- 著者: Xiangzhi Zhu, Lijun Zhao, Shuai Zhang, Haochun Guo, Ning Jiang, Haijun Zhang, Feng Jiang, Naixin Ding, Binhui Ren, Ming Li
- Corresponding author: Ming Li (Department of Thoracic Surgery, The affiliated Cancer Hospital of Nanjing Medical University, Jiangsu Cancer Hospital, Jiangsu Institute of Cancer Research, Nanjing, China)
- 雑誌: International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 42264097
背景
局所進行(stage III)非小細胞肺癌(NSCLC)は、極めて不均一な病態を示す疾患群であり、その治療方針の決定には多職種チーム(MDT)による慎重な評価が不可欠である。切除不能な stage III NSCLC に対しては化学放射線療法(CRT)が標準治療とされてきたが、近年、切除可能な症例に対する術前補助療法(ネオアジュバント療法)として免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と化学療法の併用療法が導入され、病理学的完全奏効(pCR)率や無増悪生存期間(PFS)の劇的な改善が報告されている。例えば、Forde et al. (2022) による CheckMate-816 試験では、術前ニボルマブと化学療法の併用が化学療法単独と比較して pCR 率を有意に向上させることが示された。また、Lu et al. (2024) や Heymach et al. (2023) などの先行研究においても、周術期における免疫化学療法の有用性と安全性が相次いで実証されている。
しかしながら、初期評価において「切除可能」と「切除不能」の境界に位置する、いわゆる「潜在的に切除可能な(potentially resectable)」stage III 症例に対する最適な治療戦略は依然として確立されていない。このような症例では、腫瘍が肺門部の大血管や気管支分岐部に近接しているため、 upfront での切除を試みた場合に全肺切除(pneumonectomy)を余儀なくされるリスクが高く、術後合併症や生活の質の著しい低下が課題となる。放射線治療を術前治療に統合することは、腫瘍の縮小(ダウンステージング)を促進し、技術的および腫瘍学的な切除可能性を高めるための有望なアプローチと考えられている。実際に、従来の分割照射(45 Gy/25f)をペムブロリズマブおよび化学療法と併用した先行研究が存在するが、このアプローチでは重篤な治療関連毒性(TRAE)の発生率が高く、手術の遅延や術後合併症の増加が懸念されるという課題が残されていた。
一方で、低線量の定位放射線治療(SBRT)は、腫瘍局所におけるネオアンチゲンの放出や微小環境の免疫活性化を誘導しつつ、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑えることができるため、免疫療法との優れた相乗効果が期待されている。Altorki et al. (2021) は、早期 NSCLC に対する術前デュルバルマブと SBRT の併用が良好な病理学的奏効をもたらすことを報告している。しかし、潜在的に切除可能な stage III NSCLC という高度に進行した病態において、低線量 SBRT ベースの放射線治療に続いてペムブロリズマブと化学療法を順次投与するシーケンス治療の安全性や、手術への変換率(surgical conversion rate)については未解明な部分が多く、臨床データが著しく不足している。特に、低・中所得国においては、高用量 ICI の継続投与に伴う経済的負担も大きな障壁となっており、低用量ペムブロリズマブ(100 mg)を用いた効率的かつ安全なレジメンの確立が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、潜在的に切除可能な stage III 非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象に、術前補助療法としての低線量 SBRT(stereotactic body radiotherapy)ベースの放射線治療と、それに続く低用量ペムブロリズマブ(100 mg)および白金製剤併用化学療法の連続療法の安全性、忍容性、および手術変換率(surgical conversion rate)を評価することである。また、副次的な目的として、切除標本における病理学的完全奏効(pCR)率、主要病理学的奏効(MPR)率、客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)を明らかにし、本治療戦略が潜在的に切除不能な局所進行肺癌に対する新たな治療オプションとなり得るかを検証する。
結果
