• 著者: M. Yanagawa, M. Kusumoto, T. Johkoh, M. Noguchi, Y. Minami, F. Sakai, H. Asamura, N. Tomiyama, for the Investigators of JSTR Lung Cancer Working Group
  • Corresponding author: M. Yanagawa (Department of Radiology, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-12-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29307591

背景

非粘液性肺腺癌の subsolid (亜充実性) 結節において、病理学的浸潤径 (pathologic invasive component size) はTNM分類のTカテゴリを決定する極めて重要な基準である。特に、病理学的浸潤径0.5 cmというカットオフ値は、AIS (adenocarcinoma in situ: 上皮内腺癌) および MIA (minimally invasive adenocarcinoma: 微小浸潤腺癌) を、IVA (invasive adenocarcinoma: 浸潤性腺癌) から区別するための決定的な境界線として位置づけられている。この浸潤径は、肺癌の悪性度や患者予後と強く関連することが複数の先行研究で報告されており、画像診断による正確な評価が臨床的に極めて重要である。例えば、Borczuk et al. (2009) や Yim et al. (2007) などの先行研究は、浸潤径が肺腺癌の生存率と独立した予測因子であることを示している。しかし、CT (computed tomography: コンピュータ断層撮影) 画像上で測定される充実成分径 (solid portion size) は、組織処理時の脱水収縮や病理標本の切り出し平面の違いなどにより、実際の病理学的浸潤径よりも大きく評価される傾向があることが知られている。このため、CT画像から病理学的浸潤径を正確に予測するための最適な充実成分径のカットオフ値は、これまで明確には確立されておらず、臨床現場における大きな knowledge gap (知識ギャップ) となっていた。

また、CT画像評価において、肺野条件 LWS (lung window setting: 肺野条件) と縦隔条件 MWS (mediastinal window setting: 縦隔条件) のどちらの設定が充実成分の測定により適切であるかについても、専門家の間で議論が続いており、標準化された手法が不足していた。Naidich et al. JThoracOncol 2013 による Fleischner Society の勧告では、部分充実型結節における充実成分径の測定には、狭い窓幅または縦隔条件での長短軸径の平均値を用いることが推奨されているが、他の報告では肺野条件が用いられることも多く、測定方法の標準化が不足している状況であった。TNM第8版では、subsolid結節のT分類において、充実成分の最大長径が直接Tカテゴリに影響を及ぼすことが強調されており、CTによる充実成分径の正確な評価は、T1mi (MIA) の診断基準にも関わるため、その臨床的意義は大きい。Travis et al. JThoracOncol 2016 は、このT分類改訂の提案において、CT充実成分径の重要性を強調している。このような背景から、CT画像上の充実成分径と病理学的浸潤径との相関を詳細に検討し、最適なカットオフ値を決定することは、肺腺癌の診断と治療戦略の決定において喫緊の課題であった。本研究は、この臨床的な情報不足と測定基準の未確立という課題を解決することを目的とした。

目的

本研究の目的は、薄切りCT画像における肺野条件 LWS および縦隔条件 MWS 設定での充実成分最大径が、Travis et al. JThoracOncol 2011 による IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer: 国際肺癌学会) / ATS (American Thoracic Society: 米国胸部疾患学会) / ERS (European Respiratory Society: 欧州呼吸器学会) 分類に基づく病理学的浸潤径0.5 cm超の肺腺癌をどの程度正確に予測できるかを多施設共同で評価することである。具体的には、CT画像上の充実成分径と病理学的浸潤径との相関を詳細に解析し、病理学的浸潤径0.5 cm超を予測するための最適なCTカットオフ値を、肺野条件と縦隔条件それぞれについて決定することを目的とした。これにより、TNM第8版におけるT分類の臨床的適用を支援し、肺腺癌の診断と治療戦略の最適化に貢献することを目指した。

結果

組織学的分類と症例背景: 解析対象となった378例の肺腺癌患者は、AIS、MIA、IVA-lepidic (浸潤性粘液非典型腺癌・野口分類等に準ずる)、IVA-acinar/papillary、IVA-micropapillary/solidの5つの組織学的サブタイプに分類された。病理学的浸潤成分の平均径は0.67±0.66 cm (範囲0〜2.8 cm) であった。患者の平均年齢は66.3±10.0歳で、男性175例、女性203例であった。この多様な組織型と臨床背景は、CT画像所見と病理学的所見の相関を評価する上で適切なコホート構成であった (Table 1)。

