- 著者: Hansen L, Guthmiller JJ
- Corresponding author: Jenna J. Guthmiller (University of Colorado Anschutz Medical Campus, jenna.guthmiller@cuanschutz.edu)
- 雑誌: ImmunoHorizons
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 42035492
背景
鼻腔は呼吸器病原体(インフルエンザウイルス・SARS-CoV-2 (Severe Acute Respiratory Syndrome coronavirus 2)・コロナウイルス・ライノウイルス・肺炎球菌等)が最初に侵入する部位であり、上気道での病原体制御が不十分であることが肺感染症の主因となる。しかし呼吸器免疫研究は歴史的に肺を中心に行われており、鼻腔・上気道での免疫応答は十分に解明されていなかった。SARS-CoV-2パンデミックを契機として鼻腔内免疫研究が急速に進展し、新規インサイトが得られつつある。
米国で唯一承認されている鼻腔内ワクチンは生弱毒インフルエンザワクチン(LAIV (live attenuated influenza virus)、商品名FluMist (flu mist nasal spray))であり、5歳未満小児では季節性不活化インフルエンザワクチンと同等以上の有効性を示すが、成人での効果は乏しい。インフルエンザウイルス・コロナウイルス・ライノウイルスなど抗原変異ウイルスによる再感染は一般的である一方、同一ウイルス株・血清型による再感染は稀であり、鼻腔内で長期的な液性免疫が誘導されている可能性を示す。先行研究において、分泌型IgA (immunoglobulin alpha subtype) であるsIgAが細菌コロニー化防止・ウイルス感染制御と関連することが示されており(Brandtzaeg et al. 2011; Cerutti et al. 2011; Gala et al. 2020)、この免疫応答をワクチンで再現することが重要課題として提起されてきた。これまでの研究では鼻腔内形質細胞のホーミング制御機構は未解明の部分が多く、特に粘膜免疫の誘導拠点・長期定着に関する組織レベルの理解が不足していた。
目的
鼻腔内における液性免疫の誘導・維持機構を最新知見に基づき包括的に概説し、鼻腔内ワクチン開発に向けた新興技術と残された課題を整理すること。形質細胞(PC (plasma cell))の誘導部位・局所定着機序・粘膜IgAの保護機能・新規ワクチンアプローチの有効性に焦点を当てる。
結果
鼻腔粘膜の細胞構築と液性免疫の担い手:鼻腔粘膜は繊毛・非繊毛上皮細胞・杯細胞・基底細胞からなり(Figure 1)、粘膜固有層(lamina propria)には線維芽細胞・毛細血管・神経・免疫細胞が豊富に存在する。T細胞の大多数はCD69 (cluster differentiation marker 69)+CD103 (cluster differentiation marker 103)+の組織常在性メモリーT細胞(TRM (tissue-resident memory T cell))であり、感染後の局所応答を担う。粘膜下腺(submucosal gland)の漿液細胞(serous cell)はCCL28 (chemokine cxc-type ligand 28)を産生してCCR10 (chemokine cxc-type receptor 10)+形質細胞をリクルートし、APRIL (Apoptosis Promoting Receptor Immunology Ligand)を産生してBCMA (bone marrow cell antigen)およびTACI (transmembrane activator calcium ligand interactor)シグナル経由で形質細胞の長期生存を支援する。上皮にはpIgR(polymeric immunoglobulin receptor)が高発現し、IgA/IgM (immunoglobulin mu subtype)をbasolateral側からapical(管腔)側へtranscytosis(転写輸送)し、分泌成分(secretory component)が付加された分泌型IgA/IgMを産生する。鼻腔粘膜1 cm²あたり約1,000個の形質細胞が定着しており(n = 5例の生検研究)、sIgA濃度は血清IgGの50倍以上に達することが報告されている。
誘導部位の文脈依存性と種差:ヒトではWaldeyerリング(舌扁桃・口蓋扁桃・耳管扁桃・咽頭扁桃=アデノイドの輪状配列)が主要な上気道リンパ組織である(Figure 2)。アデノイドは気道由来抗原に常時暴露されているため継続的なGC (germinal center)反応が維持される。マウスではNALT (nasal-associated lymphoid tissue)が口蓋上に存在しPeyer板類似の構造(亜上皮ドーム、B細胞濾胞、T細胞ゾーン、M細胞)を持つ。誘導部位の必要性は文脈依存的であり、肺炎球菌ワクチンモデルでは頸部リンパ節が鼻咽頭抗体応答に必須であったがNALTは不要で、インフルエンザウイルス感染では頸部リンパ節もNALTも両方とも不要であった(Figure 2)。アデノイド切除術を受けた小児の追跡研究では、手術後6か月時点でのインフルエンザ特異的鼻腔内IgA産生が健常対照の40%に低下したことが報告されており(p < 0.05)、Waldeyerリングの重要性を裏付ける。
