• 著者: Limin Zhang, Yidan Xu, Jing Guo, Xin Lv, Libin Liao, Yajie Zhang, Jiyang Li, Xinxin Gu, Hu Li, Qi Pan, Shengbin Bai
  • Corresponding author: Limin Zhang (Xinjiang Medical University)
  • 雑誌: Research Square
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-10-21
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.21203/rs.3.rs-7555077/v1

背景

乳がんは世界的に女性で最も頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、近年では若年層での罹患率上昇が報告されている。治療戦略の進歩により死亡率は低下しているが、ルミナールA型における内分泌療法の獲得耐性や、明確な治療標的を欠くトリプルネガティブ乳がん(TNBC)など、依然として理想的な転帰を得られない症例が多く存在する。特にTNBCにおいては、腫瘍が免疫監視および排除から逃れるための多様なメカニズムを用いており、その中核となるのが細胞表面の主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)の発現低下である。先行研究によれば、MHC-Iの欠損は抗腫瘍免疫および免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)への反応性を消失させることが示されており、またTNBC患者の腫瘍内ではMHC-I発現の不均一性が認められることが報告されている (Taylor et al. 2024)。

一方で、自然免疫細胞であるNK細胞由来の細胞外小胞(NK-EVs)は、小径で免疫原性が低く、固形腫瘍の酸性微小環境において腫瘍細胞に取り込まれやすい特性を持つ。NK-EVsはパーフォリンやグランザイムBなどの細胞毒性タンパク質を輸送し、直接的に腫瘍細胞を殺傷するだけでなく、腫瘍誘発性の免疫抑制状態を反転させ、他の免疫細胞の細胞毒性を回復させる免疫調節能を有することが既報で示唆されている (Wu et al. 2021)。しかし、NK-EVsが乳がん細胞におけるMHC-I提示経路にどのような影響を与え、それがCD8+ T細胞やNK細胞の抗腫瘍効果をどのように増強させるかという詳細な分子メカニズムは未解明であり、治療戦略としての活用に向けた知見が不足している。したがって、NK-EVsによるMHC-I経路の活性化能とその治療的ポテンシャルを明らかにすることは、乳がん免疫療法の限界を克服するための重要な課題である。

目的

本研究の目的は、NK細胞由来細胞外小胞(NK-EVs)が乳がん細胞に内部移行し、MHC-I提示に関連するタンパク質群の発現を調節することで、抗腫瘍免疫応答を増強させるメカニズムを解明することである。具体的には、NK-EVsによる乳がん細胞の増殖抑制効果を検証し、定量的プロテオミクス解析を用いてMHC-I経路に関与する標的タンパク質を同定する。さらに、NK-EVsによるMHC-I発現上昇がCD8+ T細胞およびNK細胞による認識・殺傷能をどの程度亢進させるかをin vitroおよびin vivo(MDA-MB-231担がんマウスモデル)で評価し、NK-EVsとNK細胞の併用療法の有効性と安全性を検証することを目的とした。

結果

NK-EVsの同定と乳がん細胞に対する直接的な増殖抑制効果: 超遠心法により単離したNK-EVsは、NTA (nanoparticle tracking analysis) 解析において直径 112.1 ± 48.3 nm の均一な粒子であり、濃度は約 3.5×10¹² particles/mL であった (Fig. 1B)。TEM (transmission electron microscopy) 観察では膜構造を持つ球状構造が確認され、Western blottingによりエキソソームマーカーであるCD63, Alix, TSG101および細胞毒性マーカーであるperforin, granzyme Bの発現が確認された (Fig. 1D)。Dilで標識したNK-EVsは、MCF-7およびMDA-MB-231細胞の細胞質および核周辺に内部移行することが共焦点顕微鏡で示された (Fig. 1E)。RTCA (Real-Time Cell Analysis) を用いた増殖抑制試験では、NK-EVsは用量依存的に乳がん細胞の増殖を抑制し、投与48時間後にはMCF-7で 96.50%、MDA-MB-231で 94.68% という高い抑制率を示した (Fig. 1H-I)。CCK-8アッセイにおいても、同様に用量依存的な細胞生存率の低下が確認された (Fig. 1J-K)。