充実成分比と組織型の相関: 充実成分比 (solid proportion) は、LWS および MWS のいずれにおいても、悪性度の高い組織型ほど増大する傾向を示した (Table 2)。グループAの LWS における充実成分比は、AISで10.5±22.17%、MIAで30.4±35.18%、IVA-lepidicで55.3±35.90%、IVA-acinar/papillaryで78.8±31.97%、IVA-micropapillary/solidで94.0±20.22%であった。MWS では、AISで3.3±14.20%、MIAで19.7±30.98%、IVA-lepidicで52.7±37.48%、IVA-acinar/papillaryで79.2±29.64%、IVA-micropapillary/solidで82.1±21.75%であった。多重比較解析では、グループAの LWS において、IVA-acinar/papillaryとIVA-micropapillary/solid間の比較 (p=0.166) を除く9つのグループ間で有意差が認められた (p<0.001)。これは、CT上の充実成分比が肺腺癌の組織学的悪性度を反映する有用な指標であることを示唆している。

CT充実成分径と病理学的浸潤径の差 (Bland-Altman法): Bland-Altman解析の結果、CTで測定される充実成分径は、病理学的浸潤径よりも全群で有意に大きく評価されることが確認された (p<0.0001)。グループAの LWS では、平均バイアスが0.55 cm (95% CI 0.48-0.62 cm)、limits of agreementが-0.79〜1.90 cmであった (Figure 3)。グループBの LWS では、平均バイアスが0.70 cm (95% CI 0.62-0.77 cm)、limits of agreementが-0.79〜2.19 cmであった。MWS ではバイアスがやや小さく、グループAで0.43 cm (95% CI 0.36-0.49 cm)、グループBで0.41 cm (95% CI 0.33-0.47 cm) であった。この結果は、CT測定値が病理学的浸潤径を過大評価する傾向があることを明確に示している。

ROC解析によるカットオフ値 (肺野条件 LWS): ROC解析により、LWS での充実成分径が病理学的浸潤径0.5 cm超を予測するための最適なカットオフ値が決定された (Figure 4)。グループAおよびBの両方において、充実成分径が0.8 cm超である場合が、病理学的浸潤径0.5 cm超の有意な予測因子であることが示された (p<0.001)。グループAでは、AUC (area under the curve: 曲線下面積) の 95% CI が 0.79-0.87 であり、感度74.3% vs 特異度85.6%であった。グループBでは、AUCの 95% CI が 0.75-0.84 であり、感度64.9% vs 特異度91.6%であった。LWS での0.8 cm超というカットオフ値は、特に特異度が高く、AISやMIAといった非浸潤性・低浸潤性病変を正確に除外する上で有用であることが示された。

ROC解析によるカットオフ値 (縦隔条件 MWS): MWS においてもROC解析が実施され、充実成分径が病理学的浸潤径0.5 cm超を予測するための最適なカットオフ値が特定された (Figure 4)。グループAおよびBの両方で、充実成分径が0.6 cm超である場合が、病理学的浸潤径0.5 cm超の有意な予測因子であることが示された (p<0.001)。グループAでは、AUCの 95% CI が 0.82-0.91 であり、感度87.2% vs 特異度77.7%であった。グループBでは、AUCの 95% CI が 0.74-0.85 であり、感度70.9% vs 特異度84.3%であった。MWS での0.6 cm超というカットオフ値は、LWS と比較して感度が高く、IVAの見逃しを減らす上で補完的な役割を果たす可能性が示唆された。

観察者間一致: グループAとB間の観察者間一致は、Bland-Altman法により評価された。結節全体の最大径 (Dlong) については、平均バイアスが-0.29±8.07 mm (95% CI -0.71 to 0.12 mm) と良好な一致が認められた。しかし、LWS における充実成分の最大径 (solid Dlong) では、平均バイアスが-2.22±11.52 mm (95% CI -2.85 to -1.59 mm) とやや大きな差が認められ、測定の再現性には課題が残ることが示唆された。

考察/結論

本多施設研究は、薄切りCT画像上の充実成分径と病理学的浸潤径との相関を詳細に評価し、TNM第8版におけるT分類の臨床的適用に重要な知見を提供した。LWS での充実成分径0.8 cm超、および MWS での0.6 cm超というカットオフ値は、病理学的浸潤径0.5 cm超のIVAをAISおよびMIAから鑑別するための有意な予測因子であることが示された。

