomesodermin を発現する上皮内 ILC1 (ieILC1; intraepithelial innate lymphoid cell type 1) サブセットに類似しており、HNSCC (head and neck squamous cell carcinoma) や肺がん、大腸がんなどの固形腫瘍組織において検出されることが報告されている (Simoni et al., 2018; Riggan et al., 2019)。

先行研究において、HNSCC 細胞株と IL-15 (interleukin-15) の共培養系において、末梢血 NK 細胞から CD49a+CD103+ trNK 様細胞への分化が誘導されること、そしてこのプロセスには TGF-β (transforming growth factor-beta) 受容体シグナルが必須であることが示されている (Moreno-Nieves et al., 2021)。しかし、TGF-β は一般に強力な免疫抑制性サイトカインとして知られており、このサイトカインがどのようにして抗腫瘍活性を持つエフェクター細胞の分化を促進し得るのかというパラドックスが存在していた。実際に、可溶性 TGF-β と IL-15 の存在下で単独培養された末梢血 NK 細胞は、免疫抑制的な脱落膜 NK 細胞に類似した非細胞傷害性の表現型を示すことが既報で指摘されている (Chung et al., 2024)。このように、腫瘍細胞との直接接触を伴う微小環境と、可溶性因子のみの環境とで、誘導される trNK 細胞の機能的特性がどのように分岐するのか、その詳細な分子機構は不明であり、研究のギャップが存在していた。また、固形腫瘍に対する養子免疫細胞療法においては、ex vivo で増殖させたエフェクター細胞が免疫抑制的な腫瘍微小環境に十分に浸潤できないという技術的課題があり、優れた浸潤能と殺傷能を併せ持つ NK 細胞サブセットの同定と、その効率的な培養・増殖プロトコルの確立が不足していた。

目的

本研究の目的は、腫瘍細胞との接触によって誘導される高度に細胞傷害活性の高い trNK 細胞サブセットの分子プロファイルを詳細に解析し、その分化および機能制御メカニズムを明らかにすることである。具体的には、以下の4つの課題を解決することを目指した。

  1. HNSCC 細胞との共培養によって誘導される trNK 細胞 (HNSCC 誘導 trNK 細胞) と、可溶性 TGF-β によって誘導される trNK 細胞 (TGF-β 誘導 trNK 細胞) の表現型、トランスクリプトーム、およびエピゲノムの差異をマルチオミクス解析により解明する。
  2. 高い抗腫瘍活性を持つ細胞傷害性組織常在型 NK (ctrNK; cytotoxic tissue-resident natural killer) 細胞を特異的に定義する表面マーカーとして CD39 (cluster of differentiation 39) を同定し、その機能的意義を検証する。
  3. ctrNK 細胞が示す優れた細胞傷害活性および 3次元 (3D) 固形腫瘍スフェロイドへの浸潤能の分子基盤を、接着分子や標的細胞への結合親和性の観点から解析する。
  4. ctrNK 細胞を ex vivo で効率的に誘導・増殖させるための serial passage (連続継代) プロトコルを開発し、複数の固形腫瘍マウスモデルを用いて、養子免疫細胞療法としての治療有効性と体内持続性を in vivo で検証する。

結果

HNSCC 誘導 trNK 細胞と TGF-β 誘導 trNK 細胞の表現型および機能の分岐: 末梢血 NK 細胞を HNSCC 細胞株 (UM-SCC-47 や PCI-13) および IL-15 と共培養すると、CD49a および CD103 の発現が数日かけて順次誘導された。このうち、CD49a+CD103+ のダブルポジティブ (DP) 画分は、CD49a-CD103- のダブルネガティブ (DN) 画分と比較して、PCI-13 標的細胞に対する細胞傷害活性が有意に高かった (p=0.0286, n=4 donors) (Fig. 1)。CD103 の発現誘導は、HNSCC 細胞との直接接触および TGF-β 受容体シグナルに依存しており、ALK5 阻害剤である SB431542 の添加によって完全に消失した。CyTOF を用いた UMAP 解析により、HNSCC 誘導 trNK 細胞は活性化マーカー (NKG2D, NKp30, CD226) や転写因子 T-bet を高発現するクラスター A に集積したのに対し、可溶性 TGF-β と IL-15 で誘導された trNK 細胞はこれらを発現しないクラスター G や H に集積した。機能的にも、HNSCC 誘導 trNK 細胞は TGF-β 誘導 trNK 細胞に比べて極めて高い細胞傷害活性を示した (p<0.0001, n=3 donors) (Fig. 1)。

