- 著者: Roulleaux-Dugage M, Yurchenko A, Nikolaev S, Nabet B, Corgnac S, Anquetil C, Srivastava MK, Gayevskiy V, McNally V, Mezquita L, Perfettini J-L, Mouraud S, Massard C, Besse B, Loriot Y, Marabelle A, Chaput N, Auclin E, et al.
- Corresponding author: Edouard Auclin (Hôpital Européen Georges Pompidou, Paris, France)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-05
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1136/jitc-2026-014991
背景
肝転移 (LM: liver metastasis; 肝転移) は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) において免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) に対する抵抗性と強く関連する予後不良因子として知られており、黒色腫・大腸癌・NSCLCを含む複数の癌種でLMが免疫療法の効果を大幅に減弱させることが報告されてきた。LMが誘導する免疫抑制メカニズムとしては、マクロファージを介したCD8+T細胞アポトーシス (Xu 2021)、制御性T細胞 (Treg) の浸潤増加 (Yu 2021)、肝類洞内皮細胞による転移促進環境の形成などが知られているが、これを治療的に克服する手段はこれまで確立されていなかった。
血管内皮増殖因子A (VEGF-A: vascular endothelial growth factor A) 遮断薬であるbevacizumabは、TregのリクルートメントとエフェクターT細胞の浸潤を阻害するVEGFの免疫抑制作用を打ち消す補完的機序により免疫チェックポイント阻害の効果を増強する可能性がある。第III相試験IMpower150では (Socinski 2018)、非扁平上皮進行NSCLC (ns-aNSCLC) において化学療法 (CT) + atezolizumab (ICB) + bevacizumab (抗血管新生薬; AA) がCT+bevacizumabに対して有意な生存改善を示した。また同時期の第III相試験IMpower130 (West 2019) ではCT+atezolizumabの有効性が確立された。しかし、LM陽性 (LM+) サブグループにおいてbevacizumabの追加がCT+免疫療法 (CT+IT) の抵抗性を克服するかを直接比較したエビデンスは未解明のまま不足していた。
本研究は、LM+ ns-aNSCLC患者を対象としたCT+IT vs CT+IT+AAの初の直接比較を行うことで、bevacizumabがLM特異的な免疫療法抵抗性を克服するかを評価するとともに、LMの腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の特性をバルクRNA-seq・scRNA-seq (単細胞RNAシーケンシング) で探索し、VEGF-Aを介する免疫抑制機序を解明しようとした点に研究の新規性がある。
目的
ns-aNSCLC患者においてLMの予後的・予測的価値を評価し、LM+ 患者でbevacizumabの追加がCT+IT抵抗性を克服するかを検討する。また、LMに特有のTMEを転写・単細胞レベルで解明し、VEGF-Aシグナルが媒介する免疫抑制機序を探索する。
結果
LM+患者はIMpower130でCT+ITから生存ベネフィットを得られない:
本解析にはIMpower130 (n=675) およびIMpower150 (n=1,038) の合計n=1,713名が含まれ、このうちn=236名 (13.8%; IMpower130: n=100/675 [14.8%]、IMpower150: n=136/1,038 [13.1%]) がLM+であった。LM+患者はLM−患者と比べて転移部位数が多く、血清アルブミン値が低く、Lung Immune Prognostic Index (LIPI) スコアが不良であった (Table 1)。IMpower130においてLM+患者 (n=100) のうちCT群31名、CT+IT群69名を解析すると、CT+IT群ではLM+がLM−と比較してPFSの有意な短縮 (4.2 vs 7.3ヶ月、p<0.001) およびOS短縮 (10.0 vs 21.1ヶ月、p<0.001) を示した (Fig 1)。さらに重要なことに、LM+患者ではCT+ITがCT単独と比較してPFS (4.2 vs 4.4ヶ月; p=0.78) およびOS (10.0 vs 8.8ヶ月; p=0.85) いずれも有意差がなく、LM−患者が経験した明確な生存改善は認められなかった。
IMpower150においてbevacizumabがLM+患者のCT+ITに特異的に相乗効果を発揮する:
IMpower150のLM+患者 (n=136) においてはCT+AA群 (n=47)、CT+IT群 (n=42)、CT+IT+AA群 (n=47) を比較した。CT+IT+AA群はLM+患者に対してCT+IT群と比較してPFSおよびOSの有意な改善を示した (HR for PFS: 0.58、p=0.03; HR for OS: 0.50、p=0.02)。この効果はLM−患者では認められなかった。両試験の統合コホートでの多変量解析においても、bevacizumabの効果はLM+患者に限定されていた (PFS: HR 0.59、95%CI 0.38-0.91、p=0.018; OS: HR 0.50、95%CI 0.29-0.87、p=0.014)。一方LM−患者ではbevacizumabの追加によるOS改善は認められなかった (HR 1.12、95%CI 0.90-1.41、p=0.301)。これらの結果はCT backbone差異によるバイアスでないことも確認された (IMpower130 vs IMpower150 対照群間: PFS p=0.14、OS p=0.53) (Fig 2)。
CT+IT+AA後のLM+患者はLM−患者と同等の予後に到達する:
統合コホートの分析から、CT+IT+AAを受けたLM+患者の転帰はLM−患者のCT+IT群と同等レベルに回復することが示された。具体的には、CT+IT+AA治療LM+患者の中央PFS 7.4ヶ月はLM− CT+IT群の中央PFS 7.1ヶ月と同等であり (p=0.84)、中央OS 16.8ヶ月もLM− CT+IT群の19.8ヶ月と統計学的に差がなかった (p=0.40) (Fig 2B)。subgroup解析ではLM+患者がCT+IT+AAから特異的にOSベネフィットを得た唯一のサブグループであり (p=0.10 for PFS trend)、CT+AA対CT間やCT+IT対CT間ではこのLM特異的相互作用は認められなかった (p=0.42)。CT+IT+AAはLM+患者において、CT単独と比較してPFS (HR 0.49、p=0.006) およびOS (HR 0.52、p=0.03) の両者を有意に改善した唯一のレジメンであった (Fig 2C)。
LMの腫瘍微小環境はmyeloid enrichment・リンパ球除外を特徴とする:
IMpower150のバルクRNA-seq (n=922、うちn=36 LM) およびMETA-PRISMコホート (ns-NSCLC、n=165、うちn=19 LM) の解析では、LMサンプルが他の転移部位と比較して特徴的な遺伝子発現プロファイルを示し、IMpower150のLMの81% (29/36例)、META-PRISMのLMの53% (10/19例) が独自のクラスターを形成した (Fig 3A)。VEGFA遺伝子発現はLMで有意に高く (META-PRISM: p=0.031、Mann-Whitney U検定、two-sided)、IMpower150でも同様の傾向が認められた (p=0.092)。一方、PDCD1 (PD-1コード遺伝子) の発現はLMで有意に低値であった (IMpower150: p=1.1e-05、META-PRISM: p=2.7e-06)。CIBERSORTx (細胞種デコンボリューションアルゴリズム) による免疫細胞分画解析では、LMの免疫コンパートメントがマクロファージ (M1/M2/M0) とモノサイトで有意に富化され、他部位と比較してリンパ球系細胞が減少していた (Fig 3D)。
マクロファージがVEGF-A/VEGFR-1の自己分泌・傍分泌シグナルを仲介する:
公開されているLUAD転移性scRNA-seqデータセットを用い、n=20サンプル (LM n=4、胸膜 n=4、リンパ節 n=4、原発腫瘍 n=8) から合計15,156個の細胞を解析した (Fig 4A)。VEGFA遺伝子はマクロファージ・肥満細胞・悪性細胞・線維芽細胞で高発現していた。注目すべきことに、FLT1 (VEGFR-1: VEGF受容体1型) がマクロファージの40%で発現しており、さらにその25%がVEGFAとFLT1を共発現することが確認され、マクロファージにおけるVEGF-A/VEGFR-1の自己分泌ループが示唆された (Fig 4C)。KDR (VEGFR-2: VEGF受容体2型) とFLT1は主に内皮細胞で発現し、LMの内皮細胞では他部位と比較して発現が高かった。CellChat (細胞間コミュニケーション解析ソフトウェア) によるシグナル解析では、LMではマクロファージと内皮細胞間のVEGFA-VEGFR1/2相互作用が原発腫瘍より顕著であり、マクロファージ内でのVEGFA-VEGFR1自己分泌ループも確認された (Fig 4D, 4E)。
考察/結論