先行研究との違い: 本研究は、CT充実成分径の測定方法や最適なカットオフ値について議論が続いていた従来の単施設研究と異なり、多施設共同で大規模なコホートを対象とし、LWS と MWS の両方で詳細な解析を行った。特に、CT充実成分径が病理学的浸潤径よりも系統的に過大評価されることをBland-Altman解析で定量的に示した点は、これまでの報告を裏付けるとともに、その程度を明確化した。また、Fleischner Societyの勧告では MWS での測定が推奨されていたが、本研究では LWS がIVAサブタイプ間の識別においてより適切である可能性も示唆された。

新規性: 本研究で初めて、多施設データを用いて、LWS での0.8 cm超、MWS での0.6 cm超という具体的なCT充実成分径のカットオフ値が、病理学的浸潤径0.5 cm超の予測に最も適していることを示した。この知見は、CT画像から肺腺癌の浸潤度を評価する際の新たな標準的な指標を提供するものであり、これまで報告されていない。

臨床応用: 本研究で得られたカットオフ値は、肺腺癌患者の診断および治療戦略の決定において、臨床的有用性が極めて高い。特に、手術適応の判断や、経過観察、生検、手術といった治療方針の選択において、CT画像所見に基づく浸潤度の予測は有用である。CT充実成分径が病理学的浸潤径を過大評価する傾向があるという知見は、TNM第8版のT分類にCT計測値を用いる際に、このバイアスを考慮する必要があることを示唆しており、臨床現場での適切な解釈を促す。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究の限界も認識されている。第一に、後向き研究であるため選択バイアスは避けられない。第二に、多施設研究であるため、使用されたCT装置やプロトコル (スライス厚、再構成法など) が統一されておらず、これが測定値のばらつきに影響を与えた可能性がある。第三に、本研究では原発巣のみを評価しており、リンパ節転移予測や生存率との相関解析は今後の研究で必要である。最後に、切除された肺組織は虚脱するため、CT画像上の腫瘍径と病理標本上の腫瘍径を正確に比較することは困難である。これらの限界を克服するためには、将来的に前向き研究や、3次元的評価法の開発、測定の標準化が求められる。

方法

本研究は、5施設 (大阪大学、国立がん研究センター東病院、広島大学、筑波大学、静岡がんセンター) における2008年1月から2013年8月までの後向き多施設共同研究 retrospective cohort (後向きコホート) 研究として設計・実施された。対象患者は、手術前6ヶ月以内に薄切りCT (スライス厚 1.25 mm 以下) を施行し、病理学的に肺腺癌と診断された628例から選定された。測定困難な結節、3 cmを超える結節、粘液性腺癌12例、非定型腺腫様過形成1例を除外した結果、最終的に378例 (平均年齢66.3±10.0歳、男性175例、女性203例) が解析対象となった (Figure 1)。本臨床研究の性質上、特定の臨床試験登録番号 (NCT番号など) は持たないが、各施設の倫理委員会による承認を得て実施された。

CT画像評価は、15名の放射線科医を2つのグループ (グループA: 9名、グループB: 6名) に分け、各グループが独立して実施した。LWS (ウィンドウ幅1500 HU、ウィンドウレベル-700 HU) と MWS (ウィンドウ幅350 HU、ウィンドウレベル40 HU) の両設定で、結節全体の最大径 (Dlong) および垂直径 (Dper)、ならびに充実成分の最大径 (solid Dlong) および垂直径 (solid Dper) を計測した。充実成分比 (solid proportion) は、LWS および MWS での充実成分径を LWS での結節全体径で除して算出した。

病理学的評価は、2名の病理医が、バーチャルスライドシステムを用いて中央評価を行った。病理医はCT所見を知らされずに診断を行い、IASLC/ATS/ERS分類に基づき、AIS、MIA、IVA (lepidic、acinar、papillary、micropapillary、solid) のいずれかに分類した。病理学的浸潤成分の最大径は、電子キャリパーを用いて計測された。

統計解析にはSAS 9.4ソフトウェアを使用し、観察者間一致は Bland-Altman (ブランド・アルトマン) 法を用いて評価した。ROC (receiver operating characteristic: 受信者動作特性) 解析 (Youdenインデックス) により、病理学的浸潤径0.5 cm超を予測するCT充実成分径の最適なカットオフ値を決定した。多重比較には Bonferroni (ボンフェローニ) 補正を適用した t検定 (t-test) を用い、連続変数の比較には必要に応じて Wilcoxon signed-rank test (ウィルコクソン符号順位検定) や Fisher’s exact test (フィッシャー直接確率検定) などの統計手法を適用し、p値 0.05 未満を統計的に有意と判断した。