• 著者: Rosas IO, McDowell-Sanchez AK, Sanchez S, Cala-Garcia JD, Waich Cohen AR, Ruiz-Echartea E, Ochsner SA, Kraushaar D, Celada LJ, Sun D, Polverino F, Coarfa C, McKenna NJ, Tsoyi K
  • Corresponding author: Ivan O. Rosas (Baylor College of Medicine, Ivan.Rosas@bcm.edu) / Konstantin Tsoyi (University of Maryland School of Medicine, KTsoyi@som.umaryland.edu)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42066052

背景

特発性肺線維症 (IPF) は、原因不明の慢性進行性線維増殖性間質性肺疾患であり、米国では65歳以上の成人人口100,000人あたり約500人に影響を及ぼし、入院率と死亡率の増加とともに有病率が上昇している (Raghu et al. 2014)。現在、FDA承認の治療薬はニンテダニブとピルフェニドンのみであり、これらはいずれも肺機能低下の速度を遅らせ、急性増悪を減少させ、生存率を改善するものの (Richeldi et al. 2011, Richeldi et al. 2014)、疾患の進行を完全に停止させたり、線維化を逆転させたりすることはできない。このため、IPF患者には依然として満たされていない医療ニーズが残されており、新たな治療戦略の開発が強く求められている。

IPFの病態形成の中心は、線維芽細胞および筋線維芽細胞の異常な活性化であり、これにより細胞外マトリックス (ECM) の過剰な蓄積と臓器のリモデリングが引き起こされる (Pardo and Selman 2016)。TGF-βなどの線維化促進刺激に曝された線維芽細胞は、α-平滑筋アクチン (α-SMA) ストレスファイバーを発現し、ECMタンパク質を沈着させ、収縮性と浸潤能を獲得し、アポトーシス刺激に対して抵抗性を示すようになる (White et al. 2003, Thannickal et al. 2004)。これらの病的な線維芽細胞の挙動を標的とすることは、線維性疾患に対する治療的介入の機会を提供する。

マクロピノサイトーシスは、アクチン依存性かつクラスリン非依存性のエンドサイトーシスプロセスであり、細胞膜のラフリングによって直径0.2 μm以上の大型マクロピノソームを形成し、細胞外タンパク質、細胞残屑、ウイルスなどを非選択的に細胞内に取り込む (Stow et al. 2020)。このプロセスは、哺乳類細胞における主要な栄養獲得経路の一つとして機能し、特にRas変異癌細胞においては、栄養不足条件下での増殖と転移を支持することが知られている (Commisso et al. 2013, Recouvreux and Commisso 2017)。しかし、臓器線維症、特に肺線維症におけるマクロピノサイトーシスの役割については、本研究以前にはほとんど未解明であった。線維芽細胞におけるマクロピノサイトーシスは、PDGF (Mellstrom et al. 1988) やTGF-β1 (Zhang et al. 2022) などの増殖因子によって誘導されることが示唆されているが、その機能的な重要性については知識ギャップが残されている。本研究は、この知識の不足を埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、特発性肺線維症 (IPF) 患者由来の肺線維芽細胞 (HLF) においてマクロピノサイトーシスが亢進しているかどうかを検討することである。さらに、マクロピノサイトーシスの薬理学的または遺伝学的阻害が、線維化応答を抑制するかどうかを複数の実験モデル(IPF由来HLF、TGF-β1刺激HLF、ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデル、IPF由来精密肺切片 [PCLS])を用いて実証する。加えて、その抗線維化作用の分子メカニズム、特にアミノ酸 (AA) 取り込み、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1 (mTORC1) 活性化、およびメセンキムホメオボックス1 (MEOX1) 発現との関連を詳細に解析する。最終的に、FDA承認薬のリパーパシングとしての治療可能性を評価し、マクロピノサイトーシス阻害が肺線維症の新たな治療戦略となり得るかを探求する。

