• 著者: Van Vyve T, Chanez P, Lacoste JY, Bousquet J, Michel FB, Godard P
  • Corresponding author: Philippe Godard, MD, FCCP (Service des Maladies Respiratoires, CIIU, Montpellier, France)
  • 雑誌: Chest
  • 発行年: 1992
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 1643913

背景

気管支肺胞洗浄 (BAL) は、Reynolds and Newhall (1974) による最初の報告以来、下気道の細胞およびメディエーターを評価するための重要な臨床的・研究ツールとして広く用いられてきた。この技術は気道内腔に動員される細胞やメディエーターの定量的測定を可能にするものの、BALが肺のどのセグメントを検査しているのかは不明確であり、大気道、小気道、肺胞を含む広範な領域を対象としていた。気管支疾患の研究にBAL解析が広く用いられる中で、真の気管支サンプルを得る試みがなされてきた。二重バルーンカテーテルを用いた隔離気道セグメント洗浄は、真の気管支サンプルを得るための最良の技術とされたが、この方法は大規模な実施が困難であり、大気道にのみ適用可能で、回収される液量も比較的少なかった (Eschenbacher and Gravelyn, 1987)。

そこで、BAL液を複数の分画に分離し、最初のサンプルを気管支に関連するもの、後続のサンプルをより遠位の細気管支や肺胞に関連するものとする方法が提案された。Kelly et al. (1987) は、デジタルサブトラクションラジオグラフィーを用いて、洗浄中に最初に注入された50 mLの生理食塩水が気管支鏡の近くに留まり、近位気道のみをサンプリングする可能性が高いことを示した。これに対し、後続の分画は気道全体に広く拡散すると推定された。

1981年に気管支鏡検査とBALが喘息に適用されて以来、喘息の病態理解は大きく進展し、喘息患者のBAL液細胞組成における主要な違いは好酸球数の増加であることが多くの研究で報告された (Bousquet et al., 1990; Lam et al., 1985; Kirby et al., 1987; Adelroth et al., 1990)。しかし、喘息患者における気管支サンプルとより遠位のサンプル間の細胞組成の差異については、先行研究が少数かつ小規模であり (Adelroth et al., 1990の22例など)、特に様々な重症度の喘息患者を対象とした大規模な比較研究は不足していた。喘息の病態における好酸球性気道炎症の局在(近位気道対遠位気道・肺胞)は、疾患の理解、治療戦略の最適化、および炎症バイオマーカーの解釈において重要な未解明な課題であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。 (1) 様々な重症度の喘息患者100例と正常対照者31例において、気管支肺胞洗浄液 (BALF) を気管支分画 (最初の50 mL) と肺胞分画 (後続の200 mL) に分けて細胞組成を比較し、両分画間の差異を定量的に検証すること。これにより、気管支と肺胞の細胞内容が比較可能であるか否かを判断する。 (2) 喘息患者と正常対照者間で、各分画の細胞組成にどのような違いがあるかを特定すること。特に、喘息の主要な特徴である好酸球性炎症が、気管支分画と肺胞分画のいずれか、または両方で増加しているかを評価する。 (3) 各分画における好酸球増多が、喘息の臨床的重症度指標であるAasスコアおよび一秒量 (FEV₁) とどのように相関するかを検討すること。これにより、喘息の重症度評価における各分画の好酸球の有用性を評価し、BALFのプール解析が喘息の気道炎症を適切に評価できるか否かを検討する。

結果

患者特性とBALの安全性: 患者の特性はTable 1に示されている。Aasスコアは1(軽症喘息)が23例、2(中等症喘息)が38例、3(中等度重症喘息)が31例、4(重症喘息)が8例であった。FEV₁は予測値の45%から130%の範囲であり、平均は82.0±1.8%であった。56例の患者がアレルギー性喘息であった。BALの忍容性は良好であり、内視鏡中に重篤な発作は認められず、軽度の増悪が2例に認められたのみで、サルブタモール1 mgの吸入により改善した。

BAL液回収率と総細胞数: 気管支分画 (BW) の回収率 (喘息: 26.4±0.1%、正常: 26.9±0.4%) は、肺胞分画 (BAL) の回収率 (喘息: 47.9±1.45%、正常: 60.0±1.2%) より有意に低かった (喘息: p=0.0001、正常: p<0.0077、Wilcoxon W検定)。喘息患者における肺胞分画の回収率は、正常対照者と比較して有意に低かった (p=0.001、Mann-Whitney U検定)。総細胞数 (cells/mL) は、気管支分画 (喘息: 101.1±9.69 ×10³ cells/mL、正常: 103.8±12.3 ×10³ cells/mL) よりも肺胞分画 (喘息: 153.5±9.3 ×10³ cells/mL、正常: 146.3±12.6 ×10³ cells/mL) で有意に高かった (いずれもp<0.01、Wilcoxon W検定)。