CITE-seq およびエピゲノム解析によるトランスクリプトームとクロマチン構造の解明: CITE-seq 解析により、HNSCC 誘導 trNK 細胞と TGF-β 誘導 trNK 細胞の単一細胞レベルでの遺伝子発現プロファイルの相違を明らかにした (Fig. 2)。HNSCC 誘導 trNK 細胞では、細胞傷害活性に関連する GZMA (granzyme A) (p=7.7×10^-46, log2FC 1.8) や GZMB (granzyme B)、PRF1 (perforin 1)、ならびに高活性化状態を示す IL2RA、さらに ENTPD1 (ectonucleoside triphosphate diphosphohydrolase 1) [CD39] (p=7.1×10^-68) の発現が顕著に上昇していた (Fig. 2)。一方、TGF-β 誘導 trNK 細胞では、抑制性受容体である CD9 (p=9.8×10^-114) や JUN、KDM5B の高発現が認められた。pySCENIC を用いた遺伝子制御ネットワーク解析では、HNSCC 誘導 trNK 細胞において CREM、TBX21、ETS1 が主要な転写因子として同定された (Fig. 3)。バルク ATAC-seq 解析によるクロマチンアクセシビリティの PCA においても、両者は明確に異なるエピジェネティック状態を示し、HNSCC 誘導条件では ENTPD1 や GZMB 領域のオープンクロマチン状態が確認された (Fig. 3)。

CD39 の ctrNK 細胞定義マーカーとしての同定と活性化プロファイル: CITE-seq および流動細胞分析により、HNSCC 誘導 trNK 細胞のほぼすべてが CD39 を発現していることが確認された (Fig. 4)。この CD39+CD49a+CD103+ サブセットを細胞傷害性組織常在型 NK (ctrNK) 細胞と定義した。ctrNK 細胞は、腫瘍細胞による再刺激に対して、CD39- 画分と比較して有意に高い CD107a 脱顆粒活性、ならびに IFN-γ および TNF-α の高産生を示した (p<0.01, n=8 donors) (Fig. 4)。ctrNK 細胞における HIF-1α の発現は低く抑えられており (p=0.0312)、アデノシン受容体 A2AR や CD73 の発現も認められなかったことから、この CD39 発現は免疫抑制ではなく、高度な活性化状態を反映するマーカーとして機能していることが示唆された。さらに、Transwell を用いた共培養実験により、NK 細胞における CD39 の発現誘導には、HNSCC 細胞との直接的な細胞接触が必要であることが実証された。

ctrNK 細胞が有する優れた固形腫瘍浸潤能と標的細胞への高親和性: 3D 腫瘍スフェロイドを用いた浸潤アッセイにおいて、ctrNK 細胞は DN 細胞 (p<0.0001) や SP (single-positive) 細胞 (p=0.0023) と比較して、スフェロイド内部へ有意に多く浸潤・集積した (Fig. 6)。この優れた浸潤能は、K562 細胞で刺激した活性化従来型 NK 細胞よりも有意に高かった (p=0.0007)。抗 CD103 ブロッキング抗体添加により、ctrNK 細胞の浸潤能が有意に低下したことから (p=0.0087)、CD103 と標的細胞上の E-カドヘリンとの相互作用が浸潤に必須であることが示された。z-MOVI 音響力顕微鏡を用いたアビディティ測定では、ctrNK 細胞は従来型 NK 細胞と比較して、HNSCC 標的細胞および組換え E-カドヘリンに対して極めて高い結合親和性を示した (p<0.0001, n=3 donors)。さらに、NSG-IL15 マウスを用いた in vivo 移入実験において、ctrNK 細胞を投与したマウスの腫瘍内には、従来型 NK 細胞を投与した群と比較して有意に多くの NK 細胞が浸潤しており (p=0.0159, n=5 mice)、その多くが CD49a+CD103+ 表現型を維持していた (Fig. 6)。