結果

IPF由来線維芽細胞におけるマクロピノサイトーシス亢進とEIPAによる線維化応答抑制: IPF由来ヒト肺線維芽細胞 (HLF) は、コントロールHLFと比較して70 kDa FITC-dextranの取り込みが有意に増加しており、蛍光強度中央値が約2倍であったことから、マクロピノサイトーシスが恒常的に亢進していることが示された (図1A, B)。マクロピノサイトーシス阻害薬であるEIPA (12.5 μM) は、この取り込みを有意に抑制したが (p<0.05)、クラスリン依存性エンドサイトーシスやカベオリン-1発現には影響を与えず、その選択性が確認された (Supplemental Figure 1 A-C)。EIPA処理は、IPF-HLFにおいて線維化マーカーであるcollagen 1 (COL1) およびα-平滑筋アクチン (α-SMA) のタンパク質およびmRNA発現を有意に低下させた (図1C, D, p<0.05)。同様に、TGF-β1刺激したコントロールHLFにおいても、EIPAはCOL1産生、筋線維芽細胞への形質転換、および細胞収縮性を減弱させた (図1E, F, G, p<0.05)。これらのデータは、IPF由来HLFにおけるマクロピノサイトーシスの亢進と、EIPAによる線維化応答抑制効果を明確に示している。

アミノ酸 (AA)-mTORC1軸を介した線維化促進シグナリングの関与: EIPAは、TGF-β1刺激HLF (1% 低血清培地) において、mTORC1活性化のマーカーであるp70S6KおよびS6のリン酸化を有意に抑制し (p<0.05)、細胞外酸性化率 (ECAR) も低下させた (図2A, Supplemental Figure 2 A-C)。アミノ酸 (AA) 除去培地では、TGF-β1存在下でもmTORC1活性化が完全に消失し、AA補充によりS6リン酸化が回復したことから、マクロピノサイトーシスによる細胞外AAの取り込みがmTORC1活性化の主要なドライバーであることが実証された (図2B)。EIPAは細胞内AA濃度を有意に低下させ (図2C, p<0.05)、mTORの負の制御因子であるTSC1のノックダウンによるmTORC1の恒常的活性化は、EIPAの抗線維化効果を減弱させた (図2D)。これらのデータは、マクロピノサイトーシスが細胞外AAの取り込みを介してmTORC1を活性化し、線維化応答を促進することを示唆する。

MEOX1の同定とマクロピノサイトーシス-mTORC1軸による制御: MRC5 HLFのバルクRNAシーケンス解析により、EIPAがTGF-β1誘導性の転写プログラムを広範に抑制することが確認された。TGF-β1誘導遺伝子群は、EIPAによって抑制される遺伝子群に高度に濃縮されており (超幾何検定、図3A)、ACTA2やCOL1A1に加え、MEOX1が主要な被制御遺伝子として同定された。MEOX1は最近、線維芽細胞活性化および心臓線維症における重要な転写因子として報告されている (Schumacher et al. 2021)。EIPAおよびmTORC1阻害剤であるRapalink-1はともにMEOX1のmRNAおよびタンパク質発現を有意に低下させ (図3B, C, p<0.05)、mTORC1の必須成分であるRAPTORのサイレンシングはmTORC2非依存的にMEOX1発現を抑制した (Supplemental Figure 3B)。MEOX1の過剰発現はEIPAの抗線維化効果を逆転させ (COL1およびα-SMA発現の回復、図3E)、EIPAはMEOX1のCOL1A1およびACTA2プロモーター領域へのChIP結合を有意に減弱させた (Supplemental Figure 3D)。これらの結果は、マクロピノサイトーシス阻害がmTORC1/MEOX1シグナル軸を介して線維芽細胞の線維化応答を負に制御することを示唆する。

in vivoモデルにおけるマクロピノサイトーシス阻害の有効性: 遺伝学的阻害: 線維芽細胞特異的にSlc9a1を欠損させたマウス (n=10-11 mice) は、ブレオマイシン誘発肺線維症に対して有意な保護効果を示した (図4A, B)。具体的には、Slc9a1線維芽細胞特異的ノックアウトマウスでは、肺のヒドロキシプロリン量が有意に低下し (p<0.05)、Masson trichrome染色による線維化スコアも低かった。単離したSlc9a1-/-マウス肺線維芽細胞 (MLF) では、TGF-β1刺激に対するCOL1a1およびα-SMA発現、mTORC1活性化、およびMeox1発現が有意に低かった (図4C, D, E, p<0.05)。 薬理学的阻害: ブレオマイシン誘発マウス肺線維症モデル (n=9 mice) において、線維化確立後のday 10からEIPA (10 mg/kg) を隔日腹腔内投与する治療モードでも、肺線維症が有意に軽減された (図4F, G)。肺のヒドロキシプロリン量はEIPA治療群で有意に低下し (p<0.05)、組織学的にも線維化の減少が確認された。