分画間の細胞組成の差異: 気管支分画と肺胞分画では細胞組成が顕著に異なった (Table 2)。喘息患者および正常対照者の両方において、気管支分画では好中球 (喘息: 8.4±1.51% vs 2.7±0.48%、p<0.01)、上皮細胞 (喘息: 11.3±1.38% vs 2.4±0.45%、p<0.01) の割合が肺胞分画よりも有意に高かった。一方、マクロファージ (喘息: 68.4±2.41% vs 82.0±1.26%、p<0.01) およびリンパ球 (喘息: 5.0±0.59% vs 10.1±0.84%、p<0.01) の割合は肺胞分画で有意に高かった。好酸球については、喘息患者の気管支分画で肺胞分画よりも有意に高い割合 (5.5±1.13% vs 2.9±0.6%、p<0.01) を示した。正常対照者では、気管支分画と肺胞分画の間で好酸球の割合に有意差はなかった。

喘息患者における好酸球増多: 好酸球は、すべての指標において正常対照者と比較して喘息患者で有意に高かった (Table 2、Figure 1)。気管支分画では好酸球の割合が5.5±1.13%に対し正常対照では0.4±0.1% (p=0.0001)、肺胞分画では2.9±0.6%に対し正常対照では0.3±0.1% (p=0.0001) であった。絶対数で比較した場合も、気管支分画で5.5±1.63 ×10³ cells/mLに対し正常対照では0.5±0.2 ×10³ cells/mL (p<0.05)、肺胞分画で4.7±1.07 ×10³ cells/mLに対し正常対照では0.3±0.2 ×10³ cells/mL (p<0.05) と、いずれも喘息患者で有意な増加を認めた。軽症喘息患者 (Aasスコア1) でも、好酸球の割合および絶対数は正常対照者よりも有意に高かった (それぞれp<0.009、p<0.005、Mann-Whitney U検定)。喘息患者の50%から83%(Aasスコアによる)でBALF好酸球増多が認められたのに対し、正常対照者では約20%のみであった。マクロファージ、リンパ球、好中球の割合および絶対数には、喘息患者と正常対照者間で有意差は認められなかった。

喘息重症度との相関: 喘息重症度の指標であるAasスコアはFEV₁と有意に相関した (r=0.47、p=0.0001、Spearman順位相関検定)。気管支分画における好酸球の割合はAasスコアと有意に相関し (r=0.25、p=0.024)、好酸球絶対数も有意な相関を示した (r=0.28、p=0.01)。肺胞分画では、好酸球の割合がAasスコアとより強く相関し (r=0.38、p=0.0006)、好酸球絶対数も有意な相関を示した (r=0.31、p=0.0044)。この結果は、肺胞分画の好酸球が喘息の臨床的重症度とより良好に相関することを示唆している。

絶対数での評価と比率での評価の比較: 細胞数を絶対数 (cells/mL) で表した場合、好酸球については気管支分画と肺胞分画の間に有意差は認められなかった (喘息: 5.5±1.63 ×10³ cells/mL vs 4.7±1.07 ×10³ cells/mL、p>0.05)。これは、気管支分画の回収液量が肺胞分画よりも少ないことを考慮すると、気管支腔には高い好酸球濃度が存在することを示唆する。好中球 (BW: 11.2±3.8 ×10³ cells/mL vs BAL: 4.6±1.13 ×10³ cells/mL、p<0.01)、マクロファージ (BW: 66.5±6.28 ×10³ cells/mL vs BAL: 124.0±7.4 ×10³ cells/mL、p<0.01)、リンパ球 (BW: 5.3±0.8 ×10³ cells/mL vs BAL: 16.6±1.92 ×10³ cells/mL、p<0.01) では、絶対数でも有意差が認められた。

考察/結論

本研究は、喘息患者100例と正常対照者31例という大規模なコホートにおいて、BAL液の気管支分画と肺胞分画で細胞組成が喘息・正常ともに有意に異なることを初めて実証した。先行研究 (Adelroth et al., 1990; Kirby et al., 1987) が小規模であったり、特定の重症度に限定されていたりしたのに対し、本研究は軽症から重症 (Aasスコア1〜4) の幅広い喘息患者を網羅した点で代表性が高く、その結果の信頼性が高い。

先行研究との違い: これまでの研究では、BALFの最初の分画が近位気道を、後続分画が遠位気道を反映するという概念は提唱されていたものの、喘息患者における両分画の細胞組成の差異を大規模に比較した研究は不足していた。本研究は、気管支分画で好酸球増多が肺胞分画より顕著である一方 (5.5% vs 2.9%)、重症度との相関は肺胞分画の方が強い (r=0.38 vs r=0.25) という一見逆説的な結果を示した点で、先行研究と異なり、喘息における炎症の解剖学的局在に関する理解を深める新規な知見を提供した。このことは、近位気道における好酸球の高い濃度と、遠位気道(細気管支・肺胞)における気流制限への関与を分離して理解することの重要性を示唆している。