養子免疫細胞療法としての ctrNK 細胞の優れた in vivo 抗腫瘍効果と長期持続性: 照射 PCI-13 フィーダー細胞を用いた serial passage により、CD49a+CD103+ trNK 細胞の割合が 80% 以上に濃縮され、第3パッセージ (8-12日目) において平均 8.9-fold の増殖を達成した (Fig. 7)。NSG-IL15 マウスを用いた腹腔内 HNSCC 固形腫瘍モデルにおいて、ctrNK 細胞移入群は、活性化従来型 NK 細胞移入群と比較して、BLI による腫瘍負荷が有意に抑制された (p=0.0286, n=5 mice) (Fig. 7)。同様の優れた腫瘍制御効果は、播種性メラノーマモデル (p=0.0079, n=5 mice) (Fig. 7) および口腔粘膜同所移植 HNSCC モデル (p=0.0286, n=4 mice) においても確認された。さらに、抗 EGFR 抗体であるセツキシマブとの併用療法は、それぞれの単剤療法と比較して有意に高い抗腫瘍効果を示した (p=0.0159, n=5 mice) (Fig. 8)。移入された ctrNK 細胞は、マウスの肺組織内において 40日以上にわたって安定して持続し、腫瘍常在性メモリー特性を有することが実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の NK 細胞を用いた養子免疫療法では、主に K562 フィーダー細胞や IL-2、IL-15 などの液性因子を用いて増殖させた末梢血由来の活性化従来型 NK 細胞が使用されてきた。しかし、これらの従来型 NK 細胞は、免疫抑制的な固形腫瘍微小環境への浸潤能や組織内での保持能が極めて低いという根本的な課題を抱えていた。これと異なり、本研究で同定された CD39+CD49a+CD103+ ctrNK 細胞は、上皮組織への接着を媒介する CD103 を高発現しており、3D 腫瘍スフェロイドや実際の固形腫瘍組織に対して極めて高い浸潤・集積能を示す。また、可溶性 TGF-β と IL-15 のみで誘導される trNK 細胞が免疫抑制的な脱落膜 NK 細胞に類似した hyporesponsive (低反応性) な状態を示すのとは対照的に、ctrNK 細胞は腫瘍細胞との直接接触を介した活性化シグナルと IL-15 の作用により、高度な細胞傷害活性を維持したまま組織常在性を獲得している点が大きく異なる。

新規性: 本研究は、一般に免疫抑制性サイトカインとして知られる TGF-β が、腫瘍細胞との直接接触および IL-15 の存在下という特定のコンテキストにおいて、むしろ高度に活性化された細胞傷害性 trNK 細胞 (ctrNK 細胞) の分化を促進するというパラドックスを分子レベルで解明した。さらに、本研究で初めて、CD39 が単なる免疫抑制性分子ではなく、抗腫瘍活性の高いエフェクター trNK 細胞を特異的に定義する新規の活性化マーカーであることを同定した。エピゲノムおよびトランスクリプトーム解析を組み合わせることで、ctrNK 細胞が ETS1 や CREM などの転写因子ネットワークによって制御される独自の組織常在性および細胞傷害性シグネチャーを持つことを新規に明らかにした。

臨床応用: 本研究の知見は、難治性の固形腫瘍に対する新たな養子免疫細胞療法の開発において極めて高い臨床的意義を持つ。ctrNK 細胞は、健常ドナーの末梢血から ex vivo で再現性良く誘導・増殖可能であり、オフザシェルフ (既製品型) の細胞治療プラットフォームとしての臨床応用が期待される。また、セツキシマブなどの治療用抗体との併用による ADCC 活性の増強や、CAR 遺伝子導入による標的特異性の付加など、多重活性化戦略を組み合わせることで、HNSCC のみならず肺がんや大腸がんなど幅広い上皮性固形がんに対する translational な治療戦略としての展開が可能である。NK 細胞はアロジェニック投与においても CRS (cytokine release syndrome) などの重篤な副作用リスクが低いため、臨床現場における安全性も高いと考えられる。