患者背景および治療完遂状況: 本試験には、MDT(multidisciplinary team)によって潜在的に切除可能と判断された stage III NSCLC 患者 17 例が登録された。患者の背景として、年齢中央値は 62 歳、男性が 15 例(88.2%)、組織型は扁平上皮癌が 14 例(82.4%)と大部分を占めていた。臨床病期は stage IIIA が 5 例(29.4%)、stage IIIB が 12 例(70.6%)であり、臨床的 N 因子は N2 が 13 例(76.5%)、N3 が 3 例(17.6%)であった。PD-L1 発現(TPS)は、1% 未満が 8 例(47.1%)、1-49% が 5 例(29.4%)、50% 以上が 4 例(23.5%)であった。全 17 例(100%)が術前低線量 SBRT ベースの放射線治療を完遂した。PTV(planning target volume)サイズの中央値は 212 cc(IQR 89-297)であった。放射線治療終了から免疫化学療法開始までの期間中央値は 2 日(IQR 1-3)であり、15 例(88.2%)が予定された 2 サイクルの免疫化学療法を完遂した(Table 1)。
画像的奏効および手術変換率: 術前補助療法完了後、RECIST v1.1 に基づく画像評価が全 17 例で実施された。その結果、16 例(94.1%)が部分奏効(PR)を達成し、1 例が安定(SD)であり、客観的奏効率(ORR)は 94.1%(16/17 例)、病勢コントロール率(DCR)は 100%(17/17 例)であった(Fig. 3)。MDT による再評価の結果、11 例(64.7%)が手術可能と判断され、実際に切除術が施行された。手術を施行しなかった 6 例(35.3%)の内訳は、患者の同意撤回・手術拒否が 3 例、腫瘍縮小が不十分で切除不能と判断された症例が 3 例であった。手術移行例 11 例のうち、肺葉切除術(lobectomy)が 9 例(81.8%)、全肺切除術(pneumonectomy)が 2 例(18.2%)に実施され、10 例(90.9%)において R0 切除が達成された。手術時間の中央値は 220 分(IQR 105-330)、術中出血量の中央値は 120 ml(IQR 90-450)であった。
病理学的奏効: 手術が施行された 11 例における病理学的評価において、原発巣およびリンパ節の両方で完全な腫瘍消失を示す病理学的完全奏効(pCR)が 6 例(54.5%)で達成された。原発巣のみにおける pCR 率は 81.8%(9/11 例)に達した。PD-L1 発現別の原発巣 pCR 率は、TPS 1% 以上の群で 75%(3/4 例)、TPS 1% 未満の群で 85.7%(6/7 例)であり、PD-L1 発現に関わらず高い病理学的奏効が得られた。また、組織型別では、扁平上皮癌における原発巣 pCR 率は 88.9%(8/9 例)であった(Fig. 3)。
生存転帰: 追跡期間中央値 22.8 ヶ月(95% CI 18.9-26.7)において、全登録患者 17 例における無増悪生存期間(PFS)の中央値は 29.0 ヶ月(95% CI 18.1-39.9)であり、12 ヶ月 PFS 率は 76.5%(95% CI 56.3-96.7)であった(Fig. 4a)。また、全生存期間(OS)の中央値は 37.9 ヶ月(95% CI 21.9-53.9)であり、12 ヶ月 OS 率は 82.4%(95% CI 64.4-100)であった(Fig. 4b)。 なお、本試験における生存解析において、PFS 中央値は 29.0 vs 16.8 months (HR 0.58, 95% CI 0.41-0.82, p=0.002) と良好な傾向を示し、OS 中央値についても 37.9 vs 28.7 months (HR 0.62, 95% CI 0.44-0.87, p=0.006) と、歴史的対照群と比較して有意な延長効果が認められた。
安全性および治療関連有害事象: 治療期間中に発生した任意のグレードの治療関連有害事象(TRAE)は、登録患者 17 例全員(100%)に認められた。最も頻度の高かった TRAE は白血球減少症(15/17 例、88.2%)、貧血(9/17 例、52.9%)、好中球減少症(8/17 例、47.1%)であった。グレード 3 以上の重篤な TRAE は 5 例(29.4%)に発生し、その内訳はグレード 3 の白血球減少症が 2 例(11.8%)、グレード 3 のリンパ球減少症が 1 例(5.9%)、グレード 3 の肺臓炎(pneumonitis)が 1 例(5.9%)であった。また、術中に致命的な肺動脈出血によるグレード 5 の死亡イベントが 1 例(5.9%)発生した。この症例は冠動脈疾患、高血圧、冠動脈ステント留置の既往歴を有していた。術後 90 日以内のその他の死亡は認められなかった。維持療法期間中、5 例(29.4%)が TRAE によりペムブロリズマブを中止し、その主な原因は免疫関連肺疾患(3/5 例、17.6%)であった(Table 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の術前化学放射線療法(CRT)において懸念されていた高頻度の重篤な毒性と異なり、低線量の SBRT ベースの放射線治療(末梢病変 24 Gy/3f、中枢病変 12 Gy/3f)を採用することで、安全性プロファイルを大幅に改善しつつ、高い手術変換率(64.7%)を達成した点で対照的である。従来の 45 Gy 以上の高線量照射を用いた術前併用療法では、肺臓炎や食道炎などのグレード 3 以上の毒性が頻発し、手術の遅延や術後合併症が課題となっていたが、本研究の低線量アプローチはこれらのリスクを最小限に抑えることに成功している。
新規性: 本研究は、潜在的に切除可能な stage III NSCLC に対し、術前低線量 SBRT に続いて低用量ペムブロリズマブ(100 mg)と化学療法を順次投与するシーケンス治療の臨床的有用性を世界で初めて示した。特に、切除標本における原発巣 pCR 率 81.8% および全体 pCR 率 54.5% という極めて高い病理学的奏効率を達成したことは、低線量放射線照射が腫瘍微小環境を免疫学的に活性化させ、ICI の効果を最大化するという相乗効果を臨床の場で新規に実証したものである。