定量的プロテオミクスによるMHC-I提示経路の活性化同定: MCF-7細胞にNK-EVs (25 µg/mL) を投与し、4D-FastDIA定量的プロテオミクス解析を行った結果、38個の変動タンパク質(上昇30個、低下8個)が同定された (Fig. 2A-B)。GO (Gene Ontology) およびKEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) 解析により、これらのタンパク質はMHC-Iおよび免疫関連経路に有意に濃縮されていた (Fig. 2C-D)。特にPPI (protein-protein interaction) ネットワーク解析において、抗原ペプチド輸送およびMHC-I発現に不可欠な PSMB9, PSMB10, TAP1, TAP2, TAPBP (transporter antigen processing binding protein), B2M などのタンパク質が有意に上昇していることが判明した (Fig. 2E)。この結果はMDA-MB-231細胞においても同様の傾向を示した (SFig (supplementary Figure) 2)。

MHC-I関連タンパク質発現の上昇と免疫細胞による殺傷能の増強: Western blottingにより、NK-EVs投与後のMCF-7細胞において PSMB9, PSMB10, TAP2, TAPBP, B2M, MHC-I, および STAT1 の発現上昇が確認された (Fig. 3A-B)。MDA-MB-231細胞においても PSMB9, PSMB10, TAP2, TAPBP の発現が有意に上昇していた (Fig. 3C-D)。これらのMHC-I発現上昇が免疫細胞の活性に与える影響を検討したところ、NK-EVsとCD8+ T細胞、またはNK-EVsとNK細胞を併用した群において、単剤群よりも有意に高い腫瘍細胞増殖抑制率が認められた (Fig. 4A-H)。特にMDA-MB-231細胞に対するNK細胞単剤療法と比較して、NK-EVs併用群では抑制率が 87.93% に達し、各in vitro assayは少なくとも3回の独立実験のmean ± SEMとして示され、統計的に有意な差が示された (p < 0.05)。CCK-8アッセイでも、NK-EVsの前処理がCD8+ T細胞およびNK細胞による細胞生存率の低下を著しく増強することが示された (Fig. 4I-L)。

in vivoにおけるNK-EVsの腫瘍ホーミング能と治療効果: Dil標識NK-EVsをMDA-MB-231担がんマウスに静脈内投与しIVIS (in vivo imaging system) で観察したところ、コントロールマウスでは集積が見られなかったのに対し、担がんマウスでは腫瘍部位に明らかな蛍光信号の集積が認められた (Fig. 5B)。ex vivoイメージングでは、NK-EVsは肝臓にも分布したが、腫瘍組織において肝臓よりも強い蛍光信号が検出された (Fig. 5C)。治療 efficacy の検証として、control、NK細胞単剤群 (1×10⁶ cells/mouse)、NK-EVs (100 µg/mouse) + NK細胞併用群を各 n = 6 mice/group で比較したところ、併用群において腫瘍増殖が有意に抑制された (Fig. 5F-I)。併用群の腫瘍重量および体積は他の2群と比較して有意に減少しており (Fig. 5E, 5J)、H&E染色では腫瘍細胞のアポトーシス増加が認められた (Fig. 5L)。なお、全治療期間を通じてマウスの体重に有意な変動はなく (Fig. 5K)、肝臓などの主要臓器に病理学的損傷は見られなかったため、本併用療法は良好な安全性を示すことが確認された。

腫瘍組織および臨床検体におけるMHC-I経路の調節: MDA-MB-231担がんマウスをPBS群とNK-EV群に n = 6 mice/group で割り付け、NK-EVs (500 µg) を投与し24時間後に回収した腫瘍組織を解析した結果、Western blottingおよびIHC (immunohistochemistry) により PSMB9, PSMB10, TAP2, TAPBP, B2M の発現が有意に上昇していた (Fig. 6A-C)。また、臨床的な乳がん患者の病理切片を用いたIHC解析において、Stage II の腫瘍では PSMB9, PSMB10, TAP1, TAP2, TAPBP, B2M の発現が高く、Stage III などの進行例と比較してこれらのタンパク質発現レベルが予後に関連している可能性が示唆された (Fig. 6D)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のNK細胞を用いた治療は、T細胞に比べて免疫原性が低いものの、腫瘍微小環境(TME)への浸潤能や腫瘍細胞の免疫逃避メカニズム(MHC-Iのダウンレギュレーション)により効果が限定的であった。本研究は、NK細胞そのものではなく、その由来細胞外小胞(NK-EVs)を用いることで、腫瘍への高いホーミング能を確保しつつ、腫瘍細胞側のMHC-I提示経路を能動的に再活性化させるというアプローチをとっており、単なる細胞毒性の付与とは異なる免疫調節メカニズムを提示した点で、これまでの報告と異なっている。