IPF由来PCLSにおける多線維芽細胞亜集団への効果: scRNA-seq解析により、IPF由来PCLSから7つの間葉系細胞亜集団が同定された (図5A, Supplemental Figure 8)。EIPA処理は、筋線維芽細胞を含む複数の亜集団において、IPF誘導性の線維化遺伝子発現を有意に抑制した (図5B)。Gene regulatory network (GRN) 解析では、NFATC1、TWIST1、およびSMADファミリーの転写因子フットプリントが同定され、EIPAがこれらの線維化関連転写因子を標的とする可能性が示唆された (図5C)。POSTN、IGFBP5、COL1A1、ACTA2のmRNA発現は、EIPA処理PCLSで有意に低下し (n=5 donors、図5D, p<0.05)、免疫蛍光染色でもCOL1タンパク質発現の低下が確認された (図5E)。

FDA承認薬imipramineによる治療効果: FDA承認三環系抗うつ薬であるimipramine (Imi) は、Lin et al. (2018) のスクリーニングでマクロピノサイトーシス選択的阻害薬として発見された。imipramineは、IPF-HLFにおいてクラスリン依存性エンドサイトーシスやカベオリン-1に影響を与えず、選択的にマクロピノサイトーシスを阻害した (Supplemental Figure 1A)。imipramine処理は、IPF-HLFおよびTGF-β1刺激HLFにおいて、線維化応答およびmTORC1/MEOX1シグナリングを有意に抑制した (各n=4 replicates、図6A-C, p<0.05)。ブレオマイシン誘発マウスモデル (n=5-10 mice、10 mg/kg、隔日投与) でも、imipramineは肺線維症を有意に軽減し (図6D-F, p<0.05)、IPF-PCLSにおいてもPOSTN、IGFBP5、COL1A1、ACTA2 mRNAの発現を有意に低下させた (n=5 donors、図6G, p<0.05)。これらの結果は、imipramineがマクロピノサイトーシスを介した抗線維化作用を持つことを強く示唆する。

考察/結論

本研究は、特発性肺線維症 (IPF) におけるマクロピノサイトーシスの病的役割を初めて実証した先駆的な研究である。最大の新規性は、線維芽細胞がマクロピノサイトーシスを通じて細胞外アミノ酸 (AA) を過剰に取り込み、mTORC1を活性化し、線維化転写因子であるMEOX1の発現を維持するという、新規のシグナル軸 (macropinocytosis → AA uptake → mTORC1 → MEOX1 → fibrotic gene expression) を明確に示した点にある。このメカニズムは、線維化プロセスにおける栄養代謝の重要性を強調するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、mTOR阻害薬であるラパマイシン (sirolimus) がIPFの短期臨床試験で有意な効果を示せなかったことが報告されている (Gomez-Manjarres et al. 2023)。これは、ラパマイシンがmTORC1だけでなくmTORC2も非特異的に阻害するため、細胞生存に必要な経路にも影響を与え、副作用が大きかった可能性が考えられる。本研究は、mTORC1の上流であるマクロピノサイトーシスを特異的に標的とすることで、細胞生存への副作用を最小限に抑えつつ、抗線維化効果を得られる可能性を示唆した点で、これまでの治療戦略と異なるアプローチを提示している。また、第三世代のbi-steric mTORC1阻害剤 (例: RMC-5552) の肺線維症への応用も今後の検討課題として挙げられる (Burnett et al. 2023)。

新規性: 本研究で初めて、マクロピノサイトーシスが線維芽細胞の活性化と肺線維症の進行に寄与する主要なメカニズムであることを実証した。特に、マクロピノサイトーシスがアミノ酸取り込みを介してmTORC1を活性化し、その下流でMEOX1の発現を誘導するという新規のシグナル経路を同定したことは、肺線維症の病態生理学における重要な発見である。