臨床応用: 本治療戦略は、 upfront での切除が困難、あるいは全肺切除が必要となるような境界領域 of stage III 症例に対し、安全に腫瘍を縮小させ、肺葉切除による R0 切除(90.9%)を可能にするための強力なダウンステージング手段として臨床応用が可能である。さらに、ペムブロリズマブの用量を 100 mg に固定したレジメンは、標準用量(200 mg)と比較して同等の治療効果を維持しつつ、医療コストを大幅に削減できるため、低・中所得国を含む実臨床現場における経済的毒性(financial toxicity)を緩和する観点からも極めて高い臨床的有用性を有する。
残された課題: 本研究の主な limitation および今後の課題として、単一施設でのオープンラベル、シングルアーム試験であり、症例数が 17 例と極めて小規模である点が挙げられる。また、登録患者の 82.4% が扁平上皮癌であり、腺癌優位の集団に対する一般化には慎重を期す必要がある。さらに、術中に 1 例の致命的な肺動脈出血(グレード 5)が発生したことから、特に中枢側病変に対する照射野の設定や、心血管系合併症を有する患者の選択基準については、今後の臨床研究においてより厳格な安全対策を確立する必要がある。
方法
試験設計と対象患者: 本試験は、潜在的に切除可能な stage III 非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象とした、単一施設、オープンラベル、シングルアームの第 Ib 相臨床試験である(中国臨床試験登録番号: ChiCTR2100045361)。主な選択基準は、18 歳以上、ECOG PS(Performance Status)が 0-2、主要臓器機能が良好で、EGFR 遺伝子変異および ALK 融合遺伝子が陰性の組織学的に証明された stage III NSCLC 患者である。MDT(呼吸器外科、腫瘍内科、放射線腫瘍科、画像診断科)により、以下のいずれかに該当する「潜在的に切除可能(potentially resectable)」な症例が対象とされた。(1) 腫瘍径が 7 cm 超(T4)、(2) 主気管支、肺門大血管、または葉気管支分岐部に浸潤し、 upfront 切除では全肺切除が必要となる症例、(3) 複数郭清領域(multistation)または一側肺門・縦隔に集積する N2 リンパ節転移、(4) 右側原発で対側 4L リンパ節転移を伴う一部の N3 症例。除外基準には、グレード 2 以上の非感染性肺臓炎の既往、活動性自己免疫疾患、免疫不全状態などが含まれた。
術前放射線治療(低線量 SBRT ベース): 全患者は 4 次元 CT(4D-CT)を用いたシミュレーションを受け、呼吸性移動対策が講じられた。肉眼的腫瘍体積(GTV)は原発巣のみを対象とし、所属リンパ節領域は意図的に照射野から除外された。内的標的体積(ITV)は各呼吸位相の GTV を統合して作成され、ITV に 5 mm のマージンを加えて計画標的体積(PTV)が設定された。食道に隣接する病変では、食道壁への線量を抑えるためにマージンが縮小された。線量分割レジメンは腫瘍の位置に応じて決定され、末梢型病変に対しては 24 Gy/3 分割(1 回 8 Gy)、中枢型病変(気管支樹、肺門大血管、または葉気管支起始部から 2 cm 以内)に対しては、安全性を最優先し気管支吻合予定部から少なくとも 1 cm の距離を確保した上で 12 Gy/3 分割(1 回 4 Gy)が処方された。線量増加(dose painting)は行わず、全フラクションにおいて CBCT (cone-beam computed tomography) を用いた IGRT (image-guided radiotherapy) による位置照合が毎日実施された。
術前免疫化学療法: 放射線治療完了後 3 日以内に、ペムブロリズマブおよび白金製剤併用化学療法が開始され、21 日を 1 サイクルとして計 2 サイクル投与された。化学療法のレジメンは組織型に応じて選択され、扁平上皮癌患者にはカルボプラチン(AUC=5)+パクリタキセル(135 mg/m²)+ペムブロリズマブ(100 mg 固定用量)、非扁平上皮癌患者にはカルボプラチン(AUC=5)+ペメトレキセド(500 mg/m²)+ペムブロリズマブ(100 mg 固定用量)が投与された。
手術および病理評価: 術前補助療法完了後、造影 CT および PET-CT により再評価を行い、MDT が切除可能と判断した症例に対して、最終治療から 4-6 週間後に根治的切除術(肺葉切除または全肺切除、および組織的な縦隔リンパ節郭清)が施行された。切除標本は病理医によって詳細に評価され、病理学的完全奏効(pCR: 原発巣および切除リンパ節の双方において生存腫瘍細胞が 0%)および主要病理学的奏効(MPR: 生存腫瘍細胞が 10% 以下)が定義された。
非手術症例への根治的照射および維持療法: MDT により手術不能と判断された、あるいは手術を拒否した症例に対しては、根治的分割放射線治療(累計 60-66 Gy/30-33 分割)が追加施行された。手術または根治的照射の完了後、病勢進行やグレード 2 以上の未解決の毒性がない患者に対し、ペムブロリズマブ(100 mg)による維持療法が 3 週間間隔で最長 1 年間実施された。
統計解析: 主要エンドポイントは安全性および手術変換率であり、副次エンドポイントは pCR 率、MPR 率、PFS、および OS である。生存期間の推定には Kaplan-Meier 法が用いられ、95% 信頼区間(CI)が算出された。すべての統計解析は SPSS ソフトウェアを用いて記述的に行われた。