新規性: 本研究で初めて、NK-EVsが乳がん細胞に内部移行し、STAT1の活性化を介して PSMB9/10 や TAP1/2 などの抗原提示装置(APM)を包括的にアップレギュレートすることを明らかにした。これにより、腫瘍細胞が「隠していた」内因性ペプチドの提示が促進され、CD8+ T細胞による認識能およびNK細胞の細胞毒性が相乗的に増強されることを示した点は極めて新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、NK-EVsを単独またはNK細胞、あるいは免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)や養子免疫細胞療法と組み合わせることで、MHC-I欠損による免疫逃避を克服する新たな治療戦略としての臨床的意義を持つ。特に、TNBCのような治療標的が少ない疾患において、腫瘍の抗原提示能を回復させる「感作剤」としてNK-EVsを利用することは、bench-to-bedsideの展開が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、NK-EVs内部のどの成分(特定のmiRNAやタンパク質)がSTAT1のリン酸化を誘導し、MHC-I経路を活性化させているのかという詳細な分子メカニズムの特定が残されている。また、Limitationとして、本研究ではヌードマウスモデルを使用しているため、完全な免疫能を持つモデルでの検証や、ヒトでの長期的な安全性および有効性の評価が必要である。

結論: 総括して、NK-EVsは乳がん細胞のMHC-I経路を活性化させ、免疫細胞による殺傷能を増強させる革新的なナノ治療候補であり、次世代の乳がん免疫療法における有望なツールとなり得ることが示唆された。

方法

細胞およびNK-EVsの調製: 健康ドナー(20-30歳)から採取した全血を用い、PluriSpin Human NK Cell Enrichmentキットを用いてNK細胞を分離し、市販のNK細胞増幅用サイトカインキットおよび無血清NK細胞培地を用いて約450倍に増幅させた。純度はフローサイトメトリー(CD3-, CD56+, CD16+)で確認した。CD8+ T細胞も同様に分離し、IL-2 (1000 U/ml) を添加して増幅させた。NK-EVsは、NK細胞の培養上清を回収し、既報の ultracentrifugation(超遠心法)を用いて単離した。

解析手法: NK-EVsの物理的特性は、ZetaViewを用いたNTA (nanoparticle tracking analysis) およびJEOL製透過電子顕微鏡を用いたTEM (transmission electron microscopy) で評価した。内部移行能はDil標識NK-EVsを用い、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で観察した。細胞増殖抑制能は、Agilent社のRTCA (Real-Time Cell Analysis) システムおよびCCK-8アッセイを用いて定量した。プロテオミクス解析は、control群とNK-EV群を n ≥ 3 で設定し、NK-EVs (25 µg/mL) を投与したMCF-7細胞を用い、4D-FastDIA法および質量分析計を用いて実施し、GOおよびKEGG解析でパスウェイを同定した。

動物実験: BALB/c ヌードマウスを用い、MDA-MB-231細胞(1×10⁷ cells)を右腋窩に皮下注射して担がんモデルを作製した。NK-EVsのホーミング能は、Dil標識NK-EVs 500 µg/100 µLを静脈内投与し、IVIS Spectrumを用いて4、8、24時間のin vivoおよび24時間後のex vivoで検出した。治療 efficacy 試験では、n=6 mice/group とし、NK細胞 (1×10⁶ cells/mouse) と NK-EVs (100 µg/mouse) を規定のスケジュールで静脈内投与した。

統計解析: データは平均値 ± 標準偏差または図注のmean ± SEMで表記し、2群間の比較には独立サンプル t検定、3群以上の比較には one-way ANOVA を用いた。統計ソフトは SPSS 26.0 および GraphPad Prism 8.0 を使用し、p < 0.05 を有意とした。