① 先行研究との違い:本研究は、ns-aNSCLC LM+患者においてCT+ITとCT+IT+AAを直接比較した初の解析である。IMpower150のサブグループ解析ではLM+患者でCT+IT+AAによる生存への悪影響がないことが示唆されていたが、CT+ITとの直接比較は行われておらず、bevacizumabのLM+特異的ベネフィットを確認した点で先行研究と異なる。また近年のHarmoni-6試験やCAMPASS試験においても抗PD-1/抗VEGF-A二重特異性抗体 (ivonescimab) や抗VEGFR1/2/3マルチキナーゼ阻害薬 (anlotinib) がLM+患者で優先的にベネフィットを示す傾向が認められており、本研究の知見と一致する。一方、LEAP-007試験ではpembrolizumab+lenvatinibがLM特異的な改善を示さず、対象集団 (組織型・PD-L1選択・層別化) の違いが結果の相違に寄与している可能性がある。
② 新規性:本研究は新規に、LM+を有するns-aNSCLC患者においてbevacizumabがchemoimmunotherapyの免疫抵抗性を克服することを多施設第III相試験の統合解析から示した初のエビデンスである。さらに、scRNA-seqとCIBERSORTxデコンボリューションを組み合わせることで、LM特有のTME (VEGF-A高発現・マクロファージ優勢・リンパ球除外) の分子基盤とVEGFA/VEGFR-1マクロファージ自己分泌ループという具体的な免疫抑制機序を初めて提示した。免疫抑制性マクロファージがSIRPα、CD39、Siglec-10、VISTAなどの抑制性分子を強発現することも新規知見として付加されており (Lombardi et al. JHepatol 2026 が肝細胞癌で示した骨髄系免疫抑制表現型と機序的な類似性が示唆される)。
③ 臨床応用:本知見はLM+ ns-aNSCLC患者の一次治療における臨床応用として重要な示唆をもたらす。CT+atezo+bevacizumabはLM+ ns-aNSCLC患者に対して考慮すべき有効な選択肢となりうる。現在のICBを主体とした一次治療では、組織型が一次治療選択に影響することが知られており (Li et al. FrontImmunol 2026)、LM statusという臓器転移サイトもまた治療選択の予測バイオマーカーとして前向き試験での評価が必要と考えられる。長期的なchemoimmunotherapy転帰については Baramidze et al. JThoracOncol 2026 が5年データで示すように、患者選択が長期アウトカムを大きく規定する。
④ 残された課題:本研究の限界として、LM+患者の割合が13.8%と少なく、2試験からの統合解析であるため試験間の患者背景の差異が交絡因子となりうること、さらにbevacizumabの効果が生存改善に寄与するか否かを前向き無作為化比較試験で確認する必要があることが挙げられる。また、VEGF-A/VEGFR-1自己分泌ループ仮説はin vitro・動物モデルでの裏付けはあるが、LMにおいてbevacizumabがこのループを直接遮断するかどうかは今後の検討課題として残された課題である。臓器特異的な腫瘍免疫相互作用を解明するためには、原発巣と転移巣の対応サンプルを含む縦断的な前向き採取研究が求められる。LM statusを今後の第III相試験の層別化因子として前向きに組み込むことが重要な方向性として提唱された。
方法
試験デザイン:IMpower130 (NCT02367781、n=675、CT vs CT+atezolizumab、2:1無作為化、オープンラベル第III相試験) およびIMpower150 (NCT02366143、n=1,038、CT vs CT+bevacizumab vs CT+bevacizumab+atezolizumab、1:1:1無作為化) の2試験から、EGFR/ALK野生型でchemotherapy-naiveのns-NSCLC成人患者を対象とした。いずれの試験もLM有無を層別因子として設定済みであった。データはVIVLIデータ共有プラットフォームより入手した。
統計解析:カテゴリ変数のχ²検定・Fisherの正確検定、連続変数の非対応t検定・Wilcoxon符号順位検定・ANOVAにより群間比較を実施した。生存解析にはKaplan-Meier法と対数順位検定を用い、多変量解析にはCox比例ハザード回帰モデルを採用した (有意水準: p<0.05 [two-sided]、交互作用検定: p<0.05 [two-sided])。統計解析はRソフトウェアで実施した。
トランスレーショナル解析:バルクRNA-seqはIMpower150のFFPE (ホルマリン固定パラフィン包埋) 組織から実施 (Qiagen miRNeasy FFPE kit、Illumina TruSeq Stranded Total RNA法、Illumina NovaSeq 6000、50bpペアエンド、80M total read depth)。TPM正規化→log2変換後、CIBERSORTx (LM22 signature) で細胞種デコンボリューションを実施した。独立コホートとしてMETA-PRISM (NSCLC、n=165、LM n=19) を用いた。scRNA-seqはLUADの既公開データセット (3CA curated cancer atlas) を使用し、n=20サンプル・15,156細胞をSeurat V.5.0.2で処理し、Harmony統合アルゴリズムによりバッチ補正・クラスタリング (50 PCA成分、解像度1.0) を実施した。細胞間コミュニケーション解析はCellChat解析ソフトウェアをVEGFA axisに適用した。