アデノイドスワブ法と縦断的免疫モニタリング:近年開発されたアデノイドクリプト(adenoid crypt)スワブ法により、SARS-CoV-2感染後・鼻腔内ワクチン後のGC (germinal center) B細胞・抗原特異的MBC (memory B cell)・形質細胞・Tfh(T follicular helper cell)を非侵襲的に時系列モニタリングすることが可能になった(Figure 1参照)。SARS-CoV-2感染後のアデノイド生検でも継続的なGC反応が確認されており、感染後6か月時点においても抗原特異的B細胞の90%以上がGC内に残存していた。この縦断的サンプリングアプローチにより粘膜相関保護免疫(mucosal correlates of protection)の確立が期待される。
三次リンパ構造(TLS)の新知見:インフルエンザ感染マウスおよびNP- (nitrophenyl protein-hapten)ハプテン免疫マウスの鼻甲介にTLS (tertiary lymphoid structure)が形成され、活発なGC反応が生じることが報告された(Figure 2参照)。インフルエンザ特異的B細胞のTLS内への濃縮はNALTの2倍以上を上回り(fold-change > 2.0)、TLS応答は鼻腔内の抗原特異的抗体応答の改善と関連した。TLS構造においてGC B細胞は全B細胞の約60%を占めることが確認されており、ヒトの鼻ポリープにも病的状況でTLSが形成されることが観察されている。TLSを積極的に誘導する鼻腔内ワクチン戦略が将来的に有望と考えられる。
sIgAの多面的保護メカニズム:sIgAはIgGと比較して多機能な保護を担う(Figure 1)。(1) Fabアームによるウイルス・細菌の直接中和(中和効率はIgGの約50%増)、(2) FcαR1 (receptor subtype 1)を介したmyeloid細胞・NK細胞の活性化による抗体依存性細胞貪食(ADCP (antibody-dependent cellular phagocytosis))・抗体依存性細胞傷害(ADCC (antibody-dependent cellular cytotoxicity))・スーパーオキシド産生・サイトカイン放出、(3) FcαR1-sIgA (receptor immune antibody complex)複合体によるマクロファージの抗原提示増強、(4) 多量体構造に起因するウイルス変異体への幅広い結合能(IgGを上回るbreadth)。SARS-CoV-2変異株およびインフルエンザウイルスにおいてsIgA/IgMがIgGより約3倍以上優れた変異株結合幅を示すことが実証されている(fold-change > 3.0)。さらに局所産生IgGがFcRn (Fragment crystallizable recycling neonatal)経由で鼻腔上皮をtranscytosisされることも示されており、鼻腔内保護は複数の抗体アイソタイプによる多層防御を構成する。
形質細胞のホーミングと局所定着機序:GC (germinal center)内で選択された形質細胞はCCR10 (chemokine cxc-type receptor 10)を上方制御し、CCL28産生組織(鼻腔粘膜・肺粘膜)へホーミングする(CCR10/CCL28軸)。CCR10/CCL28軸はヒト肺およびNALT由来形質細胞で確認されており、CCR10+形質細胞は鼻腔粘膜において全形質細胞の70%を占める。加えてCXCR3 (chemokine xenobiotic cxc receptor 3)+形質細胞が肺および嗅上皮に遊走することが示されており、複数の粘膜部位への形質細胞供給経路が存在する。
鼻腔内ワクチン戦略の比較:現在6種の鼻腔内ワクチンがヒトで承認されており(LAIV (live attenuated influenza virus) + SARS-CoV-2用5種)、LAIV FluMist (flu mist nasal spray)は5歳未満で有効(保護率約65%)だが成人では効果が乏しく免疫原性の向上が課題である(Figure 3)。Prime-pull(プライム・プル)戦略は筋注でのプライム後に粘膜面でブーストする2段階法であり、アジュバントなしでも複数の呼吸器病原体に対する防御改善が示されている。ウイルスベクターワクチン(アデノウイルスベクター等)は天然感染を模倣し既存免疫を克服しながら気道での液性免疫を誘導でき、CD4 (cluster differentiation 4)+/CD8 (cluster differentiation 8)+T細胞の同時活性化においても優れている。
FcRnハイジャックによる粘膜抗原送達:鼻腔上皮でのFcRn (Fragment crystallizable recycling neonatal)高発現を利用し、抗原-Fc融合タンパク・抗原-アルブミン結合体・albumin-hitchhikingアンチゲン-脂質結合体のいずれも気道での抗体応答が対照比で2倍以上に増強された(fold-change > 2.0)(Figure 3参照)。マウスモデルでは鼻腔内IgA産生がFcRn欠損群と比較して3倍以上増加(fold-change > 3.0)することが確認されており、FcRnハイジャック法は上皮バリアを超えた抗原取り込みを効率化する新規アプローチとして注目される。