新規性: 本研究で初めて、喘息における好酸球性気道炎症が単純に「気管支」または「肺胞」のいずれかに限局するのではなく、気道全長にわたって(ただし近位で高く遠位で低い勾配を持って)存在することを定量的に示した。この分布パターンは、喘息の病理学的記述(全気道の粘膜下好酸球浸潤)と整合し、BALによる評価が解剖学的領域に依存して異なる情報を提供することを明確に示した新規な知見である。また、軽症喘息 (Aasスコア1) でも好酸球増多が正常対照より有意に高いことを確認したことは、喘息の早期段階から好酸球性炎症が存在することを示す。

臨床応用: 本研究の知見は、喘息の経過観察や抗炎症治療(特に吸入ステロイドなど)の効果評価に関する今後の研究において、BAL液を気管支分画と肺胞分画に分けて解析すべきであるという方法論的基準を確立する上で臨床的意義が大きい。両分画をプールした場合、気管支分画の好酸球シグナルが肺胞分画の約2倍の回収液量で希釈されるため、真の気管支腔好酸球炎症の程度が過小評価される可能性がある。したがって、正確な炎症評価のためには分画解析が不可欠である。さらに、好酸球増多が軽症喘息でも認められることは、早期治療介入の生物学的根拠となりうる。

残された課題: 今後の検討課題として、バルーンカテーテルを用いた真の気管支洗浄との比較検証、各重症度層での長期縦断評価、および現代的治療(生物学的製剤など)下での気管支・肺胞分画の好酸球応答の評価が挙げられる。また、本研究では上皮細胞の有意な増加が喘息患者と正常対照者間で認められなかったが、これはBALFサンプリング方法(穏やかなシリンジ吸引)に起因する可能性があり、他の研究で用いられた真空ポンプ吸引と比較した検討も今後の課題である。

方法

患者選択: 本研究は、喘息患者100例(年齢18〜71歳、平均37±1.5歳)と正常非喫煙対照者31例(年齢18〜59歳、平均32±2.2歳)を対象とした横断的研究である。喘息は米国胸部学会 (ATS) の基準 (ATS statement, 1962) に基づいて診断され、200 μgアルブテロール吸入後のFEV₁が15%以上改善する可逆性気道閉塞を認めた。全患者は非喫煙者であり、過去2年以内の喫煙歴はなかった。過去2ヶ月以内の全身性ステロイド、過去1ヶ月以内の吸入ステロイド、ネドクロミルナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム、過去1週間以内のケトチフェン、過去48時間以内のテオフィリン投与例は除外された。β2-アゴニストは8時間のみ中止された。喘息の重症度はAasスコア (1〜5点) で評価され、FEV₁は気管支鏡検査直前に測定された。患者の内訳はアレルギー性喘息56例、非アレルギー性喘息44例であった。本研究は大学の倫理委員会によって承認され、患者はインフォームドコンセントを提出した。本研究は、特定の薬剤介入を伴わない観察研究であり、臨床試験登録番号 (例: NCT01234567) は付与されていない。

BAL手技と分画解析: 前投薬としてアトロピン0.5 mgとジアゼパム5 mgを投与し、上気道に2%リドカインによる局所麻酔を施した後、BF-TR (Olympus BF-TR) 軟性気管支鏡を中葉の亜区域気管支に楔入した。まず、室温の生理食塩水50 mLを注入し、回収されたBALFを気管支分画 (BW) として個別に保管した。続いて、50 mLの生理食塩水を4回注入し、回収されたBALFをプールして肺胞分画 (BAL) として保管した。洗浄直後、回収液はガーゼで濾過して粘液を除去した。各サンプルから5 mLを細胞計数に使用し、血球計数器を用いて総細胞数を測定した。細胞分画はサイト遠心分離 (Cytospin, Shandon, UK) 後、May Grünwald Giemsa染色を施し、各スライドで200細胞を計数した。マクロファージ、リンパ球、好酸球、好中球、上皮細胞(線毛細胞および杯細胞を含む)を絶対数 (cells/mL) と比率 (%) で算出し、回収液量の変動を補正した。細胞計数は、被験者グループを知らない検査者によって行われた。

統計解析: 統計解析には両側非パラメトリック検定を用いた。気管支分画と肺胞分画間の比較にはWilcoxon W検定を、喘息患者と正常対照者間の比較にはMann-Whitney U検定を適用した。Aasスコア、FEV₁、およびBAL細胞分画間の相関はSpearman順位相関検定を用いて評価した。アレルギー性喘息と非アレルギー性喘息の間で細胞回収率や細胞分画に有意差は認められなかった (Mann-Whitney U検定、p>0.05)。