臨床応用: 本研究の最も重要な臨床的意義は、FDA承認薬である三環系抗うつ薬イミプラミン (imipramine) の肺線維症治療へのリパーパシングの可能性を提示した点である。イミプラミンは既にヒトでの使用実績があり、安全性プロファイルが確立されているため、肺線維症患者を対象とした概念実証臨床試験への進展が比較的容易であると考えられる。別の三環系薬であるノルトリプチリン (nortriptyline) もマクロピノサイトーシス阻害を介して腫瘍増殖を抑制することが報告されており (Chu et al. 2023)、三環系薬クラス全体でのマクロピノサイトーシス阻害が、様々な疾患に対する治療戦略として有用である可能性が広がりつつある。

残された課題: 今後の検討課題としては、IPF患者におけるマクロピノサイトーシス亢進の根本的な原因 (遺伝的または後天的要因) の解明が挙げられる。また、SLC9A1/NHE1以外のNHEサブタイプのマクロピノサイトーシスへの寄与、syndecan-1 (SDC1) との相互作用、およびSLC9A1によるH+排出が細胞外pHを低下させ、TGF-β受容体シグナリングに与える影響など、多くの未解明な点が残されている (Kottmann et al. 2012)。ブレオマイシン誘発モデルはIPFの病態を完全に模倣するものではないため、臨床開発に向けた、より臨床的妥当性の高い追加モデルでの検証も今後の研究方向性として必要である。これらのlimitationを克服することで、マクロピノサイトーシス阻害の治療的ポテンシャルをさらに高めることができるだろう。

方法

マクロピノサイトーシス評価と薬理学的阻害:マクロピノサイトーシス活性は、70 kDa FITC-dextranの細胞内取り込みを蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーで定量することにより評価した。この評価は、コントロール由来およびIPF由来のヒト肺線維芽細胞 (HLF) を用いて実施した (各n=5-8)。マクロピノサイトーシス阻害薬として、5-(N-Ethyl-N-isopropyl) amiloride (EIPA; 12.5 μM) を使用した。EIPAはNa+/H+プロトン交換体 (NHE)/溶質キャリア9 (SLC9) ファミリーのpan阻害薬であり、クラスリン依存性エンドサイトーシスやカベオリン発現には影響しないことを確認し、その選択性を示した。

遺伝学的阻害モデル:線維芽細胞特異的なSlc9a1 (Nhe1) 欠損マウスモデルを確立するため、Slc9a1flox/floxマウスとCol1a2-Cre-ER(T)マウスを交配し、タモキシフェン誘発により線維芽細胞特異的にSlc9a1を欠損させた。このマウスモデルにブレオマイシンを気管内投与 (day 0) して肺線維症を誘発し、マクロピノサイトーシス遺伝的阻害のin vivo効果を評価した (各n=5-11 mice)。

薬理学的治療モデル:ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルにおいて、線維化が確立された後のday 10からEIPA (10 mg/kg) を隔日腹腔内投与し、day 21に肺を採取した。肺線維症の評価は、Mason trichrome染色による組織学的評価およびヒドロキシプロリン定量により実施した (各n=5-10 mice)。

IPF由来PCLS-scRNA-seq解析:IPF患者由来の精密肺切片 (PCLS) をEIPA (12.5 μM) またはimipramine (10 μM) で処理し、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) を実施した。これにより、7つの間葉系細胞亜集団を同定し、各亜集団における遺伝子発現プロファイルの変化を解析した (DMSO n=4 donors、EIPA n=3 donors)。さらに、Gene regulatory network (GRN) 解析を用いて、転写因子フットプリントを推定した。scRNA-seqデータはGene Expression Omnibus (GEO) データベースのGSE300087に寄託されている。

FDA承認薬imipramineのリパーパシング:FDA承認薬である三環系抗うつ薬イミプラミン (imipramine; Imi; 10 μM in vitro / 10 mg/kg in vivo) を用いて、マクロピノサイトーシス阻害効果と、IPF-HLF、ブレオマイシン誘発マウス、およびIPF-PCLSにおける抗線維化効果を検証した (各n=3-10)。imipramineはLin et al. (2018) のFDA承認薬スクリーニングでマクロピノサイトーシス選択的阻害薬として同定された。

統計解析:データは平均 ± 標準誤差 (SEM) で表した。2群間の比較にはStudentの対応のない両側t検定を、3群以上の比較には一元配置分散分析 (ANOVA) 後にNewman-KeulsまたはTukeyのpost-test解析を用いた。統計的有意性はp < 0.05と定義した。