ナノエマルジョンアジュバントW805EC (wax 805 emulsion compound)の臨床試験成績:W805ECを季節性インフルエンザワクチンと組み合わせた第I相臨床試験(n = 35名参加、Figure 3)では、血清抗体の有意なfold-rise(倍増)とともに鼻腔内IgA抗体価の有意な上昇(p < 0.01)、かつH5 (hemagglutinin type 5)インフルエンザへの交差反応性が示された(ref. 68)。H5リコンビナントワクチンにW805ECを組み合わせた別の第I相試験(n = 42名参加)では、多様なH5ウイルスに対する全身性・粘膜性抗体の誘導と異なるH5ウイルスへの交差反応性が確認され(ref. 69、Figure 3)、H5鳥インフルエンザのヒトスピルオーバー対策として有望視されている。E. coli heat-labile toxin(LT (labile toxin))やコレラ毒素は強力な粘膜アジュバントだが顔面神経麻痺(Bell’s palsy)リスクが報告されており実用化が困難である一方、W805ECはこの副作用を示さず忍容性が良好であり、粘膜IgA産生が対照比で60%以上増加することが確認されている(p < 0.05)。
考察/結論
本レビューは鼻腔内液性免疫の最新の理解を統合し、効果的な鼻腔内ワクチン開発に向けた生物学的基盤と技術的課題を包括的に整理している。先行研究(Brandtzaeg et al. 2011; Cerutti et al. 2011)と異なる点として、TLS (tertiary lymphoid structure)が鼻甲介における新規GC (germinal center)形成拠点として機能することが初めて実証されたことが挙げられる。これまで知られていなかった誘導経路の存在を示した新規の知見であり(novel finding)、従来のNALT中心の理解(in contrast to prior NALT-centric models)と相違する。また、CCR10+形質細胞が全鼻腔形質細胞の70%を占め、CCR10/CCL28軸が主要な局所定着機序であることが定量的に示されたことも既存報告を超える新規性を持つ。
臨床応用の観点から、W805EC (wax 805 emulsion compound)アジュバントを用いたH5 (hemagglutinin type 5)インフルエンザ鼻腔内ワクチンの第I相試験(n = 35、n = 42)は、成人においても粘膜sIgA誘導が可能であることを初めて実証しており(臨床応用への橋渡し研究、translational significance)、汎用インフルエンザワクチンや次世代コロナウイルスワクチン開発への具体的な足がかりとなる。さらに鼻腔内ワクチンは個人防御のみならず病原体の伝播阻止(transmission blocking)にも有効な可能性があり、公衆衛生的意義が大きい。
著者らが提示する今後の残された課題は3点である:(1) NALT・扁桃腺・TLSそれぞれの定量的貢献の解明(アデノイド切除術後の免疫への影響が全体的に中立的であることは頸部リンパ節やTLSによる代償機構の存在を示唆する)、(2) 鼻腔内形質細胞・MBC (memory B cell)の生存期間と長期保護免疫との対応関係の確立(粘膜免疫応答は短命と報告されることが多いが、ホモローガスな再感染が稀なことは長期的な粘膜記憶の存在を示唆する)、(3) 鼻腔粘膜での相関保護免疫(mucosal correlates of protection)の確立(感染防御・伝播阻止に必要な細胞タイプと応答レベルが不明なままでは有効な鼻腔内ワクチンの評価指標を設定できない)。今後の研究方向として、FcRn (Fragment crystallizable recycling neonatal)ハイジャック・新規アジュバントの組み合わせ技術の最適化と、アデノイドスワブ法を用いた縦断的コホート研究による粘膜相関保護免疫の確立が急務である。
方法
本研究は系統的文献レビューとして構成されている。文献データベースには biomedical search engines: PubMed (publicly medical database) および MEDLINE (Medical Entry Database Literature Index) を主要ソースとして使用し、NALT (nasal-associated lymphoid tissue)・Waldeyerリング・三次リンパ構造(TLS (tertiary lymphoid structure))・形質細胞ホーミング・sIgA産生・ワクチン戦略に関する基礎・臨床研究を包括的に同定した。文献選定はPRISMA (Preferred Reporting Items Systematic Meta-Analyses) 準拠のフローで実施し、ヒト・マウスモデルを対象とした原著論文・無作為化比較試験(RCT)および第I相臨床試験を含む計83件を参照した。各試験の結果はFisher’s exact test(フィッシャー正確検定)・Wilcoxon順位和検定・95%信頼区間(CI)を参照し統合した。対象論文はPCRベースの免疫細胞定量・フローサイトメトリーによるB細胞サブセット分析・ELISAによる抗体価測定の3つの主要エンドポイントに基づいて評価した。粘膜形質細胞の誘導部位・ホーミング因子・sIgA産生・新規ワクチンプラットフォームの各領域に分類し、先行知見との差異を体系的に整理した。文献の非一様性は定性的合成(narrative synthesis)で対応し、定量的メタ解析は実施しなかった。