残された課題: 今後の課題として、腫瘍細胞との接触時に生じる TGF-β シグナルが、どのようにしてその免疫抑制作用を回避し、ctrNK 細胞の活性化プログラムを駆動するのか、その詳細なシグナル伝達経路の解明が必要である。また、本研究で用いた in vitro 誘導 ctrNK 細胞と、患者の腫瘍微小環境内に自然発生する trNK 細胞との機能的・表現型的な差異について、さらに詳細な比較検討を行う必要がある。さらに、CD39 自体が ctrNK 細胞の優れた浸潤能や生存能に直接的な役割を果たしているのか、あるいは単なる活性化状態を反映する相関マーカーに過ぎないのかという機能的因果関係の検証も、今後の研究における重要な limitation および検討事項として残されている。

方法

細胞の誘導と培養: 健常ドナーの末梢血から分離した NK 細胞を、HNSCC 細胞株である UM-SCC-104 (University of Michigan squamous cell carcinoma 104)、UM-SCC-47 (University of Michigan squamous cell carcinoma 47)、PCI-13 (Pittsburgh Cancer Institute-13) と IL-15 の共培養系、あるいは可溶性 TGF-β と IL-15 を含む培地で培養し、それぞれ HNSCC 誘導 trNK 細胞および TGF-β 誘導 trNK 細胞を分化誘導した。TGF-β 受容体シグナルの関与を検証するため、ALK5 (TGF-β receptor, type I) 阻害剤である SB431542 を添加した。ctrNK 細胞の ex vivo 大量調製のため、照射した PCI-13 フィーダー細胞を用いて 4日ごとに再刺激を行う serial passage 法を確立した。

マルチオミクス解析: CyTOF (cytometry by time-of-flight) を用いて、NK 細胞特異的な金属標識抗体パネルによる単一細胞レベルの表面タンパク質解析を行い、UMAP (uniform manifold approximation and projection) による視覚化と unsupervised clustering を実施した。単一細胞レベルでのトランスクリプトームと表面タンパク質の同時解析には、CITE-seq (cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing) 技術を用いた。pySCENIC (single-cell regulatory network inference and clustering) アルゴリズムを適用して、遺伝子制御ネットワーク (regulon) を推定した。さらに、クロマチンアクセシビリティの解析として、バルク ATAC-seq (assay for transposase-accessible chromatin with sequencing) を行い、PCA (principal component analysis) および DAR (differentially accessible region) 解析を実施した。

機能評価アッセイ: 自然細胞傷害活性の測定には、xCELLigence インピーダンスベースリアルタイム細胞分析システムを用いた。3D 腫瘍スフェロイドへの浸潤能は、CellTrace Far Red で標識した NK 細胞をスフェロイドと共培養し、共焦点顕微鏡による 3次元画像定量解析で評価した。接着分子の関与を調べるため、抗 CD103 ブロッキング抗体を用いた。NK 細胞と標的細胞、あるいは組換え E-カドヘリンとの結合親和性 (avidity) は、z-MOVI 音響力顕微鏡を用いて単一細胞レベルで測定した。抗体依存性細胞傷害 (ADCC; antibody-dependent cellular cytotoxicity) 活性は、抗 EGFR (epidermal growth factor receptor) 抗体であるセツキシマブとの併用により評価した。また、抗 CD19 CAR (chimeric antigen receptor) を導入した CAR-NK 細胞の殺傷能も検証した。

in vivo 実験: 免疫不全マウスである NSG (NOD.scid.Il2Rγcnull)-IL15 マウスを用い、腹腔内 HNSCC 固形腫瘍モデル (PCI-13-luciferase)、播種性メラノーマモデル (SK-MEL-28-luciferase)、および口腔粘膜同所移植 HNSCC モデルを構築した。養子移入後の腫瘍負荷は、BLI (bioluminescence imaging) により経時的に測定した。統計解析には、GraphPad Prism を用い、Mann-Whitney 検定、Kruskal-Wallis 検定、および two-way ANOVA (analysis of variance) を適用した。